
★ "San Francisco's Decline"
生まれ育ったサンフランシスコ、何故あんな街に…
Yoko Akiyamaさま、
いつもウェブサイトを楽しく拝見して、ショッピングもさせて頂いています。
私は父の仕事の関係で、ティーンエイジの頃までサンフランシスコで育ちました。
それもあって 世界で好きな街の1つがサンフランシスコだったのですが、
大学を出て仕事を始めてからは アメリカ本土へ出掛ける出張や旅行はニューヨークなど東海岸ばかりで、
数週間前にサンフランシスコに出掛けた時は、おそらく10年ぶりだったように思います。
しかし噂には聞いていたものの、その変わり果てた街の様子に本当に驚いてしまいました。
私にとってサンフランシスコというと、これまではティーンエイジまで暮らした時代の閑静な街並みや、ベイエリアとゴールデン・ゲイト・ブリッジを見渡す美しいビューが真っ先に頭に浮かんでいたのですが、
今のサンフランシスコは汚くて、ホームレスだらけで、しかも危険な街になってしまいました。
私の旅行に同行した人は、2人の万匹犯と思しき男性が
商品を握りしめてお店から走り出していく様子を目撃したそうですが、私には日中なのに人目をはばからずに道端でドラッグを注射したり、
ストリートで寝そべってハイになっているドラッグ中毒のホームレスの姿が物凄くショックでした。
サンフランシスコは豊かな街だったはずなのにどうしてこんな風になってしまったのか、
今もシリコンバレーの高額納税者が居るはずなのに、どうして街が臭くて汚いのかなど疑問だらけです。
「シリコンバレーのせいで貧富の差が開き過ぎた」というのは良く聞く説ですが、
それは秋山さんもCUBE のコラムに書いていらっしゃるように アメリカだけでなく全世界で同じなはずです。
何故サンフランシスコだけがあんな風になってしまっているのかが全く理解出来ず、
成長期を過ごした街なだけに 本当に悲しく、心が痛む思いでした。
秋山さんは3000マイル離れたニューヨークにお住まいですし、アメリカでは別の州の様子が
ヨーロッパ大陸の別の国の事情のように思えてしまうのは承知の上なのですが、
今のサンフランシスコの様子をどう思われますか。
ニューヨーカーの視点からでも、アメリカではあの様子がどう思われているのかなどをお聞かせて頂けたらと思ってメールをしています。
お時間がある時で結構ですので是非お願いします。
これからもCubeさんのウェブサイトと素敵な商品を楽しみにしています。
- M -

ホームレス問題はハウジング・クライシスと密接に関わっています
私が最後にサンフランシスコに出掛けたのは もう何年も前になりますが、優秀なレストランが多く、
どのレストランに出掛けてもワイン・カントリーの未だ知られていない美味しいワインのセレクションが豊富で、
街の雰囲気や人々のフレンドリーさなど、とても魅力のある街だと思っていました。
ですので私にとっても昨今のニュースで見るサンフランシスコの様子は目を疑うものがあります。
私の知り合いも1年半ほど前にサンフランシスコの企業にヘッドハントされ、家を探して 子供の学校事情をチェックするために
現地を訪れたのですが、戻ってきた途端にその仕事のポジションを断ってしまいました。
実際のところサンフランシスコでは 幼い子供が居るファミリーがどんどん郊外に引っ越したり、別の街での仕事に移るなどして
街を離れているとのことで、カリフォルニアは近年ニューヨークと並んで最も出ていく住人が多い州になっています。
またロサンジェルスに住む私の親友は 昨年サンフランシスコに出張で出掛けて 交差点で信号待ちをしていたところ、
ホームレス男性が後ろから走ってきて 彼女の直ぐ傍でスマートフォンでテキスト・メッセージを打っていた女性の頭を叩いて走り去ったとのことで、
その様子にショックを受けていました。
Mさんの旅行に同行された方は 万引きの現場を目撃したようですが、
現在のサンフランシスコはホームレスによる万引きが多いので、大手スーパーなどでは安価な商品でも全て防犯タグが付いているとのこと。
でも個人商店となると全ての品物に防犯タグをつけられない上に、入り口にセキュリティ・ガードを配備することも出来ないので、
そうしたショップでは1日30件前後の万引き被害が報告され、店側は多額の損失を強いられています。
そんな万引きをするホームレスは武器は持っていないものの、
万引きを止めようとしようものなら噛みつくことがあるようで、これは反発するという意味の「噛みつく」ではなく、
本当に歯で噛みついて怪我を負わせるとのこと。もちろん噛みつかれた側は傷の心配もさることながら、
そこからAIDSやその他の病気の感染を心配しなければなりませんので、万引きを止めるのも時に命がけと言われます。
万引きの被害が激増したのは、万引きや盗難の被害額が950ドル以下の場合は軽犯罪と見なす法案が2014年に可決されてからで、
以来、ホームレスが逮捕されてもすぐに釈放されることを承知で 食料や生活必需品の盗みを働く状況に歯止めが掛からなくなっています。
サンフランシスコ・クロニクル紙によれば、市内のホームレス人口は過去2年で17%アップしているとのことで、
特に車の中で生活するホームレスは45%も増えていることが伝えらえています。
これらの人々は高額なレントを支払うことが出来ないことから車の中で生活している訳ですが、
そうなってしまったのは過去何年にも渡るシリコン・ヴァレーのハイテク産業の好況ぶりと、サンフランシスコ・エリアの住宅不足が
不動産価格を押し上げたためで、サンフランシスコのホームレス問題はハウジング・クライシスと密接に関わっています。
ただでさえ住宅が不足する街に 高給取りのニューカマーが押し寄せてくれば、不動産価格とレントが高騰して
それまで普通に暮らしていた人々が家を追われたり、レントが払えなくなるのは当然のシナリオです。
サンフランシスコでは現時点で「安い」と言われる家の価格が日本円で約8700万円で、それを支払って手に入るのは治安と環境に問題があるエリアのごく小さな物件です。
またサンフランシスコは レントが高いニューヨークと比べても、物件に対するレントの額が「馬鹿げている」と言えるほどに高額です。
富裕層と低所得者の格差だけでなく、富裕層とミドルクラスの格差が全米で最も開いているのがサンフランシスコですが、
他にもサクラメントなど カリフォルニア州のホームレス問題は全米50州で最も深刻で、
アメリカのホームレス人口の24%を抱えているのがカリフォルニア州です。
ですがそのカリフォルニア州は2017年にイギリスを抜いて、世界で5番目に大きな経済圏になっているのもまた事実です。
ちなみに世界最大の経済圏は言うまでもなくアメリカ、次いで中国、3位が日本、4位がドイツ。カリフォルニアはグーグルやアップルといった一兆ドル企業を含むシリコンバレーや
ハリウッドのエンターテイメント財力でイギリス、スイス、フランスといった先進諸国よりも大きな経済力を持つ存在になっているのです。
”ホームレス問題=ニュー・ノーマル”
サンフランシスコの街は「素足のサンダル履きで歩くべきではない」と言われるほどストリートが公衆トイレと化していて、
その清掃作業だけでも年間6500万ドルが費やされています。
清掃作業員はA型肝炎感染を危惧して プロテクション・ギアを着けての作業を行っており、実際にA型肝炎ウィルスは
サンフランシスコのヘルス・プロブレムになって久しい状況です。
またストリートにはドラッグ中毒のホームレスが使用した注射針が当たり前のように捨ててあり、その回収量は年間で450万本と言われます。
サンフランシスコでは過去何年にも渡って毎年2億5000ドルの予算がホームレス対策に費やされてきましたが、
市政府の8つの部門、400以上のコントラクター、75のプライベート・オーガニゼーションがそれぞれに一貫性や協調性のない対策を打ち出しては
予算を奪い合うだけで、全く解決に繋がらないだけでなく、問題は悪化の一途を辿っています。
そんなホームレス問題に拍車をかけているのがヘロイン、クリスタルメス、ヘロインの50倍の強さと言われるフェンタニル等のドラッグの問題です。
サンフランシスコではヘロインとフェンタニルのオーバードースだけで2018年に234人が死亡していますが、ホームレスになった方が
アクセスし易くなると言われるのがドラッグです。それほどまでにドラッグはホームレスにとって唯一の現実逃避の手段なのです。
警官は 万引きにしても ドラッグ使用にしても 逮捕したところですぐに釈放されてしまい、 ペーパーワークが増えるだけなので、
ホームレスがバイオレントな行為に出ない限りは、取り締まりや逮捕に乗り出さなくなって久しい状況です。
そんな警察を市民が批判する一方で、警察は政治家や市政府を批判し、政治家や市政府は世の中のシステムを責める有り様で、
「誰も前向きに解決に取り組んでいないし、取り組めない」と言われるのが現状です。
ではホームレスがどうやってドラッグを購入するお金を手に入れるかと言えば、
もっぱら年金や政府から支給されるフード・スタンプを売却したお金とのこと。すなわち福祉のお金がドラッグの購入資金となり、
制定された法律のせいで万引き増加、やる気のない警察の体制を招いている訳ですから、政策が全て裏目に出ていることになります。
一度ドラッグ中毒になってしまうと 人間としての尊厳が失われるだけでなく、常識やモラルといった概念が通用しなくなりますが、
市政府、州政府側はホームレスを社会的弱者と捉えて、その人権問題には極めてセンシティブです。
その結果、ホームレスの取り締まりや問題改善に取り組めないままギブアップ状態になっており、
市民も警察も今の状態を”ニューノーマル” と捉える傾向にある様子が指摘されています。
シリコンバレーのビリオネアには 自分の描く理想の社会のビジョンを語るCEOは決して少なくありませんが、
そうしたCEOのビジョンには 自らの企業のサクセスによってストリートに追い出された人々は含まれていないという印象です。
一部にはサンフランシスコを 「21世紀のリベラリズム(自由主義)の失敗モデル」と捉える声も聞かれますが、
私はリベラリズムよりも むしろキャピタリズムの失敗モデルだと思って見ています。
ニューヨークも様々な問題がありますが、それでもミリオネアと低所得者が同じ地下鉄で通勤していたり、
低所得者住宅とマルチミリオネアが暮らすコンドミニアムが目と鼻の先に存在しているなど、
貧富の差が開いても 経済レベルの上下にはまだまだ接点があります。
加えて労働者層や若いジェネレーションが 市政府や警察、社会のシステムの不正と戦う意欲や正義感を持っているという点でも、
遥かにまともに機能している街だというのが私の偽らざる意見です。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |



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