June Week 4, 2020
★ " Your Clock is Ticking... "
結婚・妊娠のタイムリミットの焦り


秋山曜子様
いつも楽しくサイトを拝見しております。秋山様ならではのアメリカ社会に対する鋭い視点、切り口が大好きです。
今回、そんな秋山様のご意見を伺いたく、こちらのコーナーに投稿させていただきます。

私(38歳・未婚)の悩みは、相手がなかなか見つからないために、子供を産むことなく、年齢的に妊娠できるタイムリミットが迫ってきていることです。 20代〜30代前半は自分のキャリアや夢を追いかけるのに精一杯で余裕がありませんでした。 ただ同時に「今ではないけど、いつかは結婚、出産し、暖かい家庭を築きたい」という希望も持っていました。
32、33歳を過ぎて始めた婚活は、疲れて途中で中断したりしつつも、トータル4年くらい続けています。 ただ、選ばれなかったり、いい相手が見つかっても上手くいかなかったり、妥協できなかったりで、未だに独り身です。

そうこうしているうちに、数ヶ月前、婦人科系の疾患が見つかりました。現在は薬で治療中です。 その日から、自分の年齢的に妊娠できるタイムリミットが刻一刻と迫っているのを感じてしまい、 とにかく焦りや不安、すでに子供を持ち家庭を築いている友人に感じる嫉妬、もっと若い時から早く行動しておけばという後悔や苛立ちなどなど、 様々なネガティブな感情が押し寄せてきて、空回りしている状態で、結構辛いです。

ご意見いただきたいのは、このような状態の中、どのような考えを持てば、「リミット」に対する焦りや苛立ちといった感情から解放され、 心の安定を保ちつつも婚活を続けることができるでしょうか、ということです。 婚活についても、今後は、恋愛・結婚といったものと、出産・子育ては切り離して考え、 出産のためには、(言葉が悪く恐縮ですが)妥協して相手を選ぶべきか、 それとも、たとえ出産機会を失うリスクがあるとしても自分が納得できる出会いがあるまで粘るべきか、考えてしまいます。

ちなみに卵子凍結や、精子バンク等を利用し、1人で産み育てることは考えていません。 また、今の段階では養子縁組なども考えていません。
生涯未婚率が上昇している現代において、「子供がいる人生や結婚する人生が幸せとは限らない」とは、 私の周囲でも色んなメディアでも言われていて、私もその考えには賛成です。 もし本当に妊娠できる可能性がゼロになった時には、それを受け止め、人生を前向きに、 幸せに生きたいと思っています。ただ今はまだ、家庭を築くことを諦めていません。

秋山様がいらっしゃるニューヨークでも、色々な立場の女性がいらっしゃると思います。 秋山様ご自身のお考えも含め、もし周りに、出産を望んでいたけれど結局恵まれなかった方がいらっしゃって、 それをどのようにしてポジティブに捉え、乗り越えられたか、というお話がありましたら、お教えいただけると嬉しいです。

パンデミック渦中にそぐわない質問かもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
秋山様も感染にお気をつけて、どうかお元気で。

- K -




私自身のケースは…

私は26歳でアメリカに渡りましたが、当時は私も自分がやがて結婚して子供を産んで、ディテールは異なっても 母親と同じような人生を送るものだと思い込んでいました。 その2年くらい前までは ”適齢期”で交際した人と結婚するのが、たとえそれが正しいチョイスでなくても運命なのだという 若気の至り的な考えさえ持っていました。
私がNYにやってきた時は仕事については夢や青写真がありましたが、人生設計については「そのうち結婚して子供を産むというプロセスが 訪れる」程度の気持ちでいたのを覚えています。 もし「人生ゲーム」というものをご存知でしたら、私の当時の考えはまさにそのゲームの通りでした。 ルーレットを回して、その数にしたがってコマを進めて教会に辿り着くと自動的に結婚するのが人生ゲームです。
その一方で日本を出る際に親戚に言われたのは「自分を出来るだけ高いうちに売らないと…」いうアドバイスで、これはもちろん若いうちでないと 良い結婚相手が見つからないという意味です。今から思うと女性差別と年齢差別の双方にチェックマークがつくようなコメントですが、 そんな風に言われて 自分が奴隷でも商品でもないのに「高く売る」ことを漠然と視野に入れていたのが当時の私でした。

私が何故結婚していないかと言えば、結婚して家庭を築きたいと思う相手に巡り会わなかったためです。 私が子供を産んでいないのは結婚していないからです。私もKさん同様に精子バンクや養子縁組には興味はありませんでした。 結婚が失敗でも成功でも、子供を作るというのは結婚してから行うものだと思っていました。 その結婚については恋愛という観点から本当に好きになった男性は居ましたが、人間的な尊厳という点で失望したり、 お互いの将来展望が全く異なったケースもあり、恋愛の次のステップが結婚という展開が私にはありませんでした。
でもそれらの恋愛が自分にとって無駄であったとは思っていません。 その都度様々なことを経験して、様々なことを学びました。 そして知恵がつけばつくほど、結婚が難しくなったと思います。 自分が譲れない部分、相手に望めないものが明確に分かってくるためです。 決して理想が高くなったり、満たすべき条件が増えた結果ではありません。

なので私は20代の女性には、本当に結婚が人生の目的の1つなら、若いうちにしておかないとどんどん難しくなるとアドバイスしています。 それは若い方が相手が見つかり易いという意味ではなく、若いうちならば相手に黄色信号が灯っていても、たとえ赤信号が灯っていても、 結婚に踏み切る勢いや楽観的な展望、勇気、時に無謀さが備わっているためです。また若ければたとえ結婚が失敗に終わっても 今の時代であればDVの犠牲者にでもならない限りは さほど大きなダメージはありません。 特にアメリカでは結婚の50%が離婚に終わっていますので、スティグマ(負の烙印)は全くありません。
ちなみにアメリカでは2017年の段階で 2度目の結婚の離婚率は60%。3度目の離婚率は73%というデータが出ています。 結婚というものは経験が豊富な人ほど失敗を繰り返している訳ですが、 実際に結婚とは得体が知れない物なのです。
1960年代ならば美人ほど先に結婚したかと思いますが、今の時代では 男性でも女性でもルックスと財力は選択肢の多さを意味しますので、そうした人ほど独身時代を謳歌するのが通常です。 今の時代の結婚とは「いずれはすると思うけれど、急いでしたくないもの」なのです。
Kさんも婚活をなさったようですが、私の日本の知人は「婚活ほど自分の努力が無駄に終わったものは無い」と言います。 出会って3ヵ月で婚約するカップルも居れば、10年交際して そのうち6年を一緒に暮らしても結婚しないカップルもいます。 また長年一緒に暮らしていたカップルが、結婚した途端に別れるケースは全く珍しくありません。

私が1つ確実に言えると思うのは、結婚というものが男女間においても、ゲイカップルにおいても最も理想的な ペアリングのフォームとは限らないということです。 ですが結婚生活は別として、結婚という社会システム自体は法律的な見地からは非常に合理的かつ便利なものではあります。 結婚という契約ほど多岐に渡ってお互いの権利や立場をプロテクトするものはありません。
その意味で、私は自分の人生から結婚というオプションを削除したことはありませんし、 どんな年齢でも婚姻というものは一時的な恋愛感情や打算ではなく、信頼と尊敬ができるパートナーと その後の人生のために結ぶべき関係だと考えています。

大人の女性として結婚を望むのなら… 

私は子供を産んで立派に育てるというのは素晴らしい使命であると同時に、極めて困難なタスクだと思っているので、 母親という存在が社会に重要な貢献をしていると尊敬する反面、 子供を産んでいない女性の人生が未完結だと思ったことはありません。 女性の場合、自分のために使える時間は子供が居ると居ないとでは各段の差があります。 それを生かしている限りは人生は違った形で満たされます。
「妻であり母であることが女性の幸せの重要な部分」といった説についても 私は本当の幸せはジェンダーとは無関係という考えの持ち主です。 またAIが人間の仕事に取って替わり、環境問題が深刻になる世の中においては、 出生率が低下して人口が減ることは悪いことではないと思っていますし、 子供を産むことは老後の保険にはなり得ません。

アメリカではYouTubeチャンネルを通じて 父親としてのアドバイスをしていた男性が、COVID-19 の外出自粛の2か月間に200万人の サブスクライバーを獲得していましたが、その多くが生別死別で父親と時間が過ごせなかった人々、 父親と何年も口を利いていない人で、特にLGBTQコミュニティの中には自分自身のアイデンティティを貫くために両親に勘当された人達は少なくありません。 以前ゲイ・ウェディングの代理母についてこのコーナーで書いたことがありましたが、 私は親や兄弟等、家族の血の絆を誰よりも深く信じる立場でありながら、 愛情の無い血縁関係が 愛情に溢れた他人との関係に勝てるとは思っていません。
今世界が大きく変わっているのは誰もが感じることですが、COVID-19後の世の中では ”ファミリー”、”コミュニティ” といった人間社会も 新しい在り方に向けて徐々に変わっていくと私は考えています。
その意味で、結婚して子供を産むにしても、シングルで生きていくにしても最も大切なのは、まず健康で一個人として自立していること、 そして周囲に対して愛情と思いやりを持つこと、困っている人が居たら出来る範囲で助けてあげること、 世情や情報をしっかり把握して、正義感を持って生きることです。 特にこれからの時代は正義や信念を通じて 人々が繋がりを深める社会になっていくのです。

その一方で人生というのは どんなに頑張ったところで自分でコントロール出来ないことの方が多いのです。 人生の大きな出来事ほど 自分の決断ではなく 偶然やアクシデント、成り行き、番狂わせ、そして他に選択肢がない ノーチョイスの状況によってもたらされるものなのです。 自分でコントロールが出来るのは それらを最善の状況で迎えられるか、そこから最善を導き出せるかです。
なのでKさんは妥協する相手が現れる前に妥協を考える必要などありません。 そもそも結婚における妥協というものは、自分はピンと来なくても相手が「どうしても」と迫ってきた時や、 自分の意志とは無関係に結婚する羽目になった時点でするべきことです。 結婚は大学受験ではないのですから、ハードルを下げれば達成できるというものではありません。

最後に大人の女性は「結婚と恋愛は別物」と割り切る方が結婚の可能性が高まります。Kさんは「恋愛・結婚といったものと、出産・子育ては切り離して考え」と メールに書いていらしたのですが、切り離さなければならないのは恋愛と結婚であって、出産と子育ては通常は結婚のパッケージに含まれているのです。
相手の人格、自分との相性、価値観を見極めて、信頼と尊敬ができる相手であった場合、 3年で冷めるような恋愛感情の探り合いなどは割愛して、 最初から将来の人生構築が一緒に出来るかにフォーカスするべきです。 男性にとっても結婚は人生のパートナーを得て、家と家族を築くための手段なのです。
お互いに無い部分を補い合える関係、楽しく生産的に暮らせる関係、二人一組で相乗効果がもたらされるようなパートナーシップを 大人の男性と理性的に結べば、信頼感が時間の経過と共に愛情に変わります。 信頼に基づく愛情は恋愛よりも遥かに深く、永続性を持つものなのです。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。

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