July Week 4, 2020
★ " Fashion & Agism "
もう40代なんだから…? 年相応を押し付けるエイジズム


秋山様
CUBE NEW YORKのサイトはアメリカの大学に留学していた20代の頃から、もう20年ほど拝見させて頂いております。 特にこのコーナーで学ぶことは多く、秋山様の様々な質問に対するアドバイスはとても参考になり、特に印象に残った言葉や、心に刺さった言葉はノートやメモに書き留めて、悩みがあるときや辛い時に読み返しています。

今回私もご相談があり、質問をお送りさせて頂きました。
私は40代前半の会社員です。昔からヴォーグなどのファッション誌を読むぐらいファッションは好きなのですが、日本のファッション誌は殆ど読みません。理由は「40代はコレを着るべき」など必ず年齢が書かれていて、 年齢を嫌というほど意識させられる上に、年相応の服装を押し付けられているように思えるためです。
私自身のスタイルは至ってシンプルで、40代になってからはあまりお値段の高くないカジュアル・ブランドの服を着ると安っぽく見えることから、 少し高めのブランドの服を毎シーズン1,2着を購入しては手持ちの服にコーディネートするようになりました。 身長168センチ、トレーニングで鍛えている若干がっちり系の体型なので、コンパクトでスリムに見えるスタイルを選んでいます。

そんな私が現在日本で流行っているロングやマキシ丈のスカートを着ると身体が大きく見えてしまうので、スカートは膝丈を着用していますが、 先日同じ年齢の友人から「もう40代なんだから、膝丈スカートはイタイよ。今主流のロングやマキシにしたら」と言われました。
私は流行に捉われずに自分が好きで似合う服を着たいと思っていますし、基準は周囲の目ではありません。 なので友人の「もう40代だから」という言葉に納得がいかず、馬鹿にされているようにさえ思えてしまいました。 ですがそれ以来「40代になって膝丈スカートで足を出すのはイタイのか?」と気になってしまい、ロングやマキシ丈のスカートを試着してみましたが やはりしっくりしない違和感を覚えます。

秋山様はどのようにご自身の着るものを決められて、ファッションについてどのようなお考えをお持ちでしょうか。 やはり年齢を意識したファッションや、世間一般の流行や周りの目などを気にした方が良いのでしょうか。 ご意見やアドバイスをお聞かせ頂きたく存じます。よろしくお願い致します。

-O-




アメリカのキャリア・ファッションではマキシ丈はご法度です

私は日本のファッション誌は全くと言ってよいほど読む機会がないので、どのような感じで年齢が捉えられているかは分からないのですが、 欧米のファッション誌にも同様の年齢別ドレッシングの特集が時々組まれていることはあります。 でも欧米の場合、30代、40代の装いはほとんど同じ。年齢が50代、60代とアップすればするほど、装いが派手になる傾向にあって、 「このくらい派手でカラフルな服装でも十分に着こなせるし、その方が若々しく見える」というのがそのサジェスチョンです。 決して養護施設のバックグラウンドに溶け込むようなベージュやグレーの年寄りファッションではありません。

そもそもアメリカのファッション誌はアメリカン・ヴォーグの編集長 アナ・ウィンターが今年で71歳、ハーパーズ・バザール誌の現在の編集長で 来年1月にポジションを退くグレンダ・ベイリーが今年で62歳。トップレベルのエディターの多くも40代、50代で、極めてファッショナブルなスタイルをしています。 ですので そんなエディターたちのドレッシングを毎日眺めていれば若い編集者も、それがスタンダードと考えるようになるようです。

とは言っても私自身は「年相応」など年齢をファッション、ライフスタイル、人間性に持ち込むアイデアには全く反対の立場です。何歳になっても自分が好きな服を着て、 自分がやりたいことをやるべきだと考えていますので、年齢相応という概念を持つことは自分の可能性を年齢で制限してしまう危険な思想であるとさえ思っています。
2020年春シーズンのランウェイ・ショーではバレンシアガがシニア・モデルを起用して話題になっていましたが、60歳を過ぎてもバレンシアガのようなエッジーなブランドが着たければ着るべきなのです。 世の中では70歳から水泳を始めた女性が90歳で驚くほど若々しいボディ・ラインを保っているケースもあれば、 62歳からボディビルを始めた女性が65歳でチャンピオンになっていたりします。オーナーが60歳を過ぎてスタートした会社が億円単位の年商を上げることも珍しくないので、 やる気と体力があって、心身が健康である限りは何にでもチャレンジするべきなのです。 またファッションに限らず、自分のセンスや好みに年齢制限をつけて妥協する必要などありません。

マキシ・スカートについて言えば、アメリカではアートや不動産等の高額品のセールスの世界ではマキシ丈のスカートを着用する女性はいません。 スカート丈が長くなると、バイヤーが男性でも女性でも高額品は売れないのだそうです。 それだけでなくマーケティング会社でも弁護士事務所でも、第一線のプロとして働いている女性たちはある程度身体にフィットしたパンツか膝丈スカートを着用します。 それがパワー・ドレッシングと見なされるからで、シリアスなビジネスの世界ではマキシ丈のスカートはご法度のファッションです。 その背景にあるのは「若々しく(エネルギッシュに)見えない」、「シャープなイメージがない」という外観のデメリットなのです。

年齢相応の意識は年齢差別の意識です。

私は20代でニューヨークに住み始めましたが、その当時頻繁に知人に招待して頂いたのがメトロポリタン・オペラ(以下MET)です。
その土曜マチネのオーケストラ・シートの中央ブロック、前から5列目に必ず座っていたのが 毎回違うピンク色のシャネル・スーツを着用した高齢の小柄な女性でした。 白髪のショートヘアに必ず黒いヴェルヴェットのリボンをつけていたこの女性は METの名物パトロンで、彼女が通路を歩くと誰もが微笑みながら道を開けて、 敬愛の念を込めてそのファッションを話題にしていました。 この時に私が学んだのが「年齢を重ねたらキレイな色の 人の目を楽しませるファッションを着用するべき」ということで、私にとってそのMETのパトロン女性は 今でもエイジング・ファッション・アイコンになっています。 年齢を重ねて良い意味で人間として枯れてくると、派手なカラーを着用しても ギョットするような印象にならず、逆に着る側に色の持つパワーが美しく浸透するというのはその時に学んだことでした。

それとは別に私は日本は先進国の中で最も高齢化が進んでいる国でありながら、「年齢相応」の意識に代表されるように、人を年齢でジャッジする年齢差別の意識が強い社会だと思っています。 ニューヨークから日本に帰国した私の友人が少し前に語っていたのが、帰国してから知り合った友達が 最初は同年代の友達のように話していたのに 彼女が何歳も年上なのを知った途端に敬語になって、 ちょっと派手な服装をすると 陰で「若作り」と批判されて、すっかり "エイジズム(年齢差別)" のターゲットになっているという話でした。
アメリカでは履歴書に写真を添付しないのはもちろん、年齢を記載しないのは当たり前で、面接で年齢を訊ねられることもありません。「高齢者にはアパートを貸さない」という差別は許されませんし、 仮想通貨取引所が利用客に年齢の上限を設けることは多くの国々で論外です。アメリカではスターバックスでドリンクをオーダーする前にトイレを使おうとした黒人客に対して 店員が警察に通報したり、ベーカリーがゲイカップルのウェディング・ケーキの作成を拒んで大きな問題になっていましたが、日本の仮想通貨取引所の年齢制限は そんな黒人差別やゲイ差別と同等の差別と見なされるものです。
世の中には40代で痴呆が始まる人もいれば、80代でもシャープな人は沢山いる訳で、年齢で体力、脳力をジャッジするのは 努力して健康や脳力を保って生きている人々に対する侮辱行為に他なりません。 そんな年齢差別社会の基盤になっているのが "年功序列"、"年齢相応"という不必要な概念だと私は考えます。

レイシズム(人種差別)とは異なり、エイジズムはやがて自分が差別される側になるだけでなく、年齢相応に生きれば生きるほど年々差別の対象になっていくものですが、 よく注意していると年齢相応を他人に押し付けたり、「いい年をして…」、「もうXX歳なんだから…」というような台詞を頻繁に言う人は、 年齢に限らず出身地、出身校、経済レベル、未婚・離婚を含むソーシャル・ステータスなどで様々な偏見を持っているものです。 そういう人が語る批判内容には 「バツイチのくせして…」というような偏見に基づく尺度が付き物ですが まともな社会観を持つ人にとっては 聞いていてこれほど不愉快な会話はありません。
ですからOさんは ファッションに限らず、趣味でもライフスタイルでも、キャリアでも、偏見や差別意識を持つ人に何を言われようと自分の意志を貫くべきですし、 アメリカでの留学経験をお持ちでいらっしゃるのですから「年齢相応」、「XX歳なんだから…」という意識が諸外国では "エイジズム" という本来恥ずべき行為に当たるという認識を新たにしていただきたいと思います。

私は日本人の知人と年齢について話す機会がある度に、日本社会のエイジズムについて問題提起をするようにしていますが、 そうすると中には 中年男性が若い女性を好むことをエイジズムだと履き違える人などもいます。 それは個人の好みであって、エイジズムではありません。 エイジズムは年齢によって個人の能力や体力、人間性、服装を含む外観のプレゼンテーションに偏見、疑いなど、否定的な考えを持つことです。
高齢者を敬い、必要な時に助けの手を差し伸べることはとても大切ですが、40代のうちから 若さの維持より年齢通りに年を取ることを奨励する考えは間違っています。 このアドバイスを読んで「単なるファッションの指摘を、年齢差別まで拡大しなくても」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、 社会概念というものは往々にして一事が万事なのです。

最後に 私が服を選ぶ基準は自分のその時のライフスタイルや気分です。コロナウィルスの問題が拡大してからは、 エクササイズと買い物以外で外に出る時も、カジュアルなスタイルが多いので今年に入ってからはシューズはスニーカーしか購入していませんし、 バッグもカジュアルに合わせ易いスタイルを選ぶようになりました。 これは私に限ったことではなく周囲も同様で、やはりWFH(ワーク・フロム・ホーム)で世の中全体のライフスタイルが変わったということなのだと思います。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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