Aug Week 4, 2020
★ " Asian As Model Minority? "
アジア人=モデル・マイノリティ説の問題点とは?


秋山曜子様
アメリカに暮らしています。CUBEのウェブサイトはアメリカに来る前から 10年以上愛読して 毎日アクセスしています。 特にこのコーナーのファンで、アメリカ的でも日本人の芯が感じられる秋山さんのアドバイスが大好きです。
私も秋山さんにお尋ねしたいことが出来てしまいました。

ブラック・ライブス・マターの抗議活動が始まったばかりの頃、何処かの大学教授が 「黒人もアジア人のように振舞っていたら、差別の対象にはならない」という発言をしたことがアジア人の友達の間で話題になりました。 私はアジア人は不法移民が少なく、貧困層や犯罪者が少ないこと、アジア人学生が優秀なことなどを アジア人として誇りに思ってきたので、その大学教授の発言は黒人層には失礼でもアジア人としては問題を感じませんでした。 ですが中国系、韓国系、インド系の友達は 「アジア人を馬鹿にしている」と腹を立てていて、「こういうモデル・マイノリティのレッテルは人種差別だ」と言っていたのを聞いて 初めて”モデル・マイノリティ”という言葉を知りました。 でもマイノリティ人種の中のモデル的な存在であることが なぜそんなに悪いことなのかがよく分からないままです。

少し前に「オール・ライブス・マター」のスローガンがなぜ人種差別なのかを秋山さんが説明して下さったのを読んで とても納得しましたので、モデル・マイノリティの考え方についても 説明していただけると嬉しいです。

ニューヨークはコロナウィルスが収まってきたようで羨ましいです。
CUBEのウェブサイトを読むのは私にとって大切な日課なので、是非これからも長く続けてください。

-S-




”モデル・マイノリティ”は誉め言葉ではなく白人至上主義の肯定です

アジア系アメリカ人は、Sさんも書いていらしたように他のマイノリティ人種に比べて貧困層が少なく、学力レベルが高いのは統計で示されている事実ですし、 犯罪者が少ないのもまた事実です。加えてハードワーカーで、ファミリー重視のコンサバ思考、財産やステータスを求めても権力には興味が無いとキャラクタライズされてきた人種です。 また黒人層、ヒスパニック層のように権利や差別への不満を強く主張せず、政治にも無関心で 与えられた社会環境の中でまずは自分と家族が生きていくための経済活動を営むことが最優先というのが 長年に渡るアジア系移民のアメリカにおける生き方でした。
特にインドや中国からのアジア系移民は一代にして財産と社会的ステータスを築くために親が子供たちを医師、近年ではITエンジニアになれるように熱心に教育する傾向も顕著でした。 その結果 ”モデル・マイノリティ” という言葉がアジア系移民に対して用いられるようになりましたが、これは実際には白人至上主義の見下し目線に基づいたレッテルに過ぎないのです。 要するに「存在しても邪魔にならない、扱い易いマイノリティ」という意味で、他のマイノリティ人種に「自分たちの社会に存在したければ、アジア人のように余計なことを主張しないでハードに働け!」と言っているようなものなのです。

ですが”モデル・マイノリティ”であるはずのアジア系が米国社会で差別されない訳ではありません。 コロナウィルス感染がきっかけでアジア系をターゲットにした暴力やハラスメントが増えたのは周知の事実ですし、 アメリカの歴史を遡ってもアジア人は黒人やヒスパニック層よりも差別されてきた存在です。 移民の国アメリカで、最初に受け入れを拒否されたのが中国人でそれが1882年のチャイニーズ・エクスクルージョン・アクト。後に日本人を含む他のアジア人もその対象になりました。 日系アメリカ人はパールハーバー直後に収容所送りになった米国史上唯一のマイノリティですし、 1982年に起こったビンセント・チン事件は、 今起こっていたらジョージ・フロイドの事件に匹敵するような司法のアジア人差別を露呈したものです。 リンクの日本語版ウィキペディアには判決が簡単にしか書かれていませんが、日米自動車摩擦の真っ只中のデトロイトでヴィンセント・チンを日本人と勘違いして殺害した容疑者は、 僅か3000ドルのペナルティを支払って実刑を逃れ、その判決文は自動車業界で長く働いた白人容疑者の立場を擁護し、理解を示すという常識を逸脱したものでした。
”モデル・マイノリティ”はそうした人種差別が時代に伴って進化したフォームであって、決して誉め言葉ではありません。 Sさんのお友達がおっしゃる通り、特定人種を型にはめる差別に過ぎないのです。

”モデル・マイノリティ”のステレオタイプに苦しむアジア人

”モデル・マイノリティ”のコンセプトは、Sさんが書いてくださった大学教授のコメントのようにアジア人を他のマイノリティ、特に黒人層と比較批判する道具として頻繁に 用いられるものですが、そんな”モデル・マイノリティ”のレッテルはアジア人の思考やライフスタイルに大きな悪影響を与えています。
例えばジョージ・フロイドの事件では、彼の首に9分間に渡って膝を押し付けて殺害したのは白人警官、デレク・ショーヴィンでしたが、彼を止めようともせず、 ジョージ・フロイドが死にかけていることを警告する周囲の人々を威嚇し続けたのがアジア人警官のトゥー・タオでした。 その後のブラック・ライブス・マターのデモを抑圧する警察を捕らえたビデオでも、数人のアジア人警官が過剰にアグレッシブに暴力を振るう様子がアジア人コミュニティにショックを与えていました。 その様子についてデザイナーのプラバル・グランが「アジア人が白人による黒人差別のアクセサリーにされている」と嘆くコラムを執筆していましたが、 ”モデル・マイノリティ”として他の人種よりも上のポジションを与えられたような意識を持つアジア人は往々にして白人至上主義の手先のような行動を取る傾向にあるのです。

またSさんは「アジア系は不法移民が少ない」と書いていらしたのですが、実際にはアメリカ国内のアジア系の7人に1人が不法移民で、決して少ない訳ではありません。 貧困層とて他の人種同様に増え続けていますが、アジア系はそもそも自己主張をしないのに加えて、”モデル・マイノリティ”のイメージが社会に根強いことから、アジア系不法移民や貧困層は他の人種より社会からのサポートが得られない存在になっています。 その一方で、平均的な学力があっても「アジア人の割には優秀ではない」という人種的偏見に基づくジャッジメントやプレッシャーに耐えかねて 自殺するアジア人大学生は非常に多いのが実情です。
要するに”モデル・マイノリティ”というレッテルは、白人至上主義社会に利用されているだけでなく、アジア系の人々を苦しめているコンセプトです。 ですから”モデル・マイノリティ”等と言われて気分を良くしてはいけないのです。 そもそも他の人種に対して優越意識を持つことは立派な人種差別です。 同時にそれは白人至上主義によって定められた人種のヒエラルキーを受け入れること、すなわち人種平等を否定する考えであることを認識して頂きたいと思います。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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