Jan. Week 3, 2021
My Daughters' Emotional Scars
私の愛情の言葉が心の傷になったという娘たち


秋山曜子様、
私には2人の娘がいます。2人とも幼い頃からあることを英才教育的にやってきて、かなり実力がある方だと思います。 そのせいで私は娘たちが幼い頃から母親であり、先生のような立場でしたが、 下の娘が反抗期を迎えました。上の娘の時にはなかった態度を取るので、 私もどうしたらよいか分からず、これまで何度も親子喧嘩をしてきましたが 先日それがエスカレートしてしまい、 下の娘はしばらく部屋に籠って、何日も私とは口を効いていません。
上の娘によれば、口論の最中に私が言ったことで下の娘がとても傷ついたそうで 思い出しては泣いているそうです。 私にしてみれば、売り言葉 買い言葉の中で言ったことをそんな風に深刻に捉えているとは思ってもみませんでした。 ですので上の娘に「そんな細かいことをいちいち気にしてクヨクヨしているなんて…。 もっと心を広く持たなければやって行けない」と言ってしまったのですが、 逆に「私もママが言ったことで、今でも思い出すと涙が出てくることがいくつもある」と言われてショックを受けてしまいました。 下の娘は頻繁に私に反発してきましたが、上の娘は今までそんなことを私に言ったことはありませんでした。

私達親子はこれまでは至って普通の母娘の関係でした。娘たちとは一緒にショッピングをしたり、 一緒にデザートを作ったりして、私は特に口うるさい母親ではないと思っています。 娘たちがやっていることで くじけそうになったり、弱音を吐くと叱咤激励してきましたが、それは愛情があってのことです。 親だからこそ言えることを言ってきたつもりだったので、親の役割を果たして「傷ついた」と言われては割が合わないような気持ちで一杯です。
私の母も強い女性で、私もずいぶん厳しいことを言われて育ちました。 確かに傷ついた事が無かったと言えばウソになりますが、母が愛情で言ってくれていたと信じて疑ったことはありません。 ですから私は娘たちに悪い事をした、言ったという意識は無いのですが、上の娘もこのところ よそよそしくなってきたのが感じられて、 寂しい思い、情けない思い、訳が分からない思いで一杯です。

そんな私にアドバイスをしていただけないでしょうか。娘たちは夫とは口を効くとあって、夫は「今は思春期だから仕方がない」程度にしか思っていませんが、 私は娘たちが一体何を考えているかも分からなくなってしまいました。
お忙しいかと思いますが、よろしくお願いします。

- T -


愛情があっても侮辱は許されません


Tさんのメールを拝読した正直な感想を申し上げると、私はTさんが「親の愛情」という名目を違った意味で過信して、 「愛情を持つ親が子供に何を言っても それは子供のため」と勘違いしていらっしゃるように見受けられてしまいました。
Tさんのお嬢さんに限らず、「自分を最も傷つけた言葉を親に言われた」という人は世の中に決して少なくありません。 そうなってしまう理由の1つは親には子供に対する遠慮が無いためで、他人には決して言えないような残酷な言葉で容赦無しの攻撃をしているケースは少なくありません。 しかも親は子供の心理を完璧に把握していることは無くても、子供の状況は理解しているので、 その情報を使ってさらに心に深く刺さることが言える唯一の存在です。 そしてそんな鋭利の刃物のような言葉は 往々にして子供が暗黙のSOSを発している時にグサリと一撃をするので、 親が常識や経験で理解する以上のダメージを子供の心に与えてしまうことは全く珍しくないのです。

恐らくTさんが下の娘さんを傷つけた言葉は、注意や過ちの指摘などではなく、本人に対する何等かの侮辱であったと思います。 上の娘さんが「今でも思い出すと涙が出てくることがいくつもある」とおっしゃったのも ご本人にとって侮辱と受け取れた言葉だと思います。
人間はどんなに口論をしても、相手を侮辱しない限りはその気持ちを傷つけることはありません。 ですが侮辱は自分の存在、自分が精一杯やって来たこと、自分が大切にしてきたもの等、人間にとって最も大切な自尊心を傷つける行為です。 Tさんとて 思い出すだけで悲しくなる、怒りが再燃するようなことを言われた経験がこれまでにおありになるかと思いますが、それらはご自身に対する侮辱であったはずです。
そして人間であれば誰もが 一番侮辱の言葉を言われたくないのが 自分が信じる人、自分が愛情を注ぐ人、自分に愛情を注いでくれていると思っている人、すなわち親なのです。 ですから親による侮辱の言葉は子供を本当に傷つけます。他人が語ったならば やがて忘れることが出来る言葉でも、親に言われた場合には特別な意味を帯びてくるのです。
私が知る限り、成人になっても親から受けた心の傷を引きずっている人が、その言葉で自分がどんなに傷ついたかを親に抗議するケースは殆どありません。 言われた直後に抗議をしていた場合には、往々にしてTさん同様のリアクションであしらわれていますし、時間が経過するにしたがって 「どうせ相手は覚えていない。今さらそれを持ち出してもどうにもならない」という諦めの気持ちを抱くようになります。 ですがその時の悲しさや屈辱は決して消えた訳ではありませんし、親と口論になる度に その感情がぶり返してくるのは人間心理において避けられない状況です。

親が完璧な人間ではないのは当然ですし、完璧な子育てなどは世の中には存在しません。 ティーンエイジャーにもなれば、そのことは子供達の方が親よりも理解しています。 親達の「私が正しい」、「私が勧めることが一番」、「私が居ないとこの子達はダメ」というような思い込みに 妥協しながら、子供の方が親を許して生きているケースは決して少なくありません。 それは子供たちが親に愛されたい、親の愛情を失いたくない本能に従っている結果です。
近年の日本では親殺しの事件がかなり報道されたので、「親の愛情は不変でも、子供はそれを裏切れる」といったイメージを持つ人は少なくありませんが、 親殺しの件数は、子供を捨てたり、憎んだりする親の数に比べれば微々たるものです。 でも捨てられても、憎まれても、子供は親の愛情を求めるものなのです。
ですからTさんの言葉で心に傷を負っても娘さんたちがTさんを嫌いになることはありません。Tさんの愛情を求め続けます。 今の事態もこのアドバイスを読んでいただける段階では また元通りなっていると思います。だからと言ってそれでしこりが消えた訳では決してないのです。

女児を育てる母親の負のリピート

Tさんは「私の母も強い女性で、私もずいぶん厳しいことを言われて育ちました。 確かに傷ついた事が無かったと言えばウソになりますが、母が愛情で言ってくれていたと信じて疑ったことはありません」と 書いていらしたのですが、人間というのは「自分が良い人生を生きている」と思い込もうとする気持ちから、 過ぎてしまったことを美化する生き物です。Tさんとてお母さまの言葉で傷ついたり、悲しい思いをしながら、涙を流した経験はあるはずです。
ですが人間は 親になった途端に子供の気持ちを忘れます。 そして自分が知る唯一の子育て法、すなわち自分の親による子育てを 「それで自分が立派に育ってきたのだから」と リピートする傾向が顕著です。 特に母娘の関係においては、 自分が成長期に母親から受けた屈辱や心の傷を乗り越えてきた思いから、 それを自分の娘に対してリピートする傾向が極めて強いことはアメリカの心理学の世界で認識されると同時に、問題視されています。 そんな負の子育てをリピートする母親達が「厳しさ」と考えて、娘のためと思って語る言葉は 残念ながら娘側には時に自分を傷つける侮辱や罵倒に受け取れてしまうのです。

Tさんが娘さん二人に愛情を注いでいらっしゃることはメールの文面から十分理解できますが、 親子関係においては愛情を注ぐということと、人権、人格の尊重は時に別物です。 子供の人権や人格を尊重していない親は、愛情という名において子供を侮辱してしまう傾向が顕著ですし、 子供に対して「私が育てる私のもの」的な自分の所有物、付属物という意識を持っています。
もしTさんが娘さんの人権・人格をきちんと尊重していると自覚されていらっしゃるのでしたら、 娘さん達が子供の頃から英才教育を受けてきたものを 自分の意志で続けているのか、それともTさんに言われるままに、もしくはTさんのために続けているのかを尋ねて頂きたいと思います。 こんなことを書くと大変失礼ですが、「私は娘たちが幼い頃から母親であり、先生のような立場でした」とメールに書いていらしたTさんにとって、 娘さん達が続けてきたものが ご自身のアイデンティティの一部になってしまっているように見受けられました。 下のお嬢さんの”反抗期”というのは、ひょっとしたら それまで親に言われるままに続けてきたことに対する自分の適性への疑問や、 自分が本当にやりたいこと、やりたくないことに目覚めてきたリアクションかもしれません。 そもそも反抗期なのであれば 親がコントロールを諦めさえすれば、反抗するものが無くなるので収まるはずです。

親は子供の人生を生きることは出来ませんので、家族という絆の中で 出来る限り早い段階から親は子離れ、子供は親離れをして1人の人間として自立して生きていくことは 長く良好な親子関係を続けるためには不可欠です。 さらに言えば人間であれば 誰もがくじけそうになったり、弱音を吐く時があって当然なのですから、そんな時に優しさや愛情を示すのは甘やかすことではありません。 むしろそんな時に注がれた愛情こそが親子の絆を深めますし、そういう時にこそ親が自分の経験を語るなどして 生きるための知恵や問題の解決策を子供に示すべきなのです。 そうすれば次にくじけそうになった時には、子供達がその知恵や愛情を武器やサポートにして乗り越えられるのです。 人生は長丁場なのですから、歯を食いしばって頑張ることしか出来なければ途中で潰れてしまいます。

今回、ずいぶん厳しいことを書いてしまいましたが、私はTさんが ”母親であり、先生” という意識を払拭して、 娘さんたちが続けてきたことに捉われない 母親に徹したポジションを確立するだけで状況は大きく変わると思います。 また娘さんたちが自分が思っている以上に成長している様子にも改めて気付かれることと思います。 習い事、英才教育といったものは時にその上達や成績が子供の精神面の成長と同じレベルだと親を錯覚させてしまうのです。
また今後のために Tさんには娘さんたちと 自分のどんな言動で傷ついたかを一度話し合って、傷つけたことを謝罪されることもお勧めします。 たとえTさんには「その程度のこと」と思えたとしても、それを母親という立場で言うことが子供の心を傷つけるという認識を持つべきです。 これは「言いたいことも言えなくなる」ような状況を招くためにご提案しているのではありません。 親というのは往々にして同じ事を言って同じように子供の心を傷つけるのです。 何が娘さんたちの心を傷つけたかを把握して、それを言わないようにするだけで 将来的な問題はかなり回避できるはずです。

2021年がTさんとご家族にとって、素晴らしい一年になりますようお祈りしています。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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