Feb. Week 3, 2021
Everyday Sexism Everywhere
日本の女性蔑視社会の原因は女性にもある?


秋山曜子様、
2年くらい前にオッジという雑誌で秋山さんのことを知って以来、ずっとこのコーナーを読み続けているファンです。
日本で大きなニュースになったので秋山さんもご存じかと思いますが、東京オリンピックの組織委員会の森会長が女性蔑視の発言をしたことが 問題になっています。 女性の社会進出を後押しするようなふりをしていても、やっぱり男性社会の本音が出たと私は思っています。 個人的には日本社会から女性蔑視が消えないのは、森会長のような頭が古いお偉い男性が 女性に対して無理に活躍の機会を与えてやっているという見下し目線で組織を率いていて、 女性の方もこういう性差別発言には猛反発するくせして、日頃はチャラチャラ男性に媚びを売って男尊女卑を肯定している人が多いからだと思っています。

女性の権利や社会的立場についての意識が高いアメリカでは、 森発言は大きなどんな風に捉えられているのでしょうか。 そしてアメリカに長くお住まいの秋山さんの目からは、こういう日本人男性の発言や 日本の女性達はどう映るのでしょうか。
教えていただけるととても嬉しいです。お時間のある時によろしくお願いします。

- N -


帳尻合わせの男女平等だからこそ露呈する本音


Nさんからのご質問は先週末に森会長が辞任する前に頂いたものでしたが、タイムリーな話題なので取り上げさせていただくことにしました。
森氏の発言については、アメリカのニュースメディアのウェブサイトでは女性蔑視発言内容を複数のセンテンスを引用して報じるものもありましたが、 TVのニュース番組でこれを報じたものは「He said ”Women talk too much in meetings”」といったごく通り一遍の数秒のものでした。 この ”Women talk too much in meetings” というセンテンスは欧米の複数のメディアがヘッドラインにしていたもので、 セクシズム、レイシズムを含めポリティカリー・コレクトになっている現在の世の中では印象が悪かったのは紛れもない事実です。
私は何度かこのコーナーを含めたコラムで書いてきた通り、アメリカ人と同じ視点で日本を見るために 日本のメディは殆どチェックしていません。 その私が英語の報道だけを読んで抱いた第一印象は「女性を加えたミーティングは体面を保つだけの形だけのもの、もしくは 女性からどういうリアクションが出る可能性があるかをチェックする程度のもので、本来決められるべき大筋は男性メンバーが事前に決めていて、 会議はその正式承認の場であるからこそ、女性の発言が時間の無駄のように扱われるのだろう」というものでした。 それと同時に男性優位の社会、もっと具体的に言えば男性長老がイエスマンを率いる組織体制が日本に未だ根強いように感じられたのも事実です。

Nさんのメールを頂いてからは、もっと詳細な日本のメディアの報道もいくつか読みましたが、アメリカ生活を30年続けた私の視点からは 森発言には国民が腹を立てても、 「内心はどうあれ、今は表面を取り繕うべきご時世になっている」と言わんばかりのメディア報道が批判を浴びずにまかり通るところに日本社会の問題を感じました。 そんな表向きだけの男女平等を肯定するような報道はアメリカでは確実に批判されます。
私の日本人の知人は、「今の女性の社会進出は 先進諸国としての体面を整えるだけのために男性社会が行っていることで、 女性達が自力と実力で勝ち取っているのではなく、男性社会によって与えられているだけ」と言います。 私はそこまで断言するほど日本の女性リーダー達についての知識はありませんが、 日本のカルチャーにおいてセクシズムが根強いのは紛れもない事実ですし、 近年の男女平等社会の思想に賛同しない古い考えを持つ人々が男性だけでなく、女性にも決して少なくないように感じられるのもまた事実です。 日本のYouTuberを見ていても、女性が結婚して子供を産んで育て、夫が外で働く社会を大前提に物事を語る様子が目立ちますし、 少子化を緩和するためのプロパガンダとは言え、既婚と未婚で女性達に勝ち組、負け組といったレッテルを貼っていたのもセクシズム以外の何物でもありません。
日本語でセクシズムを表現しようとすると、どうしても「蔑視」、「差別」という表現になってしまうので、直接的に蔑視や差別とは見なされ難いセクシズムが批判されずに横行しているように思いますが、 男性優位の社会は日本だけでなく、世界的に続いて来ている訳ですから「男女が人として平等であるべき」という意識が浸透してきたところで、 社会全体が 直ぐに対応できないのはある程度は仕方がないことだと見受けられます。 ですが大義名分を謳って、理事会のメンバーの数合わせだけ行って 表面的に帳尻を合わせるだけという状況は、社会として問題に取り組んでいる姿勢とは見なされませんし、実際にそうでないからこそ 失言と称して本音が露呈するのだと思います。

言論への責任、ハードルは上がっていてもルールは同じ

女性の立場や権利が比較的認められているアメリカでも 同じことを言っても男性は評価され、女性は煙たがられるという風潮は未だ根強いですし、 どんなことでも女性より男性の方が優れているという考えは 今もユニヴァーサルに定着していると思います。 少なくとも数年前までは、そんな男女の能力比較の例に必ず挙がっていたのが料理で、「家事としての料理は女性の仕事」というステレオタイプを前提に、 「女性が作れるのは家庭料理程度で、一流の料理を作るシェフの多くが男性」である指摘を良く耳にしました。
ですが私に言わせれば、料理の大半は力仕事です。最も手間と時間が掛かるプロセスが食材を剥いたり、切ったりすることで、 高級で上質な鍋ほど重たいことを等を思えば、腕力に長けた男性にアドバンテージがあるのは当然ですし、そもそも料理人の世界で伝統的に根強いのが男尊女卑の思想です。 アメリカでは4年前に#MeTooムーブメントが起こったのがきっかけに、ようやくレストラン業界でいかにセクハラとセクシズムが横行していたかが暴露されたような有り様でした。
2年前ほどにはグーグルの若手エンジニアが、女性の脳はエンジニアリングに向いていないと発言して解雇されていましたが、 男性が多い職場ほど、セクハラとセクシズムが多いだけでなく、 初めてのビジネス・ミーティングで女性エグゼクティブよりも男性部下を優先的に扱う傾向は未だ健在です。
また本来男性が強いと思われる分野、すなわち車や家電製品の購入に際して 女性客が軽視される傾向もアメリカでは顕著です。 マニュアル・シフトの車を購入しようとしたカーマニアの女性が カーディーラーに全く相手にされ無かった話、 ビッグスクリーンTVを購入しようとした女性が、それを運んで持ち帰るためにボーイフレンドを連れて行ったところ、店員が彼にしか商品の説明をしない等のエピソードは頻繁に聞かれますし、 地方都市ほどその傾向は顕著です。

Nさんがおっしゃる「女性の方もこういう性差別発言には猛反発するくせして、日頃はチャラチャラ男性に媚びを売って」という部分については、 男性とて出世のためには上司に媚びを売っている人は多いですし、 「チャラチャラ」がどの程度を意味するかは別として、男性社会で女性が上手くやって行くためには 敵を増やすような態度を控えて、 周囲からはチャラチャラしているように見える振舞いをしなければならないケースは少なくありません。 私が時々残念に思う のは 男性社会で生き残っている女性、サクセスを収めている女性に対して、女性が極めて厳しい目を向けて反発したり、競争心から蹴落とそうとする傾向が未だに強いことで、 アメリカでは男性のようなアライアンス意識が女性に無いことが 社会進出の遅れの原因として指摘されて久しい状況です。

日本についていえば、男女のステレオタイプの意識が根強い原因の1つを担っているが言語だと私は考えます。 ドラマでも、アニメでも「男なのだから負けずに戦え」「男なのだから耐えろ」のように不必要にジェンダーを持ち出す台詞が多いと思います。 私の考えでは男性の方が社会や組織に守られているのですから、このセリフは女性に対して投げかける方が適切なように思いますが、 「女の子らしくしなさい」、「男のくせしてだらしない」、「女のくせにふざけるな」、「男の子なんだから泣いちゃダメ」といったセンテンスは、 女性蔑視発言に腹を立てている人でも日常で平気で語っているように見受けられます。 さすがに昭和時代に 最低の男性を表現する際に使われていた「女の腐ったの」という表現は聞かれなくなりましたが、 それでも日本は言語の段階から男性優位社会がスタンダードになっている訳ですから、それは日常生活の中で自然に男性優位をプログラムされているのと同じです。

日本でセクハラが問題視されるようになった時にも、男性側には様々な混乱があったようですが、 今から50年近く前の昭和時代には、外国出張に飛び立った商社マンがドリンクを運んできた外国人スチュワーデス(=フライトアテンダント)のお尻を「Thank you」と言いながらポンと叩いたことで、 飛行機を降りた途端に待ち受けていた警察に逮捕されたというエピソードがあります。 ですが当時外国出張をしていた日本人ビジネスマンの間でそのエピソードが有名になったのは「そんなことぐらいで逮捕されるから気をつけろ」という注意であり、 「そんな非常識な痴漢行為をする奴がいる」という意味ではありませんでした。 見方を変えれば、欧米諸国に比べてそれほどまでにセクハラやセクシズムの意識が遅れた段階からスタートしたのが日本ですので、 50年近くが経過したとは言え、現在のようにすっかり厳しくなった世界のスタンダードの下でオリンピックを開催するというのは大変なことだと思います。 時代はセクシズムもさることながらレイシズムにはさらに敏感ですので、女性蔑視発言ばかりに気を取られていると、 人種差別発言で叩かれる可能性も大きいように思います。
「今の社会は油断して発言が出来ない」と言われるのはアメリカも同じですが、社会に対して発言力を持つ人物が 自分の言うことに責任を持たなければならないのは長きに渡って世界の常識であった訳ですから、ハードルは上がっていてもルールは同じです。 ですので私はセクシズムに限らず差別的な発言については、誰が どういう意図で語ろうと 感情や都合を交えない しっかりしたスタンダードに従って対処や処分が決まるべきという考えです。 「あの人のこの状況の発言は許されたけれど、この人のこのケースはダメ」のような前例を作ってしまうと、 言論規制だけが高まって世の中が一向に変わらないという状況になりかねないと思う次第です。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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