Akiyama Yoko様、
アメリカ在住で、6年前にアメリカ人の夫と結婚しました。
パンデミック以来 私も夫も自宅勤務になり、都市部の小さなアパートでは手狭になってしまったことから 昨年末にある州の郊外に引っ越しました。
いずれ子供のために郊外に引っ越す必要性を感じていたので、それが早まっただけという感じで都会を離れることには さほど抵抗はありませんでした。
引っ越しが一段落した時に、新しい隣人から護身用に銃の購入を勧められました。
新しい家は警察を呼んでも都会のようにすぐには来ませんので、息子の手が届くところには決して置かないと言う約束で 銃を所有することは承諾したのですが、
隣人に付き添われて銃を買いに行った夫は いきなり大きめのライフルを含む二丁を買ってきました。せっかく銃があっても使えなければ仕方ないということで、
隣人とシューティング・レンジに頻繁に行くようになり、夫が銃に夢中になって行くに連れて様子が変わってきました。
ナショナル・ライフル・アソシエーションのメンバーになり、インターネットでも右寄りの保守的な思想に洗脳されてきて、
態度や言葉遣いも以前に比べてアグレッシブになってきました。
ニュースを観ていて怒り出すことなどもあり、先日息子が自転車で飛び出して事故になりそうになった時にも、こちらが悪いのに車を運転していた人に今まで見たことが無いような怒鳴り方をしていました。
私はインターネットで政治的なサイトや過激なサイトを観ないように忠告しているのですが、
YouTubeのアルゴリズムには勝てないので、仕事部屋にこもってネットサーフィンをしている時間が長くなっています。つい最近には私に隠れて銃を買い足していたのを発見してしまいました。
それだけでなく約束を破って 私が居ないのを見計らって息子にも銃を見せていたことを息子から聞かされました。
今では夫がどんどん別人になって行くのが感じられて、夫婦間のコミュニケーションも減って来て、銃で妻と子供を殺して自殺する夫のニュースを見ると
恐ろしくなって、真剣に離婚を考えています。
銃を護身用に所有しても、過激な思想に傾倒しない人はアメリカに沢山いると思うのですが、
夫が右寄り思想や銃信仰にあっという間に洗脳されてしまったのには驚いていますし、恐ろしいとも思っています。
相談したアメリカ人の友達にも「急速な右寄りの思想はどんどん拍車が掛かる」と脅されてしまい、
穏便に離婚が出来るかも心配です。
Yokoさんはこんな私の状況をどう判断されますか。
何かお知恵やアドバイスを頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
- R -
パンデミック中の2020年には、ただでさえ銃が溢れているアメリカで更に銃の売上が70%アップし、500万人が新たにガン・オーナーになったと報じられました。
Rさんのご主人もそのうちのお1人だった訳ですが、銃を所有すると性格が変わることはアメリカでは1960年代から指摘されていて「ウェポン・エフェクト」と呼ばれてきました。
実際に銃を車内に所持していると運転がアグレッシブになることは1970年代の調査で指摘されていますし、
2006年には男性が銃を所持するとテストステロン・レベルが上昇し、生活全般でアグレッシブになることが立証され、
「禿や生え際の上がりを防ぎたかったら、銃を手放すべき」といったジョークが聞かれたほどです。
銃によって周囲が恐れるパワーを持つことで にわか作りの権力者のようなメンタリティを抱くのは 容易に想像がつくことですが、
決して人間的に強くなった訳ではありませんので、ガン・オーナーは自分の弱さに直面した時の反動も大きいと言われます。
銃を所有している人は、所有していない人よりも自殺率が遥かに高く、アメリカでは自殺の半数以上が銃によるものです。
銃による自殺の成功率は85~90%ですので、他の手段に比べて確実に死に至ります。
そんなガン・オーナーが自暴自棄になって起こすのが銃撃事件ですが、その多くは容疑者が自分に銃口を向けて終焉することを思うと、
これは無差別のマーダー・スーサイド(無理心中)とも言える行為です。
さらに毎年アメリカでは約500件、すなわち1日1件を上回るペースで 銃による死亡事故が起こっていますが その77%が起こっているのが自宅で、
死者の大半は24歳以下。家族や友人によって誤って射殺されるケース殆どで、最も多いのが兄が妹や弟を射殺するケースです。
そうなってしまうのはアメリカの460万人の子供達が、最低一丁の弾が入っている銃がある家で暮らしているためです。
したがってRさんがお子さんを危惧されるお気持ちはごもっともですが、
ご主人はそんなリスクよりも、銃のパワーとガンカルチャーを息子さんに早い時点で教えたいと思っている様子が受け取れます。
実際にアメリカ南部や中西部ではガン・オーナーが子供の16歳のバースデーに銃を贈ったりするので、ご主人がされていることは
そんなガン・カルチャーにドップリ浸かっている人々の間では 特に珍しいことでも 危惧されるべきことでもないのは事実です。
問題は妻であるRさんが同様の考えを持っていないことで、Rさんは民主党支持を打ち出しているかは別として リベラル派かと思いますし、都市部はリベラル派でないと居心地が悪いのも事実です。
ですが一度地方や郊外に出るとアメリカはエリアにもよりますが、保守に傾倒する場所が非常に多いのです。
このコーナーで何度も書いていますが、キリスト教福音派が多い郊外や田舎町ではダーウィンの進化論から コペルニクスの地動説までもが世の中を欺く陰謀説ですし、コロナウィルスのワクチン投与率も全米で最低レベルです。
Rさんのメールから、ご主人がガン・カルチャーと右寄り思想にあっという間に染まったプロセスにはYouTubeもさることながら、
隣人の影響がかなり強いように感じ取れましたが、その隣人も恐らく右寄り保守派だと思います。
銃の愛好家であれば、銃規制を進めようとする 左寄り、民主党支持者であることは先ずあり得ないのがアメリカです。
したがってご主人が変わってしまわれたのも事実ですが、Rさんがこれまでとは全く異なるテリトリーに暮らしていると思しきこともまた事実かと思う次第です。
アメリカでは、オバマ大統領が銃のベスト・セールスマンと言われ、逆にトランプ大統領がワーストと言われました。
ナショナル・ライフル・アソシエーションはトランプ氏の選挙に3000万ドルを寄付して、売上がガタ落ちするというパラドックスを味わった訳ですが、
そんなことが起こるのは銃規制を進めようとする民主党が政権を握っていると、やがて銃が手に入らなくなることを恐れるガン・オーナーが銃を買い貯めするためで、
逆にトランプ氏のような銃規制を緩める大統領の場合、その危機感が無いことから 銃の売上が下がるのです。
2020年のパンデミックは そんな売上不振が続いたライフル業界には降って湧いたラッキー・ブレイクで 「暴動が起こる」、
「食糧や物不足で略奪行為が横行する」といった恐れや、ブラック・ライブス・マターの抗議活動を嫌う人々が銃の購入に走った結果、大幅な売り上げアップとなりました。
ですが現在は銃規制を進めようとするバイデン政権下ですので、インターネット上には銃規制を嫌う右寄り保守派の陰謀説が溢れています。
もちろん陰謀説は右も左もどちらも発信していますが、どちらのケースでも7日もあれば普通の人を洗脳するのに十分なマテリアルがグーグルのオートプレイで流れ込んできますし、
その内容はどんどん過激になって行きます。
もしRさんのご主人が南部や中西部の出身であるなど、基本的に保守的な考えをお持ちの場合は 私は今の環境でのRさんとの歩み寄りは極めて難しいと思います。
Rさんが何を言ってもRさんの方がマイノリティで、世の中を理解していないように受け取られてしまうからです。
アメリカでは80年代後半から90年代半ばにかけて、イスラム教の男性とアメリカで結婚した女性が、夫の里帰りに同行してイスラム教圏の国に行った途端に、
女性蔑視が激しいカルチャーの影響で 夫への意見が許されず、暴力が始まり、パスポートを取り上げられて捉われの身になるというケースが相次いで、そんな米国人女性を救出するための組織が存在したことがあります。
住むエリアの環境が自分のルーツである場合、男性がそのカルチャーにあっという間に感化されるのはイスラム教徒に限ったことではありません。
私がRさんのメールを読んで思い出したのが、何年か前に離婚をしたアメリカ人女性の話でした。この女性の夫も銃愛好家で「夫に離婚を迫ったら自分が射殺されるのでは?」と真剣に恐れていたそうす。
彼女は夫の親友と犬猿の仲だったそうですが、離婚をするためにその大嫌いな夫の親友に 「自分の代わりに夫と結婚する女性を探してあげて欲しい」と協力を仰いだそうで、
上手く 自分より若い相手が見つかったお陰でスムーズに別れることが出来たというのがそのストーリーでした。日本でも”別れさせ屋”というものがありますが、
自分が居なくても相手が困らない状況をクリエイトするのは穏便な離婚には大切なことなのです。
逆に銃を持っている人間に対して一番やっては行けないことは
結果を急いで追い詰めたり、不安やパニックに陥れることです。すると銃を使って解決しようとする可能性が高まります。
ガン・オーナーにとって銃というものはいろいろな意味でイージー・ソルーション(安易な解決策)なのです。
いずれにしてもお子さんがいらっしゃるということはRさんが離婚をするに当たっては、親権や養育費の問題が絡みます。
ですから離婚を決心をする、しないに関わらず、まずは有能な弁護士にきちんと相談して財産配分や見込まれるトラブルなどについての予備知識を得るべきですし、
離婚後のRさんが何処で生活するのか等の詳細も考える必要があります。
先週離婚を発表したビル&メリンダ・ゲイツ夫妻にしても、メリンダ夫人は2019年には既に離婚弁護士に相談していたとのことですので、
頭の中で考えを巡らせるよりも、実際に弁護士のコンサルテーションを受けた方が 自分にとって最善の選択肢が見い出せると思います。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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