秋山曜子さま、
いつもサイトの更新を楽しみにしていて、日本で報じられないようなアメリカの事情を勉強させて頂いているアラサーです。
パンデミックでずっと家に居て、旅行にも行けない生活が続いたせいか、以前から考えては諦めていた留学の意欲が過去に無いほど高まりました。
そうなったのはコロナウィルスの日本政府の対応や、その間の国民生活を見ていて、
「日本で一生を終えるのがベストなのだろうか?」と考えるようになったこともあります。
それと日本のTVのニュース・メディアがコントロールされていたり、日本のYouTuberの言っていることも偏っていて、内容がおかしかったりするので、
世界情勢に乗り遅れないように 自力で海外のメディアから英語でニュースを拾う必要性をひしひしと感じるようになりました。
そこで留学経験がある友達や、外資にお勤めしている友達に何処に留学するのがベストかを訊いたのですが、
イギリスという人も居れば、アメリカという人も居ます。英語圏でもシンガポールなどの東南アジアは薦めない人が殆どでした。
本当のことを言えば、CUBEさんの影響もあってNYが第一希望なのですが、NYは留学に適していないという人も居ます。
NYに住んでいる秋山さんは、実際のところどう思われますか。
NYには誰も知り合いがいないのも不安で、知り合いを紹介してくれると言う友達もいますが、私がその友達のことをあまり信用していないので、
その人から紹介された人を当てにして良いのやらという気持ちも強いです。
誰も知り合いが居なくてもNYのような街でやっていけるでしょうか。
アドバイスをしていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
- M -
私は日本人、特に優秀な女性達にはどんどん海外に出て、勉強や様々な経験、チャレンジをするべきと常日頃から思っているので、
留学には大賛成の立場です。
文面から拝見したところ、留学というのは語学留学かとお見受けしましたが、何か英語で学びたいものがおありでしょうか。
私もNYには留学生としてやって来て、ファッション・ビジネスを学びたかったのでFIT(Fashion Institute of Technology)でクラスを取るのが目的でした。
でもいきなり英語のクラスにはついていけないので、4月半ばに渡米して まずは語学学校でESL(English As Second Language)のクラスを取りました。
日本で普通に英語を勉強していた人であれば、ESLのデュプロマは3~4ヵ月程度で取得できます。私も4月末からクラスを取り始めて、7月の頭にはデュプロマを取得しました。
その後は語学学校でタイプのクラスなどを取りながら学生VISAを繋いで、9月の新学期開始時にFITにトランスファーしたのを覚えています。
母国語がスペイン語やフランス語の学生であれば、ESLのデュプロマを取得する頃にはアメリカ人と普通に会話をすることが出来ます。
スペイン語やフランス語は単語の約70%を英語とシェアしていますので そうした学生はボキャブラリーが非常に多いこともありますが、何よりも
生まれた時からアルファベットの言語を話していたので発音が良く、「a」、「the」の冠詞がきちんと使えるので、
文法的に多少の間違いがあってもアメリカ人には問題なく通じるのです。
でも日本人の場合は残念ながら ESLの過程を終えた程度では「英語が片言話せる」というレベルにしかなりません。
私がNYに留学して3ヵ月目に壁に突き当たったのも、当初思っていたほど英語が上達しなかったためで、
これは留学中には多かれ少なかれ誰もが経験することです。ですから私は短期の語学留学の場合は その壁にぶつかる前の3ヵ月で切り上げて、
謙虚な自信と「もっと英語を勉強しよう」という意欲を持って帰国するのが一番だと考えています。
1年以上の留学をお考えの場合には、何か英語以外に学びたいものを持たない限りは、留学の時間や費用に見合うだけの成果が得られないように思います。
そもそも英語というのは生活やキャリアのインフラであって、能力や技術ではありません。
英語を生かそうと思う分野で英語を学ばない限りは、それがきちんと身について、将来に役立つことは無いというのは多くの留学体験者共通の意見です。
さらに個人的な経験から言えば、交友関係も語学学校より FITのような大学のクラスの方が遥かに興味深い人達に出会えました。
私が日本人以外の初めての親友が出来たのがFITで、彼女は今も私の生涯の財産と言える友達の1人です。
私の意見では社会人として英語を学ぶのに最も適している街がNYです。
その理由の1つはNYには いろいろな国から来た人達がひしめき合って生きているので、
いろいろな英語の発音に遭遇出来るからです。同じNYの中にもブルックリン・アクセント、ブロンクス・アクセントといった訛りがありますが、
耳が日頃からいろいろな英語のアクセントに慣れているというのは意外に大きな武器なのです。
同じ英語でも そのアクセントには暗黙の格付けが存在していて、ブリティッシュ・アクセントはスノッブさを嫌う人が居る反面、教養があるイメージは今も健在です。
またアメリカのハイソサエティの人ほど 自らフランス語を話し、フレンチ・アクセントを好む傾向にあります。
逆にアメリカ人が嫌うのはドイツ人やスイス人のジャーマン・アクセントで、時折入るツバを吐くような音がその原因ですが、
最も嫌われているのは何と言ってもシングイッシュ、すなわちシンガポールの英語です。
ですのでMさんのお友達が留学にシンガポールを薦めないとおっしゃったのには私も全く同感です。
「とにかく聞き取り難い」というのが嫌われる理由ですが、中には「聞いているとイライラする」という人も居るので、シンガポールは英語を学ぶべき場所ではありません。
またフィーが安いからといって東南アジアの英語圏の人とインターネットを通じて英会話レッスンを受けることも、変な英語が身につくリスクがあるのであまりお勧めしない立場です。
アメリカ国内で言えば 南部訛りはどうしてもカントリー・シンガーが話しているみたいで あまり洗練されたイメージを与えません。イギリス人の中には南部英語を全く理解できない人さえいます。
ボストンは有名大学が多いので留学に適していると思う人は少なくありませんが、ボストニアンの英語も一癖あることで知られています。
要するにボストンは学業を極める場所であっても、英語を学ぶ街ではないのです。
そうかと思えば以前、ハワイ留学中で 現地の米軍基地の兵士と付き合っている日本人女性がNYにやって来た時に 友達に紹介されたことがありますが、同席したアメリカ人の友達が
彼女の英語の汚さに呆れていたことがあるので、何処に留学してどんな人々と会話をするかはとても大切なことです。
英語が話せる人の真似をしていれば良いという訳では決してありませんし、日本人にはそもそもジャパニーズ・アクセントという外国人には理解しにくい訛りがありますので、
それに新たな強い訛りが加わるのはディスアドバンテージ以外の何物でもありません。
私がそれ以外にNYが語学留学に適していると思う理由は、会話のペースが速いことです。
日本語は会話のテンポやリズムの悪さが気にならない言語ですが、英語はそうは行きません。
リズム感が良い人ほどボキャブラリーの量に関わらず英語の上達が早いものですが、反応さえ早くして会話のリズムを保てば
英語に問題があっても会話は続けられるのです。ニューヨーカーの早口に慣れれば テンポを保つ話し方が出来るようになりますし、
英語を聞き取る耳も鍛えられるはずです。
さらにもう1つ付け加えるならば ニューヨーカーはユーモアのセンスに長けています。エレベーターの中で天気の話をする時でも、
短く気の利いたジョークを言える人が世界で最も多いのがNYだと私は思っています。
語学上達のカギは話術に長けた人の真似をすることから始まりますので、私は英語を学ぶ環境としてNYほど理想的な街は無いと考えています。
Mさんは知り合いが居ないままNYに留学することを心配していらっしゃいましたが、留学というのはそもそも誰も自分のことを知らない、文化も言語も違う国に出掛けて、
それまで周囲や社会によって型にはめられていた自分や 日本特有の島国的な既成概念を解き放って、全く新しい自分を見出すために行うべきものです。
知り合いなど居ない方が本当の自分を再発見できるのです。
面倒見が良い知り合いが居ると、その人に頼ってしまって「言葉が話せなくて、簡単なことさえが出来ない自分」という留学生活の貴重な醍醐味を経験するチャンスを逸してしまいます。
日本で勉強したセンテンスなど実生活では全く使わないこと、きちんと発音しないと単語は正しくても通じないことを思い知らされるのが留学生活のスタート地点で、
その後も「英語が話せないと こんなことも出来ない、こんな簡単なことさえ言えない」というジレンマを味わう生活が続きます。
でもそこで必死になるからこそ 新しい環境でのサバイバル意欲が生まれて、人に好感を持たれる話し方やボディランゲージ、
周囲を味方につける処世術やしたたかさが徐々に身についていくのです。
何歳になっても人間は変わることが出来ますが、私は留学ほど必要に迫られて、それに取り組まざるを得ない状況は無いと思います。
ですので「自分はどんなところでもやって行ける」という自信をつけるためにも、私は知り合いに頼らない自力の留学をお勧めする立場です。
私が留学のために渡米したのは1989年のことですが、その経験は私にとって生涯最大の冒険でしたし、
それは今も続いていると思っています。
NYに来たばかりの時期は宗教のことなど何も知らなかったので、ジュ―イッシュの友達のホリデイ・パーティーにメリー・クリスマスと書かれたケーキを持って行ってしまったこともありますし、
ありとあらゆる失敗や様々な経験をしましたが、全てが貴重な人生の財産です。
大人になってそんな恥ずかしい失敗を恐れずにできたのは、自分のことを知らない人だらけ、知らない事だらけの社会に飛び込んだからだと思っています。
歴史や宗教、国際情勢などについて、自分が社会人としていかに無知であるかもNYに来て思い知らされたことで、私の留学1年目の11月に起こったベルリンの壁崩壊のニュースに対する
FITのヨーロッパから来た学生達のエキサイトメントは今も忘れられないことの1つです。
私がNYに来てから歴史や宗教について進んで学ぶようになったのは、一社会人として正しい知識に基づいた意見を言うためでした。
外国では、日本に居る時のように自分の意見を言わずにいることは、人格的な信頼が得られないことに繋がります。
物事を主張する習慣は日本に戻った時にマイナスになると考える人も居ますが、
どの国においても自分の意見を主張する際には それを聞く側への思いやりや配慮は不可欠です。
それを日頃から行う習慣をつける方が、自己を抑えた挙句に配慮の無い言動をするよりも 遥かに人生が楽で、間違いも少ないと私は考えます。
最後にNYは人に薦められて来る場所ではなく、自分が好きで「来たい!」と思って住み始めるべき街です。
昨年のパンデミック中のこのコラムにも書いたことがありますが、NYという街は愛情を持って住むとその愛を返してくれる街です。
Mさんが本当にNYが好きで NYに留学したいと思うのであれば、打算的な思考など捨てて NYにやって来て とことん頑張り、楽しむべきです。
余計なことを考えていると人生は先には進みません。何の経験も思い出の積み重ねも出来ないうちにあっという間に歳を取ってしまいます。
そもそも人間は試練や問題に直面した場合、最初から恐れたり、諦めてしまう人は簡単に押し潰されてしまいますが、
頑張って取り組んで生きる人には乗り越えられない問題はありません。自分が解決できない場合には、時間が解決してくれます。
だからこそ勇気を持ってチャレンジして、頑張り続けることが人生で最も大切なことであり、唯一本当の幸せを掴む手段でもあります。
そして頑張り続けるためには、仕事でも留学先でも自分が本当に好きなものを選ぶべきなのです。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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