Mar. Week 1, 2022
Difference btwn Japan & US in Socializing
WOKEカルチャーが高まった米国での社交で気を付けるべき価値観の違いは?


秋山曜子様、 いつもこのコーナーやCUBEさんの記事を楽しみにしています。
2022年からアメリカの東海岸で暮らすことになりました。今は英語の猛特訓中ですがネイティブ・スピーカーの先生に 発音と共に直されることが多いのが、日本の状況やカルチャーを当たり前だと思って私が話をしてしまうことです。 秋山さんが以前コラムに 「フレンズ」や「SATC」の台詞はポリティカリー・コレクトな若い世代に批判されていると書いていらしたのを覚えているのですが、 私は「フレンズ」や「SATC」を観ていても そういう問題点が分からないこともあって、会話によって顰蹙を買ってしまうことを一番心配しています。 欧米は人種差別や性差別の発言に対してとても厳しいようですし、 日本は他の宗教やカルチャーに疎い社会なので 知らず知らずのうちに失礼なことや差別的なことを言ってしまう、やってしまうことを危惧しています。
いろんな失敗があってからこそ 国際人になって行くのだと思いますが、 秋山さんから見て アメリカでの社交を始める日本人が知っておくべき価値観や意識の違い等を教えて頂けるでしょうか。 またあまり知られていないけれどやってはいけないジェスチャーや日本人には分からないマナーなども教えて頂けたら嬉しいです。 宜しくお願いします。

- E -


日本人があまり気にしないアメリカで大切なマナー


Eさんの文面から、東海岸へいらっしゃるのは短期留学等の期間が決まったものではなく、少なくとも暫くの間アメリカ生活をされるものと理解させて頂きました。
昨今のアメリカ社会は確かにリベラル派を中心にWOKEカルチャーが幅を利かせているので、意図せずして差別的な言葉を使ってしまう、差別と取れる発言をしてしまうことには注意が必要です。 ですが悪気が無く ボキャブラリーや英語力のせいで 間違ったことを言ってしまった場合には、アメリカ人は親切に指摘してくれるケースが殆どです。よほど酷いことを言わない限りは 顰蹙を買うことはないと思います。私もNYに来たばかりの頃にはアメリカ人に訂正されるやり取りの中で、言い回しを含む様々なことを学びました。 海外で暮らす大きな利点の1つは、自分の無知さや世界の大きさを改めて認識して、謙虚に学ぶ姿勢に立ち返れることですので、 毎日が勉強と思って貪欲に知識や言語を吸収しながら生活するのが一番だと思う次第です。

私がNYに暮らし始めた当時に、まずアドバイスされたのは「意味が分からないジョークには、分かったふりをするより 分からない様子を示した方が安全」ということで、 分からないジョークに一緒に笑ったりすると、その内容によっては不当に人格を疑われてしまうことがあります。 さらに私はNYに来たばかりの頃に、友達同士の会話でも人種差別、性差別発言に対してきちんと指摘する様子を見て新鮮な衝撃を受けたのを覚えていますが、 誰かがふざけて特定の人物や人種を侮辱するジョークを言った場合には、 「That's not funny」、「Is that supposed to be a joke?」、「That's a bad joke」と人物よりジョークを批判するべきで、 「You're a racist!」等とジョークを言った人物の人格を攻撃するのは適切とは言えません。 今の時代は差別発言に沈黙を守ることは容認・肯定と見なされますので、もし意見出来る状況でない時はその場を離れるなり、何等かの不快感を表すことが大切です。


マナーに関して言えば、扉から入る時も 出る時も 後ろから誰か来ているかを気遣って、人が居る場合には扉をホールドしてあげるというのはアメリカでは大切なマナーです。 多くのアメリカ人が後ろから人が来ているのに その目の前で扉を閉めることを非常に無礼な行為だと教えられて育っていますし、扉の開け閉めに際して後ろを気遣わないのは マナーの良し悪し以前に 配慮不足な人間という印象を与えます。
また麺類やスープをすすりながら食べるのはアメリカでは控える方が賢明です。私のアメリカ人の友人がNetFlixの日本のドラマシリーズを観ていたそうなのですが、 「ストーリーはチャーミングだけど、毎回出て来る食事の食べ方が汚い」と言って「礼儀正しい日本人があんな食べ方をするなんて」と驚いていました。 その友人が嫌悪していたのが すすりながら食べる音で、私もNYのイタリアン・レストランでパスタをズルズルすすって食べる日本人と同席した際には非常に居心地が悪い思いをしたのを覚えています。
それとあまり多くは見かけませんが、もし中指で物を指すのが癖だとしたら直すべきです。中指を立てるのが”F@$K YOU”のジェスチャーであることは知られていますが、 アメリカ人は周囲に悟られないように心で思っている感情を示す手段として、他の指を使えば良いところで あえて中指を使い、偶然を装って中指を強調する傾向にあるので、 それと間違えられるケースがあります。私は何年か前にテニスの最中にテーピングをしてもらうために中指を立てざるを得なかったことがありますが、そんな誤解されないとは分かっているような状況でも 「I'm not giving you a middle finger」、「I'm not cursing (=swearing)」と取りあえず冗談めかしに言っておく方がコミュニケーションが上手く行きます。

昨今では日本語の中でも使う人が増えてきたFワードについては、私はアメリカでFワードを使うのは ある程度英語が上達してからにするべきだと思います。 単にFワードと言っても動詞、名詞、形容詞、副詞、過去分詞の形容詞用法などがある訳ですが、この言葉に関してはどんなに学歴が無い人でも文法を間違えずに使いこなしているだけに、 普通の人がたどたどしい英語で間違った使い方をすると痛々しいほど無教養なイメージを与えます。悪い言葉ほど早く覚えるのは人間の本能のようで、小さな子供でも Fワードを正確に使って大人を驚かせることは少なくありませんが、子供の前でFワードを含む放送禁止用語や蔑視語を使うのも もちろんご法度です。
ですがFワードというのは、使い方によっては大人しい人格に一本筋が通っているアピールになったり、意外なシチュエーションで使うとアメリカ人を大爆笑させるユーモアにもなるので、 決して悪いだけの言葉ではないのも事実です。クリントン大統領からバイデン大統領までが語る様子がマイクで拾われている通り、アメリカの会話ではごく頻繁に普通に登場する言葉でもあり、 使う状況さえ間違えなければ、Fワードを語っても育ちが悪いとか、品性に乏しいと判断されることは決してありません。

島国価値観から頭を切り替える努力を 

アメリカは国民の70%前後がクリスチャンですので、基本的にキリスト教のモラルや価値観が非常に強い社会です。 その社会ではウソ、脅し、浮気に対する厳しさは日本の比ではありません。
日本は「ウソも方便」という言葉がある通り、ウソに対する許容範囲が広い社会で、政治やビジネスの世界でも、個人の関係においても 取りあえずその場を凌ぐために言っておくことが ウソと区別されるケースは多いように思います。 英語にも罪の無いウソを意味する ”White Lie / ホワイト・ライ”という言葉が存在しますが、これは女性が自分の体重を軽めに言ったり、 男性が収入を多めに言う程度の許容範囲に過ぎません。私の知り合いの日本人女性は年下のボーイフレンドとの関係がシリアスになってきたところで、「そろそろ白状しておかなければ」と 本当の年齢を彼に告白したところ「年上なのは構わないけれど、ウソをつかれたことで、これまで君が言ってきた全てが信じられなくなった」とフラれてしまったことがあります。
ウソ同様にアメリカ社会が嫌う脅しは、たとえ冗談でも大統領の命を脅かす主張をすれば罪に問われる法律があるほどです。 民間人に対しても脅しというのはどんなレベルであっても反感をも持たれたり、人を敵に回す要因になるだけでなく、人格を疑われるきっかけになります。 これを理解しないで「Is that a threat? / それって脅し?」と訊かれて、深く考えないで「Yes」などと言おうものなら その時点から相手の自分を見る目が変わってしまいます。
アメリカ社会は浮気に対する厳しさも日本の比ではありませんが、さすがに今のご時世では浮気肯定論を公に唱える日本人男性は見かけなくなったように思います。 しかし女性の中には時折「ある程度男性の浮気を許さないと結婚なんて出来ない」と浮気肯定論を唱える人が居るようで、 アメリカでそんなことを言えば「女性としてのプライドが無さすぎる」と批判されるか、そうでなければ「オープン・マリッジ(浮気公認の婚姻関係)」と判断されて保守的な 考えを持つ人からはふしだらだと思われます。 アメリカ社会の正義というのは、日本の「本音と建て前」のような二重構造ではありません。その意味でアメリカはとても真面目で、日本で言う「融通」が利かない社会なのです。

加えてアメリカ社会を理解する上で認識すべきだと私が考えるのは、「喧嘩両成敗」というのはあくまで日本のアイデアだという事です。 欧米ではどんな状況でも 先に手を出した側が悪いと判断されます。たとえどんなに相手の口頭による挑発が激しかったとしても、 最初に暴力に及べば非があると見なされるのがアメリカで、そのことは歴史的にアメリカが どんな戦争でも「やられたから やり返す」という大義名分でスタートしていることからも分かるかと思います。 そうすれば国民からの支持が得られるのです。
アメリカが旧日本軍のパールハーバー奇襲をきっかけに 絶好のタイミングで第二次世界大戦に参戦し、日本に原爆を投下させたことについて、日本人の多くは 「平手打ちをしたら機関銃で撃たれた」的な意識を持つ傾向にありますが、アメリカ社会では今も「相手に突き飛ばされて、身の危険を感じた」ために、 合法的に所持していた銃で相手を射殺した人物が正当防衛で無罪になっています。それが正しいかは別として、 ボーイフレンドとの喧嘩でも、隣人との争いでも 先に「暴力的に仕掛けた方が悪い」というのは アメリカ社会における揺るぎない判断基準です。 これには「ダメージの度合い」という尺度が適応されないことは理解しておくべきだと思います。

そんなアメリカ社会での社交において大切なのは、自分の意見をしっかり持って、それがきちんと主張できることだと思います。 親しくなればなるほど、社会の様々なことについて突っ込んだ会話をするようになるので、 人に合わせているだけで自分の意見が無い、もしくは人の意見を聞くだけで自分の意見は言わない姿勢では本当の友達は出来ません。 それと言語のディスアドバンテージがある場合、最初のうちは英語が流暢な相手の主張が正しく聞こえてしまい、 そのせいで一時的にでも相手の考えに洗脳されてしまうケースもがありますので、それにも注意が必要です。 相手が英語を話せるのは、自分が日本語を話せるのと同じと考えるべきすし、偏った思考の人は言葉選びにもそれが現れるので、そんな人から英語を学ぶのもあまり感心できないことです。

日本人は教育レベルは高い方だと思いますが、他国民より世界史や宗教に圧倒的に疎いので移民問題、人種差別、政治を語る際に どうしても知識不足を露呈してしまうことになります。でも大切なのは分からないことを学ぶ姿勢です。 アメリカは移民の国とあって、世界中の国々の歴史をリアルタイムで生きた人やその子孫で占められています。限られた偏った情報を読んで知っているだけの社会とは違うことを認識して、 とにかく暫くは学びに徹することを私はお薦めします。
そもそも日本人は自分の知らないことについて断言されると、疑問を持ったり、自分で調べたりすることなく 事実として鵜呑みにして言葉送りのように人に伝える傾向にあるので、 日本社会では外国生活経験を振りかざす人等が 曖昧な史実だけを頭に入れて知識人のようにその考えを吹聴することが簡単に広まっているように思えます。 でも実際の世の中というのは、もっとずっと深くて複雑なものと考えるべきなのです。
先週ロシアのウクライナへの侵攻が始まった際にも、日本ではどんなリアクションなのだろうと日本のYouTubeビデオを何本か観て、そのリアクションもチェックしましたが、 正直なところYouTuberの言うことも リアクションも 英語圏といろいろな意味で違うことに少々ガッカリしてしまいました。 もちろん私のサンプリングが悪かっただけかもしれませんので、ここではそれらの違いの指摘は避けたいと思いますが、 Eさんには アメリカにいらしたら 英語の勉強のためにも必ず欧米のメディアから英語でニュースを拾って頂きたいと思います。 日本人としての愛国心やアイデンティティは大切ですが、これからの時代は何処で生きて行こうと国際人としての視点が非常に大切なのです。 あと数年でWeb3、メタバースが普及すれば、これまでのようなジオポリティカル的な括りはどんどんなくなって行きますので、 島国的な視点や物の考え方は、この先 確実に日本のディスアドバンテージになって行くと私は考えます。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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