Apr. Week 5, 2022
Caregiving for Aging Mother
自分を愛さなかった母の面倒


秋山曜子様、
迷った挙句、ご相談のメールを出すことにしました。よろしかったらアドバイスをお願いします。
私の母親は本当に酷い人なのです。見た目がちょっとキレイだったこともあって、自分が花になることしか考えていなくて、 一人っ子として育った私は幼い頃には母が自分に注目を集める道具のように扱われたこともありました。 それでも母のキレイさは私の中では自慢でもありました。今から思えば母に愛されていない寂しさを自慢で紛らせていたのだと思います。 私の高校時代に父が海外に単身赴任をした時には浮気めいたことをして、私が父にウソをつかなければならないこともありました。
生涯で一番好きになった男性との結婚も、「彼の家が裕福でない、大した学歴じゃない」という理由で反対されてダメになりました。 面と向かって彼の自尊心が傷つくようなことを母が言ったせいで、彼が「僕には君を幸せに出来ないよ」と言って去って行った時には 目の前が真っ暗になったのを覚えています。 母は私のことを思って彼との結婚をダメにしたのではなくて、自分の娘婿として彼のことを自慢出来ないと思ったからです。

私のこれまでの人生では、母の言う通りにして後悔したことは何度もあります。 私は決して母の言うことを何でも聞くタイプではありません。むしろそれに抵抗してきたつもりですが、 別れた彼のこともそうですが、気付くと母の思い通りにされていて、私は母のことをずっと狡いと思いながら生きてきました。
父はある事故が原因で少し前に他界したので、母は今は1人暮らしをしていて介護やお手伝いさんが来て下さるのですが、 年齢と共に身勝手に頑固さが加わって、性格がキツイので 親切な方々を傷つけてしまいます。 私も定期的に母宅に通って面倒を見ていますが、苦痛でたまりません。 「ありがとう」の一言も言わずに、文句だけをいう相手の面倒を見るのは本当に辛いです。

少し前に本当に我慢の限界まで来てしまい、母宅に行かないことにしました。決心した時はスッキリしたように思えたのですが、 時間が経つにつれて「今、本当だったら母のためにあれをやってあげているはずの時間」などと考え出すと罪悪感が襲って来て、結局は今も面倒を見続けています。 夜に1人でお風呂の中で どうしたら良いか分からなくて泣いてしまうことも多く、鏡を見ると老け込んだ自分が見えて嫌になります。

親戚や友人にも相談して、愚痴を聞いてもらい、耐えるしかないことは分かっているのですが、何か少しでも気持ちを楽にしながら 母の世話に取り組めるような考え方があったら 教えていただきたいと思ってメールをさせて頂くことにしました。
こんなことを尋ねられてお困りかもしれませんが、何かお言葉を頂けたら嬉しいです。 宜しくお願いします。

- S -


本当のストレスの原因はご自身の中にあります


Sさんのメールを拝読して、私がその文面から感じ取ったのは これまでどんなことがあったにせよ、 Sさんがお母さまを愛していらして、今もお母さまからの愛情を欲していらっしゃるご様子でした。
人間として生まれた限りは、子供が親の愛情を求めるのは本能です。 特にSさんの場合、ご兄妹がいらっしゃらず、お父様が単身赴任で外国に行かれるなど、常日頃からお仕事で多忙でいらしたようにお見受けしますので、 お母さまが唯一身近で 常に関わりのある家族でいらしたものと思います。 Sさんはそのお母さまから何とか自分が求める愛情を得たいと願って生きていらしたものとお察しいたします。
現在のSさんは 今までの人生を振り返って 自分に愛情を注いでくれなかったお母さまを愛することに消極的になっている様子が窺えます。 Sさんのような優しく、繊細で、責任意識が強い方の場合、今なさっている精神的葛藤は大きなストレスになりますし、 万一お母さまの身に何かが起こった場合には、必要以上に自分を責めるようになってしまいます。
Sさんにとっての問題は お母さまの面倒を見る労力や時間よりも、むしろご自身の中で繰り広げられている精神的葛藤であることを先ず自覚なさって下さい。

こんな言い方をすると大変失礼なのですが、Sさんは求める愛情を注いでもらえなかった虚しさのせいで 本当に好きだった男性と結婚が出来なかったことを含む ご自身の人生の様々な後悔の責任がお母さまにあるように考えて、ご自身を必要以上に犠牲者として考えていらっしゃるように見受けられます。 ですが親に反対されても、勘当されても 結婚しているカップルは沢山います。それ以外のことについても 「決して母の言うことを何でも聞くタイプではありません。むしろそれに抵抗してきたつもりです」とおっしゃるSさんは、自身で決断を下されていたはずなのです。
ご自分を1人の自立した大人と考えていらっしゃるのであれば、人生を振り返って後悔するべきではありませんし、 過去に起こったことを親であれ、誰であれ、人のせいにするべきではありません。 人生には何も偶然は起こりません。全てに何等かの意味があって起こっていることを自覚して、自分が育ってきた境遇、選んできた道が、 全て自分を運命に導くプロセスだと考えるべきです。そして全ての経験に感謝して、そこから学ぶべきなのです。

その意味で、私が今のSさんに悟って頂きたいと思うのは、人にはそれぞれの生き方や人生があって、 正しいモデルやフォーミュラがある訳ではないという事です。 メールの文面から私が感じ取ったのは、Sさんが潜在的に「人生や家族はこうあるべき」というある種のモデルケースを持っていて、 それにそぐわないものを不幸や失敗、貫き通す価値が無いものと考えてしまわれる姿勢でした。 そんなモデルケースにさえ縛られなければ、お母さまに対する考えで苦しむことも無ければ、 自分の過去を後悔することも無いはずなのです。
世の中には完璧な家族など存在しませんし、完璧な人生も存在しません。 たとえ家族関係に問題があっても、時折道を間違えても、それが原因で一生不幸になることなどありませんし、立派に生きて行けるのです。 ここでSさんが被害者意識を払拭しない限りは、私はSさんが心から人生に満足したり、幸せを感じることは無いとさえ思っています。

見返りを求めずに、続けるのが愛情です

私がSさんにこの段階でお薦めするのは、「親の愛情を受けられなかった犠牲者」のメンタリティを捨てて、 お母さまに愛情が何たるかを示すことです。お母さまが我が子に愛情を注げないのは、恐らく本当の愛情を受けたことが無いからです。 Sさんは愛されたいという気持ちを強く持っていらっしゃいますが、これまでお母さまにどんな形で愛情を注いでいらしたでしょうか。 頻繁に面倒を見ていらっしゃることは素晴らしいですが、責任を果たすことと愛情を注ぐことは別物です。

以前プライベート・セッションで、類似したご相談をお受けしたことがありました。
ご相談者はお母さまのことをはっきり「嫌い」と宣言していらして、そのお母さまの看病のために病院に出向く生活で疲れ果てていらっしゃいました。 その時に私がアドバイスをしたのは「毎日一言お母さまを気遣う言葉を掛ける習慣をつけて下さい」ということで、 それが出来ないようであれば、メモ用紙に感謝や気遣いのメッセージを書いて、毎回お母さまのところに置いてくるようお薦めしました。 人間というのは驚くほど習慣や言語に影響される生き物で、たとえ心がこもっていないセンテンスでも、習慣として言い続けたり、書き続けているうちに、気持ちが伴ってくるはずなのです。 「産んでくれてありがとう」、「育ててくれてありがとう」、「子供の頃にXXをしてくれてありがとう」と、どんなことでも、何度同じセンテンスを繰り返しても良いので、とにかく一定期間、自分のためにそれを続けるようにとお伝えしました。
ご相談者は「とても口頭ではそんなことは言えない」と判断して メッセージを書くことにしましたが、最初のうちは短いセンテンスを書くのも苦痛で、 30分くらい自分と格闘して、何度も破り捨てていたそうです。 またそれをお母さまのところに置いて来ても ゴミ箱に捨てられているのを見つけて、何度もくじけそうなったそうですが、自分のためと思って頑張ったとのことでした。 でもそれを続けることで、徐々に看病に出掛ける気持ちは少しずつ楽になって行ったそうです。 お母さまの方はと言えば、以前より嫌味や憎まれ口を言わなくなった程度の変化しかなかったそうでした。
やがてお母さまが亡くなられた時には、悲しさが込み上げて来たとのことでしたが、自分の気持ちをしっかり伝えていて本当に良かったという気持ちが強く、 「もし伝えていなかったらきっと後悔していただろう」と ご連絡を下さいました。

この話には後日談があって、暫く経ってからご相談者がお母さまの荷物を整理している最中に 布の袋を見つけたそうで、 大したものが入っている気配ではないので、最初は気に留めなかったそうなのですが、ひょんなきっかけで中をチェックしてみたところ、 入っていたのはご相談者の書いた何枚ものメッセージ。 それを見て号泣してしまったというご相談者は「纏めて捨てようと思っていただけかもしれませんが、生まれて初めて本当は自分が母から愛されていたんだという気持ちになりました」と メールを下さって、「そう思うようになってからは、自分に自信が持てて、愛情を信じる気持ちも強くなりました」とも書いて下さいました。

もしSさんがお母さまからの愛情を求めながらも、未だお母さまに本当の愛情を注いだことが無いと自覚されるのであれば、 是非この段階でご自身のためにも、どんなに小さなことでも良いので何かを実践されてみてください。愛情というのは小さなことを長く続けることによって通じるものです。 そしてそれが愛情であると信じる限りは見返りを求めるべきではありません。
どんなことでも信念を持って続けていたら、何故自分がお母さまから生まれて来て、人生で何を学ぶべきなのかが徐々に分かって来るものと思います。 そして愛情というものが形や世間の常識に捉われる必要などないことを悟れば、ご自身の人生にも これまで気付かなかった様々な愛が溢れているのを実感されることと思います。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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