June. Week 4, 2022
From Freelance to Freelance
NYのフリーランスから日本のフリーランスへ、悔やまれる帰国


秋山様、
もう何年も前のことですが、私はNYでフリーランス・ライターとして3年近く働いた経験があります。 憧れのNY生活はエキサイティングな反面、経済的には常に苦しく、自分で本を書いたり、起業をすることも考えましたが、 結局は仕事が激減して 生活できなくなったので日本に帰国することになりました。
今も当時のことを思い出すと「もっとNYで頑張れば良かった」という気持ちが強く、はっきり言って日本に帰国したことを後悔しています。 少なくとも もっと英語が堪能になるまで居れたら良かったのですが、その頃は「日本を離れすぎると、日本の会社で扱いにくいと判断されて雇ってもらえなくなる」と言われていたので、 それが帰国を決断せざるを得なかった最大の原因でした。
でも帰国した日本は正社員を雇わない社会になってしまって、今は生活が安定しないフリーランスを日本で続ける生活です。

秋山さんも経歴を拝見するとCUBEのウェブサイトを立ち上げるまでは NYでフリーランスをしていらしたようですが どんなきっかけで起業に踏み切られたのでしょうか。 それとも最初から計画されていたのでしょうか。 フリーの仕事をしていると 仕事の獲得に躍起になって、とても自分のビジネスを始めるようなエネルギーやアイデアが沸い来ないのと、 何より時間がありません。 どうやって企業のための時間を捻出していたのかなど、もしお差支え無かったら教えて頂けると幸いです。
それと、秋山さんも何度かコラムでおっしゃっているように世の中の転換期に来ていると思いますが、 そんな時に起業するのはやはりリスキーでしょうか。 でもこのままだと生活がままならないので、何かを始めなければという気持ちで焦っています。
それについても何かアドバイスを頂けると嬉しいです。 勝手なお願いですが、よろしくお願いします。

- Y -


私のフリーランス時代...


Yさんご指摘の通り、私はCUBE New Yorkを立ち上げる前はフリーランスをしていた時期があります。
私の場合はNYで雑誌のエディターを3年間勤めた後、その雑誌が休刊になりレイオフされてしまったことからフリーランスの生活が始まりました。 ですが エディターとしての給与が安かったこともあり、エディター時代から 日本の以前の勤め先からフリーランスの仕事を請け負っていました。
そのためレイオフが決まってからは、以前の勤め先とフリーランスの年間契約を結び、エディター時代に知り合った仕事絡みの知人にも フリーランスとしてやっていく意向を伝えて、その繋がりでかなり仕事を貰うことが出来ました。 当時はバブル崩壊の直後でしたが、未だNYに海外出張や視察にやって来る日本企業の人々は多かったと記憶しています。 私はそうした人達のアテンドやコーディネートの仕事は、その場限りですし、フィーが安い割に手が掛かるので 一切受けず、 得意の執筆とリサーチ、すなわちマーケティング・レポートの作成に絞ってクライアントを獲得するように努めました。
フリーランス・ライターというと雑誌の仕事をする方が多いのですが、私の場合はエディターをしていた雑誌が 発行部数のほぼ100%が企業サブスクリプションというビジネス誌で、 執筆の視点もビジネス寄りでした。幸い企業レポートを書くライターはさほど居ませんでしたし、何より当時はまだ企業がマーケティング・リサーチに支払う バジェットを今よりもずっと沢山持っていました。 企業のためにレポートを書くのと、雑誌の記事を書くのではリサーチに掛かる時間や手間はさほど変わらないのですが、執筆するページ数や添付資料が多い分、 支払われるフィーは3倍から5倍、本格的なレポートになるとそれ以上になります。 しかも年間契約を結ぶと自動的に毎月仕事が入ってくるので、フリーランスとは言っても毎月の固定収入がありました。 また契約していた企業は全て一部上場の大手でしたので、その点でもフリーランスとしては比較的安定していたと思います。

ですが レポートを書くというのは収入拡大が望める仕事ではありません。他人の会社のためにトレンドを分析して、アイデアを出して、 万一そのアイデアが当たったとしてもライター兼リサーチャーである限りは そのレポートのフィーしか受け取ることが出来ません。 ビジネス誌のライター時代にも、アメリカの新しいビジネスに関する記事を書いたライターのフィーは300ドル、その記事を見て日本企業とビジネスを繋いだ人物が 儲けたのは3000万円という話が良くありました。
そこでフリーランスをする傍ら、あるデザイナーと某大手企業アメリカ支社の元社長と組んで、3人で日本企業に新しいビジネス・アイデアを売り込むプロジェクトを始めました。 ですが、いざ始まってみるとバブルが弾けた後の日本企業は、アイデアは欲しがるものの 米国ビジネスと契約してまで日本に持ち込むだけのバジェットや意気込みはありませんでした。 そしてある時、某企業の人が 「元社長の顔を立ててミーティングには応じているけれど、今は新しいビジネス・アイデアが通る時代ではない」こと、 「もし元社長ではなく、女性フリーランスがアイデアを売り込んだ場合は最初から取り合わなかっただろう」という本音を明かしたことから、 このプロジェクトは自然消滅となりました。
実際に1990年代は、日本企業における女性の立場は今とは比べ物にならないほど弱いものでした。NYで勤めていた雑誌社(日系企業)にしても、 私の入社2年目に雇われた 新入社員が 記事を1本も書いたことが無い未経験者にも関わらず、男性というだけで 当時の私や同僚と同額の初任給を受け取っていました。 この不明瞭な給与体系については、同僚と一緒に女性副社長に抗議をしたことがありましたが、いざ抗議の場になると散々文句を言っていた同僚はすっかり黙ってしまい、 私1人だけが副社長に「Yokoさんって、そんな事に文句を言う人だったの?」と、まるで私がお金に汚いかのように言われたことは今も記憶に鮮明です。
今から思えば、これは私が男女雇用機会不均等についてクレームをした最初で最後の経験でもありました。 それ以外にもエディター時代には、駐在員とゴルフや麻雀をしている仕事が出来ない男性フリーランスが優先で雇われて、能力と責任感がある女性フリーランスが 安くて手が掛かる仕事しか貰えない様子等をかなり見てきましたし、私が大卒で入社した丸の内の企業も 女性は「オフィスの花」という扱いでしたので、それが日本の企業と社会の体質だと割り切るしかない時代でした。 ですからよほど強力な男性バッカーが居ない限りは、日本企業を相手に大それたことが出来ないことはこの時点で悟ることになりました。

起業に最も適したタイミングとは?

フリーランスとしての仕事については、続けるうちに違った疑問やリスクも感じるようになりました。
私はある大企業のために毎月レポートを書いていましたが、その契約の窓口になっていた人物(部長クラス)は、こちらが苦労をして難しい事を出来る限り簡潔に説明するレポートを書くと、 その内容がそれまで自分が知らなかったことでも「そんな事は前から知っていた、もっと掘り下げたレポートが欲しい」と文句を言い、 逆に 企業のアニュアル・レポートを翻訳しただけの、書いている自分にも はっきり意味が分からないような難解な文章を提出すると「今回のレポートは勉強になった!」と誉めるような人でした。 そのため私は クライアントの意に沿うものを仕上げるのが仕事と判断して、あえて難解で、読んでも 意味が解せないレポートを書き続けることになりました。
そうするうちに「こんなレポートで満足するような企業の未来は暗い」と真剣に思うようになり、案の定、その企業は長く業績不振が続きましたし、 私にレポートを依頼していた部署はやがてリストラで消滅しました。 当時は日本企業でリストラが盛んに行われていた時期で、それによって大切な収入源の1つを失った私は、 こんなクライアント達を宛てにする状態から1日も早く脱却しなければという危機感を抱くようになりました。

それとは別に 当時のアメリカではTVショッピングが大流行していて、日本の以前の勤め先のボスとの共著でTVショッピングに関するビジネス書を1994年に出版していたのですが、 その本にあえて書かなかったのが当時のアメリカで徐々に始まっていたインターネット・ショッピングでした。というのは「インターネット・ショッピングでもう1冊本が書ける」 と思っていたためで、それを書くために 叩き台になるインターネット・ショッピングを自分でやってみようと考え、 アメリカ人パートナー2人と1995年に開設準備をスタートしたのがCUBE New Yorkの前身になるヴァーチャル・ショッピング・ネットワークというビジネスでした。
でも一度始めると ビジネスというのは思いの他大変で、本執筆のリサーチ目的に片手間に出来るような甘いものではありません。 手間が掛かればかかるほど ビジネスとして成功させたい欲も出て来ますので、当時はフリーランスをしながらヴァーチャル・ショッピング・ネットワークの準備を真剣にやっていて、 寝る暇もありませんでした。 そうなってしまったのは、まずインターネットというものが未知のもので HTMLを学ぶところからスタートしたこともあります。当時は ウィンドウズ95の日本語版が出たばかりで、コンピューターの使い方、ビジュアル・ソフトの使い方というビジネス運営以前のことを学ばなければなりませんでしたが、 今のようなビデオ・チュートリアルがあるような時代ではありませんでした。
加えて当時のコンピューターは問題が多く、何か起こると オペレーション・システムの再インストールをしなければならず、それをフロッピーでノロノロと数時間掛けて行うような有様。 インターネットの接続もダイヤルアップで、突然切れてしまうことは珍しくありませんでしたし、朝起きてコンピューターを立ち上げようとしたら動かないので、数時間を無駄にするようなことも起こりました。 また1996年にヴァーチャル・ショッピング・ネットワークのビジネスを始めた直後は、ショッピング・カートというテクノロジーが未だ珍しく、オンライン・ショッピング と言いながらオーダーはFAXで受けていました。

その当時FAXでオーダーをして下さったお客様の何名かは 今もCUBE New Yorkのお客様でいらっしゃるのは私がこのビジネスを続けていて誇りに思うことです。 当時のお客様に限らずCUBE New Yorkの長いお客様とは、お会いしたことが無くても 不思議なご縁を感じる方が多く、お客様からも 「CUBE New Yorkは私にとってウェブサイト以上の存在です」といった小規模ビジネス冥利に尽きるメッセージを頂戴することは珍しくありません。 そうした素晴らしいお客様の人生好転や幸福の一部になりながら、お客様と一緒に繁栄することが会社の信条かつ目標となったのは、 ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク時代のパートナーと決別して、2000年にCUBE New Yorkを自分の会社として立ち上げてからのことでした。
でも立ち上げ直後は、とにかく仕事や雑務に追われていて、その頃は目標を掲げる余裕さえありませんでした。 起業が如何に大変であるかを思い知ったのがその時でしたが、今から振り返ると始まりの段階が一番簡単なステップだったように思います。 ビジネスは始めるよりも、続ける方がずっと難しく、それはダイエットよりも、減らした体重を長く維持する方が遥かに難しいのに似ています。

基本的に 私は先に起業しようと決心して 何らかのビジネスを始めるというのは薦めない立場で、あくまでビジネスが先にあって それに可能性が見出せた時に 会社として正式な取り組みをするべきだと思っています。 そうでなければ会社を作っても続かないとも考えています。さらに言えば「お金儲けだけに捉われていると、お金が儲からない」というのはキレイ事ではなく、本当だと思います。 逆に誠意を優先させて利益を度外視することによって、天から意外なご褒美が与えられる経験も数多くしてきました。
ですから私は「今の生活がままならないから」という理由でYさんが起業されることはお薦めしない立場です。でも何か「これ!」と思うものが見つかって、それをトライしているうちに 引っ張られるように続けざるを得ないような状況になってしまった場合には、時代の先行きなど心配せずに起業して取り組むべきだと思います。 会社経営は大変ですが、これほど人生の勉強をさせてくれる 遣り甲斐のある職業はありません。
人生は一度きりですので、その間に 失敗しても成功しても とにかくチャレンジをして、いろいろな経験と学びが出来た人が本当の意味の人生の勝者であり、 何もせずにくすぶって、恐れたり、文句を言って終わってしまう人は敗者だと私は考えます。でもチャレンジというのは 無闇に飛び出すことではなく、 好機を待って打って出ることです。
自分がやっていることを後押しする風が吹いてきた時こそが好機ですので、それを見極めて波に乗れるように日頃から準備をすることはとても大切です。 自分に何が出来て、何に興味があるか、何が得意か、そして何がしたいかを 打算や利益追求などに捉われず、 自分に正直に見極めることがアントレプレナーへの確実な道だと思いますので、是非焦らずに頑張ってみて下さい。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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