Apr. 21 〜 Apr. 27,  2014

”What Is Middle Class in Manhattan? ”
年収5000万円でミドル・クラス?
物価とレントが高額の マンハッタンの経済事情


今週のアメリカは、オバマ大統領が日本を含むアジア諸国を訪れているとあって、 政治関連の大きなニュースが少なかったけれど、 経済面で話題になっていたのが、アメリカのミドル・クラスの年収がここ数年減り続けた結果、 カナダのミドル・クラスの年収に追い越されたというニュース。 これは、ニューヨーク・タイムズ紙の新しいデータ・ジャーナリズム・ウェブサイト、「The Upshot / ジ・アップショット」 で発表されたもので、インターネット上を中心に かなりのリアクションを巻き起こしていたのだった。
実際のところ アメリカのミドル・クラスは、今や象やパンダと同様、絶滅の危機に瀕している存在。 アメリカは、富裕層が世界の平均をはるかに上回る急ピッチでさらに豊かになっているので、 データ上では引き続き 世界で最も豊かな国であるものの、 ミドル・クラスは給与が増えない一方で、税金やローン、上昇する食費や生活費で収入をむしり取られているのだった。

中でも深刻な値上がりを見せているのが、レント。 アメリカ全体における 2000年から2012年までの間の家賃の上昇率は44%。 これに対して平均的な所得は、同じ期間で5%ダウンしているのだった。
すなわち、住む場所のレベルを落とすか、生活費を削らない限り、 ミドル・クラスは生活していけないことになるけれど、 レントがこれだけ上昇した理由は、サブプライム・ローンが経済破綻を招いた結果、 家を手放してレントに切り替える人々が増えた一方で、住宅ローンが簡単に組めない状況となり、 家を買うより 借りる人々が増えたため。




でも全米平均のレント上昇44%というのは、ニューヨーク市の75%という上昇率に比べたら 良心的とさえ言える数字。
大手不動産会社、ダグラス・エリマンが発表したデータによれば、今やマンハッタンの平均的な家賃は3,973ドル(約40万円)。 それもそのはずで、マンハッタンでは1000ドル(約10万円)以下のレントのアパートが、 過去10年間に40万世帯も失われているのだった。 なので新市長、ビル・デ・ブラジオは その選挙公約の中で、市内の低家賃の住宅を向こう10年間に20万世帯増やすことを謳って 低所得者層の支持を集めたほど。

レントが高ければ、不動産の購入価格が高くなるのも当然で、マンハッタンの物件の平均売買価格は 約150万ドル(約1億5000万円)。 これは全米平均である約23万ドルの6倍以上。 当然のことながら、高額の不動産価格やレントは、映画館のチケットからレストランの食事代などを含む、 ありとあらゆる物価に反映されるのは言うまでも無いこと。
このように全てが高額なマンハッタンなので、例えばアトランタやダラス、シアトルといった街で、 7万ドル(約700万円)の収入を得ている人が、マンハッタンで同じ生活レベルを維持しようとした場合、 必要になる年収は、16万6000ドル(約1,660万円)。 この7万ドルという年収は、全米を対象にしたアンケート調査で 「自らがミドルクラスである」と認識する人々が 得ている年収なのだった。

これまでマンハッタンのミドル・クラスの所得は、7万〜13万5000ドルの間と言われてきたけれど、 こうした物価やレントの全米との格差を反映させた場合、マンハッタンで「ミドル・クラス」と 見なされるために必要な年収は、28万ドル〜59万ドル(約2800万〜5900万円)。 すなわちハーフ・ミリオンの年収を得ても、アッパー・ミドルクラスにしか属さないことになるけれど、 もし同じ年収をアラバマやウィスコンシンで得ていた場合、自分がアメリカの高額所得トップ1%に属すると勘違いするほどの、 大金持ちの生活が出来るのだった。
その全米のトップ1%に属するためには、年収ではなく、総資産で9億円が必要といわれていたけれど、 今やその金額は10億円。 とは言ってもニューヨークにおいて総資産10億円というのは、大金持ちの中の底辺と言われる資産額なのだった。

私の知人はマンハッタンのチェルシーに2億円以上の物件を所有し、ビジネスが上手く行っているので、 総資産10億円は硬いという経済状態。、 その知人によれば、かつてブルックリンのアパートに暮らしてフリーランスの仕事をしていた時は、 「仕事で5000ドル(約50万円)が入ってくれば、リッチな気分になっていた」というけれど、 今はその何十倍ものお金が入ってきても、自分が金持ちだとは思えないという。
その要因になっているのが、子供が通う私立学校の生徒や親達を通じて 毎日のように見せ付けられる 貧富の差。 持ち物やヴァケーションの豪華さもさることながら、子供のバースデー・パーティーに何百万円もかけたり、 ワン・ディレクションやジャスティン・ビーバーのようなティーン・アイドルがニューヨークでコンサートや イベントに登場する度に、その最前列に子供達を陣取らせる親達の政治力を見せ付けられて、 「自分がいかに貧乏で、力が無いかを思い知らされる」と語っていたのだった。







現在マンハッタンでは、所得のトップ20%が、ボトムの20%の40倍の収入を得ているとのことで、 これは西アフリカのシエラレオネや南米のボリビアといった後進国並みの貧富の差。
そんな高額所得者が、今後移り住むと見込まれているのが、タワー・ビルディングで これは、最低2億円以上の物件だけが詰まった高層コンドミニアムのこと。 マンハッタンでは、これからタワー・ビルディングが次々と売りに出されて、 これらを購入するのは、アメリカ人メガリッチと中国人、ロシア人のマルチミリオネア、ビリオネア。 特にタワー・ビルディング立ち並ぶマンハッタン57丁目は、既にミリオネア・マイルというニックネームがついているけれど、 そのすぐ近く、5番街55丁目に位置するバカラのホテル&レジデンスのペントハウスは、日本円にして60億円で 売り出されることになっているのだった。

ところで先日、ニューヨークでこれから暮らすためのアパートを探しにきた日本人と話していた際に その人物が語っていたのが、「マンハッタンは家賃が高いから、ブルックリンのDUMBOやウィリアムスバーグで、 ビルにエレベーターは無くても良いから、大きめで安い部屋を探そうと思っている」というコメント。 私はこれを聞いて内心、のけ反ってしまったけれど、これは私だけでなく、多くのニューヨーカーが示すと思しきリアクション。
というのも過去数年にニューヨークで最もレントがアップしているのがブルックリン。 特に上昇が激しいのが、ブルックリン・ハイツ、DUMBOやウィリアムスバーグで、 アン・ハサウェイやミッシェル・ウィリアムスなどのセレブリティが暮らしているのも同エリア。 物件によっては、過去3年でレントが149%アップしたという とんでもない上昇率を見せるケースもあるのだった。

昨今では、グリーン・ポイントやブッシュウィックといった、かつて低レントで知られたエリアでさえ、 大きな値上がりを見せているけれど、 ブルックリンのレントの値上がりの恐ろしいところは、ネズミが居て、天井がカビだらけのビルでも 昨今のブルックリン・ブームを受けて、ランドロードが厚かましくも、何も物件に手を入れる事無く、 920ドルだった家賃を1950ドルに値上げしてしまうところ。


そんな状況なので、長年ブルックリンに暮らしたブルックリナイト(Brooklynite)達が、 家賃が払えないために どんどんブルックリンを離れているのが現状。 昨年には この状況に抗議して、映画監督のスパイク・リーが 「今のブルックリンをホットにしていると言われる新参者は よそ者で、ブルックリナイトじゃない!」と 発言し、物議をかもしていたのだった。

マンハッタンに話を戻せば、レントの上昇で打撃を受けているのはビジネスも同様。 今日付けのニューヨーク・ポスト誌では、契約更新時に上昇したレントが支払えないために 撤退するビジネスが相次いだ影響で、マンハッタンのあらゆるエリアに、空き店舗が目立ってきたことが 報じられていたのだった。
特にウエスト・ヴィレッジは、撤退したレストランの後に テナントが埋まらない物件が多いことが 指摘されているのだった。

では、何故そんな高いレントや物価を我慢して、ニューヨークに住み続ける人がいるかと言えば、 ニューヨークは、全米で最もソーシャル・モビリティ、すなわち低所得者が金持ちになれる可能性が高い街であるため。
そのニューヨークで低所得者と見なされる人は、別の州で暮らせば立派なミドル・クラスであったりするけれど、 そんな低所得者層のレベルの高さは、ニューヨークの治安の良さにも繋がっている部分なのだった。

今週のマンハッタンでは、俳優のリチャード・ギアがホームレスに扮して映画の撮影が行われていたけれど、 それと知らずに、本来ミリオネアであるリチャード・ギアを本当にホームレスだと思って食事を差し入れた女性が 居たことがちょっとしたニュースになっていたのだった。この女性の親切にはリチャード・ギアも心を動かされたことが 伝えられているけれど、女性が勘違いをした要因は リチャード・ギアの演技力というより、 ニューヨークのホームレスのルックス・レベルの高さ。
前述のようにニューヨーク市では、レントが高くなり過ぎたために、シェルターで暮らすホームレスの数が 過去最高の5万2000人。その多くは携帯電話を所有し、子供を学校に送り届けてから、毎日仕事に出掛ける 人々。
ホームレスであっても、ジョブレスではないのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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