July 23 〜 July 29 2018

”Addiction is Desease or Weekness of Mind?”
デミ・ラヴァートのオーバードースに見る、
アメリカ社会における ドラッグ中毒の落とし穴



今週のアメリカで最大の報道になっていたのは、第2四半期の業績を受けてフェイスブックの株価が木曜に19%下落、 1190億ドルの企業価値が失われ、米国株式史上の1日の損失の最多記録を塗り替えたというニュース。 そして翌日の金曜にはツイッターの株価が20%下落しているけれど、どちらもフェイク・ユーザーがポストする フェイク・ニュースが問題になったソーシャル・メディア。その取り締まりとセキュリティ強化にコストが掛かるのに加え、 多くの人々が昨年から今年にかけて 最低1つのソーシャル・メディア・アカウントを 整理していること、最も広告収入が得られる欧米市場で 新たなユーザーの獲得がどんどん難しくなって来ている様子が伝えられている状況。
でもこれらの状況は第二四半期の業績を待つまでもなく 織り込み済みの事実で、 フェイスブックに関しては エグゼクティブが2か月以上も前から 同社株式の大量売却に入っていたことが伝えられているのだった。

また週末に報じられたのが、今年3月〜5月にかけて ロシアがそれまで所有していたアメリカ国債の84%を売却していたというニュース。 現在ロシアは149億ドルのアメリカ国債を所有するのみで、これは世界で33番目に多くアメリカ国債を所有するチリの半分以下。 これが何を意味するのかは金融関係者の間でも憶測を呼んでいる状況なのだった。 ちなみに最もアメリカ国債を所有しているのは中国、次いで日本で、1兆億ドル以上のアメリカ国債を所有するのは この2カ国のみ。3位のアイルランドは日本の3分の1以下、5位のイギリスは日本の約4分の1の所有量となっているのだった。




今週 芸能メディアで最大のニュースとなっていたのはシンガーのデミー・ラヴァート(25歳)が ドラッグのオーバードース(OD)で病院に運び込まれたというニュース。
デミー・ラヴァートは現在コンサート・ツアーの最中で、ODの通報があったのは彼女のカリフォルニアの約8億5000万円の自宅。 クラブで友人のバースデーを祝った後、デミーの自宅に流れてきた友人グループと彼女が摂取したと言われるのは クリスタル・メスの通称で知られるメタンフェタミンで、コカインよりもヘロインよりもリスクが高いドラッグ。 芸能メディアの報道によれば、デミーと友人達はドラッグのビンジ(多量摂取)のために彼女の家にやって来たようで、 あらかじめ用意されていたのが”ナルキャン” と呼ばれるODをリバースする薬。 友人達はOD状態になったデミーにナルキャンを使用し、救急車は呼んだものの 逮捕を恐れて その場を去っており、デミー本人も「何のドラッグを摂取したか?」という救急隊員の質問に答えない等、 非協力的な様子であったとのこと。
その後 病院で彼女の容態が安定したことが伝えられたけれど、デミー・ラヴァートと言えばティーンエイジャーの頃からドラッグを摂取し、 ドラッグ&アルコール中毒を認め、摂食障害、バイポーラー・ディスオーダー(双極性障害)との闘いを 公にしてきたセレブリティ。 昨年には「6年間 ドラッグを断った」と 中毒克服の勝利宣言をしていたものの、 今年春に発表したシングル「Sober / ソーバー(ドラッグやアルコールを摂取していないシラフの状態)」の中で、 再びドラッグやアルコールに手を出した様子を歌い、リラプス(再発)を窺わせていたのだった。 またODの数日前のコンサートでは、デミーがその「Sober」の歌詞を忘れるというアクシデントが起こっており、 ファンがその様子を収めたビデオは ODの報道直後にソーシャル・メディア上でヴァイラルになっていたのだった。




デミー・ラヴァートのOD報道の直後に、ツイッター上に溢れたのが 彼女を気遣うファンや友人達のメッセージ。 それと同時に周囲のコメントで、何年にも渡って彼女のアルコール&ドラッグ中毒克服の手助けをした ”Sober Coach / ソーバー・コーチ”を デミーがつい最近クビにしていたことや、 彼女をドラッグの世界に引き戻す”新しい友達” が出来ていた様子等が報じられていたけれど、 前述のように デミーは自らのアルコール&ドラッグ中毒、摂食障害、バイポーラーをオープンに語り、 昨年末にはその克服までの道のりを描いた約100分のドキュメンタリー「Simply Complicated / シンプリー・コンプリケーテッド」をYouTube上で公開。 6100万人もの視聴者を獲得して、同様の中毒症状や摂食障害、バイポーラー等に悩む若い世代から ”ヒーロー”、”インスピレーション” と讃えられてきた存在。
そんな彼女のリラプスにショックを受けた人々は少なく無かったけれど、 英語には「クリーン・アディクト(クリーンな中毒者)」という言葉がある通り、 一度中毒になってしまった人は、一時的にドラッグやアルコールを摂取しない時期があったとしても 何かのトリガーでアディクトに戻ってしまうのは全く珍しくないこと。 今週のデミー・ラヴァートのODの報道の際には、 芸能番組に ドラッグ中毒を克服したというB級セレブやコメンテーターが登場して、 自らの経験を語っていたけれど、そんな人々とて結局は”クリーン・アディクト”でしかないことは アディクション治療の専門家だけでなく、本人たちが認める事実。
それより私が驚くのはドラッグというものが例外無く 全米で違法であるにも関わらず、 メディアに登場して自分がドラッグ中毒だった体験談を まるで専門家や評論家のように語ることが 当たり前としてまかり通ってしまうアメリカ社会。 デミー・ラヴァートのドキュメンタリーにしても、彼女が17歳で初めてコカインをトライした時のリアクションを 「I loved it!」と 罪悪感も見せずに堂々と語っており、 コカインを摂取、所持、売買することが立派な犯罪であることなど 全く気にも留めていない様子を窺わせているのだった。
ちなみに写真上左は、ドキュメンタリー「シンプリー・コンプリケーテッド」で自分の中毒について語るデミー、 中央はドラッグの常用がスタートしていた18歳のバースデーのスナップ、右はドラッグを断って 大人のシンガーとしてのキャリアが花開き始めた2014年の彼女。
彼女が今回ODをしたと言われる クリスタル・メスは、 使用すると興奮状態、食欲不振になり、覚醒効果もあるもの。 このため疲れを簡単に取る目的や、無理なく体重を落とす といった理由で軽い気持で手を出す人々が多いけれど、 蕁麻疹のような発疹が出るという副作用があり、クリスタル・メスを数か月使用しただけで 顔中にアクネが出来たような状態になり、 長期の使用で顔立ちまで歪む事がその中毒者のルックスによって証明されているのだった。




デミー・ラヴァートがドラッグに手を出した理由として、ドキュメンタリーの中で語っていたのが 「父親もドラッグ中毒で、自分や母親を捨ててまでドラッグを選んだ父親のことを考え、 一体ドラッグにどんなパワーがあるのかに興味を持っていた」ということ。 アメリカでは「1滴もお酒を飲まない」、「マリファナを始めとするドラッグは一切やらない」と決めている人々の多くが 中毒者の親を持ち、「親の破滅的な人生の二の舞は御免」と自分を戒めていると言われるけれど、 私に言わせればそれが正しい人生へのアプローチ。
父親の人生の転落のきっかけを、自分でもトライしてみようというのは自殺行為に思えるけれど、 ドラッグでもアルコールでも摂食障害でも彼女の問題のトリガーになっているのは孤独や退屈感。 実際に、多くのクリーン・アディクトがリラプスに陥る原因と言われるのも孤独や退屈感なのだった。

同様の経験はドラッグやアルコール中毒にならなくても、ダイエットでも味わえるもの。 ダイエットが軌道に乗って 体重が減り始めると、周囲に「痩せた」と褒められ、体調も良く、エネルギーレベルもアップし、 エクササイズをしたい気持ちが高まって、全てが上手く回り始めるけれど、 彼氏と別れるなどして孤独や精神の不安定さを味わったり、ヘルシーなダイエット食に飽きて、 エクササイズを続けても それ以上体重が減らなくなってくると、 痩せた直後には「もう絶対食べない!」と心に誓った不健康で高カロリー&高脂肪の 食べ物の誘惑にどんどん引き込まれて、ダイエットで減らした以上の体重を増やす結果になるのは誰もが経験するシナリオ。 食べ物でさえそうなる状況がドラッグであったら 果たしてどうなるかは、まともな思考力さえあれば容易に想像がつくはずのこと。
デミー・ラヴァートの摂食障害が現在どんな状況かは知る由もないけれど、写真上一番左、 昨年11月のリラプス前に比べると、 写真上中央と右のリラプス後、現在ツアー中の彼女のフォトでは明らかに体重を増やしている様子が窺えるのだった。

いずれにしても今週のデミー・ラヴァートのODの報道で私が一番問題に感じるのは 彼女の容態を気遣うのは当然だとしても、 ドラッグを摂取することが悪いという見解や、「Don't Do Drug」というメッセージが全く登場しないこと。 デミー・ラヴァートのドキュメンタリーにしても、既に中毒状態の人々が自暴自棄にならないためのインスピレーションであると同時に、特に ミレニアル世代に対しては「ドラッグで中毒になっても立ち直れる」というエンプティ・ホープを与えたり、 かえってそういう問題を抱えると周囲の関心やサポートが得られるというような誤解を植え付けかねない内容。
今週のODのせいで ドキュメンタリーの続編の製作が一時停止したことが伝えられるけれど、 彼女がまた一時的にクリーンな状態になって 「リラプスしてもまた立ち直れる、またチャンスが得られる」というようなドキュメンタリーを製作するのであれば、 それは社会への悪影響以外の何物でもないというのが私の意見。
マーク・トゥエインの言葉に ”It is easier to stay out than get out” (一度関わってから止めるより、最初から関わらないようにする方がずっと簡単) というものがあるけれど、ドラッグに関しては全ての人間に与えられるのはたった1度のStaying Out のチャンスだけで、 それを軽視してドラッグから Getting Out 出来ると考えるのは大間違い。 一度でも中毒になれば、たとえドラッグを止めることが出来たとしても ドラッグの誘惑との闘いは生きている限り続くのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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