Aug 27 〜 Sep 2 2018

”The End of Human Super Model?”
デジタル・スーパーモデル時代の到来、
どうせフォトショップ修正をするのなら人間の必要はナシ!?



夏休み最後の今週のアメリカでは、8月25日に死去したジョン・マケイン上院議員と、8月16日に死去したアレサ・フランクリンの葬儀が それぞれに行われ、その様子が最大の報道になっていたけれど、金曜にデトロイトで行われたアレサ・フランクリンの本葬は アリアナ・グランデ、ジェニファー・ハドソンらのミュージック・パフォーマンスや各界の著名人のスピーチを含んだプログラムで、 5時間の予定を大幅にオーバーした8時間のイベント。
マケイン上院議員の葬儀は地元アリゾナ州からスタートし、金曜からその舞台をワシントンDCに移し、史上31人目となる キャピタルでの葬儀が行われ、これは歴代大統領並みの待遇。 土曜日にはクリントン、オバマ、ブッシュという3代の大統領夫妻が出席してナショナル・カテドラルで葬儀が行われているけれど、 マケイン氏の死後、国中でアメリカ国旗が半旗になっていた月曜にいち早くフルフラッグに戻して大顰蹙を買ったのがホワイトハウス。 これはマケイン氏と生前に確執があったトランプ大統領の意向を反映したもので、そのトランプ氏が招待されずに行われたのが マケイン氏の葬儀。それを反映するかのように葬儀では民主共和両党の関係者のスピーチが、トランプ氏の名前を出さずして トランプ氏を批判するもので溢れていたのだった。
私自身、特にマケイン氏を支持したことは無いけれど、それでもオバマ前大統領と選挙戦を戦っている最中の2008年、 オバマ氏に対して感情的な批判をした自分の支持者に向かって「貴方は間違っている、彼は立派な人物であり、愛国者だ」と語り、 政治と感情を切り離す毅然とした姿勢を見せた様子は非常に良く憶えていて、今週のマケイン氏の追悼報道でも 何度も登場していたのがそのシーン。マケイン氏の死を悼むアメリカ国民の悲しみが党派を超えて大きく広がりを見せたのは、 大人げない個人攻撃が政治の頂点から行われる現在を嘆く気持ちが強いためとメディアは分析するけれど、 今週のマケイン氏の国葬並みの葬儀はその生前の功績に相応しいだけでなく、 今のアメリカ国民の心理も現わしていると言えるのだった。




さて今週、バルマンのクリエイティブ・デザイナー、オリヴィエ・ルーステンが発表したのが、今シーズンのバルマンのイメージモデルに CGIでクリエイトしたデジタル・モデル3人(写真トップ)を起用するというニュース。 バルマンと言えば これまでケンドール・ジェナやジジ・ハディドらのスーパーモデルを ランウェイや広告に起用し、キム・カダーシアンをミューズにして その娘のノースにもバルマンのジャケットを贈るなど、 とにかくパブリシティが獲得できるモデルやセレブリティをフル活用してプロモーションを行うことで知られたブランド。 毎シーズンのイメージモデルは”バルマン・アーミー”と呼ばれてSNSでマーケティングが展開されてきたけれど、 ただでさえ長身で超スリムなボディでなければ着こなせないバルマンの作品を着用したモデル達のフォトが、 フォトショップによる修正で さらに完璧さが追及されていたのは周知の事実。
新たなCGIモデルを起用したプロモーションは ”バルマン・ヴァーチャル・アーミー”と位置づけされ、 そのCGIモデルのうちの1人が アフリカ系アメリカ人と思しき”Shudu / シュデュ(写真上)”。 シュデュをクリエイトしたのは28歳のイギリス人フォトグラファー、キャメロン・ジェームス・ウィルソンで、 そのリアルかつ 完璧な容姿が直ぐに大センセーションを巻き起こしたけれど、 直後に巻き起こったのがバックラッシュ。 というのも 彼のクリエーションが「白人が黒人にタダ働きをさせている」と受け取られたためで、 これをデジタル時代の奴隷制と批判する声もあれば、「ただでさえ少ない黒人モデルの仕事を奪う行為」 と批判する声も聞かれていたのだった。
でもリアーナのコスメティック・ライン、フェンティ・ビューティーのプロモーションでデビューしたシュデュのインスタグラムのアカウントは既に14万1000人がフォローしており、 ケンドール・ジェナやジジ・ハディドには及ばなくてもその数は増え続けている真っ最中。
バルマン・ヴァーチャル・アーミーの残りの2人、白人の”Margot / マーゴ” と中国人の”Zhi / ジ”は、このキャンペーンのためにエクスクルーシブにクリエイトされたキャラクターで、 オリヴィエ・ルーステン曰く、「(服の)コレクションをクリエイトするのと同じ感覚で CGIモデルをクリエイトした」とのこと。 音楽好きなルーステンだけに ”Zhi / ジ” のインスピレーションとなったのはデヴィッド・ボウイで、彼の中性的な魅力やヘアスタイルがルックスに反映されているのが”Zhi / ジ”。 もう1人の”Margot / マーゴ”はルーステンが理想とするフランス人女性という コンセプトでクリエイトされているのだった。




彼女らとは別に、既に”CGI スーパーモデル”の地位を確立しているのが写真上の ”Miquela Sousa / ミケーラ・ソーサ”。インスタ名の”Lil Miquela / リルミケーラ”で知られる彼女は カリフォルニアのCGIラボ、Brud/ブラッドのアート・プロジェクトで、既にインスタグラムで140万人のフォロワーを獲得しており、 モデルでありミュージック・アーティスト。 アジア的ともヒスパニック的とも言える幼さの残るソバカス顔と 「スターウォーズ」のプリンセス・レイアを彷彿させる髪型の彼女は、ブラジル系アメリカ人で カリフォルニアのダウニー出身というヴァーチャル・バックグラウンド。 実在するミュージシャンやアーティスト、インフルエンサーとニューヨークやロサンジェルスの トレンディ・スポットでヴァーチャル・ハングアウトしてしまう存在で、9月号のヴォーグ誌にもその記事が掲載される人気者。 彼女の関連グッズも発売されており、モデリングのエクスクルーシブ契約まで結ばれているのだった。

時代を遡ると、モデルの世界にスーパーモデルというステータスが生まれたのは90年代のこと。そのお膳立てをしたのが80年代のシャネルの専属モデル、イネス・デ・ラ・フレサンジュ。 かつては同じモデリングでもランウェイ、雑誌、広告の仕事が別カテゴリーと見なされ、それぞれに別のモデルが担当していたけれど、 イネスがシャネルの専属となりランウェイ、広告、シャネル関連の雑誌のグラビアを 全てこなすようになってからモデル界の境界線が無くなり、やがてシンディ・クロフォードやナオミ・キャンベルのようにプレイボーイのグラビアや、 ミュージック・ビデオ、スポーツ・イラストレーテッド誌の水着イッシュー等、ファッション・メディア以外にもモデル達が活躍の場を広げたことで、 一気に彼女らの知名度と人気、そしてギャラがアップしたのが スーパーモデルという言葉が使われ始めた90年代。
この頃には、クラウディア・シファー、クリスティ・トゥーリントン、ヤスミン・ゴーリ等、スーパーモデルの名に相応しい 個性と美貌を持つスーパースターが続々と登場しており、 彼女らに如何に特別な存在感があったかは 昨年秋に行われたヴェルサーチのランウェイ・ショーのエンディングで、 カーラ・ブルー二、クラウディア・シファー、ナオミ・キャンベル、シンディ・クロフォード、ヘレーナ・クリスチャンセンがステージに登場した際の盛り上がりと そのシーンが獲得したパブリシティで誰もが実感したこと。(写真下)
逆に言えば それほどまでに無個性になってしまったのが今のモデル達。 現在トップに君臨するケンドール・ジェナやジジ&ベラ・ハディド、カイア・ガーバーはいずれも親や家族の七光りモデル。 ドルチェ&ガッバーナは過去数シーズンに渡って、2世モデルだけをキャストしたショーを行っていて、 そこにはジュード・ロウの息子、ラファーティやピアース・ブロスナンの息子、ディラン等も含まれていたけれど、 今のモデル達は親のバックグラウンドが無い限りは誰も興味を示さないような存在。 したがって、そんなモデル達に高いギャラを支払う必要が感じられないのは紛れもない事実なのだった。






リンダ・エヴァンジェリスタ(写真上右から2番目)、ナオミ・キャンベル(写真上右)、ジゼル・ブンチェンといったスーパーモデルは、 撮影現場やランウェイのバックステージでの扱いにくい態度で知られていたけれど、デジタル・モデルであれば、 我がままを言わず、朝寝坊もせず、前日に飲み過ぎて顔が浮腫むこともなければ、ケイト・モスのようなコカイン使用や自殺未遂の スキャンダルの心配も無し。体重も増えないし、顔にニキビができることも、妊娠することも無く、ファーストクラスのフライトや5スター・ホテルの待遇も無用。 しかも人間のモデル同様にソーシャル・メディア上のアピールもあるとなったらば、一流ブランドやメディアが彼女らに興味を示すのは当然のこと。
また広告においてデジタル・モデルの最大の魅力であり、武器となるのが、彼女らが人間ではないので フェデラル・トレード・コミッションが規定する広告出演ガイダンスの対象にならないこと。 人間のモデルやセレブであればインスタグラムでプロダクトの宣伝をした場合は "#ad" 、 "#sponsored"といったハッシュタグをつけてそれが広告であることを 明記しなければ違法となるけれど、デジタル・モデルであればこの記載が必要ないので 広告効果が人間のモデルやセレブより高まるのは当然のこと。 キム・カダーシアンを起用した場合、1回のインスタポストが約1億円、彼女の妹のカイリー・ジェナの場合でも5000万円のフィーを支払って、 更にそれが広告であると明記しなければならないけれど、デジタル・スーパーモデルはフィーが安い上に広告表示が要らないというメリットがあるのだった。

私自身は最初にデジタル・モデル、ミケーラの存在を知った時に 2002年に公開された映画「シモーヌ」(写真上左)を思い出してしまったけれど、 これはアル・パシーノ扮する映画監督が主演女優に逃げられ、CGIでヒロインをクリエイトしたところ、彼女が大センセーションを巻き起こしてしまうというストーリー。 でも映画の中で ファンがデジタル・ヒロイン、シモーヌを人間と思って夢中になっていたのとは異なり ミケーラやシュデュの場合、彼女らが実在しないCGIであることを人々が熟知した上での人気や関心であるのは時代の流れを感じさせるもの。
2018年秋冬のランウェイ・ショーでは、ドルチェ&ガッバーナが ドローンを使ってバッグのランウェイ・プレゼンテーションを行ったのは記憶に新しいけれど、 今やランウェイでさえ 人間のモデル以外が登場するご時世。
これから先の近未来では 企業のCEOから学校教師、ドクター等、様々な人間の職業や役割を AI が取って替わると見込まれているけれど、 AI を必要とせず、画像だけでその役割が事足りるモデルは、デジタルの方が様々なメリットをもたらす職業の筆頭。 今の子供達に昔のタイプライターを見せると 「昔の電話?」 と言うほどに、テクノロジーが様々な概念を あっという間に変えてしまうだけに、10年後に子供達が「モデルって以前は人間の仕事だったの?」と尋ねるような時代が訪れても全く不思議ではないと思うのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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