Sep 2 〜 Sep 9 2018

”Real Marketing Target of Nike Ad”
カパーニックのナイキ広告の本当の狙いとは?


レイバー・デイの休暇と共に夏休みが終わったアメリカは、大きなニュース続きであったけれど、 中でもメディアが報道時間を大きく割いたのが、ウォーターゲイト事件を暴いたアメリカのトップ・ジャーナリスト、 ボブ・ウッドワードの最新著書「Fear / フィアー」でトランプ政権内部の これまで報じられた以上の実態が暴かれたこと。 そして水曜にはその内容を裏付けるかのように、ホワイトハウス上層スタッフがニューヨーク・タイムズ紙に 匿名のコラムを寄せて、「トランプ大統領の常軌を逸した行動から国を守るために暗躍するレジスタンスが ホワイトハウス内に存在する」ことを明らかにしたニュース。
これを受けて ホワイトハウスとワシントンのメディアは ハチの巣をつついたような大騒ぎとなり、 トランプ氏はボブ・ウッドワードを猛攻撃すると同時に、「ホワイトハウス内の裏切者を探せ」と スタッフを前に怒りの演説を展開。 この内部告発者の存在は目下ワシントン政界の最大の関心事兼、ミステリーとなっており、 上層スタッフの誰もが「自分ではない」と否定する様子を受けて、その全員をウソ発見機に掛ける案まで浮上しているのだった。




それと同時に今週大報道になったのが、ナイキがそのコーポレート・スローガン、「Just Do It」の30周年キャンペーンに 元NFLサンフランシスコ・フォーティーナイナーズのクォーターバック、コリン・カパーニックを起用し、賛否両論の大嵐を巻き起こしたこと。
コリン・カパーニックは、警察によるアフリカ系アメリカ人に対する過剰な暴力と権力行使に抗議して、2016年のプレシーズン・ゲームから試合前の国歌斉唱の際に 起立して胸に手を当てる慣例を破って、跪くジェスチャーを続けたことから物議を醸し、丁度この年に大統領選挙を戦っていた トランプ氏がスピーチの度に”国賊” として攻撃してきたターゲット。 そのためトランプ支持派が多いキリスト教保守派、極右派からバッシングを受けただけでなく、2017年シーズンにはフリーエージェントになった彼を NFLのオーナー達がこぞって雇わなかったことから、事実上NFLを追放されたプレーヤー。 しかし彼の抗議ジェスチャーは別のチームやスポーツにも波及し、スポーツ界で支持を獲得しただけでなく、アフリカ系アメリカ人、リベラル派にはその主張を サポートする人々が多かったのは事実。そんなリベラル派&アンチ・トランプ勢力で溢れるニューヨークでは、先週 USオープン・テニスの観戦に訪れたカパーニックに対し、 スタジアム中の観客が大歓声を送ったのはメディアでも大きく報じられたこと。
その4日後にデビューしたのが 所属チーム無しの彼をフィーチャーした「Just Do It」の広告で、タイガー・ウッズ、セリーナ・ウィリアムス、トム・ブレイディといったアスリートを 含む多くのセレブリティがこの広告のサポートを打ち出す一方で、巻き起こったのがナイキに対するボイコットを含むバッシング。 私が 政治思想の右左を問わず アメリカにおけるボイコットやバッシングで見苦しいと思うのは、自分が最初から買うつもりもないブランドに非買運動を打ち出したり、 散々使い古して どうせ捨てようと思っていた程度の物をあえて燃やしたり、破壊したりして、 その様子を ”抗議活動” としてソーシャル・メディアにポストするところ。 今回のナイキの抗議活動にしても、 履き古した靴下や、昔のモデルのスニーカーを燃やしているだけ。そんなにナイキが憎いのならば、その最大のドル箱ラインである エア・ジョーダンを燃やすべきなのに、そんな”勿体ないこと” をする抗議活動者は全く存在しないのだった。
この広告イメージがデビューした日に、ナイキの株価が3%ダウンしたことが伝えられたけれど、 抗議活動やバッシングが起きるほどに 人々の関心や感情を掻き立てる広告、プロダクト、セレブリティの方が ビジネス的にはサクセスを収める例が多いことはアメリカのマーケティングの歴史が証明する通り。 このナイキの広告も、たった1日に 日本円にして約48億円分の広告効果を生み出すという 記録破りのリアクションで、 それだけでも「軍配はナイキに上がった」と言える状況なのだった。




今週、広告&マーケティング界のアナリストがこぞって指摘していたのが、ナイキが十分な勝算を見込んで コリン・カパーニックという一見リスキーな キャラクターを選んだという事実。 ナイキほどの企業になれば、どんな消費者が自社ブランドを購入しているかを的確に掴んでいる訳で、 それによればナイキにとって最も大切な客層は 都市部に住む可処分所得の多いリベラル派と有色人種。 今回 ボイコットや抗議活動をしている地方や郊外に住む白人層、キリスト教保守派の40歳以上というのは、 最初から切り捨てても構わない人々。
また コリン・カパーニックを起用することによって、 ナイキがブランド・ロイヤルティを煽る戦略を展開したライバルは、 アディダスでもなければ、アンダー・アーマーでもなく、トランプ大統領。 アンチ・トランプ派と言えば、都市部の可処分所得の多いリベラル派と有色人種 というナイキのターゲットと一致する訳で、 トランプ大統領がこの広告に腹を立ててツイートをしたり、トランプ支持者がナイキの製品を燃やす様子をソーシャル・メディアにポストする度に、 高まるのがアンチ・トランプ派の間でのナイキに対する好感度やブランド忠誠心。 事実、カパーニックの広告を見て 「久々にナイキを購入した」、「これからはナイキを買う」というアンチ・トランプ派は非常に多く、週末までには ナイキのオンライン売り上げが何と31%もジャンプ。
要するに コリン・カパーニックの広告は、 トランプ氏やその支持者によるバッシングと それによる更なる広告効果を織り込み済みで デザインされたマーケティング・プラン。したがってトランプ氏の怒りのツイートは、ナイキにとっては諸手を上げて大歓迎のパブリシティなのだった。




木曜に行われたNFL開幕戦の最中には、上のJust Do It の30周年記念TV広告、「Dream Crazy」がデビューしたけれど、 その直後からナイキの株価も復活。このTVCMに対しても大半の人々がポジティブなリアクションを寄せているのだった。
私自身は 2016年にコリン・カパーニックがプロテストをスタートした時には、スポーツに政治や社会問題が持ち込まれるのを嫌ったので 特に 彼を支持しなかったけれど、今は彼を100%サポートする立場。その理由は日本人の私の目から見ても 警察によるアフリカ系アメリカ人に対する不当な権力行使が 目に余るだけでなく、警官が黒人層を殴っても 射殺しても 不起訴処分になる様子が常軌を逸していると思えることが1つ。 さらにトランプ氏が大統領選挙に出馬してからというもの、ありとあらゆる分野を感情に任せて攻撃してきた結果、 今ではスポーツ、ファッション、エンターテイメント、ソーシャル・メディアなど、世の中の全てのものを 政治と切り離すことが不可能になってしまったというのがもう1つの理由。
加えて 昨今のNFLの視聴率低下を カパーニックの抗議活動のせいにする風潮もアンフェアだというのが私の考えで、 NFLの視聴率低下は 試合レベルの低下が原因であることは長年のファンならば誰もが認めるところ。 特に昨シーズンは、ニューイングランド・ペイトリオッツ戦で対戦チームのタッチダウンが3回も取り消されるという 訳の分からないルール設定等で、 レフリー達のペイトリオッツびいきが露呈したので、私自身、アメリカに来てから初めてスーパーボールを観なかった年。 真のフットボールファンの関心は、今やカレッジ・フットボールに移行しているのだった。

そのレフリーやアンパイアに関していえば、私はプレーをする当事者以外の存在、すなわち審判や観戦者によって試合が台無しにされるのを 最も嫌っていて、 その意味で 私がこのコラムを書いている前日に行われたUSオープンテニスの女子決勝、セリーナ・ウィリアムスVS. ナオミ・オオサカ戦は、史上初めて 日本人のグランドスラム・シングルス・チャンピオンが誕生したにも関わらず、気が滅入るほど後味が悪かった試合。
それぞれに試合全体を観ていた人には言い分があると思うけれど、セリーナ・ウィリアムスがUSオープンでアンパイアやライン・ジャッジのせいで 精神状態を著しくかき乱されたのはこれが4回目。私はTV中継とは言え、その全てをライブで観ているので、セリーナには同情はしても 彼女の態度を責める気持ちは皆無なのだった。 中でも忘れられないのが2004年の準決勝の対ジェニファー・カプリアティ戦。女性アンパイアが何度にも渡ってセリーナに不利なジャッジを繰り返したことから、 スタジアム内でもブーイングが起こり、セリーナが敗れた直後にUSテニス・アソシエーションの関係者がアンパイアを取り囲むという異例の事態が起こったのがこの試合。 今ではプレーヤーのリクエストによるビデオ・レビューが導入されたけれど、テニス・アソシエーションがそれを導入をするきっかけになったのが この時のセリーナVS. ジェニファー・カプリアティ戦。したがって現在のプレーヤーは皆、この時のセリーナの屈辱の恩恵を受けていると言っても過言ではないのだった。
2度目の2009年に日本人の線審がセリーナに対して行ったのが「まさか この大切な試合の局面でフットフォルト?」というゲームに水を差すタイミングのコール。 私は当時通っていたテニスクラブのメンバーに「日本のテニスでは そんなに真剣にフットフォルトを取沙汰するの?」と尋ねられて恥ずかしい思いをしたけれど、 3度目の2011年にセリーナが科せられたのは、 ボールを打った直後に「Come On!」と叫んだことから「口頭で対戦相手を威嚇・妨害した」という 考えられないペナルティ。 多くの人々が ボールを打つたびに叫び声や奇声をあげるマリア・シャラポヴァやヴィクトリア・アザレンカとの違いについて理解に苦しんだのがこの時。
今回の試合でも、セリーナ自身が見てもいない観客席のコーチのハンド・ジェスチャーをルール違反と見なして、 説明や警告無しにポイントを奪って、一方的に彼女を「Thief / 盗人」と呼んだ アンパイアの行為は明らかに行き過ぎ。(セリーナ・ウィリアムスがコーチがハンド・ジェスチャーをした際に、 彼を観ていなかったことは、その後のTV中継のビデオ検証で立証されています。) それに怒りの抗議したセリーナに 「アンパイアへの暴言」のペナルティをカウントして、ゲーム・ペナルティ(1ゲームを対戦相手に与えるペナルティ)を科したのも 驚くべき厳しさで、これが男子選手であれば どちらも警告で済んでいる様子は、私だけでなく多くのテニスファンや関係者が見てきた事なのだった。
USオープン決勝の会場であるビリージーン・キング・テニス・センターのアーサー・アッシュ・スタジアムは、 それぞれテニスというスポーツを通じて 対戦相手だけでなく 女性&ゲイ差別、人種差別と闘ってきた2人の偉大なプレーヤーの名前が付いた場所であるけれど、 コリン・カパーニックにしても、セリーナ・ウィリアムスにしても、アメリカ社会全体を見回しても、その闘いがまだまだ続いていることを 改めて実感するのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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