Sep 24 〜 Sep 30 2018

”Supreme Court Showdown”
全米が見守った最高裁バトルの行方


今週のアメリカで週の前半に大きく報じられていたのが、 性的虐待容疑で有罪判決が既に確定していた俳優兼コメディアン、ビル・コスビー(81歳)に対して 執行猶予ではなく、3〜10年という実刑判決が下ったニュース。 かつては、視聴率No.1の「コスビー・ショー」で ”アメリカで最も理想的な父親像” と言われてきたビル・コスビー。 彼による性的虐待は1970年代から行われており、その被害者数は60人。 しかしながら 彼のハリウッドでのパワーと人気、知名度、そして高額弁護士が雇える財力で、 被害者が訴えてもことごとく不起訴処分になってきたのはアメリカでは周知の事実。
今回彼が有罪になったのは、唯一時効が成立していなかった2004年の被害者に対する容疑で、 その有罪判決の背景には #MeTooムーブメントによる厳しい世論があったのは言うまでもないこと。 ビル・コスビーは#MeTooムーブメント以来、初めて性的虐待行為で実刑判決が下ったセレブリティとなり、 長い闘いを強いられてきた被害者は勿論のこと、 アメリカ中の大半の女性がこの判決を歓迎して沸き上がっていたのだった。
とは言っても、ビル・コスビーは既にキャリアとパワーのピークを過ぎたセレブリティ。 #MeTooムーブメントが本当にアメリカ社会を変えたかが 問われることになったのは、 今週木曜日、9月27日に行われた上院司法委員会における 最高裁判所判事候補、 ブレット・キャバナーと、彼に対して「30年前のハイスクール時代のハウス・パーティーで レイプされかけた」という性的虐待被害を訴えたクリスティン・フォードの証言。
2016年の大統領選挙以来、政治的に歩み寄れないほど世論が真二つに分かれているアメリカが この委員会証言にどんなリアクションを見せるかには世界中が注目しており、 27日の東部時間午前10時からスタートした公聴会は、 「アメリカ中が見守った」と言っても過言ではないほどの高い関心が集まっていたのだった。




この日はレストランやスポーツ・バーなど、TVがある商業施設やパブリック・スペースの ジャンボ・スクリーンがこぞって司法委員会証言を映し出しており、 ソーシャル・メディアからTVの芸能番組までもの話題もこれに集中。 もちろんこの日のアメリカ中の人々の話題も公聴会のことで持ち切り。
パリで行われていたファッション・ウィークでは、リック・オーウェンのランウェイ・ショーの真っ最中にフロント・ロウに座ったゲストが スマートフォンのストリーミングで公聴会を観ていたことが伝えられるけれど、 その前夜のパーティーでも ゲスト達が熱心に語り合っていたのは、最新のトレンドでもなければ、 マイケル・コースによるヴェルサーチの買収でも無く、公聴会について。 そのためパーティーのDJが、そんなシリアスなトーンを和らげるために 努めてアップビートな楽曲を大音量でプレイするように指示が出ていたことも伝えられているのだった。

大半のメディア報道の切り口は、休憩を挟みながらも9時間に渡って行われた司法委員会を 見守る人々のリアクションを、支持政党や年齢、性別で分けてレポート&分析するというもの。 TV局が一部の視聴者宅やパブリック・スペース等にカメラを送り込んで意見を尋ねる一方で、 ツイッターを始めとするソーシャル・メディアが随時モニターされ、スタジオ内ではコメンテーターや政治部門担当の レポーターが意見を交換するというスタイル。
その意見交換の中で最も聞かれていたのが、全く同じ証言を聞いたアメリカ国民のリアクションが やはり真二つに分れているということ。 女性は、ブレット・キャバナーの最高裁判事就任をサポートしていても、 クリスティン・フォードが「真実を語っている」、 「ウソをついているとは思えない」と信じる声が殆どで、 特にキャンパス内で性的虐待行為を受けたことがある女性にとって、 彼女の証言は生々しいほどにリアルで、自分の体験を彷彿させるもの。
ところがこれが男性になると、キャバナーの最高裁判事就任をサポートするキリスト教保守派の トランプ・サポーターは、「真実とは思えない」、「30年も前の話なんて今更持ち出して来る方がおかしい」など、全く取り合わないリアクション。
それよりもリアクションが大きく分かれたのが ブレット・キャバナー自身の証言で、 トランプ・サポーターが キャバナーが涙を流したり、声を詰まらせて証言する様子を見て もらい泣きをするほど彼に入れ込む一方で、 キャバナーの最高裁判事就任に断固反対する民主党支持者、及びリベラル派は その様子を冷ややかに眺めて、時にツイッターで彼が証言中に鼻をすする様子のジョークをツイートしているような状態。
どちらが何を言っても敵対する側の主張は受け入れられないという今のアメリカの現実をまざまざと露呈していたのだった。




基本的に9時間に渡る公聴会は、自ら受けた性的虐待の詳細と、それを告発するに至ったプロセスを説明するクリスティン・フォードと、 容疑を全面否定し、事件当時である1982年のカレンダーを持ち出してきて当時の自分の学生生活について弁明するブレット・キャバナー、 クリスティン・フォードに同情し、ブレット・キャバナーに対し「容疑を否定するのならFBIの捜査を受け入れろ」と迫る民主党、 キャバナーへの容疑、及び公聴会自体が民主党の陰謀と策略だと主張する共和党という4つのポジションが交錯する形。 しかしながら共和党議員の多くは、選挙前の世論を懸念してクリスティン・フォードへの直接の質問を避けて、 特別に雇った女性検事にその役割を代行させており、、それがまた 公聴会を滑稽なものにしていたのだった。

本来であれば、金曜にはキャバナーの最高裁判事就任の投票が行われ、10月1日月曜から再開される 最高裁審議に加わる予定であったけれど、事実上、それを阻止したのが 性的虐待の経験を持つニューヨークの女性アクティビスト2人。彼女らが アリゾナ州選出の共和党議員で、「キャバナー選出に投票する」とコメントしたジェフ・フレークに腹を立てて、 「私達の性的被害者としての犠牲が何でもないとでも言うの?」と猛然と問い詰め寄る姿が たまたまTVでライブ放映されるという事態(写真上右側)が起こり、 休憩から戻ったジェフ・フレークは「国が分断してしまった今、このプロセスにはFBI捜査が必要」として 投票の延期を提案。 選挙を控えているとあってトランプ氏もこれを受け入れて、FBIのための捜査期間が1週間だけ設けられたというのが今日の段階。

今回の公聴会の全体的な印象としては#MeTooムーブメントによって、アメリカ社会が性的虐待被害者に理解を示すようになった結果、 1990年代に黒人最高裁判事、クラレンス・トーマスに対してセクハラ容疑を訴えた、アニタ・ヒル教授に対する質疑よりも、 クリスティン・フォードに対する扱いの方が遥かにまともだったのは誰もが認めるところ。 とは言っても、メディアがクリスティン・フォードを執拗に追いかけ、ソーシャル・メディアで彼女の個人情報が漏洩され、 殺人の脅しまで寄せられるというのは、今の世の中にありがちなクレージーさ。 殺人の脅しは同様にブレット・キャバナーに対しても寄せられていたとのことで、 政治に関して感情的かつ、熱くなり過ぎる昨今のアメリカを象徴しているのだった。




当然のことながら、今週末にシーズン・プレミアを迎えたサタデーナイト・ライブ(以下SNL)では、この上院司法委員会が コメディ・スケッチに落とし込まれていたけれど、その中にキャバナー役で登場したのがマット・デイモン(写真上左)。 彼とSNLのキャストが、司法委員会に登場したあらゆるキャラクターを演じる様子が爆笑を誘っていたけれど、 これは委員会証言をTVで観ていなかったら決して笑えないスケッチ。 にも関わらずSNLがこのスケッチに長時間を割き、観客が大笑いしていたことからも、いかに多くのアメリカ人がこの公聴会を観ていたかが分るというもの。
世論やメディアの中には、30年前にキャバナーによるレイプ未遂が起こったかを突き止めるよりも、 「今回の証言でブレット・キャバナーが見せた感情の起伏の激しさや、民主党の委員会メンバーの質問を聞く際の彼の 馬鹿にしたようなボディ・ランゲージや短気な対応、女性議員の質問に答える事無く、質問で言い返すような態度が 最高裁判事に相応しいかを問うべき」という声も聞かれるけれど、 私もその意見には全く同感なのだった。

ニューヨーカーは圧倒的に民主党支持者とリベラル派が多いので、 私の周囲はアンチ・キャバナー派で占められていたけれど、彼を嫌う理由は人それぞれ。 そのうちの1人はキャバナーが 「私はクラスでNo.1の学生で、イエール大学に進学したんだ」と語った様子に、親も判事というエリート家族の出身で、 何不自由なく育った青二才ぶりが出ていると言っていたけれど、確かに彼のエリート意識はその証言の端々に感じられたもの。 そして少なくともこれまでのアメリカでは、そんなエリート学生によるレイプや性的虐待は、容疑を訴えれば被害者の方がが責められたのは歴史が証明する通り。 裁判まで持ち込んでも、判事によって無罪放免にされる様子は2016年にレイプで訴追されたスタンフォード大学の水泳選手、 ブロック・ターナーの事件が近年のアメリカではあまりにも有名な例なのだった。

その一方で司法委員会では、ブレット・キャバナーの飲酒についてもかなり質問が集中していたけれど、 実際に彼の酒癖の悪さは、学生時代の友人達が証言している通りで、本人もビール好きを認めているのだった。
いずれにしても彼が最高裁判事になった場合に何が見込まれるかと言えば、 まず女性の人工中絶が違憲にはならなかったとしても、厳しい規制が設けられること。 ゲイ・カップルの婚姻合法の見直し、アファーマティブ・アクションと呼ばれるマイノリティ人種にチャンスを与える政策の撤廃、 そして公のイベントや企業ポリシーに宗教(具体的にはキリスト教)や宗教思想を繁栄させるための「宗教の自由」の解釈拡大など。
すなわち1960年代からリベラル派が進めてきた男女、人種、宗教を超えた平等が徐々に崩れて、 時計の針が大きく逆戻りすることが懸念されているのだった。 それというのもブレット・キャバナーが選出されれば、最高裁の9人の判事のうちの5人が保守派となり それが最高裁では過半数と見なされるため。
したがって、未だ40代のキャバナーが リタイア年齢が無い最高裁判事として、この先何十年にも渡って右よりの保守路線に票を投じることは、 リベラル派にとっては極めて恐ろしい世の中を意味するのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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