Nov. 5 〜 Nov. 11 2018

”You Can't Afford Big Holiday Spending!”
アメリカが迎える 借金まみれのビッグなホリデイ商戦


今週のアメリカで最大の報道になっていたのと同時に全米が注目し、熱くなったのが 火曜日に行われた中間選挙。
過去数十年来で最高の投票率となったのが今回の中間選挙で、政治によって真二つに分断されたアメリカが 自分が支持しない政党に勝たせてなるものかと、場所によっては数時間も行列してまで投票したのが今回の選挙。 多くのセレブリティが投票を呼び掛ける一方で、自らが投票した姿や投票後に受け取る「I Voted」の ステッカーを付けた姿をソーシャル・メディアにポストしていたのが火曜日。 結果的には予想通り 下院で野党民主党が過半数を取り戻し、上院では与党共和党が過半数を維持しただけでなく、 その差を広げているのだった。
今回目立ったのは女性の大躍進で、下院では史上初めて100人以上の女性議員が誕生。 その中には初のネイティブ・アメリカン議員、イスラム教議員、レズビアン議員が含まれており、 男女を問わずアメリカ軍出身の候補者の当選が目立っていたのが今回の選挙。 また先週このコーナーでご紹介した テキサス州上院議員選挙を争っていたベト・オルーク等、 セレブリティが推した候補者が票を伸ばせず落選するケースが見られていたけれど、 オプラ・ウィンフリーが推したジョージア州知事候補、ステイシー・エイブラムについては 投票結果では僅少差で敗れたものの、彼女に投票すると思しき黒人層の投票申し込みが 対立候補で州務長官であるブライアン・ケンプに不当に無効にされたという選挙不正を訴えており、未だ決着がついていない状況。 加えてフロリダ州でも上院議員選挙、州知事選挙が共に票の数え直しになることが決定し それ以外にも8州で未だに選挙結果の決着がついていない状況となっているのだった。




さて今年のアメリカでは サンクスギビングの翌日でホリデイ商戦の始まりであるブラック・フライデーを待たずして、 既に多くの小売店がブラック・フライデー並みのセールに入っていることが報じられているけれど、 そんな中今週発表されたのが、オプラ・ウィンフリーが出版するOマガジンの毎年恒例の「オプラズ・フェイバリット・シングス」。 これは早い話がホリデイ・シーズンのギフト・アイデアを提案するリスト。毎年このリストに載ったアイテムは 売り上げが大きく伸びており、目新しい商品も含まれていることから、 メディアや Oマガジンの読者以外の人々からも注目されているだった。
そのためOマガジンでは1年掛かりでアイテムのセレクションに当たることが伝えられており、今年「オプラズ・フェイバリット・シングス」に選ばれたのは107点。 そのうち50点が50ドル以下というセレクション。 私も毎年何となくチェックしているのがこのリストであるけれど、個人的には今年のリストは特に目新しいアイテムが無いだけでなく 「こんな物にお金を遣いたくない」という物が多く「全く参考にならなかった」というのが本音。そこで 他の人はこのリストをどんな風に捉えるのかと思ってOマガジンのウェブサイトに寄せられたリアクションを読んでいたけれど、 その書き込みは以下のようなもの。ちなみに以下は全て異なるスクリーン・ネームによる書き込み。

というように いつの間にか「オプラズ・フェイバリット・シングス」へのリアクションが政治論争に変わっていて、 何でもかんでも政治や人種差別、移民問題と結びつけて口論や、時に暴力に発展する今のアメリカ社会を象徴していたのだった。

実際のところ「オプラズ・フェイバリット・シングス」に選ばれた180ドルのポップコーンや、40ドルのパネトーネ、 200ドルのフットマッサージャーが 「アメリカ庶民には高額過ぎる」というのは紛れもない事実。 FEDの通称で知られる連銀の調査によれば、58%のアメリカの成人は1000ドル以下の貯金しかなく、 そのうちの40%は突如400ドルが必要な事態が生じた場合、持ち物を売却するか借金をしない限りは払えないという状況。 そうなっても無理もないのは、FEDのレポートによれば平均的なアメリカ世帯が抱える借金は2017年の段階で13万7,063ドル(約1560万円)。 それに対して平均的なアメリカの世帯年収は5万9,039ドル(約672万円)。 すなわち2年間、一銭たりとも使わずに全収入を返済に当てても借金を返しきれない訳で、その間にもクレジット・カードなら10%以上、自動車ローンなら4%前後の 利息が膨れ上がっているという計算。
にもかかわらず 同じFEDの調査では74%のアメリカ人が「経済的にカンファタブル」、すなわち「不自由無く生活している」と回答しており、 2018年7月の段階でのコンシューマー・コンフィデンス(消費者の景気に対する信頼度)は過去18年で最高となっているのだった。




そんなコンシューマー・コンフィデンスの高さに加えて株価の上昇、労働賃金の上昇、そして過去50年来最低と言われる失業率の低さも手伝って、 ナショナル・リテール・フェデレーションは 2018年のアメリカのホリデイ商戦の売り上げが前年比で4.3〜4.8%アップすると見込んでおり、 これは金額にして7,170〜7,209億ドル(約81兆6161億円〜82兆600億円)という膨大な金額。
一方の小売り業界側は、そのホリデイ商戦の売り上げによっては大幅な店舗閉鎖と レイオフを迫られる大手チェーンが決して少なくないのが実情。 そうなってしまうのはトランプ大統領がスピーチのたびに語る「アメリカ史上最大の好景気」や、 トランプ政権が行った大幅減税が 2018年の小売りのセールスに さほど反映されていないため。
実際にコンシューマー・コンフィデンスは高くても、アンケートで「トランプ政権誕生後、生活が向上した」と回答したのは全体の38%。 「変わらない」と答えた人々が最も多く45%。そして17%が「生活レベルが悪化した」と回答しているのだった。

でもコンシューマー・コンフィデンスというのは、単なる消費者心理で生活の実態とは無関係の数字。 その楽観的な消費者心理の要因となっているのが前述の株価の上昇、労働賃金の上昇、失業率の低下といった 経済の明るい局面についてのニュース。 しかしながら9月4週目のこのコーナーでも説明した通り、 株価の上昇の大半は企業による自社株買戻しによるもので業績とは無関係のもの。 加えてアメリカ人の約半分が株式を所有していない今となっては、株価が上昇したところで経済状態が向上するのはもっぱらトップ1%。
労働者の賃金上昇についても、長きに渡って据え置きレベルだったものが昨年より 2.7〜2.9%アップした程度の話で、 その間にインフレーションが2%進み、FEDが公定歩合を約2%引き上げているので、低所得者で借金が多い人々ほど 労働賃金が上昇しても 生活が苦しくなっているのだった。
そもそもアメリカの平均的な世帯が年収の2倍以上の借金を抱えているのは、比較的所得がある人々は 住宅、学費、自動車のローンを抱え、所得が低い人々は住宅、自動車、医療費のローンに加えて 毎日の生活の出費が収入を上回っているためであるけれど、 そんな借金が当たり前のアメリカ人の生活を支えているクレジットカード・ローンの総額は、 2018年に入ってから 2008年の日本で言うリーマン・ショック時を上回り、史上最高レベル。 2008年半ばから2017年までは アメリカの公定歩合が0%台であったにも関わらず、上のグラフを見て分かる通り 一般庶民が支払うカード・ローンの利息と フィー(主に年間フィーと滞納ペナルティ)はその借金の増加に応じて毎年増え続け、 2018年には10兆円以上。低所得者になればなるほど、 毎月の利息の支払いしか出来ず、払っても払ってもローンが終わらない借金地獄に陥っているのだった。

失業率の50年来の低さについて言えば、下のグラフを見て分かる通り 経済のバブルが弾ける直前の兆候が 失業率の低下(グラフのピンクのラインがリセッション)。アメリカでは18〜49歳の健康な人間が フード・スタンプと呼ばれる低所得者のための福祉プログラムを受けるために 2014年から義務付けられているのが 週に20時間 / 1か月80時間の労働。 そのためアマゾン・ドットコムやウォルマートは フードスタンプを受け取るために働く人々を低賃金で雇っては、 人件費を大きく削減していることで批判されて久しい状況。 これらの人々は中途半端に時給をアップされるとフード・スタンプが受け取れないので、低賃金でも厭わずに働くのは言うまでもないこと。
要するに今のアメリカ社会においては、失業率の低さと景気、国民の生活レベルは全く無関係と言えるのだった。






さらにアメリカが優雅にホリデイ・ショッピングなどしている場合ではないことを裏付けるもう1つの兆候と言えるのが、 ”ペイデイ・ローン” と呼ばれる借金まみれの人々にとっての最後の砦と言われるビジネスが現在大きく拡大していること。
ペイデイ・ローンとは もともとは「給与の前借り」を意味する言葉で、例えば給料日前に5万円を借りて、 給料日に利息を付けて返すというような短期間、少額、高金利のローンを指す言葉。 アメリカでは クレジット・カードの限度額がマックスアウトした人々が 利用するのがペイデイ・ローンで、 これまでは写真上左側のような店に出向いての借金が一般的であったけれど、今ではスマートフォンを使って オンライン業者から簡単に借金が出来るとあって、その便利さや罪悪感を伴わない手軽さで大きくビジネスを伸ばしているのだった。
このペイデイ・ローンのブームに昨今便乗したのがウォルマートで、全米最大の雇用主である同社がチームアップしたのが オンライン・ペイデイ・ローン業者のイーブンという企業。 「イーブンのテクノロジーを使って従業員が自分の経済状態を把握することが可能になり、さまざまな支払いも簡単に出来るようになる」というのが ウォルマートによる表向きのシステム導入の理由。でも従業員が最も利用すると思われるのは 給料日の13日前から次の給料日まで無利子で 前借りが出来るというペイデイ・ローン。 ウォルマートでは2週間ごとに給与が支払われているようだけれど、「給与システムから 無利子で前借りが出来る」となれば、従業員がこぞって利用するのは目に見えていること。 でも人間というのは簡単でリスクが少ないと思われるシステムの下では気が緩むので、 もし給料日になっても前借り分を全額返済出来ないほどお金を使い込んでしまった場合は、 他のペイデイ・ローン会社よりは若干良心的であっても、高額の利息をイーブンのシステムを通じてウォルマートに支払うことになるのは当然のこと。
要するに従業員が他のローン会社で借金をして利息をむしり取られるのなら、 それを自社内でやってもらおうというのがこのシステム。 その結果、ただでさえ賃金が安く、ウォルマートの人件費削減に貢献している従業員が、さらにその給与の一部をウォルマートに還元することになるのだった。

さて前述のFEDによるアンケート調査では 簡単な経済用語を3つ挙げて、その意味を正確に理解しているか? という経済 IQ 調査も同時に行われているけれど、 それによれば きちんと理解していた成人アメリカ人は60%以下。 経済の基本的な知識に乏しい人々ほど貧困に陥る可能性が高いのは言うまでもないこと。 加えてそうした人々ほど将来や老後を深く考えずにコンシューマー・コンフィデンスの数値を上げるような 調査回答を寄せると指摘されるのだった。
でもそれらの人々にとって 景気に対するコンフィデンスの最大の要因となっているのは、他ならぬトランプ大統領。 実際トランプ支持者は「もしトランプ大統領が誕生していなかったら、今頃アメリカは大変なことになっていた」、 「これからトランプ大統領の政策で、アメリカの経済がさらに良くなる」と口々に語っているけれど、 これらはトランプ大統領が遊説の度に支持者に対して語っている内容。 そのトランプ氏は、GDPというものが通常何パーセントであるか 見当もつかない人々を相手に「第2四半期のアメリカのGDPは4.2%もアップした。 こんな事はあり得なかった。信じられるか?」と語り、それを達成できたのは「自分が魔法の杖を持っているから」と言って支持者の信仰心を高めているけれど、 実際にはオバマ政権下の2014年第2四半期にはアメリカのGDPが5.1%アップしており、それ以外にも4.2%を上回ったことは何度もあるのは過去のデータから直ぐに分かること。
しかしながらトランプ氏をアメリカの救世主と仰ぐ支持者達は 「アメリカは今までの歴史が証明する通り、常にそして必ず勝利する」、「我々はどんどん豊かになって、世界中が羨む唯一の裕福な国家になる」というような ナショナリスト的なスピーチを聞くたびに 未来への希望を新たにしている訳で、そのことは 演説に熱狂する支持者の様子にまざまざと現れているもの。こうしたナショナリズム、ポピュリズムは歴史的に経済が潤っている時には決して起こらない現象なのだった。
いずれにしても今年のホリデイ・シーズンに、アメリカ国民の多くが明るい経済のフェイク・ニュースに煽られて さらに借金を増やしながらショッピングをするのはありがちな傾向。 でも多くのデータから経済専門家が指摘するのは、そんな2018年が「アメリカが次のリセッションに突入する前の最後のホリデイ・シーズンになるだろう」ということなのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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