Nov. 12 〜 Nov. 18 2018

”They Are Shameless Scammers!”
実は全員がグルだった! 全米を欺いたクラウドファンディング詐欺の真相


今週のアメリカで最大の報道になっていたのがカリフォルニアで史上最悪の被害を出しているワイルドファイヤーのニュース。 私がこのコラムを書いている今日11月18日の段階で死者74人、行方不明者1000人、約9000の家屋や施設を含む 24万エーカー以上を焼き尽くしたのがこの山火事。その煙の大気汚染はサンフランシスコにまで及んでおり、 サンフランシスコ市民がマスクをせずに1日生活をするとタバコ11本の喫煙と同等のダメージを肺に与えることが伝えられているのだった。 現時点では未だ山火事の50%しか収まっていない状態で、火が収まった後には消火に使われた大量の水による土砂崩れのリスクが懸念されている状況。
その一方で今回のワイルドファイヤーはマリブやカラバサスといったセレブリティが邸宅を構える地域にも大被害をもたらしているけれど、 そんな中 物議をかもしていたのが、カニエ・ウエスト&キム・カダーシアンがプライベート・ファイヤーファイターを雇ってその55億円の大邸宅を守ったというニュース。 プライベート・ファイヤーファイターのサービスは、2005年からAIGが高額所得者を対象にオファーするようになったもので 他社もそれに追随。フォーブスの長者番付上位400人のうちの42%がAIGのサービスのクライアントであるとのこと。 プライベート・ファイヤーファイターは「熟練した元消防士」と言われるものの、雇い主である保険会社がそのバックグラウンドを公表しないので、 実際にはどの程度のトレーニングを受けているかは不明。しかも誰の住宅でも分け隔てなく消火作業に当たる 地方自治体のファイヤーファイターとは異なり、彼らが守るのは有料クライアントの邸宅のみ。 彼らの作業が 時に地方自治体のファイヤーファイターの妨害になるだけでなく、その作業のリスクを高めることもしばしば。 そのため現在 疑問視されているのが 山火事という自然災害において、お金を払った高額所得者の命や住居を 優先して守ることが 果たして合法であるべきかということ。
医療現場でも高額所得者のみを対象としたプライベート医療機関が存在するものの、 山火事や自然災害のようにコミュニティが一丸となって対応すべき問題で 救援・救済作業をプライベート化するのは 作業の効率の見地からだけでなく 社会的道徳の見地からも間違いというのが 世論の言い分なのだった。




そんな中、 昨年末から合計で 3度目の大報道ネタを今週木曜に提供したのが、 ホームレス男性を救済する名目でクラウドファンディングで集めた大金を使い込んだカップル。 CUBE New Yorkでも既に二回彼らについてのネタを取り上げているけれど、 今回報じられたのは 実はホームレス男性とこのカップルが最初からグルで、アメリカ中が彼らがでっち上げた美談に騙されていたという真相。
これまでの経緯を簡単に説明すると、このストーリーがまず美談としてソーシャル・メディアでヴァイラルになったのは昨年2017年11月のこと。 フィラデルフィアのハイウェイで車がガス欠でストップしてしまったニュージャージー在住のケイト・マクルアー(27歳)を助けたのが ホームレスのジョニー・ボビット(34歳)。彼が手持ちの最後の20ドルをケイトのガソリン代のために使ってくれた親切に感謝した ケイトとボーイフレンドのマーク・ダミーコ(38歳)は、後日お礼と 食料や衣類を差し入れるためにボビットを訪ね、 その後も頻繁に彼への差し入れをするようになったとのこと。 そうするうちにボビットが元海軍で、その後パラメディックとして勤務をしていたものの、不運と金銭トラブルに見舞われてドラッグに手を出し、 やがて友人も家族も居ないフィラデルフィアでホームレスとして過ごすようになったことを知り、 「そんな不遇に見舞われても人助けをする優しさと謙虚な人柄に 動かされた」という2人が クラウドファンディングのウェブサイト GoFundMeでスタートしたのが ボビットがホームレスから脱するための資金集め。 ゴールは1万ドル(約110万円)であったものの、その美談がメディアとソーシャル・メディアでヴァイラルになったことから 1万4000人の人々から 40万3000ドル(約4,470万円)もの寄付が寄せられたのだった。

ところがその約9か月後 2018年8月に報じられたのは、 GoFundMeで集まった約40万ドルの寄付金が ケイト・マクルアーとマーク・ダミーコの贅沢な暮らしに使われ、 ジョニー・ボビットが再びホームレスに戻ったというニュース。カップルはBMWの新車を購入し、 フロリダ、カリフォルニア、ラスヴェガスでヴァケーションを楽み、 グランド・キャニオンのプライベート・ヘリコプター・ツアーの様子をソーシャル・メディア上にポストする羽振りの良さ。 にもかかわらずボビット自身には僅かな金額しか与えられなかったことから、彼が地元フィラデルフィアの新聞に告白。 それを受けて元海軍の彼のために無料の弁護士がついて、カップルから寄付金を取り戻そうと動き出したのがこの段階。 ボビットへの寄付金は彼が銀行口座を持っていなかったことからカップルの口座に振り込まれており、 2人は当初この贅沢な暮らしぶりを自分たちの貯金によるものと主張。しかしケイト・マクルアーはニュージャージー州交通局の受付、 マーク・ダミーコ は工事現場作業員で、彼らの贅沢ぶりは明らかにその収入を遥かに上回るものなのだった。

ボビットのために集まった寄付金の使い道について メディアから問い詰められた2人は、GoFundMeの手数料に5万ドル、ボビットのためのID取得、彼のために購入した携帯電話、TV、SUV、ラップトップ・コンピューター、 家よりもトレーラーで暮らすことを望んだボビットの住宅としてのトレーラー、 弁護士の費用に加えて、彼の家族やドラッグ中毒の弟の世話代 などを列挙。 それでも「未だ寄付金が15万ドル以上残っている」と語ったものの、 裁判所から2人に対して寄付金支払い命令が下りた直後に判明したのが、既に残金がゼロであったという事実。
これを受けて地元警察が本格的に捜査に動き始めたと同時に、GoFundMeも集まった寄付をボビットに支払うと約束。 そしてその捜査がきっかけで 実はボビットもカップルとグルで、最初から3人でクラウドファンディング詐欺を企てていたという真相が明らかになったのだった。




ジョニー・ボビットはマーク・ダミーコとケイト・マクルアーが常連だったフィラデルフィアのカジノの付近で常にたむろしており、 2人がカジノの外でタバコを吸う度に会話を交わすうちに徐々に親しくなっていったとのこと。 ボビットが元海軍兵で、パラメディックとして働くうちに離婚、金銭難、ドラッグ中毒という不遇に見舞われたという ”クラウドファンディングで寄付が集まるバックグラウンド”の持ち主であることを2人が知ったのもそんな会話を通じてのこと。 でもそれだけでは人々の関心を引くのには不十分として でっち上げたのが、ガス欠で困っていたケイトをボビットが彼の最後の20ドルで救ったという美談。 ケイト・マクルアーは友人 へのテキストメッセージで 「そうでもしない限りは誰も寄付をしない」と説明しており、 彼女の友人や家族は これが詐欺であることを薄々勘付いてはいたものの、見て見ぬふりであったという。
いずれにしてもブレイク・ラーブリーに似たグッドルッキングなケイトと、自らも不遇に見舞われた経歴を持つというマーク・ダミーコのカップルが、 ”元海軍兵のホームレス”という アメリカ人が最も同情するバックグラウンドのボビットの親切に感謝して 彼を助けようとするシナリオは、クラウドファンディングで最もお金が集まるゴールデン・フォーミュラ。 それを立証するかのごとく ゴールの40倍である約40万ドルを集めたのが彼らの詐欺行為で、今となってみれば これだけの寄付が集まったのは そのセッティングが出来過ぎていたためとも思えるのだった。

もちろん本人達もここまでの寄付が集まるとは思っていなかっただけに、最初からしっかりと取り決めをしなかったのが利益配分。 捜査の結果明らかになった寄付金40万3000ドルの使い道の内訳は、まずGoFund Meの手数料に4万ドル、 カップルが家族から借りていた借金の返済に9000ドル、カジノでのギャンブル代に8万9000ドル、 カジノでのその他のチャージ(ドリンク代等)が2万ドル、BMWの新車やルイ・ヴィトンのバッグ、ジュエリーの購入と2人のフロリダ、ラスヴェガス等への ヴァケーションに17万4000ドルで、ボビットへの支払いは約7万5000ドル程度であったという。 この明らかに不公平な利益配分に対して、カップルに掛け合っても埒が明かなかったことから ボビットがメディアに訴えたのがこの詐欺の全容が明らかになったきっかけ。
警察も「もし8月の時点で、ボビットとカップルが寄付金の分配をめぐって争っていなかったら、3人はこのクラウドファンディング詐欺を見事に成功させていただろう」 とまで語っているのだった。

3人とも有罪が確定すれば最高で10年の禁固刑、ケイト・マクルアーは初犯であるものの、ボビットとダミーコは前科がある身。 それもあって、既にダミーコと別れて別々に暮らすようになっていたケイト・マクルアーの弁護士は、 彼女が2人に利用されただけで「彼女は本当にボビットを助けようと思っていた」と寄付金で購入されたルイ・ヴィトンのバッグやジュエリーが まるで自分の物ではないかのような弁明を展開しているのが現在。 警察は捜査に当たって 容疑者達の6万通ものテキスト・メッセージを押収しているけれど、 その中には「寄付の残金が1万ドルを切ってしまった」と嘆くケイトに対して、 でっち上げの美談で本を出版つもりでいたマーク・ダミーコが「やがては出版契約金が入ってくる」とタカをくくっている やり取りも含まれていたそうで、それは2018年3月、ボビットが自分へ分け前が無いと不満を訴える5カ月前のことだったという。




この報道を受けて ソーシャル・メディア上では「知らない人間にお金を与えるものじゃない」といったリアクションが溢れているけれど、 集まった寄付の10%を手数料として着服するGoFund Meは、当然のことながら 「こんな詐欺行為で ビジネスを台無しにされては大変」とばかりに、この報道の2日後には寄付をした1万4000人に寄付金全額を返金すると通達し、 この事件を「きわめて稀なケース」と説明。 しかしながらこれまでにも「不治の病気の子供に最後に楽しい思い出を作るための旅行費」をクラウドファンディングで集めて、 親の方が良い思いをしているようなエピソードは何度となく聞かれてきたことなのだった。
とは言っても寄付金がどう使われているか分からないというのは、アメリカン・レッドクロスとて同様。 被災地現場で作業をする訳でもないエグゼクティブ がファースト・クラスで現地を訪れ、ファイブスター・ホテルに泊まっている様子や、 レッド・クロスから寄せられる救援物資が普通に購入する5倍の価格で、わざわざ運送費が掛かるところから届く様子は、 ニューヨークがハリケーン・サンディの被害に見舞われた際にニューヨーカーの間で大きな物議をかもしたこと。 加えて寄せられた寄付が次の災害に備えてプールされるなど、アメリカン・レッドクロスに限らず、集まった寄付が どう使われているか、本当に本来の目的で使われているかが分からないチャリティ団体は非常に多いのだった。
「中にはそれを個人レベルで行っているのがクラウドファンディング」という指摘も聞かれるけれど、 子供の病気の治療費を集めようとしたカップルがクラウドファンディングで大金を手にした場合、 「少しくらいなら…」と自分達のために使ったことがきっかけで、あっという間に使い果たしてしまうというのは、 人間が麻薬中毒になるプロセスに類似したもの。それほどお金の誘惑というのは実際にそれを手に入れた場合に 逆らえないほどパワフルなものなのだった。

同じく今週には1990年にウエスト・ヴィレッジにオープンしたブリティッシュ・ティー・サロン兼レストランのティー&シンパシー(写真上、左側3枚)のオーナーが 「NYの高額レントを払い切れない」として 10万ドルをゴールにGoFund Meでクラウドファンディングをスタートしているけれど、 このオーナーが救おうとしているのはティー&シンパシーだけでなく、その隣で1994年から経営するイギリスの食材やティーカップを販売する キャリー・オン・ティー&シンパシー、そのさらに隣で1999年から営むフィッシュ&チップスの専門店、ソルト&バタリーの合計3店舗。
ティー&シンパシーは18席程度の極めて小さな店で、残りの2軒も同様であるけれど、 これら3店舗の1か月のレントだけでも2 万8000ドル。それ以外に税金や取引業者への支払いを抱えて倒産寸前の様子が GoFund Meのページで説明されていたのだった。 またオーナーは別途、ニューヨークのローカル・メディアのインタビューに応えて、7ドルのスコーン、14ドルのフィッシュ&5ドルのチップスでは 経営が成り立たないとコメントしていたけれど、道に面した商業スペースのレントとは言え、 その面積を考慮すると馬鹿げたレントを支払う羽目になっているのは、3軒が別々の建物であることから 賃貸契約も3軒分で割高になっているため。
GoFundMeのサイトに書き込まれたメッセージには「ここが閉店したら寂しい」というものが多かったけれど、 このニュースを伝えた記事に対するリアクションの中には 「こんなに小さな店で、客が長く居座るようなスタイルでティー&スコーンを出していたら、 ニューヨークのレントでやっていけないのは当然」、「クラウドファンディングをする前に、一番儲かっていない店を1軒閉めるべき」等、 ビジネスの在り方を批判する声もあり、確かに私もティーカップやイギリスの箱入り菓子を売るキャリー・オン・ティー&シンパシーはチャーミングであっても ビジネスという見地からは無駄なように思えるのだった。 中には今週の詐欺事件の報道を受けて「退役軍人が最後の20ドルをこの店で使ったら寄付が集まるかも」といった皮肉の書き込みも見られたけれど、 正直なところ 今週のこの2つの報道で私もクラウドファンディングというものの意味が分からなくなってしまった1人。

そもそも私が最初にクラウドファンディングの存在を知ったのは”キックスターター”で、 これはインベスターがつかない、もしくはつけない状態でビジネスをスタートするアントレプレナー達が資金集めに利用していたシステム。 そのビジネスの将来性を見込んだ人々が、 ビジネスからの何等かの見返りと引き換えにお金を振り込んでいたのがキックスターター。 ところがGoFundMeがメインストリームになってからというもの、子供の病気の治療費、事故に見舞われて働けない友達のための生活費、 時にボディ・コンプレックスを解消したい女性の豊胸手術代までもを募るチャリティ手段となったのがクラウドファンディング。 そのキーポイントは同情を煽ることで、将来性や希望を掲げた等価交換であったキックスターターのクラウドファンディングとは似て非なるもの。
ティー&シンパシーにしても経営を見直して、新しいプロジェクトに着手する将来性などを謳うのであれば 建設的なクラウドファンディングと言えるけれど、 朝から晩まで満員でも採算が合わないビジネスを続けて、閉店を先送りにするだけのためにお金を集めるのでは 意味がないというのが私の正直な考え。 もちろん 同店のような小さなビジネスが 生き残って行けないほどにレントが値上がりしてしまった社会や金融システムにも問題があるけれど、 本来お金を稼ぐ目的で運営されている商業ビジネスが、非利益団体同様のチャリティを自らのために同時に行うというのはルール違反とも考えられる行為。 加えて同店を救うための寄付がゴールである10万ドルに達したとしても、そのうちの1万ドルはGoFundMeが着服する訳で、 寄せられた寄付が本当に助けているのは 人々の善意から利益をはねているGoFundMeという企業なのだった。

そうかと思えば少し前にはカリフォルニアのドーナツ・ショップのオーナー(写真上右側2枚)の妻が病気になってしまったことを知った長年の常連客が オーナーのためにクラウドファンディングを申し出たところ、彼がそれを丁寧に断ったことから 毎日少しでも早くドーナツが完売して オーナーが妻の看病のために病院に行けるようにと 地元コミュニティでドーナツの買い占めがスタート。その結果、常に午前中でドーナツが売り切れるという美談が報じられていたけれど、 このオーナーがクラウドファンディングを断ったのはおそらくプライドが邪魔をした、もしくはそういう形でお金を受け取りたくないと思ったため。
でも、もしオーナーがクラウドファンディングでお金を受け取り、店を休業して妻の看病をするようになれば、その間に 彼の店はコミュニティに忘れられたり、コミュニティにとって無くても良い存在になり下がっていたかもしれない状況。 そもそもオーナーがコミュニティから得ているサポートは 彼の長年に渡る毎日のハードワークによって獲得したもの。 したがってクラウドファンディングを断ったオーナーの判断は正しかっただけでなく、そこから見習うべきことが沢山あると思うのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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