Apr. 1 〜 Apr. 7 2019

”Unicorn, Too Good To Be True...”
ラテからメーク、IPOまで、
ユニコーン・ブームがHot からSlow Burnに変わる時



今週のアメリカで IPO(株式公開)ドラマを演じていたのが 3月28日金曜に株式が公開されたばかりの カーシェアリングの”Lyft / リフト”。 72ドルの公開価格から あっという間に85ドルまで上昇した後、4月1日の月曜には70ドル以下に下落。 その段階で多くのアナリストたちが ”Sell" のアドバイスをしたことから、急増したのがリフトのショート・セリング(空売り)。 その結果、4月3日の時点で4億5500万ドルのショート・セリングを記録したリフトは、 アメリカ株式史上の空売り記録を塗り替えているのだった。
またその前日4月2日にはリフトが モルガン・スタンレーに対して 「株式公開から180日間の売却停止協約を結んだ株主に対して ショート・セリングのサポートをしている」として、訴訟をほのめかすレターを送っていたことが伝えられるけれど、 そのリフトの株価は週末には元通りの72ドルで取引を終えており、 「一体この騒ぎは何だったのだろう?」という印象を与えているのが現時点。 ここで「大損はしなかった」とホッとする一般投資家の損失は、言うまでもなくこのシナリオを書いたメガリッチのところに転がり込むのが 相場の仕組みというものなのだった。




リフトは 2019年の株式市場に1億ドルを超える資金をもたらすと見込まれる ”ユニコーン IPOブーム” の先陣を切って公開された株式。
アメリカでは過去数年に渡って ”ユニコーン・ラテ”、 ”ユニコーン・メーク”等、”ユニコーン”がカルチャー・トレンドになってきたけれど、 ユニコーンとはファンタジーに登場する角が生えた白馬で、羽根が付いたバージョンもある架空の生き物。 パステルトーンのレインボー・カラーやグリッターと抱き合わせのイメージで、 欧米社会では ユニコーンと言えば夢や幸運、至福の喜びのシンボル。 普通の社会ではあり得ない夢やファンタジーの象徴になっているのだった。

その一方で金融の世界で使われる ”ユニコーン”が意味するのは、設立から短期間に10億ドル以上の価値を認められた IPO前の企業。 その語源となったのは 2013年にヴェンチャー・キャピタリストのアイリーン・リーが発表したレポートで、 その中で設立10年以内に10億ドル以上の価値を認められたIT関連企業を ”ユニコーン” と呼んだのがその始まり。 具体的には10億ドル以上の企業価値で ”Decacorn / デカコーン”、100億ドル以上の企業価値で”Hectocorn/ヘクトコーン” と呼ぶのが正しく、 それらの総称が”ユニコーン”。
日本でも徐々に ”ユニコーン企業” という言葉が使われるようになってきたけれど、 ”ユニコーン企業”に先行投資をすれば、それがIPOを果たした時点で 夢が叶うような大儲けが出来るというのがネーミングの背景。 これまでユニコーンとして 10億ドル以上の企業価値が認められてIPOを果たした中には フェイスブック、アリババ、スポティファイ、ツイッター等があるけれど、 今後IPOが見込まれるユニコーンは2018年3月の段階で279社。 その中に含まれているのが 2019年中にIPOが予定されるUber、エアb'n'b、ピンタレスト、オフィス・シェアリングのWeWork / ウィウォークといった 著名どころ。
国別に見るとユニコーンが最も多いのは中国で127社、次いでアメリカの92社、3位がインドで22社。 それ以降はイギリスが8社、韓国が7社で、圧倒的に中国とアメリカにユニコーン企業が集中しているのだった。




アメリカにおいては、ユニコーン企業の設立者はアイヴィーリーグなど一流大学の出身者が多いことが伝えられるけれど、 能力もさることながら、ベンチャー・キャピタルからの資金調達ルートが得やすいのが一流大学。 でもユニコーンが好業績で伸び続けてきた企業かと言えば、決してそうではないのが実情なのだった。
例えばリフトは2018年に22億ドルを売り上げながらも、9.1億ドルの損失を計上。 2017年には11億ドルの売上で6.9億ドルの損失、2016年には3.4億ドルの売り上げに6.8億ドルの損失を出しており、 IPOで儲けたいインヴェスターの資金無しには成り立たないのがその経営。 IPO直前に売り上げを伸ばした背景も より高額のエヴァルエーション(価値査定)を獲得するために、 ”10回までの利用が半額” というようなディスカウント・クーポンを乱発して利用者を増やしたことが伝えられるのだった。
またリフトはIPO直前には同社のドライバーに1人1000ドルのボーナスを支給して、 株式購入をオファー。それによって公開と共に株価が値上がりする策を講じていたことも伝えられるのだった。

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そのリフトのIPO前の大手シェアホルダーとして名前を連ねていたのは、ジェネラル・モータース、 フィデリティ・インベストメント、アルファベット(グーグル)、楽天等で、これらは最低5%のリフト株を所有していたとのこと。 同じくリフトの大手インヴェスターであったカール・アイカーンについては IPOを待たずして 同社株式を全てジョージ・ソロスに売却した報道も流れているけれど、リフトは競合相手で 今後IPOを控えるUberに比べるとテクノロジーも劣り、 ビジネスの可能性も限られているのはアメリカでは周知の事実。したがって 大株主によるIPOを待たずしての売却は珍しいケースとは言え、 ”Pump & Dump / パンプ&ダンプ” と呼ばれる短期相場を予測する声が最初から聞かれていたのだった。
Uberについてはリフトの5倍近い1200億ドルの企業価値が見込まれるけれど、これはジェネラル・モータース、フィアット&クライスラーの 3社の合計を上回る価値。 しかしながらUberという企業が ドライバーと利用者を結びつける仲介ビジネスであることを考えると 果たして現時点でそれだけの価値があるかは微妙なところ。 同様のことは エアb'n'b にも言えるけれど、 Uberに関してはアプリを通じてかなりのユーザー情報を集めているだけに、 そのデータとノンドライバーズカーの活用によって、業績が将来的に大きく伸びるという意見は多いのだった。




IPOを果たしたユニコーンが期待外れに終わった例としては 必ず名前が挙がるのが、 レシピと材料を含むホームクッキング・キットをデリバリーをする”ブルー・エプロン”、 そして モデルのミランダ・カーの夫、イヴァン・スピーゲルがCEOを務めるスナップチャットの親会社、”スナップ”。 どちらもIPO直後こそは株価が順調な動きをしていたものの、やがてどんどん値を下げて 投資家を大損させた存在。ブルー・エプロンについては経済メディアが「2019年のユニコーン IPOブームのオーメン(不吉の前兆)」と呼ぶだけあって、現時点の株価は2017年の公開時から94%ダウン。 ユニコーン企業の中でも最悪の業績を計上しながら、何故か32億ドルという価値が認められてIPOに漕ぎつけた企業なのだった。

前述のようにアメリカと中国にユニコーン企業が集中しているのは ビジネス界で動いている資金が 他国に比べて遥かに多いこともあるけれど、 その背景にオーバー・エヴァルエーション、すなわち 実際の業績よりも ”将来性=希望的観測” が大きく考慮された過剰な価値査定があるのは否定出来ない事実。 これについては「投資家は企業の現状ではなく、未来に投資をしているのだから それが当たり前」という声もあれば、 「企業価値を過大評価することにより、一般投資家を欺いている」という見方もあるけれど、 現在のIPOは 先行投資をしたヴェンチャー・キャピタリストやメガリッチ・インヴェスター、企業インサイダーを大儲けさせるためのもの。 「優良企業が力をつけて、業績拡大のために幅広く投資を募る」という時代は とっくの昔に終わっており、 たとえユニコーンが未来のクズ企業であっても、市場でバズを生み出して エリート層さえ儲けさせれば それで十分役割を果たしたと見なされるのだった。
なので経済専門家の間では、ユニコーン企業株を ”ファンタジー業績を描いたファンタジー株”、”現実にはあり得ない架空の優良株” という意味の皮肉に捉える 傾向があるのもまた事実。 したがって”ユニコーン”という名称は、企業がIPOでどちらに転んだとしても”言い得て妙” のネーミングと言えるのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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