Apr. 29 〜 May 5 2019

”Be Careful When You're Faking”
インフルエンサーからヴァケーションまで、
未だ健在のインターネット・フェイク・ビジネス



日本は今週ゴールデン・ウィークの真っ最中であったけれど、5月最終月曜のメモリアルデイ以降、 サマー・ヴケーション・シーズンに入るアメリカで報じられていたのが、ソーシャル・メディアにポストする フェイク・ヴケーション・フォトのビジネスが大繁盛しているというニュース。
フェイク・ヴケーション・フォトのサービスは決して新しいものではなく、前回のリセッション直後に ヴァケーションに行けない人々が ”ステイケーション” などと言っていた時代から、 写真下左のようなセットで ビーチ・ヴァケーションのフェイク・ショットを撮影するビジネスがスタート。 またプライベート・ジェットの会社も、ソーシャル・メディアのインフルエンサーのために 空港に停めてあるジェット機をフォトスタジオとして貸し出すサービスをしており、 中国人やロシア人のフェイクリッチ達が そこでシャンパンをすすりながらリラックスする姿や プライベート・ジェットから颯爽と降り立つ姿を撮影してはインスタグラムにポストしていたのだった。
でも今ブームになっているのは写真下中央のようなフォトショップで フェイク・ヴァケーション・フォトをクリエイトしてくれるサービス。 これならば自分や家族のデジタルフォトを業者のサイトにアップするだけで仕上げてもらえるので、 何処にも行く必要が無く、旅行地に応じた複数の観光名所パッケージもあるので それを選べば数枚のヴァケーション・フォトが仕上がってくるとのこと。 お値段は観光地によって異なり、グランドキャニオンなら1枚約50ドル、ラスヴェガスで約20ドル。 実際に出掛けるよりは遥かに安いものの、見栄を張るだけの目的としては決して安くないお値段。
もちろんフォトショップの腕さえあれば写真下右のロンドンのティーンエイジャーのように、 自分がプライベート・ジェットに乗る姿をフォトショップでクリエイトして、6万8000人のフォロワーを見事に欺くことも可能な訳で、 今や ソーシャル・メディア・ユーザーの10%が「ポストしたことがある」と回答しているのがフェイク・ヴァケーション・フォトなのだった。






個人のヴァケーション・フォトのフェイクならば、バレても「みっともない」程度で済まされるけれど、 それをスポンサーがついたトラベルでやってのけて批判を浴びたのがスウェーデン出身のトラベル・インフルエンサー、ジョアナ・オルセン(写真上、28歳)。 彼女はアパレル会社にフィーを支払われてパリに出向き、そこで数々のファッション・フォトを撮影したことになっていたけれど、 程なくスウェーデンのTV局が特集を組んで暴いたのが それらがことごとくフェイクであった事実。
彼女はトラベル・インフルエンサーと言いながらも、実際には自分の写真をドバイやヴェニス等のバックグラウンドに張り付けて インスタグラムにポストしていただけ。パリの写真は彼女の”作品” の中では出来が悪かったもので、 フェイクを暴かれた彼女のリアクションは 自分のフォトショップ・テクニックとモデルぶりを誇る開き直り。 批判を浴びた場合には 謝罪より開き直りの方が延命効果が高いのは政治家でもインフルエンサーでも同様なのだった。

ジョアナ・オルセン以外にも このコラムのトップの写真に登場している インスタグラム・インフルエンサー、アメリア・リアナは 2017年5月のニューヨーク旅行のスナップとして、 ワン・ワールド・トレードセンターが出来る前のミッドタウンからのビューに自らの写真をフォトショップするという 初歩的なミスを犯しているけれど、 同じフェイクNY旅行のスナップでさらに犯した失敗が写真下、左側のショット。写っているのは当時インスタグラムで人気を博していた チャイナタウンのバクスター・ストリートにあるタイヤキNYCのソフトクリームであるけれど、 バックグラウンドはそこから約60ブロック離れたマディソン・アベニューの50丁目付近。 「アイスボックスに入れて運んだとしても、この場所でこのアイスをこんな風に撮影するのは不可能」と指摘され、フォトショップの出来としては悪く無かったものの 物理的不可能でフェイクを見破られているのだった。
その彼女のフェイクフォトで最も有名なのは 写真下、右側の周囲に誰も旅行者が居ないタージマハールのショット。 加えて上空の鳥のサイズが大き過ぎたり、タワーが曲がっていたり、 左足だけが太い彼女の影がプールの縁でプッツリ切れている不自然さを露呈しているのだった。






今では大学卒業直後、もしくは就職後に仕事に見切りをつけて 世界旅行をするミレニアル世代が増えているけれど、 そんな様子を2014年にいち早くソーシャル・メディア上で公開していたのが オランダ人モデル、ジラ・フォン・デン・ボーン(写真上)。 大学を卒業して 社会に出る前に世界旅行に飛び出した彼女は、アムステルダムの駅で両親に見送られて 旅をスタートした瞬間から タイ、ラオス、カンボジア等、新たな国や土地を訪ねる度に、 地元の風景と自分の姿、食べ物のショット等を次々とフェイスブックにポスト。 家族や友人を含むフォロワー達は ジラが生涯で最高の旅を楽しむ様子を毎日のようにチェックしては、 彼女が次に何処へ行くか、彼女が最後に何処に行き着くかを興味津々で見守っていたとのこと。
そしてその42日後にジラが家族と友人を集めたスカイプセッションで明らかにしたのが、 彼女がアムステルダムの駅で両親に見送られて旅に出たふりをして、実は直ぐにアムステルダムに戻り、 旅行の写真を全てフォトショップでねつ造してフェイスブックにアップしていたという事実。


大学のカリキュラムの一環として「ソーシャル・メディアによって作られたイメージを いかに社会が簡単に信じるか」 を立証するのがこのプロジェクトで、事実を知っていたのはこれに協力した彼女のボーイフレンドだけ。 旅行中に味わっていたと思しき 各地のフードはジラの自作の料理で、カンボジアの仏教僧と思しき人物とのスナップは アムステルダムにあるテンプルに出向いて撮影されたフォトショップ無しの本物。彼女はアムステルダムから一歩も出ることなく、世界各地へのフェイク旅行を 誰にも悟られずに発信し続けていたのだった。
真実を明かしたジラのもとには フォロワーからフォトショップの腕や アイデアを賞賛する声、 プロジェクトを支持する人々からのサポートが寄せられたというけれど、 彼女にとって誤算だったのは フェイク旅行がその後の家族関係、友人関係に想像以上のダメージをもたらしたことだったという。

昨今ではトラベル系、ラグジュアリー系のマイクロ・インフルエンサーにスポンサーが付き易いことから、 そのフェイク・アカウントが増えており、 昨年インスタグラムが行ったのがそんなフェイク・アカウントの一斉摘発。 中にはフェイク・ポストに刺激され、自分も同じようなライフスタイルで収入を得ようとして失敗するケースもあるけれど、 その実例と言えるのがマイアミ在住の女性マイクロ・インフルエンサー。
彼女は南米に住む家族が営む密輸ビジネスの手助けをし、その多額の利益で シャネルやグッチといった高額ブランド品を購入。それを見せびらかすショットを マイアミのホットなクラブやレストランで撮影してはインスタグラムにポストし、1万人までフォロワーを増やしたという。 しかしながら身分不相応な贅沢ぶりの写真が怪しまれことから 密輸がバレてしまい、南米の家族がこぞって逮捕される事態を招いているのだった。
その一方で 前述のような世界旅行に出掛けるミレニアル世代の多くが当てにしているのが ソーシャル・メディアでフォロワーを増やして得られる収入。 その数を増やすために あえて危険なショットを撮影したり、政情不安な国に出掛ける愚かさがここへ来て問題視されているけれど、 そんな彼らに多大な影響を与えてきたのが 自分が実際に出掛けていない旅行のフェイクフォトをポストしてきた インフルエンサーたち。 フォトショップだからこそ可能になる完璧な夕陽や、星空、人が居ないビーチや観光地での 絶好のショットは、疑ってかかる習慣がついて初めてフェイクと見破ることが出来るものなのだった。






2017年の時点で インスタグラムだけでもインフルエンサーを起用したマーケティングは 10億ドルに達したと言われ、 キム・カダーシアン級になれば1ポストで1億円以上のフィーが支払われるのは周知の事実。 彼女ほどの知名度が無くても、数千万円のフィーを受け取るインフルエンサーは決して少なくないのが現状。 またフィーの代わりに高額商品や、旅行との引き換えで広告を引き受けるインフルエンサーも多いのだった。
そのため4ツ星、5ツ星ホテルに このところ1日20件前後も寄せられるようになったのが 「ソーシャル・メディア・ポストと引き換えに 特定のインフルエンサーを無料滞在させたか?」という問い合わせ。 この問合せはインフルエンサーのポストの真偽を問うものかと思ったら大間違いで、 国税局による脱税の取り調べであるケースが殆ど。 あのメーガン・マークルもベイビー・シャワーで受け取ったギフトについて、「総額によっては申告の義務がある」ことを国税局から 警告されているけれど、欧米諸国では一定金額以上のギフトには収入として申告の必要があるのだった。

とは言っても国税局に申告義務が生じるほどのインフルエンサーになれればラッキーな方で、 このところ増えているのがインフルエンサーになるためにフェイク・フォロワーやフェイク・コメントをお金で買っては 借金を増やしている人々。 今ではソーシャル・メディア側の フェイク・フォロワーのチェックが厳しくなっていることから、 バレないフェイク・フォロワーは毎年フィーを払って更新しなければならないとのこと。
女性がマイクロ・インフルエンサーの仲間入りをするために必要な 5万人のフォロワーをフェイクで賄おうとした場合、年間に掛かる費用は約340万円。 インスタグラムの世界では10万人のフォロワーで ようやく1ポストにつき1000ドル(約11万円)のフィーが支払われるのが一般的な相場なので、 フェイク・フォロワーを買ってマイクロ・インフルエンサーになったところで採算が合わないけれど、 そうとは知らずにインフルエンサー・リッチを目指す人々が喜んで大金を投じるのが バレないフェイク・フォロワーの獲得。
一方、企業やブランドは フォロワーの規定数をクリアして自分の会社に登録したインフルエンサーの70%以上を採用しないと言われるけれど、 理由はやはりフェイク・フォロワーを疑っているため。 インスタグラムのトップ20アカウントでさえ、その16%のフォロワーがお金で買ったフェイク。 セレブリティにしても「ツイッターのフォロワーの3分の1がフェイク」というケースは全く珍しくないのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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