May 20 〜 May 26 2019

”Beyond Meat or Impossible Food?”
今、米国で加熱するオルタナティブ・ミート人気
その台風の目となる2つのブランドの実力は?



今週のアメリカも異常気象や人工中絶を巡るニュースが大きく報じられていたけれど、 ニューヨークの株式市場をある程度フォローしている人ならば、このところ嫌でも耳にするのが ヴィーガン・ミートのメーカーで5月1日にナスダックに上場したばかりの”ビヨンド・ミート”に関連するニュース。
公開時に25ドルだったビヨンド・ミートの株式は、その日の終値が65.75ドルと163%の上昇を見せ、 時間外取引では更に4%アップ。 これは1日に約220億円を集めた計算で、2001年以降のIPOでは公開初日に最も値が跳ねた株式。 ニューヨークの証券取引所の歴史上16番目の初日の上げ幅となっているのだった。
現在アマゾン傘下のホール・フーズを含む1万以上の食料品店と、レストラン・チェーンのTGIF、ファストフード・チェーンのカールズ・ジュニア、カナダのファストフード・チェーンA&Wなどで取り扱われる ビヨンンド・ミートは自身がヴィーガンであるイーサン・ブラウンによって2009年創設されたプラント・ベースの肉のメーカー。 近年IPOに漕ぎつける多くの企業同様に、ビヨンンド・ミートは未だ決済で黒字を出したことはなく、2018年の売り上げは5640万ドル(約61.6億円)。
同社製品のようなヴィーガン・ミートは近年”オルタナティブ・ミート” と呼ばれているのだった。




肥満や心臓病が社会現象になっているアメリカでは、肉食の人々に対しても”ミートレス・マンデー”を呼び掛けるなど、 肉を減らして野菜を多めに食生活に取り入れる働きかけが行われているけれど、 ニューヨークのようなヘルス・コンシャスな都市部に多いのは夜だけ肉や魚を食べる”デイタイム・ヴェジタリアン”、”ハーフデイ・ヴェジタリアン”。 オルタナティブ・ミートがターゲットにしているのは、アメリカ人口の5%と言われるヴィーガンやヴェジタリアンだけでなく、 健康のために肉を控えて、野菜を積極的に取ろうとする人々。 こうした人々にとってはサラダや野菜のソテーよりも、ハンバーガーの方が遥かに魅力的なメニューな訳で、 オルタナティブ・ミートが如何に今後の有望な投資対象であるかを指摘する声は市場関係者の間でも非常に多いのだった。

そのビヨンド・ミートの主原料は豆プロテイン、具体的には黄色豆が原料で、他にビーツやココナッツ等を用いているけれど、 飽和脂肪酸はビーフの25%減程度。カロリーは4オンス(113g)のパティで比較した場合、ビーフが290カロリー、ビヨンド・ミートは270カロリーなので、 ビーフをビヨンド・ミートに変えたところで健康面ではプラスになったとしても、ダイエットに繋がる訳ではないのが実情。
食肉市場の規模は全世界で1.4兆ドルで、アメリカ国内だけで2700億ドル。 バークレイズのアナリストは今週、オルタナティブ・ミートの市場が向こう10年間で食肉市場全体の10%に当たる1400億ドルに達するとの見込みを 発表。オルタナ・ミートがステーキに取って替わることは出来なくても、ハンバーガー・パティやミートボール等のひき肉、ソーセージの市場にどんどん割り込んで来ると予測。 事実、チキンバーガー・ファストフード・チェーンの大手、チックフィレもヴィーガン・メニューを近々導入する見込みで、ピザ・チェーンのリトル・シーザースも オルタナ・ミートをトッピングしたピザをメニューに加えたばかり。 このように大手ファストフード・チェーンがこぞって取り組み始めたのがオルタナ・ミートのメニューなのだった。
そのオルタナ・ミートの前身と言えるヴェジー・バーガーは、見事にヴェジタリアンとヴィーガンにしかアピールしないプロダクトであったけれど、 それを後目に プラントベースの代替品がノン・ヴェジタリアンにも浸透して、市場シェアを増やしていったのが乳製品。 2017年に20億ドルの売り上げに達したアーモンド・ミルク、ソイ・ミルク(豆乳)、ココナッツ・ミルク等のプラントベースのミルクは、 現在アメリカのミルク市場の13%を占めており、肉は食べても乳脂肪を控える人々や、ミルクのカロリーを抑えたいコーヒー・ドリンカー等にアピールしているのは周知の事実。 プラントベースのミルクが近年売上を伸ばした要因は、ヴァニラ・フレーバー等商品のバラエティが増えて 味が向上し、 様々な料理やデザートに用いられるようになったため。
そのためビヨンド・ミートでもプラント・ベース・ミルクのサクセス例をフォローしたビジネスをしていくことを明らかにしているのだった。




ビヨンド・ミートには現在、ハンバーガー・パティに加えて、ソーセージ、挽肉のパック、チキン、ポークのプロダクトが登場しているけれど、 その製品クリエイトの原点は肉を生産するのに本当に動物が必要なのか?という突飛なもの。 創設者のイーサン・ブラウンは人間が肉食になった歴史を紐解いて、肉を食べることにより人間が脳のサイズを拡大し、 狩猟をし、農業を営んで食の供給を安定させる生き物になった経緯を学んだとのこと。 しかし畜産業が土地、エネルギー、水といった環境に悪影響を与え、温室効果ガス排出の要因となっている事に加えて、 コレステロール増加等の人間の健康、そして動物の命という見地から多くの犠牲をもたらしてきたことを指摘。 人類が食肉を放棄する必要は無いものの、アミノ酸、脂質、ミネラル、ビタミンといった栄養素の組成を 動物の肉以外のソースから摂取するオプションを持つべきと考えているという。
そこでビヨンド・ミートが行っていると説明するのは、牛や豚等の動物がその餌である植物を食べて肉を生成するプロセスの、動物の部分をテクノロジーに置き換えて 植物から肉を作るという生成法。 でも私が納得出来ないのは、もし肉が動物の排出物や卵のように産み落とされるものなのであれば、動物の部分をテクノロジーで代替するのは理解できるけれど、 食肉はその動物本体。なので このセオリーでは食肉に匹敵する栄養価の植物性のフェイクは生み出せても、 肉独特の味わいが出せるとは思えないのだった。 そもそも肉、特にビーフを料理した際の食欲をそそる独特のアロマは、動物性脂肪が熱によってブレークダウンした化学反応によって生み出されるもの。 人間の味覚に匂いが如何に大きな影響を与えるかを考えると、私は個人的にはこのコンセプトには全く賛同できないのだった。

一見ニッチに見えるオルタナ・ミートは意外にも競合相手がひしめいている市場。 フィールド・ロースト・グレイン・ミート社、モーニング・スター・ファーム、ライトライフ、ボカ・フーズといったプラント・ベースの競合に加えて、 タイソン・フーズ、JBS、ホーメル・フーズといった従来の食肉業者やネッスル等の大手食品企業までもが 現在狙っているのがオルタナ・ミートの市場シェア。 しかもそれらの企業の方がビヨンド・ミートよりも遥かに資金力があることから、今週にはその競争を危惧して 月曜に90ドルを超えたビヨンド・ミートの株価が火曜日には77ドル台に急降下。週末には79ドル台で取引を終えているけれど、 それでもビヨンド・ミートは公開から1ヵ月も経たないうちに3倍以上に値上がりした、 2019年で最もサクセスフルなIPOになっているのだった。






ビヨンド・ミートにとって最大の競合であり、味やテクスチャーではオルタ二ティブ・ミートの中でベストと賞賛されるのが インポッシブル・フーズがクリエイトする”インポッシブル・バーガー(写真上、左と中央)”。 NYのフード・クリティックの間では「インポッシブル・バーガーが全てのファストフード・チェーンのハンバーガー・パティの中でもベスト」と絶賛する声も聞かれているのだった。
インポッシブル・バーガーを最初にサーヴィングしたレストランは ニューヨークのセレブ・シェフ、 デヴィッド・チャンが経営するレストランの1つ ”Nihshi / ニシ”。ニューヨークのトップ・シェフがメニューに加えた ”プラント・ベースのハイテク・バーガー” として多大なパブリシティを獲得したインポッシブル・バーガーは以来、全米のレストランで サーヴィングされるようになり、アジア諸国にも輸出。 アジアでの売り上げは過去1年で3倍に伸びているという。
2019年1月にはインポッシブル・バーガーを更に進化させたインポッシブル・バーガー2.0を発表。 これは本物のビーフ・パティのような肉汁が出るだけでなく、ブラインド・テストでは肉と区別がつかないテスティモ二アルも居たほど。 その評判を聞きつけたウマミ・バーガー等のチェーンが続々と 取扱いを始めたけれど、インポッシブル・バーガーにとって最大のゲーム・チェンジャーになったのは今年に入って発表されたバーガー・キングとのパートナーシップ。 ミズーリ州セントルイスの店舗でテストランが行われていたバーガー・キングのトレードマーク、 ワッパーのオルタナ・ミート・バージョン、その名も”インポッシブル・ワッパー”が 好調な売り上げを記録したことから、 バーガー・キングが アメリカ国内の7000店舗で インポッシブル・ワッパーをメニューに加えることを決定したのだった。
これを受けてインポッシブル・フードは従来の取扱店に生産が追い付かないための商品不足を警告。 4月には本当にインポッシブル・バーガーが手に入らなくなったレストランの一部が、 ビヨンド・バーガーに切り替えたところ 来店客がオーダーを止めたり、苦情を寄せたことがレポートされているのだった。 インポッシブル・フードの製品がビヨンド・ミートのようにスーパーの肉売り場で販売されるのは今年の後半からとのこと。 ちなみにインポッシブル・バーガーの4オンス・パティのカロリーはビーフよりもビヨンド・ビーフよりも少ない240カロリーであるという。

でもインポッシブル・バーガー2.0が登場した後でも、 レストラン・クリティックがオルタナティブ・バーガーのベストに挙げるのがマンハッタンのイースト・ヴィレッジにあるスペリオリティ・バーガー(写真上右)。 ミシュラン・スター・レストラン、デルポストのペストリー・シェフを務めたブルックス・ヘッドレーが一流レストランと同じクォリティの野菜にこだわって クリエイトするバーガーのお値段は6ドル。材料はキノア、ナッツ、レンズ豆、ニンジンのロースト等。 2015年にオープンしたスペリオリティ・バーガーは今も大人気で、私も開店直後に出掛けたけれど、 「シェイクシャックのバーガーの方が美味しい」というのが当時の偽らざる感想。 「ハンバーガーだと思わなければ悪くない」というのも同時に感じたことだけれど、 以来 ”Un-burger / アンバーガー” という言葉を生み出したこのバーガーは、自宅で”もどき”が作れる料理本も登場。 とは言え たった一軒の小さな店舗でしか味わえないスペリオリティ・バーガーは、 ビジネスという見地からは 現在のオルタナ・ミートのメガブームとは一線を画する存在なのだった。
かく言う私はハンバーガーは年に1度食べるか食べないか程度のもの、加えて、ヴェジタリアンでもヴィーガンでもないので、 オルタナ・ミートの味や料理には興味が無いけれど、インポッシブル・バーガーの株式が今後公開されることがあれば「買うかもしれない」というのが本音。 それほどオルタナ・ミート市場は急激な盛り上がりを見せていて、それは世界各国にどんどん飛び火しているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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