May 27 〜 June 2 2019

”The Age of Overtourism @ Everest”
遂にハリウッド・セレブまで登場!大混雑のエヴェレスト、
その2000万円と命を賭けたチャレンジ



今週、アメリカのみならず世界中のメディアが報じていたのが 5月に入ってから混雑を見せるエヴェレストで13日間に3人のアメリカ人を含む 11人の死者が出たニュース。エヴェレストでは毎年平均5人が命を落としており、2018年にも同数の死者を記録しているけれど、 毎年クライマーが最も集中するのが天候が良い5月。 1953年に史上初のエベレスト登頂が実現したのも5月29日のことなのだった。
今年はチベット政府が記録破りのペースでエベレスト登山のパーミット(許可証)を発行しており、 その数は今週の時点で382。 そのペースは衰える見込みがないとのことで、過去最高のパーミットが発行された2018年の807を上回ることが見込まれているのだった。 今週は登山愛好家から、経験や健康状態を十分にチェックせずにパーミットを発行するチベット政府に対する批判が寄せられていたけれど、 チベットにとって1人当たり1万1,000ドルをチャージするパーミットと、エベレスト関連の旅行産業は国の経済を支える重要な収入源。
その一方で時代はソーシャル・メディアを巻き込んだトラベル&アドヴェンチャー・ブーム。 エヴェレストは史上約5000人が登頂に成功したという希少なアチーブメントであるものの、 お金とトレーニングで達成出来るという思い込みや 世界最高峰に到達する夢や虚栄心も手伝って、 昨今では多くの経験の浅いクライマーが目指すようになっているのだった。




今週には女優のマンディ・ムーアもエヴェレストのベース・キャンプまで10日間を掛けて到達した様子を ソーシャル・メディアで公開(このページの一番上の写真、左側)。死者が相次ぐほど大混雑するエヴェレストに、遂にセレブまで登場した様子が報じられていたけれど、 彼女の場合は アウトドア・メーカーのエディ・バウワーをスポンサーにつけてのベース・キャンプまでの登山。とは言ってもエヴェレストのベースキャンプは標高5364メートル。 マンディ・ムーアは当然のことながらその息苦しさと身体の疲れを訴えており、事前に学んだ呼吸法で 努めて肺に酸素を取り込むようにしていたとのこと。
でも多くの登山家にとっては本当のエヴェレスト・チャレンジがスタートするのがベース・キャンプ。 ここからサミット(頂上)を目指すクライマーは、まずベース・キャンプで1ヵ月以上滞在し肺を低酸素の環境に対応させるとのことで それを怠ると極めて高くなるのが脳や肺に異常を来たすリスク。特に標高8000メートルを超えるデス・ゾーンでは 脳にダメージを受ければ、それは一過性のものではなくパーマネント。そのためエヴェレスト登山に要するスケジュールは平均で8週間。 仕事をしている人ならば長期休暇が必要なだけでなく、無事に下山しても凍傷などが原因で直ぐに仕事に戻れないケースが多いという。

そんな日数よりもハードルになっているのは費用で、エヴェレスト登山には セレブでなくてもスポンサーを探して臨むクライマーが多いのが実情。 欧米のクライマーはパーミット、ガイド、荷物を運搬するシェルパのチーム、そして登山中の食糧のパッケージを 専門の旅行会社から購入するケースが多く、その費用は6万5,000ドル。 中にはその倍の13万ドルのVVIPパッケージを提供するビジネスもあり、 その中には到着時のカトマンズの5スターホテルの滞在とウェルカム・ディナー、パーソナル・フォトグラファー、 滞在中の全ての食事と無制限のティー&コーヒー・サービス、プライベート・ヘリコプター・サービス、 ベース・キャンプではプライベート・ベーカリー、バー、熱器具が使えるキッチン、シャワー、そしてトイレ用テントへのアクセスが可能になるとのこと。
もちろんこれらのパッケージには現地までのフライト、登山用ギア、クルーへのチップ等は一切含まれておらず、 登山用具については最低でも6万ドル、10万ドルを掛ける例も決して珍しくないのだった。
さらには標高3000メートル以上の山での 複数回の実践トレーニングが必要で、 それに掛かる費用が平均で5〜6万ドル。 ざっと計算して20万ドルの費用が掛かるのがエヴェレスト登山。 とは言っても万難を排して出掛けても悪天候で登山の出発スケジュールがキャンセルされるケースもあるのだった。
多くのクライマーは登山期間中の仕事の給与をギブアップするので、ソーシャル・メディアのフォロワーが多いクライマーであれば 登山グッズのメーカー、そうでない場合はチャリティ等をスポンサーにしてコストの軽減や何等かの収入を得ようとするけれど、 命の危険を伴うチャレンジだけに企業スポンサーが付き難いことが指摘されているのだった。






エヴェレストは標高8000メートルを超えるキャンプ4からデッドゾーンと呼ばれる酸素が極めて薄いエリアに入るけれど、 ここは酸素ボンベ無しの場合 人間が2〜3分で意識を失う危険エリア。 判断力が鈍り、音による状況の識別も不可能で 自分の命が最優先になるとあって 登山家が身勝手な振舞いをするのもこのエリア。 そのためテントや酸素ボンベ、登山器具など、不必要な物がどんどん捨てられるけれど 掃除をする人間が居ないことから、 特に多くのクライマーが選ぶ南側のチベット・ルートに見られるのが膨大な量のゴミ。
同様のことは 306人と言われる過去のエヴェレスト登山死者にも言えることで、 その引き上げ作業が命がけであるため 死体が放置されたままになっているのは有名な話。 でもそれらの死体は時にクライマーにとってはルートを見出す目印になっているそうで、 もし遺族が死体の引き上げを望んだ場合、その費用は日本円で800〜1000万円と言われるのだった。

デス・ゾーンでは、それまでの疲労に加えて身体の動きも鈍くなり、ボンベを背負って雪の急坂を登ることになるので、強風に見舞われただけでも命取り。 多くのクライマーは出来るだけデス・ゾーンでの滞在時間を短くするために、キャンプ4を出てサミットに到達し、 戻ってくるまでを24時間以内に行うのが通常。 ところが今年のようにサミット・エリアが混み合うと、たとえ熟練した登山家であっても 前方で経験不足のクライマーがもたついて 行列で1時間以上待たされることから 赤血球過剰が原因の心筋梗塞や、疲労、ボンベの酸素切れ等で死に至るケースが続発。 あるドイツの登山家は「自分の前の行列の長さを見て 諦めて下山した」と語っているけれど 死者の多くが命を落としているのが サミット到達後の下山の最中。 サミットにおいても争って写真を撮影する状況が伝えられており、世界最高峰がまるでインスタスポットのようになっていることが嘆かれているのだった。
それもそのはずで過去20年で2倍以上に増えたのがエヴェレスト挑戦者の数。でもその増加に追い付いていないのがシェルパの数。 登山ポーターであるシェルパはチベットのシェルパ族がその語源で、チベット人は血液凝固作用を防ぐEPAS1という遺伝子を持っているため、 高山病にかかりにくいことが指摘されているのだった。 ベテランのシェルパであればクライマーの体力や気候、コンディション、混み具合から危険を察知した場合は 下山のアドバイスするのが通常。しかし未経験のシェルパはそんな考えが及ばないので、経験が浅い登山者が お金をケチって未経験のシェルパを雇うことは文字通り命取りになると言われるのだった。




世の中にはセブン・サミット・クラブなるものが存在するけれど、これは世界7大陸の最高峰の山を全て制覇した登山家を意味する言葉。 その7サミットとは、アジアのエヴェベレスト / Everest (8,848 m)、アフリカのKilimanjaro / キリマンジェロ (5,895 m)、オーストラリアのKosciuszko / コシウスコ (2,228 m)、 北米のDenali / デナリ (6,194 m)、南米のAconcagua / アコンカグア(6,961 m)、ヨーロッパのMont Blanc / モンブラン(4,810 m) もしくはElbrus / エルブラス (5,642 m)、南極大陸のVinson / ヴィンソン・マシフ (4,892 m)、これにインドネシアの Puncak Jaya / プンチャック・ジャヤ (4,884 m)を加えて8サミット、 もしくはこれら全てをカウントして9サミットと呼ぶ場合もあるとのこと。 長きに渡って 登山愛好家達はセブン・サミット・クラブの1員となるために まず4000〜6000メートルの登山で経験と実績を積んで、 最後の関門として目指してきたのがエヴェレスト。でも現在のクライマーの中はエヴェレストに対するレスペクト(敬意)を抱かず、 セブン・サミットの最初のステップに世界最高峰を選ぶ無茶な人々もいて、今週インタビューを受けたシェルパからは「ハーネスの使い方も分からない クライマーが居た」と呆れるコメントも聞かれていたのだった。
でもセブン・サミット・クラブよりも遥かにハードルが高いのが Eight-thousander / エイトサウザンダー。これはアジアのヒマラヤ山脈とカラコラム山脈にある高さ8000メートル以上の 14の山、すなわち世界で最も高い14の山のサミットに到達した登山家を指す言葉。 UIAA(世界アルパイン・アソシエーション)にも認められる登山家にとっての最高のステータスなのだった。

ベテラン登山家の間では世界最高峰はエヴェレストであっても、最も難しいチャレンジは過酷な急斜面を登り続けるパキスタンのK2と言われ、 パキスタン政府からのVISAの取得も登山同様の厳しい難関。 死者が最も多いのは標高8091m、世界で10番目に高いアンナプルナT でその登山の致死率は32%。 エヴェレストの4倍になっているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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