Sep. 23 〜 Sep. 29 2019

”WeWork’s IPO is Failed so as It's CEO"
IPO失敗でソフトバンクがWeWork CEO、
アダム・ニューマンを追い出したこれだけの理由



今週のアメリカで最大のニュースになっていたのは先週浮上したホイッスルブローワーのレポートを受けて、 ナンシー・ペロシ下院議長が遂にトランプ大統領弾劾の意向を示したこと。 トランプ大統領がウクライナの大統領に軍事援助の見返りとして、2020年の大統領選のライバルと目されるジョー・バイデン前副大統領, 及び息子のハンター・バイデンの粗探しの圧力を掛けていたというのが当初報じられたレポート内容。
しかしながら実際に公開されたレポートは国務とは無関係なはずの大統領の個人弁護士、ルディ・ジュリアーニ元NY市長に加えて、 マイク・ポンぺオ国務長官、ウィリアム・バー司法長官等、複数のトランプ政権の高官の名前が何度も登場し、 単なる電話一本の話ではない組織的な規模での大統領による政府私物化を指摘したもの。
民主党側は既にポンぺオ長官の議会証言を求め、年内には弾劾捜査を終わらせる予定を明らかにしているけれど、 今週そのトランプ氏の対立候補と目されていたバイデン氏を全米の世論調査で抜いたのが、昨今激しい追い上げを見せていた マサチューセッツ州の上院議員、エリザベス・ウォーレン。 それと同時に弾劾を支持する世論も高まっており、今週に入ってからは49%の国民が弾劾を支持。 初めて不支持の46%を上回る結果となっているのだった。

ビジネスの世界では今週2人のCEOの辞任が話題になっていたけれど、そのうちの1人は水曜に辞任を発表したEシガレットの最大手JUUL/ジュールのCEO、 ケヴィン・バーンズ。アメリカではEシガレットが原因と見られる肺の損傷による死者数が今週で10人を超え、食品医薬品局が捜査に当たっている 被害件数が1000件を超えている状況。 そのためジュールではティーンエイジャーに人気が高いフレーバー入りEシガレットの販売を自粛し、ソーシャル・メディアでの広告も自主的に打ち切っており、 これらは今後起こされるであろう集団訴訟に備えた措置。 Eシガレットの喫煙者の多くは「タバコよりも安全」と信じて吸い始めた、もしくは禁煙のためにEシガレットに切り替えたケースが殆どで、 今週のメディアでは母親の喫煙を止めさせようとEシガレットを勧めたことが仇になって母親を失ったティーンエイジャーが、 涙ながらにEシガレット撲滅を訴える様子が報じられていたのだった。




今週辞任した2人目のCEOは企業ヴァリューの激減を受けて先週IPOの事実上断念を発表したWeWorkのCEO、 アダム・ニューマン。 8月14日にナスダックにIPO申請をした時点では470億ドルの企業価値が見込まれていたWeWorkであるものの、 程なくオーバーヴァリューが指摘されてその価値が約200億ドルに激減。 今ではその半分の100億ドルの価値とさえ指摘されるWeWorkのヴァリュー見直しの要因となったのが 黒字に転じる見込みのない業績に加えて、会社設立時から CEOを務めてきたアダム・ニューマンの公私混同が激しい経営姿勢。
現在29ヵ国、111都市で52万7000人のメンバーを抱えてオフィス・シェアリングを展開するWeWorkは、2016年には売上4億3600万ドルに対して4億2900万ドルの損失、 2017年には8億9000万ドルの売り上げで8億8600万ドルの損失、2018年には18億ドルの売り上げに16億ドルの損失をそれぞれ計上しており、 2019年上半期も15億ドルの売上で6億9000万億ドルの損失という毎年連続の大赤字状態。 それもそのはずでWeWorkが抱えるオフィス・リースの総額は2019年1月の時点で472億ドル。 それに対してクライアントから得られるリースの総額は僅か34億ドル。 さらにはグラス・ウォールのキュービクルやカスタム・ファニチャーなどインテリアに不必要に費用を掛けているのも赤字を増やしている要因。

そのWeWorkを率いてきたアダム・ニューマンは社内スタッフのことを日頃から ”Bプレーヤー”と陰で馬鹿にする一方で、 2016年の大幅レイオフの際には1本110ドルのテキーラショットを振舞う不謹慎ぶり。赤字経営を顧みずに ランDMCの社内コンサートを行ったかと思えば、彼のプライベート・ジェットからはシリアルボックスに入った大量のマリファナが押収されるなど、 アルコールとドラッグにまみれたパーティー・ライフスタイルは公然の秘密。 またWeWorkはIPOに当たって社名を2019年1月にWe Co.に改めているけれど、 彼は一足先に”We” のトレードマークを取得。それを自分の会社に約590万ドルで売りつけており、 大バッシングを受けて売り上げを返却したとは言え、企業経営者としてのモラルが欠落した様子を露呈。 さらにニューマンは人種差別が激しく、社内には”We of Color / ウィ・オブ・カラー”というマイノリティ人種従業員のための サポート・グループが存在しており、初期のスタッフ採用面接では 女性に妊娠の予定や交際相手について尋ねるなどの性差別も見せていたのだった。
自分の妻に自らの後任を決める権限を与えたかと思えば、妻の義弟を高額サラリーでエグゼクティブに就任させ、 自社のITスタッフを自宅に派遣してハイテク機器の問題を解決させる企業私物化ぶりに加えて、 頻繁に自分のオフィスにボクシング・インストラクターを派遣しては勤務時間中に行うエクササイズを誇示するナルシストぶり。 その一方でIPO資料で公表していない株式を売却して7億ドルを超える利益を得るなど、 「この業績と このCEOで何故IPOが可能なのか?」と首を傾げたくなる企業内情。
それに対してようやくアクションを起こしたのが WeWorkの株式30%を所有する日本のソフトバンクを始めとするインヴェスターで、 今週ノンエグゼクティブ・チェアマンに退いたのがアダム・ニューマン。 代わって共同CEOに就任したアーティー・ミンソンとセバスチャン・ガニンガムは、 「社内の20人にも及ぶニューマンの友人と家族を全て解雇する」と発表しているのだった。




身長196cmと長身のアダム・ニューマンは1979生まれの現在40歳で、イスラエルのテルアアビブ生まれ。 7歳の時に両親が離婚し、医師である母親に育てられるものの幼い頃から居住区が転々と変わり続け、 3年生まで読み書きが出来ないほどの重度のディスレクシアであったことも伝えられるのだった。 1996年、17歳にしてイスラエル海軍に入隊した彼は3年の兵役義務を超えて、5年間軍隊に所属。 その後2001年にニューヨークに渡り、当時モデルであった妹とトライベッカのアパートに暮らしながら 公立大学バルークに入学してビジネスを専攻。しかしその後ドロップアウトしており、彼がバルークを卒業したのは 不足単位を補う4か月のインディペンデント・スタディを終えた2017年のこと。
WeWorkはニューマンと共同設立者 ミゲル・マッケルヴェイ(写真上左、右側)のオフィス・シェアリングのスタートアップ、 GreenDesk / グリーン・デスクから生まれたビジネスで、 WeWork設立は2010年。最初にオフィスを構えたのはソーホー。 でもそれに至るまでのニューヨークでの10年間には女性用シューズ、ベビー服を販売するビジネス等、 サクセスとは言えないビジネスを続けてきた経歴を持つのだった。
彼がWeWorkのもう1人の共同設立者であるレベッカ・パルトロー・ニューマン(写真上右、右側)と結婚したのは2009年。 結婚当時の2人はイースト・ヴィレッジのワンベッドルームのアパートに暮らしており、その後 2人の間には5人の子供が生まれているのだった。

アダム・ニューマンについて語る際に必ず名前が出る妻のレベッカ・パルトロー・ニューマンはアダムの1つ年上で、 そのミドル・ネームからも分かる通り女優のグウィネス・パルトローの従妹。 ニューヨーク生まれで、コーネル大学でビジネスを学んだ彼女は、3ヵ国語を流暢に話し、 以前はソロモン・スミス・バーニーのトレーダー。僅かながら女優業も営んだこともあり、アダム・ニューマンとは正反対のエリート・バックグラウンド。
レベッカはコーネル大学で仏教を学んだこともあり、ホリスティックなスピリチュアリティに並々ならぬ関心を持つことでも知られる存在。 サーティファイド・ヨガ・インストラクターで、ダライ・ラマのバースデーにも出席するなど、思考やライフスタイル全般に スピリチュアリティを持ち込む彼女は、僅か数分同席しただけのWeWorkスタッフ数人を「発しているエナジーが気に入らない」という理由で解雇したのは有名なストーリー。 「女性のメジャーなサクセスはアダムのような男性を助けること」と発言して女性からの猛反発を買ったこともある彼女は、 WeWork傘下で WeGrow という小学校を運営するビジネスをアダムと共にスタート。 マンハッタンのチェルシーに1校のみ開校しているWeGrowは、「自分達の子供を通わせるために設立した」と言われるほど充実した施設を誇り、 小学校とは思えない4万2000ドルの年間授業料で知られているのだった。
2018年6月にはヴィーガンで知られるレベッカの影響か「肉を含む食事を会社のエクスペンスで支払うことを禁じる」という馬鹿げたポリシーを設けて批判を浴びたのが ニューマン夫妻。以降会社のイベントからは肉のメニューが消え、社費を使うディナーはロブスター・ディナーや パー・セのヴェジタリアン・コースなど、益々高額になっていったことが伝えられるのだった。




アダム・ニューマンの辞任を受けて、WeWorkは昨年彼が自分の移動用に購入したプライベート・ジェットを売りに出したことが伝えられるけれど、 そのジェットはガルフストリームのトップライン G650(6,000万ドル)。9月2週目のこのコーナーにも書いた通り、 このモデルのジェットを所有しているということは「よほど儲かっているか、それともエグゼクティブ が湯水のように社費を使っているか」を意味する訳で、 社内では彼の辞任を待たずして「G650を所有しているのはIPOに際して体裁が悪い」と指摘されていたという。
また今週アダム・ニューマンと共に批判を浴びていたのが J.P.モーガン・チェイスのCEO ジェイミー・ダイモン。 というのもJ.P.モーガン・チェイスはクレディ・スイス、UBSと共にニューマンに対して個人ローンを提供しており、 その資金でビルディングを購入したニューマンは、それをWeWorkに貸し出すことによって利益を上げていた一方で、 同じ資金は彼のハンプトンの別荘、サンフランシスコの別宅、コネチカットの大邸宅、NYのタウンハウスといった 不動産購入にも使われたとのこと。 特にJ.P.モーガン・チェイスはニューマンに対してジェイミー・ダイモン自らが 一対一で対応に当たり、9,750万ドルのローンを提供。 どうしてそこまでするかと言えばJ.P.モーガン・チェイスが早くからWe Co.の株式公開担当を狙っていたため。 実際にWe Co.のリード・アンダーライターになったJ.P.モーガン・チェイスには株式公開が実現していた場合、 1億ドルのフィーが転がり込むことになっていたのだった。
そのため今週は事実上、”ユニコーン企業でっち上げ”の片棒をかついだ形になったJ.P.モーガン・チェイスに対しても批判が寄せられ、 「コンシューマー・バンクが株式公開を担当しようとするから こんなことになる」といった 批判がウォールストリートから聞かれていたけれど、 WeWorkの上層スタッフの中には、We Co.に多額の資金を投じてアダム&レベッカ・ニューマンの金銭感覚を狂わせたソフトバンクを責める声も少なくないのだった。

こうしたIPO不振を受けて、今週末にはハリウッド・エージェンシーからスタートしてビジネスを大きく拡大してきたエンデヴァー・グループも 市場の関心の低さを理由にIPOを延期する発表をしているけれど、 昨年末のシナリオではUber、Lyft、WeWorkといったユニコーン株の公開で大いに賑わっているはずだったのが2019年の株式市場。
しかしながら2019年に株式が公開された120社のうち、ほぼ半分が公開価格より下の値段で取引されているのが実情で、 中でも最も期待を集めたUberは今週末の終値が30.29ドル。IPO価格45ドルの3分の2にまで下落。 IPO株への市場側の関心低下と、IPOを控えた企業が思い止まる理由の双方を提供しているのだった。
UberとWeCo. は共に日本のソフトバンクが大口のインヴェスターであるけれど、 その資金の出所はソフトバンクのビジョン・ファンドに投資をしている2大インヴェスター、 サウジ・アラビアのパブリック・インヴェストメント・ファンドとアブダビのムバダラ・インヴェストメント。 したがってソフトバンク自体がUberとWeCo.のIPO失敗でどれほどダメージを被ったかは定かではないものの、 そのお陰で今年に入ってからアメリカで知名度が大きく上昇したのがソフトバンク。 とは言ってもアメリカ人の中にはソフトバンクを銀行だと思っている人が多く、 銀行でないと知った人々のリアクションは「何故銀行でもない企業に”バンク”という誰もが金融機関だと勘違いするような 社名を名乗ることが許されるのか?」という素朴な疑問なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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