Nov. 11 〜 Nov. 17 2019

”Streaming Revolution, The Game Is On!”
月間ストリーミング料金70ドル時代?
ディズニー+デビューで熱くなるストリーミング戦争



今週のアメリカではついにトランプ大統領の弾劾公開証言が水曜からスタート。 大統領が弾劾されるのはアメリカ史上4度目、クリントン大統領以来21年ぶりとあって、 空港、ジム、バー、病院の待合室など、TVモニターが置かれた ありとあらゆる場所でアメリカ国民がそれを見守る姿が報じられていたのだった。
その公開証言が行われた水曜には、シリア攻撃で世界的に批判を浴びるトルコのエルドアン大統領がホワイトハウスを訪問。 二度目の証言が行われた金曜にはダウが史上初めて2万8000ドル台を記録したものの報道の中心はもっぱら弾劾証言。 金曜には元ウクライナ大使で、不当にそのポジションを追われたマリー・イッヴォノヴィッチの証言中、トランプ氏が彼女を中傷するツイートを2回行うという ”証人脅迫行為” がライブ&リアルタイムで行われる本来なら信じ難い事態が発生。しかしこれまでトランプ氏の同様の言動や行動がお咎めなしになってきた過去を受けて、 多くのメディアは「トランプ氏の行動や弾劾裁判が今さらトランプ支持者の考えを変えることはないだろう」という見方を示していたのだった。




弾劾公開証言はアメリカ三大ネットワークはもちろん、ケーブル・ニュース局、そしてストリーミングでライブ放映されていたけれど、 TV視聴者が毎年減る一方で、利用者がどんどん増えているのがストリーミング・サービス。
TVを持たず、ケーブルTVのサブスクリプションを止めるアメリカ人が増える中、 スマートフォンやコンピューター、アイパッドなど自分にとって最も便利なディバイスで、自分で好きな時に見たい番組だけをストリーミングで視聴するのは 今や現代人のライフスタイル。 DVRをセットしたり、特定の時間にTVにチャンネルを合わせるというのは一昔前の話になりつつあるのは周知の事実。
ストリーミングはこれまでネットフリックスの独り勝ち状態で、多くのメディアが過去の映画&TV番組を含む膨大なコンテンツを ネットフリックスを通じて配信してきたけれど、そもそもストリーミングのスタート当初はメディア業界全体がそのサービスを軽視しており、 まさかTVを脅かす存在になるとは夢にも思っていなかったのだった。 その結果何が起こったかと言えば ストリーミングにおけるネットフリックスの独裁政権状態。 ネットフリックスがコンテンツ配信のライセンス料を独断で決めることに反発した大手メディアが 自社製作のコンテンツを自ら配信する方針に切り替え、ストリーミング・レボルーションに乗り遅れまいと参入を始めたのが 現在のストリーミング戦争の幕開けなのだった。

今やメディア界では「ストリーミングを制する者が世の中を制す」というセオリーが成り立っており、 それというのも これからの世の中では視聴者がストリーミングだけでニュースやエンターテイメント・ソースを賄うようになるのは時間の問題。 そうなればストリーミングは世論を動かし、消費者心理に働きかける最も有効な媒体になる一方で、 ストリーミング・アプリを通じて得られるサブスクライバーの位置情報、政治的視点や様々な好みは 多くのビジネスにとって極めて価値がある情報。したがってストリーミング・サービスで多くのサブスクライバーを抱えることが ビジネスはもちろん、世の中への影響力のカギを握ると見なされているのだった。

そんな中、11月1日にはアップルTV+がデビューし、アップル社が初めてストリーミングとコンテンツ作りに参入しているけれど、 それより遥かに大きな期待を集めて今週火曜日、11月12日の午前零時にデビューしたのがディズニー+(プラス)。 しかしサービス開始早々テクニカル・トラブルに見舞われ、「ログインできない」、「ストリーミングされない」といった苦情が殺到。 ソーシャル・メディア上で「#DisneyPlusFail (ディズニープラス失敗)」がトレンディングになっており、 ディスニー側はこのトラブルについて「予想を上回るアクセスが殺到したため」と説明。 その要因の1つと言われたのが 「スターウォーズ」の期待のスピンオフ・シリーズ「The Mandalorian/ザ・マンダロリアン」が この日からディスニー+で公開されたこと。
でもディスニー側の「予想を上回るアクセスが殺到」という説明は決して嘘ではなく、 ディズニー+は初日だけで1,000万人のサブスクライバーを獲得。 これはアップルTV+が初年度に1年間を掛けて獲得出来るか否かと言われる数字で、 ディズニー側は2024年までに アメリカ国内で9,000万人のサブスクライバーを獲得するという アグレッシブなプランを打ち出しているのだった。




ディズニー+の料金は毎月6.99ドル、年間一括払いならば69.99ドル。約500本の映画と7500本のTV番組にアクセスが出来る上に そのコンテンツは前述の「スターウォーズ」関連シリーズ、子供に人気のピクサーのアニメやマーヴェルのスーパーヒーロー映画等、 数あるストリーミングの中でも最も充実しており、特に子供が居る家庭にとってはマストハブのサービス。 ちなみに2008年にスタートし、現在アメリカ国内に2,500万人のサブスクライバーを擁するストリーミングの大手Huluと スポーツのESPN+は 共にディズニーの傘下のブランド。Huluの月間料金は11.99ドルであるけれど、ディズニー+とHulu、ESPN+を3つセットでサブスクライブすると その料金は月々13ドルとお得になるのだった。
これに対してストリーミングの最大手、ネットフリックスはアメリカ国内で現在6,000万人、全世界で1億5,800万人のサブスクライバーを擁し、 最も一般的なプランの料金は毎月12.99ドル。ネットフリックスの場合、パスワードを不当にシェアするユーザーが多いことで知られており、 ミレニアル世代の間では「自分だけのネットフリックスのパスワードを持つことが一人前の大人になった証」というジョークが聞かれたほど。 そのためネットフリックスではパスワード・シェアをモニターする最新システムを導入したばかりで、そのせいで12月1日から古い機種のサムスンのスマートTVは ネットフリックスを視聴するためにセットトップ・ボックスが必要になるのだった。
一方ネットフリックスと並ぶストリーミング最大手、アマゾンのプライム・ビデオは アメリカ国内だけで1億人以上、アメリカの成人の3人に1人の割合でメンバーになっているアマゾン・プライムのサービスの一部。 年間費は119ドルであるけれど、多くのメンバーにとってはストリーミング料金を支払っているという意識はなく、 「プライムのメンバーシップに含まれる無料のサービス」という感覚。それだけに果たしてプライム・メンバーのどれだけの人々がどの程度プライム・ビデオを視聴しているかは 定かではないのだった。

そんな混み合うストリーミング市場に2020年5月に新たに加わるのはAT&T ワーナー・メディアがスタートするHBO Max。 これにはケーブル・プレミアム・チャンネルのHBO製作の「ゲーム・オブ・スローンズ」や「セックス・アンド・ザ・シティ」といった番組に加えて、 シネマックスのオリジナル、CNN、TBS、TNT TruTVといったケーブル・チャンネルのコンテンツ、ワーナー・ブラザース・スタジオ製作の「バットマン」、「スーパーマン」シリーズを含む映画や 「フレンズ」等のTV番組、新たに製作される「ゴシップ・ガールズ」や「フレンズ」の復刻版などが含まれる膨大かつ充実したコンテンツ。月間料金は約15ドルとやや高額であるものの、 この料金はケーブルTVでHBOとシネマックスをサブスクライブするのと同額なのだった。
また同じく2020年4月には三大ネットワークの1つNBCを傘下に収めるNBCユニヴァーサルによる”ピーコック”もスタート。 こちらは「ジュラシック・ワールド」、「ワイルド・スピード」等のユニヴァーサル映画作品やドリームワークスの映画、ユニヴァーサル製作のTV番組、 NBCの報道番組を含む1万5000時間以上のコンテンツを誇り、人気TV番組や映画は現在のネットフリックスとの契約期間が終了次第、 ピーコックのエクスクルーシブになるとのこと。料金は月々12ドルとなっているのだった。




現時点では各ストリーミング・サービスが自社製作以外のコンテンツにライセンス料を支払って配信しているけれど、 競争が激化してくると当然増えるのがそのサービスでしか視聴出来ないエクスクルーシブ・コンテンツ。 既にアメリカでは複数のストリーミング・サービスをサブスクライブする時代に入って久しいけれど、 もしメジャーなサービス5つをサブスクライブするとその月間料金は約70ドル。 加えてストリーミング視聴に問題ないハイスピード・インターネット料金は平均で66ドル。 そのためメディア専門家は過去20年間で消費者が支払う携帯電話料金がどんどんアップしたの同様に、これからは人々が ストリーミングにどんどんお金を使う時代になるとさえ予測するのだった。

とは言っても全てのストリーミング・サービスが生き残る訳ではないのは明らかで、最も苦戦が予想されているのがアップルTV+。 現時点では9本のオリジナル・コンテンツが公開されているけれど、 記念すべき第1本目のオリジナル・シリーズとして話題になっていたのがジェニファー・アニストン、リース・ウィザースプーン主演の「モーニング・ショー」。 1エピソード当たりの製作費が1500万ドル(16.2億円)、主演女優2人に1エピソード当たり それぞれ200万ドル(2億1600万円)のギャラを支払い、 2シーズン分の製作費が3億ドル(324億円)という膨大な予算を投じたシリーズ。しかしながら批評家と視聴者のリアクションは決して芳しいとは言えない期待外れの出来。 それ以外にも アップルTV+では今後スティーブン・スピルバーグ監督作品や、オプラ・ウィンフリーが英国王室ハリー王子と共に手掛ける メンタル・ヘルスをテーマにしたドキュメンタリーなど、ビッグ・ネームを起用したオリジナル・コンテンツが目白押しになる見込みであるけれど、 同時に嵩んでいるのがギャラと製作費。 そのため「メガヒットを久しく生み出していないビッグ・ネームに大金を払い過ぎ」、「過去のサクセスとストリーミング・コンテンツの製作は別問題」との懸念が聞かれ、 アップルがコンテンツ作りに用意した10億ドルのバジェットをヒット作を生み出す前に使い切るのは時間の問題という声も聞かれるのだった。

そのアップル+の料金はストリーミング・サービスの中で最も安価な月5ドル。 しかし2ドルを加えてディズニー+で視聴できるコンテンツと比較すると雲泥の差があるのは言うまでもないことで、 中にはディズニー+を "アップルTV+キラー" と呼ぶ声も聞かれるほど。
でもアップルを侮れないという人の意見は、アマゾンのプライム・ビデオがプライム・メンバーシップを通じて視聴者を獲得したように、 もしアップルがアイフォンやアイパッド、パワー・ブックといったアップル製品にアップルTV+を含めるプロモーションを行った場合、 アップル社にはサービス普及の巨大なプラットフォームがあるという点。
アメリカでは携帯電話会社が他社からのサービス切り替えのカストマーに対して「ネットフリックス1年間無料」というプロモーションを行っていたりするので、 ストリーミングも今後競争が激化するのは視聴者にとって決して悪いことばかりでは無いと言えるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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