Dec. 23 〜 Dec. 29 2019

”The Year 2019 Was...”
2019年のアメリカと世界を振り返って...


今週のアメリカではダウ、ナスダック、S&P500が全て史上最高値を記録。サンクスギヴィング後のクリスマス商戦の好調ぶり、 特にアマゾンがこの時期に10億以上のパッケージを出荷したニュースが報じられていたけれど、 2019年を通じて報じられ続けてきたのがアメリカの経済の好況ぶり。2018年10月以降に株価が下落し、 次のリセッション突入が何時になるかを懸念していたのは2019年の春までの話。
FED(連邦準備制度理事会)が「アメリカは引き続き好況」と言いながらも、通常はリセッションを迎えてから行うはずの公定歩合引き下げを 2019年に3回も行い、俗に"ヘリコプター・マネー" と呼ばれる景気の実態を反映しない膨大な資金が市場に流れ込んだことから、 株価をどんどん押し上げたのは周知の通り。 経済の専門家は これだけ株価が上がっても2000年のドットコム・バブル、2007年の不動産バブルのように ”バブル”という言葉を メディアがあえて使わないのは「今回の株価上昇が従来のバブルのように世の中全体を巻き込んだ狂想曲とは異なるため」と指摘しているのだった。
株価同様に経済の指標とされている数字が失業率であるけれど、2019年のアメリカの失業率は一年を通じて過去50年で最低レベル。 とは言っても教員が学校の仕事を終えてからウォルマートのレジやUberのドライバーとして働くなど、 低所得者ほど2つも、3つも仕事をしなければ生計が立てられない状況。就業率が 生活基準を満たす給与の仕事に就いていることを 意味する訳ではないのだった。 その証拠にニューヨークやサンフランシスコ等、レントが高い都市部のホームレスの中には就業者が決して少なくないのが実情。 それらの人々は「食費や携帯電話代を含む生活費は支払えても、レントだけは給与では支払えない」というケースなのだった。




株価と失業率の見地から景気が良かったはずのアメリカでは シアーズ、ペイレス・シューズ、フォーエヴァー21といった大手チェーンの店舗が 9300軒閉店しており、これは2018年から50%アップの数字。 そうかと思えばプライベート・ジェットの利用は二桁の伸びを見せており、 2019年はアメリカだけでなく、世界的に貧富の差がさらに開いた年。低所得者が安い賃金でアクセク働き、税金と多額の利息を支払う一方で、 大企業が税金を逃れ、高額所得者に対して大幅減税が実施されれば それは当然と言えるシナリオ。 今年のクリスマス商戦でセール品を買い漁った低所得者の多くは、未だ昨年のクリスマス・ショッピングで増やしたカードローンを支払い終えていないケースが殆ど。 こうした人々にとっての”好況”とは 解雇される心配がなく、額は少なくても”安定収入” があることを意味するのだった。
貧富の差がさらに開いた結果、ホームレス問題が一段と悪化したのが2019年で、2018年の時点で既に全米で55万人を超えていたホームレスの問題が 特に深刻なのがカリフォルニア州。 サクラメントやサンフランシスコの街中にはホームレスのテント地帯が存在するけれど、そんなエリアで同時に深刻なのがドラッグの問題。 私の知人はサンフランシスコのストリートで ホームレスが人目もはばからずに ヘロインと思しきドラッグを 注射している様子を見て恐ろしくなったと語っていたけれど、 近年アメリカのドラッグの問題を急速に深刻化したのは違法のストリート・ドラッグではなく 製薬会社が生産し、医師が処方する合法の処方箋痛み止め薬。 2018年の段階で処方箋薬中毒、依存症のアメリカ人の数は200万人。 2019年には1日に130人のペースで処方箋痛み止め薬のオーバードースによる死者が出ているのだった。
また2019年に処方箋痛み止め薬の代金を支払えないために、ヘロインに初めて手を出した人々の数は約8万1000人。 2018年の時点で既に81万人と言われたアメリカのヘロイン・ユーザーはさらに増えている見込みで、 2019年2月までの過去12カ月にヘロイン、もしくは合成痛み止め薬のオーバードースが原因で死亡したケースは過去最高の4万8000人に達しているのだった。
そんな深刻な事態を受けて処方箋痛み止め薬を製造販売し、膨大な利益を上げてきた製薬会社に対してようやく訴訟が起こされているけれど、 ジョンソン・アンド・ジョンソンはその裁判で敗れたものの 企業利益に比べて賠償金の額が極めて少なかったことから、 敗訴のニュースが報じられて逆に株価が上昇したような有り様。
最も人々の怒りが集中したのは、パーティー・ドラッグとして高額で取引されていた強力な処方箋痛み止め薬、オキシコードンを製造販売した パーデュー社で、同社は2000件以上のの訴訟を抱えて破産を申請。 パーデューのオーナーであるサックラー・ファミリーに対する風当たりは極めて強いもので、 メトロポリタン美術館がサックラー家からの寄付を断わるなど、社交界からもバッシングが高まったのを受けて ファミリーはニューヨークからフロリダに移住。 12月にはサックラー家がパーデュー社の利益から100億ドル以上をプライベート・オフショア・アカウントに移して着服していたことが発覚。 更なる物議を醸しているのだった。




2019年はサックラー家に限らず、過去の悪事の制裁が問われた年。長年 少女に対する性的虐待で無罪放免になってきたR&BシンガーのR・ケリー、 大学不正入学スキャンダルの発覚で2週間弱の拘留刑を受けたフェリシティ・ホフマン、これから裁判を控えているロリー・ロクリン、長年青少年を性的虐待しては それをシステマティックに隠蔽してきたカソリック教会に対する集団訴訟など 様々なケースがあったけれど、 最も報道時間が割かれたのはティーンエイジの少女達を娼婦として世界中のVIPにあてがっていたビリオネア、ジェフリー・エプスティーン。 7月にニューヨークの留置所で首吊り自殺をしたことになっているエプスティーンについては、 今後もFBIが捜査を続けることになっており、 このスキャンダルでトランプ大統領、クリントン元大統領らと並んで名前が浮上した英国王室 アンドリュー王子は、 10年以上に渡る王室の揉み消し努力を自ら台無しにするBBCのインタビュー以来、 少なくとも表向きにはロイヤル・ファミリーから締め出されたような扱い。
クリスマスに放映れたエリザベス女王の毎年恒例の国民へのメッセージでも ”Bumpy Road / 険しい道” という表現でそのインパクトが表現されていたのだった。
そのエリザベス女王のメッセージの中で称えられていたのが 若いジェネレーションによる環境問題との闘い。 今や世界中で異常気象が "ニュー・ノーマル" になっているけれど、2019年クリスマスのアメリカでも 本来ならこの時期に最も寒いはずのシカゴが春のような気候。 例年なら凍り付いているはずの湖で人々がジェットスキーを楽しむ様子が見られていたのだった。 それに止まらず今年のアメリカは竜巻、地震、大雨による洪水の被害に加えて、巨大ハリケーン "ドリアン" が バハマ諸島に全く復旧の見込みが立たない大被害をもたらしたのは記憶に新しいところ。
そんな中、気象変動を否定する一方で、銃規制に一切取り組まないトランプ政権に対して最も危機感を覚えて 積極的な活動を行っているのは ミレニアル世代の後半とジェンZ (ジェネレーションZ) と呼ばれるミレニアルの次世代。 アメリカに関わらず、環境問題へ取り組みや民主主義擁護、腐敗した政権の入れ替わり等を求めて イラク、香港等 世界各地で活動を繰り広げているのもこれらの若い世代で、メディアではこうした”Youth Movement / ユース・ムーブメント” が 今後の世界の行方を左右するという意見が2019年に入ってから顕著になっているのだった。
環境問題については気象変動の影響だけでなく、廃棄物汚染の影響で居住不可能な地域がアメリカ国内に徐々に増えており、 それと同時に水質悪化が原因で 水道水が飲めないエリアが年々増えているのが現在のアメリカ。 過去数年の間に世界のビリオネアがプライベートな水源を持つ土地を買い漁っていることからも分かる通り、 このまま環境問題が改善されなければ 「クリーン・ウォーターが”財産”と見なされる時代は世界的にそう遠い未来ではない」と予測されるのだった。

その一方で引き続きアメリカでは移民問題がアメリカ国民を熱くするトピック。ヘイト・クライムの増加にもさらに拍車が掛かっており、 特にアフリカ系アメリカ人を差別する白人層を収めたビデオがソーシャル・メディア上で直ぐにヴァイラルになるのが近年の傾向。 でもそれがアメリカという国を分断させるためにロシアのハッカーによって操作されたアルゴリズムの結果であることが判明したのが2019年。 CIAは人種間のテンションを煽るような抗議活動もロシア政府の息が掛かったハッカーがクリエイトした架空のプロファイルによってプロモートされている 捜査結果を報告しているけれど、引き続きそれらはアメリカの分断に大きく貢献しているのだった。




2019年は白人至上主義グループがさらにパワーを増した様子も伝えられたけれど、 そんな世の中を危惧する風潮も手伝って、ソーシャル・メディア上を中心にポリティカリー・コレクトネスを追求する傾向がさらに強まったのが2019年。 企業広告からツイートまで、不適切と見なされれば 途端にバッシングやボイコットが起こるのが現在の社会で、 何を言っても、ツイートしても支持者が離れないのはトランプ大統領のみ。
そんなポリティカリー・コレクトネスが厳しく追及された結果、環境問題を訴えながらプライベート・ジェットでこの夏4回旅行をした 英国王室ヘンリー王子&メーガン・マークル夫妻が批判を浴びたかと思えば、 マテルのバービー・ドールからアパレル・ブランドの製品までもがジェンダー・ニュートラルになったのが2019年。 それと共に性別を男女のみで表示していた これまでのスタイルが改まり、"She" でも "He"でもない性別に対して使う三人称単数としての"They"が メリアン・ウェブスターの辞書に掲載されただけでなく、2019年のワード・オブ・ジ・イヤーに選ばれているのだった。

さらに2019年にはカリフォルニアの史上最悪の山火事、ブラジルのアマゾン・レインフォレストの大火災といった自然災害の火災に加えて パリのノートルダム寺院の火災が大ニュースになったけれど、10億ドル規模の寄付を約束した世界の大富豪たちが未だ約束を果たさない一方で、 今週報じられたのが火災によるダメージがあまりに大きく 寺院復旧の可能性が50%しかないという実情。寺院付近の鉛による 大気汚染もまだまだ改善されていないことが伝えられており、イエロー・ヴェスト・ムーブメントに加えて、マクロン政権が打ち出した新たな年金法案に対する ストライキや抗議デモと並んでパリから旅行者を遠ざける要因になっているのだった。

経済においての2019年の最大のニュースは中国との貿易戦争、 政治においてはトランプ大統領弾劾と 2020年大統領選挙の行方に最も報道時間が割かれていたけれど、 これらはそのまま2020年に引き継がれるトピック。 現時点で多くの人々が予測しているのが 「弾劾とは無関係に2020年の大統領選挙でトランプ氏が再選されるであろう」ということ。 でも2015年12月には誰もがヒラリー・クリントンが次期大統領と信じて疑わなかったことを考えると、 「大統領選については 実際に選挙の年になってみないと何が起こるか分からない」というのが私の個人的な意見なのだった。

最後に2019年もCUBE New Yorkのサイトをご愛読くださった方々、特にショッピングでCUBE New York を支えてくださったお客様に 心からお礼を申し上げます。 皆様のご健康、ご活躍、ご繁栄、そして何より心豊かな毎日をお祈りしています。 Have a Happy 2020!

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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