Feb. 3 〜 Feb. 9 2020

”Coronavirus Racism?”
コロナウィルス・レイシズムは眠れるアジア系有権者を目覚めさせるか?


今週のアメリカでは月曜にアイオワ州で民主党予備選挙が行われたものの、 投票システムの不具合で結果が出るまでに数日を要する事態が発生。 混迷するレースを象徴する幕開けとなったけれど、トップに躍り出たのは史上初のゲイ候補者であり最年少のピート・ブディジェッジ。 それを僅少差で追うのがバーニー・サンダースで、ジョー・バイデン元副大統領はエリザベス・ウォーレンに次いで4位。 既に一部ではバイデン氏の選挙キャンペーンの余命をあと数週間と予測する声も聞かれているのだった。
また水曜日には織り込み済みであったとは言え、トランプ大統領が共和党が多数を占める上院の弾劾裁判で 無罪評決を獲得。その前日火曜日に下院で行われた一般教書演説では アメリカ国民だけでなく、与野党もこれまでに無く分断した様子を強く印象付けていたのだった。




引き続き今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのはコロナウィルスのニュース。 3日ほど前には日本に住む友人が 「コロナウィルスのせいで世界各国でアジア人が差別を受けている」という 報道を見て「ニューヨークは大丈夫?」と心配して連絡をくれたけれど、 幸いニューヨークは 未だコロナウィルスの発症例が出ていないこともあり、私が知る限りはアジア人差別は見られていない状況。 とは言っても誰もこの時期にチャイナタウンのレストランに行きたいとは思わないようで、 過去2週間ほどのチャイナタウンのレストランの売上げは40〜50%ダウンしていることが伝えられているのだった。
でも世界的には コロナウィルス・レイシズムが広がっているのは紛れもない事実で、 フランスの地方紙『ル・クリエ・ピカール』がその第一面で「Alerte Jaune (黄色人種警戒、写真上左)」というヘッドラインで コロナウィルスについて報じたことから 「#JeNeSuisPasUnVirus(#私はウィルスじゃない)」のハッシュタグがフランスのツイッター上に登場。 アジア人学生がフレッシュマンの42%を占めるカリフォルニア州UC バークレー校は、 そのインスタグラム・アカウントで コロナウィルスが原因のゼノフォビア(外国人や移民を嫌う、もしくは恐れること)をノーマルと位置付ける通達(写真上中央)を行ったことで大バッシングを受け、 そのポストを削除しているのだった。
また中国からの移民が多いカナダのブリティッシュ・コロンビアの新聞、プロヴァンス紙も コロナウィルスを 第一面のヘッドラインで「チャイナ・ウィルス」とフィーチャー(写真上右)。やはり大顰蹙を買っているけれど、 そのカナダではコロナウィルスに対する過剰反応による マスクやハンド・サニタイザーの品不足と中国人に対する人種差別がメディアで問題視されている状況。 同様の差別はニュージーランド、オーストラリア等世界各国で見られており、 「アジア人は人前で咳をすることさえ出来ない」、「全てのアジア人が中国人ではないし、全ての中国人がコロナウィルスに感染している訳ではない」 等の抗議や苦情がソーシャル・メディア上に飛び交っているのだった。
さらにコロナウィルスの感染源がコウモリやヘビの食肉と言われたかと思えば、 今週に入ってからはセンザンコウ(パンゴリン) と指摘されるなど、中国のエキゾティック・アニマル市場やその肉を食すカルチャーに対する批判、 国の衛生基準に対する不信感を そのまま中国人コミュニティに対する「ゲテモノ食い、不潔、汚い」 という イメージにシフトする傾向も顕著で、 それがアジア系の子供達に対する虐めのネタになっている様子も指摘されているのだった。




トランプ大統領が2015年の選挙出馬スピーチでメキシコからの移民に対する敵対心を打ち出して以来、 全米の学校で たとえアメリカで生まれたアメリカ人であってもメキシコ系というだけで子供達が虐めの対象になるケースが増えたのは周知の事実。 今週には、メキシコ系アメリカ人学生に対する虐め対策のミーティングに出席していた父親の1人が、 「そんなに虐めが嫌ならメキシコに住み続ければ良かったんだ」という差別発言をした様子がメインストリーム・ニュースでも報じられる大報道になっていたけれど、 「虐めや差別の対象は人種であって、国籍は関係ない」のはコロナウィルスも同様。 ソーシャル・メディア上にはアジア人なら誰でも中国人と見なされて警戒される 現在の状況に 不満を訴える声が多く、その中には「アジア人はこれまでアメリカではさほど差別の対象にはならない人種だったのに」と嘆く声も聞かれていたのだった。
でも歴史を紐解けば1882年にチェスター・アーサー大統領がサインしたのが 移民の国アメリカで初めて特定人種の入国を拒否した 「チャイニーズ・エクスクルージョン・アクト(中国人除外法案)」。 その影響でインド、韓国、日本といった中国以外のアジア諸国からの移民労働者が増えたことから、1924年には ほぼ全てのアジア諸国からの移民を禁止するイミグレーション・アクトが議会で可決。そして1941年12月の旧日本軍による パールハーバー攻撃後から始まったのが日系アメリカ人の強制収容所送り。
そんなアジア系移民差別の風潮が変わったのは マーティン・ルーサー牧師による公民権運動が起こり、 その後ケネディ大統領暗殺を受けて副大統領から大統領に就任したリンデン・ジョンソンが1965年に 現在の移民法である「イミグレーション・アンド・ナショナリティ・アクト」に署名して以来。 それによってアジアと共に移民法で不当に扱わていた東ヨーロッパ諸国に対する差別が撤廃されており、当時僅か9万人だった アジア系アメリカ人の数が現在の約1900万人にまで膨れ上がったのは この時の移民法改正のお陰。 しかしそれまでの アメリカの歴史におけるアジア人は、アフリカ系アメリカ人よりもピスパニック系よりも政治的に差別、迫害されてきた存在と言えるのだった。




中国や香港ではコロナウィルスのホイッスルブローワーとなった医師が、 警察に捕われて声明取り消し文書への署名を強要されたこと、病院による彼の死亡発表を中国政府があらかじめモニターしていたことに対する反発に加えて、 その死に関する陰謀説も聞かれるのが現在。 またそのドクターの死亡報道直後に彼同様にホイッスルブローワーの役割を果たしたジャーナリストが 姿を消したことも 陰謀説にさらに拍車をかけており、 政府の発表に対して日に日に中国国内で高まっているのが不信感。
週末には「2日連続感染者が減った」というニュースと共に医療現場のスタッフがにこやかにポーズする様子がメディアで発信されたものの、 それを信じない人々の間では「イエスマンに囲まれたシー・ジン・ピンの古い政権体制では、今回のような非常事態に対応出来ない」という批判が 高まっていることが伝えられるのだった。

その一方で、もし2週間前のこのコラムでお伝えしたジョンズ・ホプキンズ大学ヘルス・セキュリティ・センターによる コロナウィルス仮想パンデミック・モデル通りに、向こう18ヵ月間で世界中の6500万人が命を落とすような深刻な事態になり、 そのプロセスでアジア人差別が進んだ場合、少なからず影響を及ぼすと見込まれるのが今年11月の大統領選挙の行方。
現時点のアメリカでは トランプ・サポーター、アンチ・トランプ派が何が起ころうと その支持を変えることは無いとさえ断言できるけれど、 前回の選挙で トランプ氏勝利の番狂わせを招いたのが 過去何年も投票せず、世論調査のレーダーにも引っかからなかった低所得者層。 今年の大統領選で それと同様の存在になりうるのが 他人種に比べて投票率が極めて低いことから、 これまで政治家が無視し続けてきたアジア系アメリカ人の有権者層。 アジア系アメリカ人は近年最も増加率が著しいマイノリティ人種で、毎年10万人以上の有権者を増やしている状況。 比較的 低所得者が少ない人種とあって 重視されるのは経済よりも政策やモラル。 具体的には人種差別を嫌い、移民問題をシリアスに捉えるアジア系アメリカ人の多くが支持するのは民主党。
アメリカの政治の世界ではアジア系アメリカ人有権者が ”スリーピー・ジャイアント(眠れる巨人)”、 すなわち世の中を動せる力を秘めていても投票しない層と言われて久しい状況。 でもコロナウィルスの問題でアジア人差別が広がれば、確実に目を覚ますと見込まれるのが ”眠れる巨人の投票パワー”。
世の中の流れが変わる際には 予期せぬ ”Xファクター” が大きな役割を果たすと言われるだけに、 コロナウィルスの問題はこの先の政治、経済を大きく変えるトリガーになる可能性を大いに含んでいるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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