Apr. 27 〜 May 3 2020

”My NYC Lockdown Life 6 & Reopen”
NYC ロックダウン・ライフ 6 & リオープン


今週土曜日の時点でアメリカのコロナウィルス感染者は約114万人、死者数は6万6,189人と伝えられるけれど、 メディアが着眼していたのが1964年〜1975年の9年間に渡るヴェトナム戦争で死亡したアメリカ兵5万8,220人を超える 死者が コロナウィルスによって僅か3カ月足らずで記録されたという事実。
今週もアメリカでは新たに380万人が失業保険を申請し、過去6週間の失業者総数は3000万人以上。 米国就業人口の6人に1人の割合で失業者が出た計算。 しかしこれには今週のボーイング社の1万6000人のレイオフ、カーシェアリングのリフトの982人のレイオフと288人のファーロフ(給与支払い停止処分)、 旅行ウェブサイトのトリップアドバイザーの900人以上のレイオフ、レンタカーの最大手 ハーツの1万人のレイオフなどは含まれていない上に、 未だ失業保険の手続きが出来ない人々、手続きの手間と労力を嫌って申請をしていない人々が居ることから、メディアの中には 「アメリカの失業者数が5000万人に達した」と見積もる指摘も聞かれるのだった。
今週比較的明るい話題として報じられたのは、ギリアド・サイエンシス社の新薬レンデシヴィールがコロナウィルス治療に役立つデータを得たことから、 食品医薬品局が通常の新薬認可のプロセスをスキップして緊急の使用許可を与えたというニュース。 とは言ってもトライアルの患者数は僅か397人で、入院期間がレンデシヴィールを投与していない患者の平均の15日に比べて4日短くなったという程度の効果。 致死率については投与していない患者の11%に対して、レンデシヴィールを投与した患者は8%とのことで、 今後の治療に用いられるものの ドラマティックな改善は望めないもの。 現在メディアでは同様の新薬開発、ワクチン開発のニュースが毎日のように報じられるのに加えて、 トランプ大統領イチ押しのマラリア治療薬、ハイドロキシークロクィンで逆に死者が増えた例もあるだけに、 一部の人々の間では「コロナウィルスに感染して病院に行けば、新薬のギニーピッグ(モルモット)にされる」と 恐れる声も聞かれるのだった。




その一方で今週危惧されていたのは、全米の17の大手食肉加工工場がコロナウィルス感染を受けてクローズしたことから、フードチェーン(食糧供給と流通のペース)が崩れ、 早ければ今週末から全米のスーパーで食肉不足が始まるという事態。 アメリカではステーキハウスがこぞって休業していることから先週にはフィレミニヨンの価格が40%下落したことが伝えられていたばかりであるけれど、 牛や豚などのライブストックを 食材店に卸売り可能なプロダクトにする加工肉工場が稼働しなければ 消費者のもとに食肉が届かないのは言うまでもないこと。 この事態を受けてトランプ大統領はディフェンス・プロダクション・アクト(政府の権限で強制的に必要なものを生産させる命令)を食肉加工業者に発令。 流通が滞らない措置を講じたものの、日頃から劣悪な環境での労働を強いられ、 コロナウィルス感染者が出てもプロテクション・ギア無しでの 作業を強いられる加工工場の従業員は猛反発。 「待遇が改善されるまで働かない」と抗議デモを行っていたのだった。
これに限らず今週のアメリカでも様々な抗議活動が行われていて、 シャットダウン解除とビジネス再開を求めるデモは特に規制が厳しいミシガン、メイン、オレゴンといった州で拡大し、ニューヨークでも起こっている状況。 またシャットダウン以来 2度目の家賃の支払い日を迎えた5月1日に全米各地で見られていたのが 家賃のキャンセルを求めるデモ。 同じ5月1日は労働者の日、メイデイとあってコロナウィルス感染下でも働かなければならないアマゾン、ホールフーズ、ターゲット、FedExらの従業員がコーディネートして 行っていたのが労働条件の改善を求めるウォークオフ(労働放棄)。 中でもアマゾン従業員のCEOジェフ・ベゾスへの風当たりは強く、毎年税金逃れをしているアマゾン、ベゾスに対して「税金を払わせろ!」というメッセージが見られていたのだった。
一方、カリフォルニア州ではガヴィン・ニューソン知事が「市民のソーシャル・ディスタンシングが守られていない」としてオレンジ・カウンティのビーチを閉鎖したことから、 人々が猛反発。「ビーチはカリフォルニアのライフスタイル」、「サーフィンは犯罪ではない」といったプラカードを掲げて抗議をしており、 確かに現在のカリフォルニアの天候を考慮すると、ビーチ閉鎖は市民の反感を買うだけの措置と言えるのだった。




さてアメリカでは政府が定めたシャットダウンが期限切れになったのが5月1日。でもそれを待たずして今週から17の州が段階的なビジネス再開に踏み切っているけれど、 それに際して何が起こったかと言えば、「失業保険の方が給与より高額」という労働者が職場復帰を拒否する事態。
そうなってしまうのは議会がコロナウィルスによる失業者に対し毎週600ドルの上乗せ金を支給する法案を可決していたためで、 それによって低所得者ほど失業保険の方が実入りが良いという状況が発生。中には収入が倍以上になったケースさえあり、 そんな人々はコロナウィルス感染リスクを冒してまで働いて収入が減るよりも、働かずして36〜39週間 失業手当を受け取る方を選ぶのは当然のこと。 これを受けてビジネス再開が始まったテネシー、アイオワ、オクラホマといった州では職場に戻るのを拒んだ従業員のレポートを雇用主に呼びかけ、 失業手当の支払い停止を警告しているのだった。

今週ビジネス再開に踏み切った州の様子は 当然のことながらコロナウィルス感染以前とは程遠い状況。 ジムではエクササイズ中もマスク着用が義務付けられ、マシンは使用が終わる度に消毒殺菌が行われる神経質ぶり。 しかしシャットダウン中にジムに行く習慣が崩れてしまったせいか、やってくるメンバーの数は未だ少ないとのこと。 ゴルフ・コースでは同じ世帯の住人でなければ 1つのパーティーでラウンドすることが許されないルール。
どの店でも店員、来店客が共にマスクを着用しており、入店前にマスクやハンドサニタイザーを来店客に配るストアも見られるのだった。 店員が手袋を着用するケースも多いものの、手袋をした手で顔やドアノブ等を触っているので 実際にはどの程度手袋の効果があるのは定かでない印象。
リオープン初日には一部のレストランで行列が出来ていたことが伝えられるけれど、 店内のキャパシティが50%、厳しい州では25%と定められていることを思うと、 たとえ店の外に来店客が行列をしていても、 レストラン、小売店が決して十分な利益を上げている訳ではないのだった。




一部の州では今週末からショッピング・モールもオープンしているけれど、 モール内でも 殆どの人々が義務付けられていなくてもマスクを着用。来店客が少ないとあってエスカレーターでも2フィート(約1.8メートル)の距離を開ける ソーシャル・ディスタンシングが守られていたのだった。 でもモールがオープンしても、テナント店舗の多くはビジネスを再開しない慎重姿勢。 フードコートでもテーブル間のスペースが大きく設けられ、消毒の手間を省くためにトレイの使用が廃止。 これまで来店客が自由にプラスティックのナイフやフォーク、ナプキンを取ることが出来たステーションも撤去。 トイレは洗面台が1つ置きでしか使えず、ウォーター・ファウンテン(水飲み場)も使用禁止になっているのだった。
せっかくビジネスをリオープンしても店側、モール側がこれまでとは異なるルールを設ければ設けるほど 来店客が興ざめするのは言うまでもないことで、アンケート調査では「安全が確保されるまで、ビジネスが再開されても利用は見合わせる」と考えるアメリカ人が 非常に多いことも明らかになっているのだった。

現在経済専門家が危惧するのは そんなコロナウィルスのシャットダウンがもたらすサイコロジカルなダメージ。 感染を恐れる気持ちもさることながら、人々の価値観が以前と変わりつつあることは否定できない事実なのだった。
例えば私のNYの友人は コロナウィルスのロックダウン中、フードバンクでボランティアをして以来、ごく普通のニューヨーカーが突然失業してフードバンクに何時間も行列してまで 食糧を取りに来るようになった様子にショックを受けてしまい、「ハンプトンに逃れた富裕層のように無駄な贅沢をする人に腹が立つ」と言いながら、 コロナウィルスのせいでソーシャリスト的思想になったと認める有り様。 ちなみにロックダウンが始まった3月に ボランティアの申し込みをしたニューヨーカーは約6500人。 前年同月比288%アップで、それ以外にもアプリを通じて高齢者のショッピングやケアをサポートする人々が居るので実際にはもっと多くの人々が何らかのボランティアをしている状況。
別の友人グループはロックダウン開始直後にはZOOMの会話で「お寿司が食べたい」、「XXXの店の何が食べたい」などと ピンポイントで食べたいものを言い合っていたけれど、 今では「ガラガラのレストランで入店前に熱を測られて、感染を心配しながら食事をするより、ワインとチーズだけで良いから 誰かの家に友達皆で集まって 細かいルールや周囲の目を気にしないで フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションがしたい」という意見に変わってきているのだった。
私自身「ロックダウンが解除されてまず何がしたいか?」と尋ねられた時には、コロナウィルスのせいで年に一度の日本への一時帰国が延期になってしまっているので、 「まずは日本に行って家族や友達に会いたい」ということしか頭に浮かばない状況。 それと同時にやはりニューヨークのような街に住んで 6週間も外出自粛が続くと「人混みが懐かしい」という気持ちが沸いてきて、 ロックダウン中の空っぽのニューヨークの写真を見る度に「ニューヨーカーが居ないニューヨークなんてニューヨークじゃない」という思いを新たにするのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。


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