Aug 3 〜 Aug 9 2020

”Manhattan Half Dead or Half Alive?"
マンハッタン、半死状態?それとも…


アメリカで金曜発表された2020年7月の雇用統計によれば、7月に生まれた新たな雇用は176万。6月の479万から大きく減っており、 その前日に発表された先週の失業者数は20週間連続で100万人を上回る120万人。 しかしメインストリーム・メディアは「先月も176万もの雇用が生まれた」、「コロナウィルス感染拡大以降最小の120万人の失業者に止まった」と これらの数字を明るいニュースとして報じるプロパガンダ的アングルを見せているのだった。
今週末の段階でアメリカのコロナウィルス感染者数は500万人を突破、死者数は16万人を超えており、 特に現在死者数が多いのがカリフォルニア、フロリダ、テキサスという感染の勢いが収まらない州。 今のところ感染鎮静化に成功しているニューヨークでは今週から空港だけでなく、列車の駅、州境のトンネル等、陸路でNY入りする感染拡大エリアからの旅行者に対する モニターをスタート。 旅行者は旅程を含むNYの滞在先、連絡先を書類に記入することが義務付けられ、14日間の自主隔離が行われなかった場合は 最高で1万ドルの罰金が科せられることになっているのだった。



レントだけでなく、食費も払えない!?


今週アメリカで最も報道時間が割かれていたのは 国民生活を支えるための新たな助成金法案を巡る与野党の攻防。 金曜の時点で双方の主張が物別れに終わったことから、土曜日にはトランプ大統領がエグゼクティブ・オーダー(大統領令)で失業保険の上乗せ金、給与税の免税等を含む 措置を独自に打ち出しているけれど、政府予算の使い道を決める権限があるのは大統領ではなく議会。そのためトランプ氏の大統領令は選挙を控えた国民へのアピールにはなっても、 実際には議会が大統領令を法廷で覆すプロセスが加わることから 法案可決への道のりを複雑にしただけ。
現在 失業手当を受け取っているアメリカ人は約3000万人で、その生活を支えていた1週間600ドルの上乗せ金がストップしたのは7月末のこと。 ニューヨークを始めとする一部の州では家賃が支払えないテナントに対する強制立ち退き禁止令が延長されたものの、 議会が早急に新たな法案を可決しない限りは 全米の4300万世帯のレンターの40%以上が立ち退きを強いられ、アメリカ史上最悪のハウジング・クライシスを迎えると予測されるのが現在。

でもレントもさることながら、失業やペイカットで収入が減っている人々にとっては徐々に支払えなくなってきているのが食費。 3月〜6月の間に牛肉価格が20.4%、鶏肉が7.2%、卵が7.4%、シリアルが3.5%、野菜や果物の価格が3.7%上昇しており、センサスビューローの調べによれば、2900万人の アメリカ人が7月16~21日の調査段階で「十分な食糧が買えない」と回答。 そのため全米各地ではフードバンクへの車の行列がさらに長くなっているけれど、全米のフードバンクが3月〜6月までの間に支給した食糧は20億人分。 その食材の調達は地方政府からの助成金と寄付で成り立っているものの、既に需要に供給が追い付かないところまで来ているという。
食糧価格が上昇している理由の1つはロックダウン以降、レストランの食材需要が大きく減り、代わりにスーパーで消費者が購入する食材需要が増えたことから 流通経路の変更、業務用パッケージから消費者用パッケージへの移行に時間と費用が掛かり、その結果ストアへの食材流通が十分に行き渡らないため。 加えてコロナウィルスの感染問題以降、3軒に1軒の割合で農家が倒産を申請していることも食糧不足に拍車をかけている要因。 そのため このままパンデミックが継続した場合、「早ければ年内に食材のハイパーインフレが起こる」との予測さえ聞かれるのだった。



アッパーウエストサイドがサンフランシスコになる日?


さてニューヨークで急増しているのがホームレスの数。市政府ではシェルターに収容しきれない1万3000人のホームレスをホテルに収容しており、 ホームレスのために市が支払っている宿泊費はなんと1晩200万ドル、日本円にして2億1000万円以上。 これまでホームレスが多かったのは圧倒的にダウンタウンとミッドタウンであったけれど、昨今その数が著しく増えているのがアッパー・ウエストサイドで、 昼間からストリートで堂々と寝込む姿、屋根がある場所に所持品を入れたカートと共に陣取る様子があちらこちらで見られているのだった。
その原因と言われるのが、NY市政府がアッパー・ウエストにある複数のホテルをホームレス用にあてがっているためで、ホテル側としては 旅行者が激減しているご時世なだけに、たとえ滞在者がホームレスでも市政府が満室の料金を払い続けてくれるのは決して悪くない話。 しかし近隣の住人にとっては治安が悪化し、不動産価値の下落を意味することから、 市の措置に反発する運動が盛り上がり始めているのが現在。 今週金曜夕方にはブロードウェイ72丁目の地下鉄駅から出てきた女性が、背後からホームレスと思しき男性に襲われるという これまで同エリアで滅多に起こらなかった事件が報じられており、特にホームレスが多いのがブロードウェイの79丁目から123丁目。
同じウエストサイドでもミッドタウンの34〜44丁目エリアでは、ホームレスが白昼の公道で堂々とヘロインと思しきドラッグを注射し、その注射器を無造作に捨てる様子を捉えたビデオがソーシャル・メディアで ヴァイラルになっており、子供が居るファミリーが多いアッパー・ウエストサイドの住人が最も恐れているのが そんなドラッグ中毒のホームレスが近隣に増えて、 サンフランシスコのような状況になること。
NY市政府は今の不動産価格が下がり、空き物件が増えてきた状況を利用して、今後は市が空きビルを購入して、 それをシェルターや低所得者住宅にコンバートする計画を打ち出しているけれど、その計画を遥かに上回るペースでホームレスが増えることが見込まれているのだった。



ミッドタウン、エンプティ But...


私は10日に1回くらいのペースで自宅があるアッパー・イーストサイドからミッドタウンに出掛けているけれど、アッパー・イーストサイドは そもそも住宅街なので、コロナウィルスのロックダウン以降も小規模なストアの閉店はいくつか見られても比較的以前と同じ雰囲気。 しかしミッドタウンに出掛ける度に思い知らされるのがコロナウィルスによる経済ダメージで、特に5番街は人通りが少ないだけでなく撤退店舗が多く、 かつてと比べると見る影もない様相。 マディソン・アヴェニューの方がまだ従来の雰囲気を残している印象なのだった。
加えて私が個人的にショックだったのがグランドセントラル駅内のショッピング・アーケードの変貌ぶり。 グランドセントラルは世界で最も利用者が多い駅であるだけに、ここのショッピング・アーケードはレントが高く、テナントになるには厳しい審査をクリアする必要があるけれど、 その分 選りすぐったショップが出店しており、いつも混み合っていたスポット。 ところが今では買い物客が店員より少ないという以前では考えられない状況。 商品の数やバラエティも減ってしまい、撤退か休業か分からない店舗もいくつか見られ、「こんな雰囲気の中で買い物をしたくない」という気持ちにさえなってしまったのだった。


ミッドタウンはストア・レントが高額なので 5番街に限らず撤退店舗が多く、6月初旬に3ヵ月ぶりにミッドタウンに出掛けた時にはクローズしているショップがあまりに多くて ショックを受けたけれど、昨今ミッドタウンを歩いているとそれよりも目に入ってくるのがいくつもの建築中の超高層ビル。 空を見上げると驚くほど高いところにクレーンが何本も立っていて、こんなに大規模なデベロプメントが一度にマンハッタン、それもミッドタウンでいくつも同時進行しているのは私が過去30年暮らしてきて初めて見る光景。
先日私がフォローしている経済専門家のポッドキャストでも、「ニューヨーク、特にマンハッタンはたとえ自宅勤務が増えてビジネス街が縮小しているように見えても、必ずカムバックするし、もうその方向に向かっている」 と言われていたけれど、事実フェイスブックやアマゾンといった大企業は自宅勤務が継続する状況にも拘わらず、マンハッタン内の巨大なオフィススペースの リース契約を現在のダウンマーケットを利用して結んでいる真っ最中。それに加えてこの急ピッチな開発ぶりを見ていると NYのカムバックはまんざら希望的観測やエンプティ・ホープではないという感触が味わえるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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