Sep 7 〜 Sep 13 2020

”Nasdaq & Robinhooders"
ナスダックとロビンフッダー、市場のトレンドメーカーの意外なプロフィール


今週木曜に発表されたアメリカの先週の新たな失業者数は前週と同じ88万人で横這い状態。 同じ日にはNFLのシーズンがスタートしたけれど、そのシーズンオープナーの視聴率は2019年の開幕戦と比べて13%ダウン。 リーグがブラック・ライブス・マターのムーブメントを支持する方向に転換したことが 保守派ファンの怒りを買っていると見られているのだった。
その一方で今週にはJ.P.モーガンチェースが、ロンドンとニューヨークのセールス&トレード部門のスタッフに対して 9月21日までにオフィスに戻って業務を行うよう通達。 シリコンヴァレーのテック企業が2021年半ばまでの自宅勤務を従業員に通達したのとは異なる方向性を打ち出しており、 1日も早くノーマルに戻ることで大統領選の勝算が高まるトランプ大統領に歓迎されていたのだった。



ロビンフッダー=素人投資家?


今週のアメリカではナスダックの株価の行方に注目が集まっていたけれど、暴落の原因と噂されたソフトバンク関連の報道は 実態がはっきりしないこともあって 既にラストウィーク・ニュース、もしくはイエスタウィーク・ニュース。 むしろ注目が集まっていたのは パンデミック以降 ”ロビンフッド・マーケット”、”ロビンフッド・バブル” とも言われ、オーバーヴァリューと見なされていたナスダックがどこまで下がるか。 その結果、週末の時点で聞かれていたのが 今週までの下げ幅を ブルマーケットの中の ”ヘルシー・コレクション(健全な調整)” とポジティブに捉える声。
スマホ・アプリ、ロビンフッドを通じて投資をするリテール・インヴェスター(個人投資家)を ”ロビンフッダー” と呼ぶようになって久しいけれど、 ツイッター上で毎日のように見られるのが、彼らが得た利益を "gainz (本来はgains=利益)" のスペルと#ロビンフッダーのハッシュタグで自慢するツイート。 ロビンフッドという企業自体は2013年に設立され、その企業価値は現在112億ドルで IPOの噂が飛び交う大成長ぶり。 2016年に100万人だったユーザー数は 今年に入ってから1000万人を突破。特に今年1月〜4月までの間に300万人の新規ユーザーを増やしているのだった。

ロビンフッダーはヘッジファンドを始めとする企業投資家に比べれば市場へのインパクトが遥かに小さいと軽視されがちな存在。 しかしながら新たな投資家を増やすパワーと独自のトレンドを生み出すパワーは侮れないところ。 そのトレンドを生み出しているのがアプリの中の ”トップ・ムーバー” という値動きの幅が著しい株のリスト。
ロビンフッダーは業績や企業のバックグラウンドなどを一切無視してトップ・ムーバーに飛びつく傾向にあることから、 プロの投資家が見向きもしない株がいきなり大きな動きを見せるようになったのがパンデミック以降。その好例と言えるのが DUOのシンボルでトレードされている FANGDD NETWORK GROUP LTD。 この株式がメガブレークを見せた理由と言われるのがロビンフッダーの単なる勘違い。 日本でGAFA(Google, Apple Facebook, Amazon)と言われるビッグテックは、欧米ではFANG(Facebook, Apple & Amazon, Netflix, Google)と呼ばれ、 「FANGストックを買うと確実に儲かる」と耳で聞いていたロビンフッダーが間違って飛びついたのがFANGDD NETWORK GROUP LTDの株式。
FANGDD NETWORK GROUP LTDは何故ナスダックにリストされているのか分からない中国の不動産会社。 それをロビンフッダーが勘違いして購入したことから トップ・ムーバーにリストされ、その途端にFOMO(Fear of Missing Out / 自分だけが取り残される強迫観念)に煽られた 1万5000人以上のロビンフッダーが この企業が何たるかも知らずに購入した結果が以下のプライス・アクション。
こんな打ち上げ花火のような相場でも儲けるロビンフッダーは居る訳で、彼らがそのGainzを自慢することから、 ロビンフッダーは益々ハイペースで刺激的な投資を求める傾向に走るのだった。





ロビンフッダーを利用しようとする企業


もう1つロビンフッダーが飛びついたことで知られるのが二コラの株式。二コラは二コラ・テスラからのネーミングで、テスラの対抗馬になるべく登場した ハイドロジェン(水素)&エレクトリック・エンジンのピックアップ・トラックのメーカー。
ところがこの二コラはかなり怪しい会社で、2016年にお披露目したファースト・モデルは 実は走ることさえ出来なかったニュースがブルームバーグ・ニュースで報じられた一方で、 かつての従業員が「工場見学にやって来たプレスやインヴェスターにCEOが大袈裟な嘘をつく」と証言するなど、まともな投資家ならばショートはしてもロングはしない株。 そんな二コラ株を6月4日の公開直後から跳ね上げたのがロビンフッダー。 34ドルで売りに出された二コラ株をまず購入したのは9300人のロビンフッダー。その直後にトップ・ムーバーにリストされたことから 15万人のロビンフッダーが同社株を購入し、株価は79ドルまで跳ね上っているのだった。
ちなみに二コラがこのIPOで売りに出したのは同社の3億6000万株のうちの僅か6.4%に当たる2300万株。通常公開される8〜10分の1程度の株数。 すなわち価格のアクションが大きくなるように あえて公開株数を減らした意図が感じられるIPO。 公開直後の二コラの株主総数は30万人で、売り買いの入れ替わりがあったとしてもその35%以上がロビンフッダーであったと言われるのだった。
「次なるテスラ」という肩書だけが先行した二コラは、企業の実態が伴わないままその後も30〜40ドル台で株価が推移。 今週水曜にはGMが二コラをめぐる赤信号の噂を無視して その株式の11%を20億ドルで買い取り、 株価が一時的に30%アップ。しかしその直後に二コラ株をショートしているヒンデンブルグ・リサーチが同社の内情を暴くレポートを発表しており、 金曜の終値はGM効果を帳消しにする32ドルにまで下落。 週末には「GMが愚かな投資をしたのはロビンフッダーによってセットされた株価に翻弄されたため」との指摘さえ聞かれたのだった。

そんな飛びつき型のロビンフッダーを完璧に利用したのが5月に倒産したレンタカーの大手、Hertz / ハーツ。 倒産が報じられ一時56セントまで下落したハーツの株式が、その10倍に当たる5ドル53セントになった時には 「誰が倒産した企業の株など買うのか」という 疑問が飛び交っていたけれど、その答えが例によってロビンフッダー。倒産前には僅か2713人のロビンフッダーが所有していたのがハーツ株。 ところが倒産直後にトップ・ムーバー・リストに載ったことから17万人のロビンフッダーが、倒産を知ってか、知らずかは不明であるものの競って購入。 蓋を開けてみれば、これはハーツが少しでもキャッシュを回収しようとロビンフッダーをターゲットに仕掛けた相場。 ハーツ株は程なく証券取引委員会によって市場から削除されているのだった。





 ”Get Rich Fast”のメンタリティに影を落とす20年ぶりの現象


市場アナリストによればロビンフッダーはリスクテーカーが多く、ロビンフッダーに人気なのはヴォラティリティ(市場の変動性)が高い、 すなわち値動きの幅が大きい銘柄。 ではリスクの割に見返りがあるかと言えば、大方の予想を裏切って意外にも平均的には損をしていないのがロビンフッダー。
上のグラフは、ラッセル1000(米国市場の90%以上を占めるラッセル3000リストの中の上位1000銘柄)のうち、ロビンフッダーに人気の銘柄の1か月のフューチャー・リターンの中央値と ラッセル1000全体の同じ数字を比較したもの。ブルーのラインのロビンフッダーの方が、市場平均を上回るケースが多いことが立証されているのだった。
またロビンフッドの2020年第2四半期の1億8000万ドルの利益のうちの1億1100万ドルがオプション・トレーディングによるもの。 したがってユーザーのマジョリティはアマチュア・トレーダーと言われるものの、ロビンフッドの利益に貢献しているのはオプション・トレーディングが何であるかと そのリスクを理解しながら ロビンフッドの便利な機能を利用してオプション・トレードをしている人々。

いずれにしてもロビンフッダーが急増したお陰で、リテール・インベスターがここまで市場に参入してきたのは20年ぶりと言われる現象。 特にパンデミック以降は失業手当の上乗せ金や政府が支給した1200ドルの景気刺激策の救済金で投資を始めた人々が多いと言われ、 今週木曜に議会で新たなリリーフ法案が否決された直後に株価が下がったのは、期待されていた新たな資金と市場参入者が暫し望めない失望感からと言われるもの。
8月26日には20年ぶりと言われる現象がもう1つ起こっていて、それはS&P 500が1%アップして最高値を更新した日に VIX指数が5%アップしていたという極めて異例なチャートの動き。 VIXはヴォラティリティ・インデックスの略で、投資家が市場に抱く不安や恐怖を数値にしたもの。日本語では「恐怖指数」とも呼ばれるのだった。 通常は市場が下がっている時に投資家の不安や恐怖心を反映して高くなるはずのVIX指数が、S&P500とナスダック100が最高値を更新した日に5%アップしたことで プロの市場関係者を中心に広がったのが大きな不安。
果たしてその不安が9月2日から始まったナスダックの急落で払拭されたかは定かではないけれど、今から20年前に何が起こっていたかと言えば テック・バブル、もしくはドットコム・バブルのクラッシュ。 メディアでは「今はテック企業が大きくなり過ぎたので前回のようには弾けない」という声が聞かれる一方で、 「市場は上がり続けるけれど、ドルの価値が下がる」など予測は様々。実際のところパンデミックと大統領選挙、山火事とハリケーンの猛烈な被害、全米各都市での抗議活動と暴動など、 不確定要素が多過ぎて これからの市場と世の中がどうなっていくかは誰もに予測不可能。 唯一誰もが予想するのは市場が上がっても下がっても、大統領選挙以降はチャレンジングな時代が待っているということ。
これまではコロナ・ダンプの後で市場全体が上向きだったので、「Get Rich Fast」のメンタリティで参入したロビンフッダーがハネムーナーの気分やビギナーズ・ラッキーを味わえたけれど、 彼らが焦り出した時には市場か社会、もしくはその双方に混乱をもたらす可能性があるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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