Oct 26 〜 Nov 1 2020

”Who to Vote, Don't Ask, Don't Tell"
支持候補を言わない、言えない、嘘をつく有権者の背景


10月31日のハロウィーンは今月2度目の満月。10月に入って最初の満月のことを英語ではHarvest Moon/ハーヴェスト・ムーンと呼ぶけれど、 同じ月に見られる2度目の満月のことは英語でBlue Moon/ブルー・ムーンと呼び、これは2年半に1回程度のペースで起こるもの。前回起こったのは2018年3月のこと。 英語ではめったに起こらないことを「Once in a Blue Moon (ブルームーンが起こった時)」と表現するけれど、これは正に言い得て妙の表現。
でもそれより珍しいのはハロウィーンに満月を迎えたことで、これは1944年以来の出来事。次回起こるのは19年後の2039年。 では1944年に何が起こっていたかと言えば、この時は第二次大戦の真っ只中で、6月にノルマンディー上陸作戦が行われ、 11月7日に行われた大統領選挙で4期目の再選を果たしたのが民主党のFDRことフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領。 ニューヨーク出身のFDRはアメリカ史上唯一3回の任期を務めた大統領で、4期目に入った3ヵ月後の1945年4月に死去しているのだった。



エモーショナル・エレクション


当然のことながらアメリカのメディアでは大統領選挙の報道に最も時間が割かれているけれど、既に郵送、もしくは投票所で投票を済ませた有権者は金曜の時点で9000万人。 アンケート調査によれば 86%の民主党支持者がトランプ氏が再選されればアメリカが独裁主義国家になると考え、 89%の共和党支持者がバイデン氏が当選すればアメリカが社会主義国家に向かって歩み始めるという考え。 熱心な支持者ほどその危機感をつのらせているとのこと。
私は今週選挙権を持つアメリカ人の友達とZOOMチャットをしていたけれど、 その友達はニューヨーカー&元ニューヨーカー、しかもミレニアル世代とあってこぞってアンチ・トランプ派。 それもあって全員が4年前の選挙翌朝の 9・11テロ直後のように静まり返ったニューヨークの落胆ぶりを鮮明に覚えていたのだった。 そのうちの2人は両親がトランプ支持者で、その記憶に鮮明なのが2016年のサンクスギヴィング・ディナーでの家族の口論。 事実アメリカに非常に多いのが 「2016年の選挙がきっかけで口を利かなくなった家族や友達が居る」という人々。
その2人は「トランプが勝ったら、コロナウィルスを理由にサンクスギヴィングには里帰りをしないと思う」とさえ言っていて、 「もう一度4年前のような親子喧嘩になったら関係修復が不可能になる」ことを危惧しているのだった。 それほどアメリカ人がエモーショナルになっているのが今回の選挙で、パンデミックの影響も手伝って前回の選挙より人々が遥かに アグレッシブかつヴァイオレントになっているのが現在。
特にスウィング・ステートの住宅街では庭先の支持表明のヤード・サインが落書きや破損の対象になっていることが伝えられるけれど、 こうしたエリアではヤード・サインで支持候補を明らかにしないと投票勧誘をする人が頻繁に尋ねて来たり、電話が掛かってくるとのこと。 なのでヤード・サインはその面倒回避の手段でもあり、必ずしも熱心な支持者を意味する訳ではないようなのだった。



ヤード・サインで占う選挙の行方


多くの一般家庭のフロント・ヤードに見られる「TRUMP/ PENCE 2020」「BIDEN / HARRIS 2020」と書かれたプレーンなサインは支持者に対して無料で配布されるもの。 今回の選挙ではトランプ支持者の庭先のサインの殆どが無料配布のものなのに対して、 上のビジュアルのような捻りとユーモアを感じさせるアンチ・トランプ・サインは19〜29ドルを払って購入しなければならないもの。 単純に判断すればヤード・サインにおいてはアンチ・トランプ派の方が自腹を切っている分、思い入れが強いということになるけれど、 アメリカのカルチャー分析で選挙の行方を占う重要なポイントになってくるのは常にユーモアのセンス。
歴代の大統領選挙の行方を選挙前の株価や、失業率よりも的確に当ててきた指針が、ハロウィーンのゴム製フェイスマスクの売上と、 「ビールを飲んで語り合う相手としてどちらの候補者を選ぶか?」という単純な質問に対する国民の回答。 前回のトランプ氏はその双方でヒラリー・クリントンに勝っていたのは勿論、その前のオバマVS.ロムニー、オバマVS.マケイン、ブッシュVS.ケリー、ブッシュVS.ゴア等、 大統領の候補者のゴム製マスクが世の中に登場して以来、ずっと保たれているのがその伝統。
今回の選挙ではトランプ・ラリーが前回よりエンターテイメント性が衰えて、ウィルスの否定やバイデン政権が誕生した場合の恐怖を煽る集会になってきた一方で、 ヤードサインに見られるようにアンチ・トランプ/バイデン派の方にユーモアのセンスがあるのは前回のトランプVS.ヒラリーとは異なる展開。
私がアメリカに30年暮らして、アメリカと日本の決定的な違いだと思うのはアメリカ社会が常にユーモアのセンスに軍配を上げる点で、 まとも、真面目、エリート、恐怖、怒り、常識といったものがユーモアに決して勝てないのがアメリカ。 選挙においても 未だに支持候補を決められないほど優柔不断、もしくは どちらでも良い、どちらも支持したくないというスウィング・ヴォーターを最後の瞬間に動かすのは 政策でも、実績でもなく、候補者やその選挙キャンペーンのウィットやユーモアと言われるのだった。



今年のサンクスギヴィング・ディナーで埋まらない椅子…


選挙間際のアメリカでは、暴動に備えてストア・ウィンドウがボードアップされているけれど、その一方で 前回の選挙でヒラリー・クリントンへの応援が全く役に立たなかったセレブリティ達が ラストスパートのバイデン支持と投票の呼びかけをしていたのが今週。 その顔ぶれは夫の兄がイヴァンカ・トランプの夫、ジャレッド・クシュナーであるモデルのカーリー・クロスに始まり、 南部出身でかつては共和党支持者であったというジェニファー・ローレンス、父親のスティーブン・ボールドウィンがハリウッドで数少ない熱心なトランプ支持者である ヘイリー・ビーバー、投票の瞬間をビデオ公開したレディ・ガガ等。逆にバイデンの増税策を恐れて「トランプ嫌い」を認めながらもトランプ支持を表明したのがラッパーの50センツで、 彼以外にも同じ理由で何人かのラッパーがトランプ支持を打ち出しているのだった。
でも一般人の間では支持者を明らかにしない、もしくはどちらかを支持しているように見せているだけの人も多く、 例えばマイアミに住む私の親友によれば、彼女のネイバー3世帯がバイデン支持を謳っているものの「人種差別主義者や、税金を払いたがらない身勝手なメガリッチと思われたくないフェイクかもしれない」 とのこと。 その逆のケースは現在コロナウィルスが拡大している中西部の伝統的な共和党支持エリア。 これらは第一波での感染者が少なかったことから コロナウィルスを信じない人々が殆どであったけれど、 さすがに身内から死者が出ると、トランプ氏が演説で「マスクをするなんて馬鹿げている、コロナウィルスなんてすぐ直る」と語っているのを聞くと 沸いてくるのが怒りや恨み。 それでも周囲にトランプ支持者が多いので口には出さず、ソーシャル・メディアを通じてウィルスの危険とバイデン支持を訴えているとのこと。 そんな家族や友人をコロナウィルスで失った人々にとっては、バイデン氏が頻繁に語る「今年のサンクスギヴィング・ディナーで埋まらない椅子」というフレーズが 心に大きく響いていると言われるのだった。

いずれにしてもアメリカ国民の誰もが 早く終わって欲しいと願っているのが今回の選挙。 現時点では多くの専門家が勝利を決めると見積もっているのがフロリダとペンシルヴァニアの選挙人の行方。 そのペンシルヴァニアは今週最高裁が選挙3日後までの郵送票のカウントを認めたことから、 最低3日は選挙結果が出ないという声もあるけれど、それを待たずして勝敗が決まる場合はバイデン勝利という予測が圧倒的。 そうなればトランプ氏が裁判に持ち込むので、やはり暫く結果が出ないことが見込まれるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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