Mar 1 〜 Mar 7 2021

"Woke Culture Tag of War"
アジア人差別でWokeカルチャーが適切に思える時


今週月曜からアメリカで流通がスタートしたのがジョンソン&ジョンソン社のシングル・ショット・ワクチン。 バイデン政権がディフェンス・プロダクション・アクトを発令したことから、今後はライバル企業であるMerck/メルク社もジョンソン&ジョンソンのワクチンを生産することになり、 3月中には保育所を含むすべての教育機関のスタッフにワクチン投与を行い、5月末までにはアメリカの成人全員にワクチンが行き渡る見込み。 週開けの段階でアメリカの成人の8%に当たる25万人がファイザー、もしくはモデルナのワクチンの2回投与を終えており、 アメリカのワクチン普及率はは、現在イスラエル、アラブ首長国連邦、イギリスに次いで世界第4位。 また今週には、昨年秋にコロナウィルスに感染していたトランプ前大統領夫妻が 1月に極秘にワクチン投与を受けていたことも明らかになっているのだった。
高齢者に対して優先的にワクチン投与が行われた結果、養護施設での感染者数はここへ来て82%ダウン。 それを受けて今週には14の州がレストラン&ストアのキャパシティ制限の撤廃、マスク着用義務を解除する規制緩和に動いているけれど、 疾病予防センターではワクチンが普及しても 変異種のリスクがあることから、引き続きマスク着用とソーシャル・ディスタンシングを呼び掛けているのだった。



Getting ready for non-Zoom meeting


3月11日で、WHOが正式にコロナウィルス感染をパンデミックと位置付けて丸1年を迎えるけれど、アメリカではワクチン普及に伴って ここへきてムードが大きく変わりつつあるのは紛れもない事実。金曜に発表された2月の雇用統計では37万9000の新たな仕事が生み出され、 まだまだ失業者は多いものの 雇用ペースがアップ。
アパレル会社のアーバン・アウトフィッターズによれば、パンデミック中はスウェット・パンツやレギンス、フーディーといったステイホーム・ファッションが売り上げの中心であったものの、 2月末から売り上げを急速に伸ばしているのが”Going Out-Type Apparel”、すなわち外出着。 また20代後半から40代前半をターゲットにするアパレルチェーン、アンソロポロジーでも現在のオンライン・ベストセラーのトップ10アイテムが 全て外出用ドレス。昨年春先にZOOMミーティング用のタートルネックやブラウスがベストセラーになっていたのとは異なる状況であるとのこと。
ニューヨークのシアターでは来月からライブ・パフォーマンスが再開され、マディソン・スクエア・ガーデンでは7月からコンサートが再開される見込みであるけれど、 ライブネーションの発表によれば夏にイギリスで開催されるミュージック・フェスティバルの20万枚のチケットが僅か数日で完売。 ラスヴェガスにも客足が20%以上戻ってきている他、クルーズ船のヴァケーション・ブッキングも30%アップ。 全米で展開するジム・チェーン、プラネット・フィットネスでもメンバーシップの申し込みが今年1月から上昇に転じているとのこと。 映画館は引き続き低迷が続いているけれど、これは最新作がストリーミングで公開されるタイミングが早まっているためと説明されているのだった。
でもレジャーや社交の再開には積極的な一方で、パンデミックですっかりWFH(Work From Home)やオンライン・クラスのライフスタイルに慣れてしまった人々が 徐々に感じているのが”Re-Entry Anxiety / リエントリー・アングザエティ”。すなわち元の生活に戻る不安。 アメリカン・サイコロジカル・アソシエーションの調べによれば、アメリカの成人の46%がパンデミック前の生活に戻ることに抵抗を感じ、 49%がフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションに不安を抱いているとのこと。 パンデミック中には「早くノーマルな生活に戻りたい」と切望していた人々も、パンデミックが1年続いてその生活がニューノーマルになると、 今度はかつてのノーマルに戻ることに不安やストレスを感じる悪循環が生じているのだった。



Woke & カウンター・アクション


今週アメリカで大きく報じられていたのが、児童書として何十年もロングセラーになってきたドクター・スース・シリーズのうちの6冊に 人種差別表現が含まれているとして出版停止になったニュース。この出版停止は読者からのクレームを受けて、出版社ではなくドクター・スース側が 既に昨年中に決定していたこと。人種差別的と言われたのは アジア人を「目が2本の線になっている」、 アフリカの人々を「靴を履かず、服も着ないで腰に草のスカートを巻いている」等と表現する記載。
この報道後、出版停止になった6冊の書籍はEベイで600~1000ドルの高額で取引され、アマゾン・ドットコムでは児童書ベストトセラーのトップ10中、8冊が ドクター・スースの本で占められていたけれど、これは現在のアメリカにおける典型的なWoke/ウォーク・カルチャーとその反動のリアクション。 アメリカでブラック・ライブス・マターのムーブメントが盛り上がり始めた数年前から使われるようになった ”Woke/ウォーク” という言葉は、 「世の中の差別や不正に対して目を覚ました状態でいなければならない」という意味で、#StayWokeというハッシュタグがトレンディングになっていたのは記憶に新しいところ。 でもここ2年ほどは 右寄りの保守派が過度にポリティカリー・コレクトな状況を批判する際に使うのが”ウォーク”という言葉で、 ありとあらゆる差別を過敏に取り締まっては排除する”キャンセル・カルチャー” を意味するのがこの言葉。 民主党支持者を中心とするリベラル派がウォーク&キャンセル・カルチャーをプッシュする一方で、 右寄り保守派がキャンセル・カルチャーのターゲットに対して強力なサポートを見せるのが今のアメリカ。
例えば2月に黒人蔑視の放送禁止用語であるNワードを叫んでいるビデオが芸能メディアで公開され、猛烈な批判を浴びたカントリーシンガーのモーガン・ウォーレン(写真上右)は、 その翌日にはスポティファイ、アップル・ミュージックが彼の楽曲を削除。アカデミー オブ カントリー ミュージックも彼を授賞式イベントの対象外にすると発表したけれど、 そんなキャンセル・カルチャーに反発する保守派が彼を強力にサポートした結果、彼のアルバムはNo.1に輝いているのだった。



アジア人ステレオタイプの差別ジェスチャー


長寿人気のリアリティTV 「バチェラー」で2月半ばに物議をかもしたのが、黒人男性のバチェラーを射止めるために出演していたはずのコンテスタントの1人が、奴隷制時代の プランテーションのテーマパーティーに参加し、黒人差別的なポストにLikeをしていたこと。当然ながらこのコンテスタント(写真上中央)には バッシングが集中していたけれど、彼女をかばっただけでなく、そんなキャンセル・カルチャーを批判したのが同番組の長年のホスト、クリス・ハリソン(写真上左)。 しかしそのコメントが番組視聴者の怒りを買ったことから、彼自身がキャンセル・カルチャーのターゲットとなり、その段階で確実視されていたのがホスト降板。
今週にはそのクリス・ハリソンが問題発言以来、初めてメディアに登場。謝罪を行ったけれど、 右寄り保守派が彼に同情的で「謝まる必要など無い」とサポートしていたのに対して、リベラル左派は 「年収800万ドルの仕事をキープするためにクリス・ハリソンが表面的に謝罪しただけ」と厳しい見解を示していたのだった。

一方、今週ヴァイラル・ビデオになったのが、カリフォルニア州サクラメントの高校教師が ZOOMクラスでアジア人蔑視のジェスチャーを交えながらのアジア人ステレオタイプについて語った様子。 この教師は目尻を引っ張って細目にしながら 「吊り目だったら中国人、垂れ目だったら日本人、まっすぐだったら何人だか分からない」と、 アメリカに長く伝わるアジア人蔑視ジェスチャーを実践。この高校におけるアジア系学生の割合は16%で、気分を害してクラスを退席する学生も居たとのこと。 教師が行ったアジア人差別のジェスチャーのオリジナルは 19世紀末にアジア系移民が増えた頃から伝わるもので ”Chinese, Japanese, Dirty knees, Look at these" というフレーズを歌いながら行うもの。 この教師に対する批判のリアクションに交じって見られたのが 「子供の頃には友達とこれを歌いながら縄跳びをしていた。これが差別とは思っていなかった」 という白人と思しき人物の書き込みで、こんなケースでもWokeカルチャーへのプッシュバックが見られるのが今のアメリカ。 でも多くのメディアがこのニュースを 現在全米で急増するアジア人に対するヴァイオレンス、ヘイト・クライムと結び付けて報道していたのが今週。
アジア人に対するヴァイオレンスはニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴ等、主要8都市でパンデミック前に比べて平均150%アップしており、 その要因の一端を担っているのがコロナウィルスを”チャイナウィルス”と呼んで差別的中国批判をしたトランプ前大統領。 差別や暴力を働く側は アジア系であれば日本人でも、親の代からアメリカ国籍の中国系アメリカ人でも ”コロナウィルスを運んできた中国人” と勝手に見なして ターゲットにする訳で、それはストレート男性が「ゲイに見える」という理由で ゲイ・バッシングの対象になったり、 イスラム教であればテロリストとして見なされて嫌がらせを受けたり、雇用対象から外されてきたのと同じ状況。
アメリカのアジア人コミュニティは、私がアメリカに渡った1990年代初頭に起こっていたジャパン・バッシングの時も含め、長きに渡って差別と闘うよりも無視を決めこんで、 政治には関わらないポジションを取り続けてきたけれど、ソーシャル・メディアの影響とトランプ政権下で人種問題が急速に悪化した今の世の中では もうそんな姿勢は時代遅れであり、命取り。 今のアメリカのウォーク、キャンセル・カルチャーが少々行き過ぎと感じる私でさえ、アジア人に関してはもっと強く抱くべきと感じるのがWokeの意識なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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