Apr 12 〜 Apr 18 2021

"Despite the Gun Violence…"
メディアフォーカスはガン・ヴァイオレンスでも アメリカはビジネス最優先


今週アメリカには日本の菅首相が訪れていたものの、メインストリート・メディアはその会談内容には全く無関心で、 菅首相の訪米についても触れないメディアもあったほど。 それよりもバイデン大統領が打ち出したロシアへの制裁と、それに対するプーチン大統領のカウンター・アクションが外交のメイン報道であったけれど、 一番のニュースになっていたのはガン・ヴァイオレンス。週開けにはミネアポリスで交通違反で取り押さえた黒人青年を警官がテイザーと間違えて銃で射殺、 水曜にはシカゴではホールドアップした13歳の少年を追跡していた警官が射殺、そして木曜夜にはインディアナ州のFedExのウェアハウスで19歳の元従業員が 8人を射殺して自殺を図っており、それぞれが大報道になっていたのに加えて、前者2件については全米各都市で抗議活動が起こり、それが取り締まりの警察との衝突をもたらしていたのだった。
マスシューティングについては、FedExの事件が2021年に起こった142件目の事件で、死者が出た事件としては7件目。3月だけで44人がマスシューティングで死亡しているけれど、そもそもアメリカでは自殺を含まない 銃による死者数は年間約2万人。この数は銃規制が緩い州ほど多いことが指摘されているのだった。



コインベースIPOリッチ


メインストリーム・メディアがガン・ヴァイオレンスや人種問題の報道に忙しかった中、ビジネス・メディアは 今週 史上最高値である3万4000ドル台を記録したNYダウに象徴される アメリカの景気回復にフォーカスし、 いよいよ稼ぎ時が来たとばかりのアップビート。
そんな水曜にナスダックで公開されたのがクリプトカレンシーの最大手取引所の1つ、コインベースの株式。 コインベースは、2012年6月に元エアB'n'Bのソフトウェアエンジニア、ブライアン・アームストロングと元ゴールドマン・サックスのトレーダー、フレッド・アーサムが サンフランシスコの2ベッドルーム・アパートメントをオフィスにスタートしたビジネスで、初期の彼らをサポートしたのがRedditの創設者の1人であるアレクシス・オハニアン。 彼の妻でプロテニスのセリーナ・ウィリアムスも自らの投資会社を通じてコインベースに多額の投資をしていたことを明らかにしていたけれど、 創設者2人が10年足らずでビリオネアになっただけでなく、この史上第7位の規模のIPOによって何人も誕生したと言われるのが若きミリオネア。
もちろんメガリッチもさらにリッチになっており、2013年に30万ドルを出資したイニシャライズド・キャピタル創設者、ゲーリー・タンはそれが8000倍の24億ドルになったと言われるほど。 それ以外にもコインベースにはユニオンスクエア・ヴェンチャー、アンドリーセン・ホロウィッツ等のヴェンチャー・キャピタルの大手、NY商品取引所、 PayPalやLinkedInの共同設立者のリード・ホフマン、ラッパーのNas、NBAブルックリン・ネッツのケヴィン・デュランなどが 投資をしており、それぞれがここで大きく資産を増やしたのは言うまでもないこと。 またコインベースはその1700人の従業員全員に対して同社株式をそれぞれ100シェア支給したとのことで、金曜の終値で計算すると それは3万4200万ドルに相当するのだった。



ペロトンの思わぬ落とし穴  


パンデミック中に大きく市場が拡大したのがホーム・エクササイズのカテゴリーがあるけれど、中でもペロトンは約2000ドルのバイク・マシンの 売上が大きく伸びただけでなく、1ヵ月39ドルのビデオ・ストリーミングのメンバー数が113%アップの310万人までに拡大。 ペロトン初期からのインベスター、ビヨンセとのチームアップで彼女の楽曲を使ったストリーミング・プログラムを製作するなど 着実にビジネスを拡大し、2020年の同社株式は「フィットネス業界のアップル」とまで言われたほど。
ところが2020年10月にバイクマシンのペダルが外れたり、壊れたりで怪我人が続出し、27000ユニットのペダルをリコール。 また身長最低150pをバイク・マシンの使用条件としたペロトンが、それに満たない身長の購入希望者に対し “You are too short to use our product but thanks for being a part of our community. Even though you are not included,” (あなたは当社のプロダクトを使用するには背が低すぎます。我々のコミュニティに含まれなくても、その一部になってくれたことに感謝します)という排他的な メッセージを送付していたことがソーシャル・メディアで露呈。 さらにはパンデミック中に急増したオーダーに生産が対応できず、何カ月待ってもマシンが届かないジレンマから 購入希望者によるキャンセル続出が報じられたのが2020年11月末のこと。
それを受けて2020年12月にピークを付けたペロトンの株価は徐々に下降線を辿って行ったけれど、 追い打ちをかけるように起こったのが4000ドルのランニング・マシン、ペロトン・トレッドで子供の負傷者が続出し、先月には死者まで記録したこと。 その被害件数は現時点で39件。その多くは子供がマシンの後部から引き込まれて約200キロのマシンの下敷きになってしまうというもので、同様の被害で怪我を負ったペットも居るとのこと。 これを受けて今週土曜日に連邦消費者製品安全委員会(CPSC)が警告したのが「ペロトン・トレッドを使用しないように」という警告。 ペロトン側は事故が全体のごく僅かであることを強調し、CPSCの警告がミスリーディングであるとして抗議しているけれど、 アメリカでは丁度パンデミック以降 営業規制が掛かっていたジムが キャパシティ制限はあるものの 本格的に営業を再開し始めたところ。 このタイミングでのCPSCの警告がペロトンのビジネスにどう影響するかが見守られているのだった。



ソーシャル・アンレスト(社会暴動)はビジネスの大敵!?


アメリカは今週も失業者が減り、FRBが3月に上方修正した2020年のアメリカ経済平均成長率6.5%の見込みが現実味を帯びてきたところ。 しかしその経済成長に蔭を落とす要素になり得るのがソーシャル・アンレスト(社会暴動)。 特に先月ジョージア州で可決された新しい投票権法は 州政府が「2020年の大統領選挙で不正選挙は無かった」としながらも、 「マイノリティが投票したせいで本来共和党保守の州がブルーステート(民主党支持州)になってしまった」と言わんばかりに マイノリティ人種の投票を極めて難しくするもの。そのため民主主義に反する差別法として猛反発を買い、抗議活動が全米各地で起こったのに加えて、 コカ・コーラ、デルタ航空、J.P.モーガン・チェイスといったビジネスがそれに抗議。 逆にこの法案をサポートするトランプ前大統領はこれらの企業へのボイコットを支持者に呼び掛けていたのだった。

こうした投票規制法、及びそれを巡る対立が社会とビジネスに著しいダメージを与えるとして、 今週発表されたのがアマゾン、ブラックロック、グーグル、スターバックス、バンク・オブ・アメリカといった大企業やウォーレン・バフェット等の著名ビジネスマンによる 「アメリカの民主主義は全ての国民に平等に機能するべき。国民全員の投票権利を保護しなければならない」という 共同声明。これをオーガナイズしたのは元アメリカン・エクスプレスのCEOとメリックの現CEOで、これにサインをしなかった最大のビジネスがウォルマート。 またジョージア州の法律に既に抗議表明をしていたコカ・コーラ、デルタ航空等も更なるバックラッシュやボイコットを避けるために これには不参加。ウォルマートが参加をしなかった理由は、同社が政治的に中立で 政党政治の争いに巻き込まれたくないというもの。 要するに署名をした大企業がこれ以上の政治的社会混乱は避けるべきと考えを示したのに対して、 ウォルマートは社会混乱が起こってもそれとは無関係な立場を明確にしていたのだった。

とは言ってもあまりに多くの事件が起こる現在のアメリカでは、バックラッシュやボイコットのアテンション・スパンはどんどん短くなっているのが実情。 コカ・コーラのボイコットを呼びかけたトランプ氏でさえ、2日も経たないうちにスナップされたのがゴルフ コースでのランチでダイエット・コークを飲んでいた様子 (写真上右)。 そもそもトランプ氏は大統領執務室のデスク上にダイエット・コークをリクエストする特別ボタンを設置していたほどのダイエット・コーク好き。
人々がアマゾンに抗議しながらもアマゾンで品物をオーダーをしたり、グーグルを批判しながらもグーグル検索をするのと同様で、 企業の政治的ポジションやポリシーがどうあれ「無いと困る」、「無いと不便」というビジネスには、さほど大きな国民感情の影響が見られないのもまた事実なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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