Aug. 16 〜 Aug. 22 2021

"Week of Taliban"
更に凶悪になったタリバン2.0, タリバンと同罪のあの銀行と あのシンガー, Etc.


今週アメリカで毎日のようにトップニュースになっていたのがアフガニスタン情勢。アメリカ軍の撤退が本格化してから、 事実上 僅か11日でタリバンがアフガニスタンを占拠したスピードは、米政府関係者も「予想し得なかった」と語っていたこと。 その誤算の1つはアフガニスタン政府軍が各地で あっさり武器を捨ててタリバンに降伏したこと。 そして首都 カブールが占拠される直前に アシュラフ・ガー二大統領が国民に対して一切の声明の発表もなく、 1億6700万ドルの個人資産を持ってアラブ首長国連邦に亡命してしまったことで、 最初から改革復興にやる気の無い政府とその軍隊のために、長年無駄な国費と兵力を注いできたことを改めて痛感させたのが今週。
アフガニスタンからの米軍撤退は長年 国民が望んできたことで、今も3分の2以上の国民が支持しているものの、 今週バイデン政権が猛批判を浴びたのは、タリバン勢力を軽視したのもさることながら、そのあまりに準備不十分な撤退ぶり。 現地のアメリカ人、米軍に協力したアフガン市民、ボランティアらの国外脱出が混乱を極める様子は国民の反感を買っており、 タリバンが各地を占拠する前から米国軍協力者や未婚の少女が居る家のリストを作り、占拠と共にその家を襲うという周到な準備をしていた様子とは正反対。
野党共和党からは 「これでアフガニスタンが再びテロリスト養成国に戻った」との批判も聞かれていたけれど、 現時点で「国外のテロリストを脅威に感じている」と答えるアメリカ国民は50%。 それよりも多い65%の国民が 「白人至上主義グループ等、 国内のエクストリーム集団によるテロを恐れている」と回答しているのだった。



タリバン 2.0は 更に凶悪?


首都カブール占拠後の週明けにプレス・カンファレンスを行ったタリバンは、その中で「女性は社会の重要な部分」と語り、 あえて一番最初に女性記者からの質問を受けており、世界中から批判を浴びる女性蔑視のイメージを緩和させ、よりモダンなタリバン2.0 をアピール。 またタリバンは徐々に スカーフを頭に巻くよりも、ミリタリーキャップやベースボールキャップを被り、 サングラスをするようになっており、彼らにも西洋ファッションの影響が見られ始めたこともレポートされていたのだった。
しかしその行動は以前より凶悪で、少女達へのレイプに加えて、ブルカを着けていなかっただけで女性を殴り殺したり、 作らせた食事が不味かったと言って女性に火をつけた様子が報じられたのが今週。 それを受けてCNNの女性キャスターの服装も 今週からアフガン女性同様のブルカ姿。現地レポートのバックグラウンドでは タリバン兵士による 「Death to America (アメリカに死を!)」のチャンティングが聞こえて来るあり様。
特に国外脱出を図ろうとする人々に対するタリバンの当たりは激しく、空港に向かうまでの 幾つものチェックポイントでヴィザや許可証の提示が求められ、 その都度 怒鳴られたり、棒で殴られたり、銃での威嚇といったハラスメントが激しく、特に女性の脱出をブロックする傾向が顕著。 やっと空港に辿り着いても、そこには既に大勢の人々が何とか輸送機に乗り込もうとパニック状態で、 空港及び空港周辺はすっかり秩序を失っているのだった。

現時点では少女達は引き続き学校に通っており、 アフガニスタンでは男児が勉強を拒否するのとは正反対に、女児達は医師や科学者を目指して勉強熱心。しかしそれが何時まで続くかは誰も分からない状況で、 街中からは女性の写真をフィーチャーした広告が全て撤去、あるいはスプレーで塗りつぶされ、女性用ヘアサロンやストアも全てクローズ。 タリバンとの交渉役を務めてきた女性人権活動家、ファウズィア・クーフィが撃たれたりと、 これまでアフガン女児の教育に尽くしてきたボランティアがその無力感を語る一方で、過去20年間に教育を受けて 強く育った若い世代のアフガン女性達に「闘いを続けて欲しい」と切なる思いを語っていたのだった。
しかしアフガニスタン国内ではタリバン占拠以前から女性の社会進出を望まない男性が多かったのは紛れもない事実。 週末にはEUが タリバンをアフガニスタン政権として認めない意向を発表したけれど、逆に認める意向を示している中国、ロシア、トルコ、そして事実上タリバンを生み出したパキスタンは、 いずれも女性蔑視が激しい国々なのだった。



タリバン資金のマネーロンダリングで やっぱり名前が出た ”あの銀行”


長年タリバン、アルカイダの資金源になってきたのがアフガニスタンで生産されているオピウム、すなわち麻薬。 アメリカ政府は過去20年のアフガン戦争後半の12年間でアフガン復興計画を進めており、軍事費より多い1450億ドルの復興費のうち90億ドルを費やして 撲滅を目指したのが麻薬生産。しかし結果的には その生産量が2倍に膨れ上がっているのだった。 その他にも国防省が 国土の20%しか茂みがないアフガニスタンの兵士ユニフォームに 間違ったカモフラージュ柄を選んでしまったことから、 逆に目立ってターゲットになり易いユニフォームが生産されてしまい 2800万ドルを無駄にするなど、考えられない規模の無駄遣いが行われてきたのが アフガン復興計画。
今や米軍がアフガニスタン政府軍のために提供してきた武器も全てタリバンの所有物になってしまったけれど、 そのタリバンの武装費や政治家への賄賂の資金源になってきたのが、 前述のドラッグに加えて、少女達を拉致しては棺桶のようなコンテナでセックス・スレーブとして国外に売却してきた利益。 しかしその利益がタリバンに渡るにはマネーロンダリングが必要な訳で、 8月1週目にアフガン戦争犠牲者遺族500人から そのマネーロンダリングで集団訴訟を起こされたのが スタンダード・チャータード銀行、デンマークのダンスケ銀行、そしてドイツ銀行。特にドイツ銀行は今年1月にも 2016年までのマネー・ロンダリングで アメリカ政府への1億3000万ドルの罰金支払いに応じたばかり。 その際に「We are different bank now」とエグゼクティブがコメントしながらも、 4ヵ月後には連邦準備制度理事会から新たなマネーロンダリングの警告を受けたかと思えば、 ジェフリー・エプスティーンのセックス・トラフィッキングに際しても、長年の不穏な資金の動きを通報せず、逆に資金サポートをしてきたことから NY州金融サービス局(DFS)に 1,500億ドルの罰金も課せられていた状況。
それでもドイツ銀行がマネーロンダリングから手を引かないのは、罰金の比ではない膨大な利益が転がり込んでくる一方で、 「もう同行を支える手段がこれしかない」とも指摘されるのが現在。 世の中では人身売買、麻薬取引等、闇のビジネスの取引がクリプトカレンシーで行われていると信じる人は少なくないけれど、 実際には「USドルを使って ドイツ・バンクを通じて行われる」と言われるほどで、特に歴史上もっとも奴隷人口が多い現在は、 ヒューマン・トラフィッキング、すなわち人身売買が 武器やドラッグの密輸よりも遥かに大きな利益を上げると言われるのだった。



タリバンとシンガー、R.ケリーはどちらが悪質か?


今週ブルックリンの裁判所でスタートしたのがR&Bシンガーで、長年に渡ってファンの少女、少年、若い女性に対する性的虐待、強制労働、暴力等、複数の の容疑で訴追されているR.ケリー(54歳)の公判。ちなみにR.ケリーはミネソタ、イリノイ等、NY以外の州でも起訴されているけれど、 全世界で7500万のレコード売上を記録するドル箱シンガーだっただけに、#MeTooムーブメントが盛り上がり、彼へのボイコット運動が高まるまでは、レコード会社、コンサート・プロモーターを含む 彼の存在で恩恵を受けるビジネスに徹底的にプロテクトされ、被害が訴えられても不起訴や裁判勝訴で罪を逃れてきた完全なアンタッチャブル状態。
そのR.ケリーは1994年、27歳の時に 当時彼が面倒を見ていた15歳のシンガー、アリーヤと関係し、彼女が妊娠したことから 淫行を隠すために結婚。 裁判では元マネージャーが結婚手続きのためのフェイクIDを500ドルで手に入れた様子を証言。しかし、肝心のアリーヤ本人が2001年に飛行機事故で死去していることから 彼女についての犯罪の立証はほぼ不可能と言われるのだった。(2人の婚姻関係は後に、離婚と違って 婚歴が残らない ”Annulment/解消”で終焉)
法廷では今や成人となった被害者女性達が、彼の自宅の一室に閉じ込められ1ヵ月もシャワーを浴びさせてもらえなかった、ガールスカウトのユニフォームを着用させられ、 レイプをビデオ撮影された、性病を移されて治療に10年以上を要したものの治療費のサポートが一切無かった等、当時の被害状況を訴える様子が見られ、 これに対してケリーの弁護側は彼女らが合意の上で彼の誘いに乗ったこと、 彼女らが年齢を18歳以上だとウソをついていた、賠償金欲しさに訴えているだけという、これまでケリーが勝訴を勝ち取ってきた手法で弁護を展開していたのだった。
でも同じ#MeTooムーブメントで 逮捕に至ったとは言え、性的不適切行為やセクハラで訴追されたハーヴィー・ワインスティンとR.ケリーは全く別のレベル。 R.ケリーの場合、被害者の多くが未成年であったこともさることながら、監禁、セックス・トラフィッキング、 様々な性行為の強要、チャイルド・ポルノグラフィの撮影・流通、そして恐喝という セックス・カルトを運営しており、遥かに悪質と言えるのだった。

今週友達3人との会話で「タリバンとR.ケリーではどちらが悪質か?」が話題になったけれど、 「少なくともR.ケリーはタリバンみたいに簡単に女性を殺していない」という意見が1人、 「エクストリームな女性蔑視のイスラム教社会で育ってきたタリバンとは異なり、R.ケリーは男女平等を謳った民主主義のアメリカ社会で 少女達を監禁したり、奴隷扱いしてきたのだからR.ケリーの方が悪質」という意見が2人。 私はと言えば、極悪と超劣悪のどちらが悪いか判断できないのと同様、ここまで酷いものに優劣をつけること自体がおかしいという意見。
友人の1人が「タリバンやR.ケリーと比べたら、”あの程度”のセクハラで辞任や刑事訴追に迫られたクォモ(NY州知事)が気の毒に思える」と言っていたけれど、 良い物でも悪い物でも比較して優劣をつけてしまうと、良い物の良さが比較対象によって軽減されてしまう一方で、 悪い物の悪さも もっと悪い存在との比較によって 実際よりも無害に感じられてしまうリスクがあるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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