Aug. 30 〜 Sep. 5 2021

"Chaos of Ida, Vax Card, Texas Abortion Law, etc. "
ハリケーン・アイダ、米国空前の人不足、大物議を醸すテキサス州の新妊娠中絶法、Etc.


今週末のアメリカは週明け月曜にレイバー・デイのホリデイを控えたロング・ウィークエンドで、 夏のヴァケーション・シーズンの締めくくりの時期。 通常は多くの旅行者でごった返す週末であるものの、デルタ変異種が猛威を振るっていることから 疾病予防センターが呼び掛けていたのがワクチン未接種者の旅行自粛。 加えてハリケーンや西海岸の山火事の影響もあり、今年のレイバー・デイは 旅行者の激減が伝えられるのだった。
今週金曜には 先月の米国雇用統計が発表されたけれど、それによればアメリカで8月に生み出された仕事の数は予測の3分の1に過ぎない23万5000。 これは求人が減った訳ではなく 働き手が居ないためで、今やアメリカ国内のジョブ・オープニング、すなわち埋まらない仕事数は史上初めて 1000万を超えているのだった。 最も人手不足が深刻なのは飲食業で、今週から一部の州のマクドナルドではパートタイマーの年齢制限を下げて、 14歳、15歳の雇用を開始するほど追い込まれている状況。 でも今週末でバイデン政権による失業手当上乗せ金支給が終了することから、今後は働かざるを得ない人々が増えると見込まれるのだった。



ハリケーン・アイダが思い知らせた環境破産のリスク


今週の火曜日、8月31日をもって米軍がアフガニスタンから完全撤退をしたけれど、アメリカの報道は ハリケーン・アイダがもたらした甚大な被害がトップ・ニュース。
ハリケーン最大レベルであるカテゴリー5に風速が僅か2マイル及ばなかった カテゴリー4のハリケーン・アイダがルイジアナに上陸したのは、 皮肉にも大型ハリケーン・カテリーナが現地を襲った16周年に当たる8月29日。 史上最強のハリケーン・アイダによってニューオリンズの街全体を含む100万世帯以上が電力を失い、 殺人的な暴風雨と洪水がもたらしたのが家屋崩壊の大被害。現地の人々は「アイダの壮絶さに比べたら、カテリーナは夏の涼風」とまで語っていたほど。
その後ハリケーン・アイダは、進路のメリーランド、フィラデルフィア等でも強風、竜巻、洪水の大被害をもたらし、 NYエリアに上陸したのが今週水曜夕方のこと。 NYでも僅か数時間に9月、一か月分の降水量を降りつくす 雷を伴う豪雨で、死者15人を記録。フラッシュ洪水による溺死者は8人で、そのうちの6人が地下のアパートの住人。 更にそのうちの5人が暮らしていたのが倉庫を改装しただけの違法物件で、雨水が急激に流れ込んだら避難が不可能なアパート。 NY市で最も被害が大きかったはクイーンズとブルックリンの一部で、溺死者は全員クイーンズの住人なのだった。
アイダ上陸直後は地下鉄が全面ストップしたけれど、翌日木曜には多くのラインが間引き運転程度まで復旧を見せて、 金曜にはほぼ全線が完全復旧。 2008年のハリケーン・サンディの際には、マンハッタンの34丁目より下のダウンタウン全域が停電に見舞われ、一部は電力が戻るまで1〜2週間を要したけれど、 連日30度を超える猛暑の中で 約1ヵ月は電力と水道水が戻らないと言われるのがルイジアナ州。 現地は水、食糧、ガソリン不足で、住民がそれぞれの確保のために大行列をする毎日で、その殆どが家を失った人々。 ルイジアナは先週ハリケーン・アンリに見舞われたばかりで、ハリケーン・シーズンが終わる11月初旬まで 新たな災害のリスクが続くのだった。

引き続き西海岸では山火事が猛威を振るっているけれど、そんな大規模な山火事とハリケーンの原因になっているのが地球温暖化。 西海岸では気温の上昇、干ばつ、強風という山火事拡大の条件を整え、海水温度の上昇が南部から東部を襲うハリケーンの規模をどんどん大きくしている最悪のシナリオ。 NY郊外を含む深刻な洪水が見込まれるエリアは、数年前からその回避のためにエンジニアがプランを纏め、やっと国家予算獲得まで漕ぎつけたものの、 それを全て握り潰して 代わりに富裕層と企業の大型減税を行ったのが 地球温暖化と環境問題を否定し続けたトランプ政権。
21世紀は気象変動によって居住不可能になるエリアからの「環境難民が増える」という予測が聞かれていたけれど、 今週のアイダが痛感させたのが それ以前に個人やビジネスの「環境破産が増える」こと。 山火事もハリケーンも被害に見舞われたエリアはもはや保険がかけられない状況で、 掛けられるケースでは 掛け金が高すぎて、よほどの富豪でない限りは支払いが不可能。 またアメリカでは住宅保険の殆どが洪水による被害をカバーしておらず、今回のアイダの被害も個別に洪水保険を購入していない限りは 保険金の支払いは望めないのだった。



ワクチンカード&マスク義務化、それぞれのフェイク対策


NYでは8月中旬からインドア・ダイニングや、ジム、コンサートを含むシアターでワクチン・カード提示が義務付けられているけれど、 今週逮捕されたのがソーシャル・メディアを通じて偽のワクチン・カードを1枚200ドルで販売していた自称インフルエンサー(写真上左)と、 組織的にフェイク・カードを販売していた14人のチーム。それぞれが重犯罪で刑事起訴されており、彼らがソーシャル・メディアで行っていたのが隠語や伏せ字を使ったプロモーション。 でも徐々にそうした言葉がセンサーの対象になってきたのが現時点。
そうかと思えば、現在ワクチン未接種の旅行者を拒否しているハワイでは、偽のワクチン・カードを使って検問を通ろうとした女性(写真上左から2番目)が やはり逮捕されているけれど、偽物とバレたきっかけは”Moderna / モデルナ” のスペルを ”Maderna / マデルナ” と書き間違えたというお粗末なもの。
逆に 共和党次期大統領候補を目指す保守右派 ロン・ディサンティスが知事を務めるフロリダ州で制定されたのが、 9月16日から ワクチン証明提示を求めたビジネスや学校に対して5000ドルの罰金を科す法律。 ディサンティスは学校が生徒達に対してマスク着用を義務づけることも禁止しており、政治目的で アンチ・ワクチン、アンチ・マスクのポリシーを貫いて久しい状況。今やそのフロリダ州はデルタ変異種感染のエピセンターになっているのだった。

今週からは多くの州の学校で新学年がスタートしているけれど、どの学区域でも起こっているのが生徒達へのマスク着用義務化についての親達の衝突。 12歳以下はワクチン接種が出来ないとあって、子供の感染を恐れる親達はマスク着用義務化を求めているものの、 「マスクには効果が無い、子供が長時間マスクをつけるのは身体や精神に悪影響を与える」と主張する親達は、子供のマスク着用の判断は学校ではなく 親が決めるべきとして真っ向から対立。
しかしながら今やアメリカの新規感染者の5人に1人が子供達で、全米で小児科病棟はほぼパンク状態。 それでもマスク着用義務化に反対の親達は今週、「健康上の理由でマスク着用が出来ない診断書」を得るために カイロプラクターのクリニックに行列を作っていたのだった。
それとは別に今週にはアメリカン航空、アラスカ航空が ワクチン未接種の従業員に対して、「COVID-19に感染した場合は、有休の病欠を認めない」という新たなポリシーを打ち出しているけれど、 デルタ変異種の猛威の影響で ワクチンについては徐々に態度を軟化させているのが拒絶派。現時点で「決してワクチンを接種しない」とアンケートに答えるアメリカ人は19%。 先月より5%減っており、「逆にワクチンを既に投与した、投与する予定」という回答が5%増加しているのだった。



テキサスから妊娠中絶禁止の波が広がる?


今週、最も物議を醸したニュースと言えば、テキサス州で妊娠6週間以降の人工中絶を禁止する法案が可決され、 それを連邦最高裁がブロックしない判決を下したこと。人工中絶合憲はアメリカ国民の60%以上が支持しているにもかかわらず、選挙の度にその違憲化を争点に持ち出していたのが保守右派。
妊娠6週間で人工中絶が禁止される理由は、この時期に胎児の心臓が鼓動を始めるためで、この法案は「ハートビート法」という別名でも呼ばれてきたもの。 よほど妊娠を望んでいるケースを除き、多くの女性が妊娠に気付くのは体調に変化が起こり、生理が通常より遅れていることを意識する8週間前後。 すなわち今週テキサスで制定された法律は、多くの女性達が妊娠を自覚する前に中絶の権利が奪われ、しかもレイプ や近親相姦による妊娠でも例外が認められない 事実上の中絶禁止令。 加えて人々が眉を吊り上げたのが その法律に含まれる条項で、それは 一般市民が中絶をした女性や、中絶を行った医師、中絶のありとあらゆるプロセスに関与した人物を訴えて、罪に問うことが出来るという耳を疑う内容。
通常であれば 違法行為を訴えるのは法的機関の仕事。 ところがこの法律では、人工中絶に関しては それを一般市民の誰もが行えるとしており、こっそり州外で中絶をしたと思しき隣人、中絶を計画している友人の罪が問えるのはもちろんのこと、 中絶クリニックまでの交通手段となったタクシーやUberの運転手、レンタカー会社までもが訴訟の対象になり得るとんでもない法律。 しかもテキサスと言えば奴隷制時代のなごりで、一般市民(白人)が犯罪だと思い込めば 銃に物を言わせた「市民逮捕」が未だにまかり通る状況。 中絶を巡る密告社会どころか、中絶を理由にした魔女狩りが行われても全く不思議ではない社会。
この条項については バイデン政権の司法省が既に覆しに動いているけれど、 最高裁がこの非常識法律を事実上支持したのは トランプ前大統領が指名した2人を含む5人の保守派判事がいずれも中絶反対派であるからに他ならないのだった。 これを受けて同様の法律の制定に動き出したと言われるのが、フロリダ、サウス・キャロライナ、アーカンソーといった共和党が知事を務める州。 それに対して猛反発を見せているのが数多くの女性団体に加えて、リース・ウィザースプーンやピンク、エヴァ・ロンゴリアといった女性セレブリティ。 またUber、Liftは共に「ドライバーが訴えられた場合には、その法廷費用の全額を負担する」と宣言。オレゴン州ポートランドは テキサス州産プロダクトのボイコットを検討中で、民主党が知事、市長を務める地方自治体を中心にそれに追随する動きが広まるのは時間の問題。 シンガーのベット・ミドラーはもっとシンプルで、女性達にセックスのボイコットを呼び掛けているのだった。

ふと考えると環境政策、マスク、ワクチン、人工中絶、男女雇用機会均等、LGBTQの人権、移民サポート、銃規制といった 政治の争点全てにおいて ことごとく反対するのが保守右派。逆にそれらを推進したいのがリベラル左派。 ここまで何事においてもクッキリ意見が分かれてしまうと、むしろアメリカが1つの国であろうとすること自体が無理に思えてくるけれど、 実際に保守右派の60%近くがアメリカ(リベラル左派)からの分離独立を支持しているとのこと。 しかし独立したがる保守派の州ほど自然災害の被害が深刻で、尚且つ税収が少なく、経済的な見地からそれが不可能と言えるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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