Nov. 8 〜 Nov. 15, 2021

"Their Lives Will Never be the Same After... "
アレック・ボールドウィン, トラヴィス・スコット, ヘンリー・ラグス, Etc. たった1日で人生が激変した人々


今週のアメリカの最大の報道になっていたのは加速するインフレのニュース。10月にはCPI(Consumer Price Index/消費者物価指数)が 過去31年で最大の6.2%上昇したことが大きく報じられていたのだった。 特に車社会のアメリカ国民にとって深刻なのはガソリン価格が49%と急上昇したことで、当然見込まれるのがこの冬の暖房費が嵩むこと。 サンクスギヴィング・ディナーの食材も前年比で27%のアップが伝えられるけれど、経済の専門家の間ではCPIは経済の実態を反映していないと言われる数値。 それよりもインフレは不動産やレント、学費、自動車価格に如実に反映されると指摘され、こちらはCPIとは比較にならない上昇を見せているのだった。
それとは別に火曜日に連邦準備制度理事会が発表した報告書によれば、現在のアメリカの家系債務は15兆2400億ドルで史上最高記録を更新。 特に住宅ローン残高は10.67兆ドルに達しているとのこと。クレジットカード・ローン残高は前年比で170億ドル増えているものの、 アメリカ国民がロックダウン中に貯蓄を増やし、失業手当の上乗せ金で債務を返済していたとあって、カード・ローンのピーク時であった2019年よりは少ない数値。 しかしワクチンが普及し、プレパンデミックの生活に戻るプロセスで どうしても増えていくのがクレジットカードの使用で、 現在のインフレも手伝って、今後クレジットカード・ローンがどんどん膨れ上がることが見込まれるのだった。



賠償金訴訟総額が10億ドル!? トラヴィス・スコットに対する集団訴訟の嵐


今週のアメリカでもう1つの大報道になっていたのが 11月5日金曜日にテキサス州ヒューストンで行われたアストロワールド・ミュージック・フェスティバルで、 大勢の観客がステージに突進した結果、合計9人の死者、300人以上の怪我人を出した惨事のニュース。 事件当時ステージに上がっていたのは、ラッパーのトラヴィス・スコットで彼は2015年、2017年の屋外コンサートでも バリケードを破ってステージに突進するようにファンを煽り、 下敷きになった観客が半身不随になる怪我を負っており、いずれのケースでも訴追されて有罪判決を受けているのだった。
スコットは当日 約40分のパフォーマンスを行い、主宰者側の指示に従って午後10時10分にステージを切り上げており、 その後の打ち上げパーティーの最中に知らされたのが8人の死者が出ていた事実。 その段階で彼がソーシャル・メディアを通じて発信したのが「観客の中で起こっている事態に全く気付かなかった」という弁明と犠牲者への追悼メッセージのビデオ。 スコットは犠牲者遺族に対して葬儀代の支払いを申し出ることで 十分な配慮を見せたと思っていたようで まさかこの事態が今週の猛批判と賠償訴訟の嵐を巻き起こすとは思ってもいなかったのだった。

今週、捜査が進む過程でどんどんソーシャル・メディア上で公開されたのが 圧し潰されて呼吸困難で気を失う観客、 助けを求める観客を無視するセキュリティ・ガード、「Stop the Show」と叫ぶ観客を無視して続くパフォーマンスなど、 現場のパニックを捉えた壮絶な映像や音声。 死亡したのはもっぱら20代とティーンエイジャーで当初死者数は8人と報じられたけれど、病院に搬送された女子大学生が今週水曜に息を引き取ったことから合計で9人。 その遺族への 「葬儀代の肩代わりは代理人を立てずに自分に直接コンタクトして欲しい」というスコット側の呼びかけが 「自分の弁護士の手腕で上手く丸め込もう」という意図に受け取られたこともあり、遺族全員が弁護士を雇って訴訟に動いたのが今週。
それと共にどんどん増えて行ったのが現場で怪我を負った観客によるスコット、及びコンサート・プロモーターであるライブ・ネーションを相手取った訴訟で、その数は週末の段階で60件以上。 一部の訴状では ステージ上でスコットと共演したラッパーのドレイクも被告に名を連ねていたけれど、 スコットに対して問われていたのは危険を顧みずに観客の突進を煽ったこと、ライブ・ネーションに対してはコストを削減して十分なセキュリティ・ガードを配備せずに リスクを野放しにした責任が問われており、賠償請求総額は10億ドルに達すると見込まれるのだった。
多額の賠償金の支払いが避けられないと見られるのはセキュリティで手を抜いただけでなく、ヒューストン消防局によるセイフティ・サポートを断ってコンサートを敢行したライブ・ネーションで、 「起こるべくして起こった」と言われるのが今回の惨事。 スコットにしても、「観客に何が起こっているかが分からなかったからパフォーマンスを続けた」と無罪を主張しても、同じ状況での前科がありながら 観客の突進を煽った罪は逃れられないと見られるのだった。

トラヴィス・スコットは、世界最大のミュージック・フェスティバル、コーチェラの2022年開催時のメイン・パフォーマーでもあることから、 現在その出演キャンセルを求める署名運動が起こっているけれど、音楽業界では彼はまだまだ稼げる金の卵。 そのため今年9月末に未成年の少年少女に対する監禁やセックス・トラフィッキングで有罪になったR・ケリーが、かつてレコード会社やプロモーターなど、彼によって金銭的恩恵を受ける大企業に守られて 一向に訴追できなかったのと同様に、彼をプロテクトする動きが水面下で起こっているのは紛れもない事実。
事件直後には「観客がパニックになった原因は、観客の1人がドラッグ入りの注射針で別の観客を刺したため」という誤報がメディアで大きく報じられたけれど、 これは現場の医療スタッフがその事態を全面否定したことからすぐに消え失せたデマ。 その後もスコット側を擁護するこじつけ報道は後を絶たず、週末に見られたのは「アストロワールドの会場では午前中から、コンサートゴーワーがフェンスを飛び越えて会場に入ろうとしていた」と、 スコットが煽るまでも無く、ファンが自主的に突進しただけというアングルの報道。
トラヴィス・スコットは 彼の第一子の母親であるカダーシアン・ファミリーの一員、カイリー・ジェナーとこの春に復縁しており、現在カイリーが彼との第二子を身ごもっているとあって、 今週はキムを含むカダーシアン・ファミリーのソーシャル・メディア・アカウントも こぞって彼へのサポートを見せていたのだった。



ヘンリー・ラグス & アレック・ボールドウィンのキャリアがターニング・ポイントを迎えた日


トラヴィス・スコット同様に、たった1日の出来事で突如人生が激変したのがNFLラスヴェガス・レイダースのワイドレシーバー、ヘンリー・ラグス(22歳)。 ドラフトでレイダースに入団し、4年間1600万ドルの契約を結んで将来を嘱望されていたラグスは、カスタムメイドのコルベット・スティングレーに ”Lizzy/リジ―” というニックネームをつけて、 それを見せびらかすビデオをソーシャル・メディアに何本もポストしていた存在。 その彼が11月2日の夜中に起こしたのが23歳の女性が運転するトヨタRav4に激突し、彼女と愛犬を死亡させる事故。 この日いつものようにパーティーを楽しんだ後、酔っ払ってハンドルを握った彼の血液中のアルコール濃度はネヴァダ州の法基準値の2倍以上で、事故当時の走行スピードは何と時速251キロ。 目撃者が撮影したビデオで ガールフレンドに慰められながら道端ですすり泣いていたラグスは、飲酒によるスピード違反だけでなく、激突した車が炎上する前に女性を助け出そうとしなかったことでも非難されており、 今週の訴追を待たずして事故直後に彼との契約を打ち切ったのがレイダース。 ラグスは日ごろからスピード狂だったようで、ソーシャル・メディア上には閑静な住宅街を猛スピードで飛ばすラグスの車内で「Stop! Stop!」とはしゃぐように叫ぶガールフレンドの様子を捉えたビデオがポストされているのだった。
NFLはプレーヤー達のパーティー癖を理解しているとあって、テキストメッセージ1本で何処に居ようと迎えの車がやってくるシステムを持つリーグ。 車社会であるアメリカは交通事故の加害者には極めて甘い法体制であるものの、その例外がDUI(Driving Under the Influence)、すなわちドラッグやアルコールを摂取しての運転。 ラグスは約50年の禁固刑を言い渡される可能性に瀕しているだけでなく、遺族からの損害賠償の訴訟も避けられないのだった。

一方、過去3週間に渡ってメディアで取り沙汰されてきたのが ウェスタン映画「Rust/ラスト」の撮影現場で起こったシネマトグラファ―射殺事故。 これは主演でプロデューサーのアレック・ボールドウィンが アシスタント・ディレクターに「実弾は入っていない」と言われて手渡された銃で発砲し、監督に怪我を負わせ、 シネマトグラファ―を射殺してしまったという事故で、捜査を続けてきた現地警察は銃に実弾を込めた人物は特定したとのこと。 そのプロセスで浮上したのが、この事故が薄給と劣悪待遇に抗議した撮影スタッフによるサボタージュだという説で、 事実、アーモアー(武器担当者)のハナ・グティエレス・リード(24歳)のギャラは僅か8000ドル。グティエレス・リード自身も「自分は誰かにハメられた」と証言しているのだった。
既に映画製作は打ち切りとなったけれど、プロデューサーであるアレック・ボールドウィンを含む上層部にはトラブルに備えた多額のプール金が用意されていたようで、 それを不服としてか 照明部門のトップが今週起こしたのがアレック・ボールドウィンを含む12人の映画関係者を相手取った訴訟。その訴状で明かされたのが、 撮影には実弾が不要であったにも関わらず 大量に持ち込まれていた事実、事件が起こったリハーサルではアレック・ボールドウィンは発砲する必要が無く、銃を構えるだけで良かったこと、 そしてアレック・ボールドウィンほどの長いキャリアを持つ俳優であれば、「例え実弾が入っていないと認識していても 銃口を人に向けて引き金を引いてはいけない」という 撮影現場の基本ルールを知らない筈はないということで、俳優としてもプロデューサーとしても責任が問われたのがボールドウィン。 ハリウッド関係者の間でも「例え空弾でも、リハーサル中に発砲すること自体がおかしい」とボールドウィンの行動を疑問視する声が、彼に同情する声と同様に聞かれているという。
前述のヘンリー・ラグスは一夜にしてNFLプレーヤーとしてのキャリアを台無しにしたと言われるけれど、 アレック・ボールドウィンもこのシューティング事故により、ハリウッドでのキャリアに黄色信号が灯り始めており、今後彼を相手取った訴訟が増えることも予測されるのだった。



議会乱入で狂ってしまった2人の逮捕者の人生


今週には 今年1月6日に起こったトランプ支持者による議会乱入事件で、既に逮捕されて有罪を認めていた2人のキーパーソンの 刑期が確定したけれど、そのうちの1人が元MMA(Mixed martial arts)のファイターでニュージャージー州で、ジムを経営するQアノン信奉者、スコット・フェアラム(44歳、写真上左側)。 彼は当日、警官から奪ったバトンを振りかざしながら 「我々は愛国者だ、警官から武器を奪って 議会を乗っ取れ!」とFワードを交えて叫びながら乱入者達を先導し、 警官を殴る姿がビデオに捉えられていた人物。 公開された映像のタトゥーから複数の通報が寄せられて1月22日に逮捕された彼は 保釈金が払えず、以来刑務所で判決を待っていた身。
法廷で涙ながらに自分の行為を「無責任で過激だった。後悔している」と裁判長に減刑を求めた彼に下されたのは、 検察側の求刑より2ヵ月少ない3年8ヵ月の服役刑。彼の陰謀説の吹聴も 判決に考慮されたと言われるけれど、Qアノンに洗脳されていた彼は ソーシャル・メディアで「3月4日にトランプが新しい共和国の大統領に就任する」と宣言。議会乱入によって愛国的英雄になろうとしていた様子が人々を呆れさせ、恐れさせていたのだった。
彼が経営していたジムは逮捕後程なくクローズしており、彼の家族は 姿を消して判決法廷にも姿を見せずじまい。 フェアラムの刑期は今後同様の罪を問われた乱入者のスタンダードになると見込まれるけれど、乱入者の多くは 「何をしてもトランプ大統領が自分達を恩赦する」というデマを信じて、強気で暴力的な行動に出たとも言われるのだった。

でも当日の1万を超える乱入者の中には歴史的な瞬間に立ち会う観光気分で参加した人々も少なくないのが実情。 その1人がテキサス州の不動産ブローカー、ジェニファー・ライアン(51歳、写真上右側)。当時 心を寄せていた男性の誘いで、彼のプライベート・ジェットでワシントン入りし、議会乱入に加わった彼女は その様子を逐一ライブでソーシャル・メディアにアップし続け、 「人生最良の日」というキャプションと共に 満面の笑顔でポーズした写真が大顰蹙を買っていた人物。
逮捕に際して「プライベート・ジェットで自分を連れて行ってくれた男性にフラレてしまった」という言い分で同情を集めようとしたことからも分かる通り、 彼女はかなり常識が欠落した頭脳の持ち主。 フェアラムとは異なり、逮捕後に保釈金を支払って拘置所から出た彼女は、ソーシャル・メディア・アカウントに寄せられた自分への批判メッセージを嘲笑うかのように 「絶対刑務所行きにはならない。私は金髪で白い肌、素晴らしい仕事と素晴らしい未来があるのだから 刑務所に行くはずがない。ヘイタ―達をガッカリさせて悪いけれど、そもそも私は何も悪い事なんてしていない」という白人至上主義メッセージをツイートしていたけれど、 彼女が住むテキサス州の白人社会では今もこうした考えはごくスタンダード。
でもフェデラル・クライムにはテキサス・スタンダードは通じないとあって、彼女に下されたのは60日間の服役刑。 この程度の刑の場合、模範囚であれば刑期が半分前後になるのは全く珍しくないこと。しかし犯罪歴は消すことは出来ないのに加えて、 彼女が議会乱入者としてあまりに有名になってしまったことから、不動産ブローカーとしてのビジネスが打撃を受けていたことも報じられているのだった。
1月6日の議会乱入は、この2人のように正義感や英雄願望に駆られて参加したケースでも、好奇心から参加したケースでも、 人生を激変させる1日になっていたけれど、一般のアメリカ国民が「まさかこんな事が起こるなんて」という気持ちで見守った歴史的異常事態も、 本人達にとっては「まさかこの程度の事で、こんな目に遭うなんて」としか捉えられていないのが実情なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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