Dec.13 〜 Dec. 19, 2021

"Sports, Cream Cheese, Mr.Big & Pelton in Trouble"
プレーヤー & クリームチーズ不足、レストランのニューノーマル & ペロトン 新たなトラブル、Etc.


オミクロン感染が突如広まり、アメリカのウィルス感染死者数が世界最多の80万人を突破した今週、NYでは歴史的な出来事が2つ起こっていて、 そのうちの1つはNY市警察(NYPD)176年の歴史上初の女性コミッショナーが誕生したこと。 NYPDは全米最大の警察組織で コミッショナーはそのトップ・ポジション。 その警察組織の最高権力に女性初、アフリカ系アメリカ人としては史上三番目となるキーシャン・シーウェルを任命したのは、 年明け早々新NY市長に就任するエリック・アダムス。自らポリス・キャプテンの経歴を持つ彼が 全米の警察から候補者を選び出し、白羽の矢を立てたシーウェルは勤続22年のベテランで、クイーンズ出身のネイティブ・ニューヨーカー。 市民と警察の関係を改善しながら、犯罪率を下げられるかが大きな課題となっているのだった。
もう1つの歴史的な出来事は、MLS(メジャーリーグ・サッカー)でNYCFC(ニューヨーク・フットボール・チーム)が結成7年目にして初のチャンピオンに輝いた快挙。 NYのスポーツ・チームがチャンピオンに輝いたのは2012年のNFL NYジャイアンツがスーパーボウルで勝利して以来のこと。 NYCFCがPK戦の末、チャンピオンシップに勝利したのは先週土曜日だったけれど、サッカー人気が未だに盛り上がらないアメリカでは ニューヨーカーでさえ今週行われた優勝パレードをニュースで見て、初めてNYCFCの快挙を知ったような有様。
それよりも今週のスポーツ界は急増するプレーヤーのオミクロン感染のニュースで持ち切り。 NFLは今週合計100人以上のプレーヤーがウィルスに感染したことから3試合が延期。NBAのブルックリン・ネッツは、 火曜日の対トロント・ラプターズ戦を僅か7人で戦わなければならない状況を強いられていたのだった。



空前のクリームチーズ不足


今週 NYはもとより、全米でニュースになっていたのが空前のクリームチーズ不足。 これは言うまでも無くサプライ・チェーンが崩れたための事態で、NYのベーグル・ショップではクリームチーズのバラエティが半減。 中でも最も打撃を受けたビジネスとして報じられたのがNYチーズケーキの本家本元であるブルックリンのジュニアズ。
NYチーズケーキは 他のスタイルのチーズケーキよりもクリームチーズの使用量が多いことで知られており、 全米にチーズケーキを出荷し、レストランも営むジュニアズが年間に使用するクリームチーズは約180万キロ。 ジュニアズはクリームチーズ不足を受けて、2週間前から工場生産を停止する日が出ており、 程なく値上げを強いられることが説明されていたのだった。

実際、今週私がホールフーズにクリームチーズを買いに出掛けたところ、クリームチーズのセクション自体が無くなって、他の製品が並んでいたような状況。 アメリカでクリームチーズと言えばクラフト社のフィラデルフィア・クリームチーズがトップブランドであるけれど、 そのフィラデルフィア・チーズは2週間前から店頭でもオンライン上にも見当たらない存在。
この事態を受けてクラフト社が今週発表した苦肉の策が、 ホリデイ・シーズンに毎年フィラデルフィア・クリームチーズを購入してはチーズケーキを焼いていた消費者に、別のデザートに切り替えてくれれば その費用の20ドルをクラフト社が負担するというキャンペーン。 12月17、18日にクラフトのウェブサイトにデザートのレシートをアップロードした中から 1万8000人に20ドルが支払われるという何とも不思議な企画であるけれど、 その目的はクリームチーズ不足で打撃を受けるビジネスに 少しでもチーズが行き渡るようにすること。
クリームチーズ不足によるNYのベーグル・ショップの打撃はかなりのもので、クリームチーズが品切れになると クリームチーズ・サンドウィッチを目当てにやってきた来店客は、ベーグルを買うことなく手ぶらで帰ってしまうのは容易に想像がつくところ。 加えてスモーク・サーモン&クリームチーズというベーグル・ショップのドル箱メニューも売れなくなり、 ベーグルを焼く数やスモーク・サーモンの仕入れ量などが減る結果、売り上げも大きく落ち込むことがレポートされているのだった。



NY レストラン・ダイニング の New Normal


サプライ・チェーンの問題は全米のレストランにも少なからず影響を与えていて、食材が手に入らないせいで名物料理のレシピを変えたり、 メニューの入れ替えを強いられるケースは地方のレストランに特に顕著。
その一方でNYでは旅行者の数が増えたこともあって、プレパンデミック並みにレストラン予約が取れないのが今年のホリデイ・シーズン。 その理由はまず パンデミックでクローズしたレストランが多く、レストランの絶対数が減っていること。 さらに高額レストランを中心に日曜、月曜を休業にするケースが増え、レストランの営業時間も短くなっていること。 これまで終日営業だったレストランからはブレックファスト・サーヴィングが消えて、未だに多いのがランチ営業を控えるレストラン。 さらに増えているのが午後10時閉店を掲げるレストランで、実際には10時を過ぎても来店客の姿は見られるものの、11時前には店が空っぽ。 すなわちプレパンデミック時代のように、来店客が長居をすることによってドリンクの売上が上がり、チップの額が増えるよりも、「食事をとっとと切り上げて貰って、早く店を閉めたい」というのが 昨今のレストラン業界。これは ”The City Never Sleeps / 眠らない街” の異名を取るNYには相応しくない状況と言えるのだった。
以前は4週間先まで可能だった予約も、今では2週間以上先の予約を取らないレストランが増えており、 その予約の注意書きに ワクチンカード提示義務と共に記載される傾向にあるのが 「2人テーブルは2時間まで、4人テーブルは2時間半まで」というような 時間制限。ここにもテーブルの回転をスムーズにして、時間通りに閉店したいというのがレストラン側の意向が現れているけれど、 さらにそれを痛感させるのが、お皿の上の料理が少なくなった状態で話し込んでいると スタッフが「料理を下げて良いか」と何度も聞きに来ること。 また私が秋口に出掛けたエスニック・フードのレストランでは、注文時に「オーダーは一度きりで、追加のオーダーは受けられない」と、その類のレストランには珍しいルールを提示されてしまい、 礼儀正しいサーバーであったものの、あまり良い気分はしなかったのだった。

早い話が現在のレストラン・ダイニングでは、以前よりも店側が提示するルールに来店客が従わなければならず、加えてサーバーに対しても 来店客が配慮を見せることが必須のエチケット。 というのは どのレストランも人手不足で サーバーに負担が掛かる経営を強いられていること、 マスク着用やワクチンカードの提示等を巡ってレストラン・ワーカーが嫌がらせや暴力の対象になって久しいこと、 先週のこのコラムでお伝えした”グレート・レジネーション(膨大な辞職)”時代の今は簡単にスタッフが辞めてしまうこと、 そして彼らが居てくれなければレストランで食事が出来なくなることを人々が熟知しているため。
今週のNYではスタッフのウィルスに感染による人手不足を理由に休業するレストランが何軒も出たけれど、 少ないスタッフでも回るように営業日や営業時間を削って経営しているレストランは、 病欠を補うスタッフなど擁していないのが実情。
そのため来店客が チップ20%を支払うのは もはやミニマム。 そしてサーバーを無視して話し続けたり、乱暴な口調でサーバーを呼んだり、なかなか注文する料理を決めなかったり、サーバーに一度に物事を頼まず テーブルにやってくる度に用事を押し付けるような、以前は頻繁に行われていた無作法をすれば、 一緒に食事をしている友人やクライアント等に人格を疑われても不思議ではないのが現在。
そもそもアメリカでは、「レストランのサーバーへの態度に デート相手の人格が現れる」と言われて久しいけれど、 今ではそれがデート相手だけの指針ではなくなってきているのだった。



クリス・ノースとペロトン、どちらの問題が深刻か?


今週のアメリカで芸能メディイアを中心に大ニュースになっていたのが「セックス・アンド・ザ・シティ(以下SATC)」のMr. Bigこと、クリス・ノース(67歳)に対する性的虐待容疑。 最初にこれを報じたのは水曜のザ・ハリウッド・レポーターの記事で、2004年、2015年に被害を受けた2人の女性の告白が掲載されていたけれど、 それ以降3人目、4人目の被害者が名乗り出て、1990年代に交際していたモデルに対する暴力沙汰が再びスポットを浴びたことから、 タレント・エージェンシーがクリス・ノースの登録を抹消し、妻が家を出たことが報じられたのが今週末。
一方、SATCリブート版「And just like that… (以下AJLT)」の中でノース扮するMr. Bigの死因となったことから、先週 株価が11%下落したペロトンもトラブル続き。 Mr. Big死去を極秘にするために HBO/Maxがペロトン側にストーリーラインを明確に伝えていなかったとは言え、 不用意なプロダクト・プレースメント(映画や番組のストーリーにブランドを登場させる広告)が株主に猛批判されたのがペロトン。
そのダメージ・コントロールとして 俳優、ライアン・レイノルズのプロダクションが企画し、僅か24時間で製作されたのが ペロトンのカウンターCM。出演しているのはクリス・ノースと 「AJLT」内のフィクショナル・インストラクター、アレグラを演じていた 実在のペロトン・インストラクター、ジェス・キング。ペロトンのバイク2台が並ぶ ファヤー・プレースがあるリビング・ルームで、ジェスに「You look great」と言われた クリス・ノースが、まるでMr. Bigが死から生還したかのように「I feel great」とゆったり答え、「Should we take another ride?」、「Life is too short not to」と 会話を続けるのがそのCM。
Mr. Big死去のエピソードが公開された2日後の土曜日夜に放映がスタートしたこのCMは、僅か2日で100万回の再生を突破。 ライアン・レイノルズがこの「リベンジ広告」製作の舞台裏を得意げに語る勝利宣言を行ったのも束の間、その直後に報じられたのがクリス・ノースの性的虐待容疑。 これを受けてペロトンは即座に広告を削除する羽目になり、プロダクト・プレースメントに続いてリベンジ広告でも失態を露呈しているのだった。
そのペロトンは2021年に入ってワクチンが普及してからというもの、株価が70%下落。ジムが経営を再開する中、業績不振に陥り 新規採用が見送られ、コーポレート・クリスマス・パーティーもCOVID感染リスクと出費が嵩むことを理由にキャンセルが通達されたばかり。 にもかかわらず、今週CEOのジョン・フォーリーが超高額なプラザ・ホテルのボールルームを借り切って ゴージャスなパーティーを行い、それにペロトンの美女インストラクターのみが招待されていたことから、 社内スタッフの怒りが炸裂。程なくフォーリーはそのパーティーが彼の個人的なイベントで、ペロトンとは無関係であると釈明。 しかしフォーリーは先月発表された業績不振を受けて、「パンデミック突入直後の爆発的な業績アップのせいで、社内の規律が乱れた」、 「これからは基本に立ち返るべき」と、コスト削減を呼び掛けるお説教を社内スタッフにしたばかり。そのため従業員にしてみれば 「業績が悪化したのなら、超高額パーティーをホストするだけの資産があるCEOの給与を減らせ」と言いたくなるのは当然のこと。
2022年6月に終了する会計年度で見込まれるペロトンの損失額は前年度の1億9千万ドルを大きく上回る8億5000万ドル。 パンデミック突入直後に同じく株価が急上昇を見せたZOOMと共に、今後の業績見通しが暗いと言われるのがペロトンで、 12月に入ってからのこれらの問題は同社株主、市場関係者を益々不安にさせているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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