Jan.17 〜 Jan. 23, 2022

"Stay@Home Stocks Plungee,
College Athretes Become Millionaires"

ライフスタイル変化でStay@Home株暴落、
トランスジェンダー疑惑と学生アスリートをミリオネアにするNIL



今週はバイデン政権誕生から1周年とあって、過去1年のバイデン大統領の実績に対してアメリカ国民の厳しい審判が下されていたけれど、 NBCのナショナル・アンケート調査によれば、バイデン氏の支持率は過半数を割る43%。調査開始以来、就任1年目の支持率がバイデン氏よりも低かったのは トランプ前大統領のみで、その支持率は39%。
中でもウィルス対策、経済対策という国民の2大関心事における評価が低くなっているけれど、ワクチン普及については共和党保守派が ワクチン接種に政治的思想を持ち込んで 誤情報を広めたり、共和党議員がワクチンやブースターを摂取しておきながら、 有権者の支持を得るためにあえてそれを明かさないなど、政治的妨害に阻まれている点に同情する声が聞かれるのは事実。
トランプ政権時代よりも大きく前進したのは環境問題への取り組みで、パリ条約への復帰、公用車のエレクトリック化、クリーン・エナジー導入がアグレッシブに行われている状況。 しかしバイデン政権のトレードマークになるはずだったBuild Back Better法案、投票権法案が野党共和党ではなく、身内の民主党議員2人の反対で 暗礁に乗り上げるなど、与党内の足並みが揃わないことで指摘されるのがリーダーシップ不足。 さらにプレス・カンファレンスや遊説が極めて少なく、政策を適切にメディアや国民にアピールしていないことも問題視されていたけれど、 民主党支持者の間ではバイデン氏の最大の功績は「トランプじゃないこと」とも言われるのだった。



Stay@Home株暴落が立証する自宅勤務のライフスタイル変化


今週はアメリカの株式市場が大きな下落を見せたけれど、 中でも大きく値を落としたのがペロトンとネットフリックス。この2社に加えてZoomはパンデミック突入後のロックダウン、自宅勤務の影響で大きく値を上げた 代表的なStay@Home銘柄。
ペロトンは パンデミック直後に爆発的に伸びた売上が継続すると見込んでバイク・マシーン、トレッドミルをオーバープロデュースしてしまった結果、 向こう500日分の在庫を抱えてしまい、「暫し工場生産をストップする」という社内メモの内容がメディアで報じられたのに加えて、 同社のエグゼクティブとインサイダーが約5億ドル相当の株式を事前に通知した予定を早めて売却したことが明らかになり、 木曜の株価は昨年のピーク時から80%ダウンの24ドルをつけていたのだった。
一方のネットフリックスは、昨年の段階でサブスクライバーの数が既に頭打ちになってきたことが指摘されていた存在。 木曜に同社が発表したのが 3月までの第1四半期に獲得できる新規サブスクライバーの数が250万人程度に止まる見通し。 これはウォール・ストリートのアナリストが予想していた590万人の半分以下で、これを受けて ネットフリックス株価は木曜の終値508.25ドルから24.19%下落した 385.30ドルで金曜の取引がスタートしているのだった。

ここへきてStay@Home銘柄が苦戦している要因の1つは、それぞれのセクターでライバル企業との競争が激化していること。 加えて昨今のインフレが家計を圧迫する結果、ペロトンのビデオ・サブスクリプションやネットフリックスといったストリーミング・サービスをキャンセルする人々が増えていることが 指摘されるけれど、さらに言われるのが2020年のパンデミック突入直後と今とでは 人々のライフスタイルとマインド・セッティングが変わってきていること。
自宅にこもってペロトンでワークアウトをして、デリバリー・フードを食べながらネットフリックスを観るというのは2020年のライフスタイル。 同じパンデミック下でも 今では多くの人々がジムでワークアウトをし、レストランで友人と食事をし、シアターやミュージアム、スポーツ観戦やコンサートに出掛けるライフスタイルを取り戻している状況。
それを象徴するかのように、2020年に流出した住人のカムバックを含む流入ラッシュが起こっているのがNYC。 ロックダウン突入後に自宅勤務になった際には、レントや物価が高く、ストレスフルな都市生活に嫌気が差していた人々が「通勤の必要が無いのなら NYCに住む必要は無い」と郊外や地方に移住したのは周知のとおり。 パンデミックがニューノーマルとなった現在も 多くのオフィスが引き続き自宅勤務を認めているけれど、それでも人々がNYに戻り始めたのは オフィスには行かなくても外出や社交を効率的に行うライフスタイルにシフトしてきているため。 NY市内であれば地方や郊外よりも遥かに短い移動時間でジムにもレストランにもシアターにも出掛けられるので 生活にヴァラエティが出るのは言うまでも無いこと。しかも自然災害による被害を受け難く、 サプライチェーンが崩れても食糧や生活グッズが品薄になることが無いのが都市部。 さらにガソリン価格、自動車価格の高騰の影響で物価が安いはずの郊外や地方都市の生活費がさほど安くないこともカムバック組が増えた要因の1つ。
今やNYの人口はプレパンデミック・レベルを上回っており、Stay@Home銘柄の株価とは正反対に上昇を続けているのがニューヨーク市のレント。住宅の供給が追い付かず、 オフィス・テナントが埋まらないことから、オフィス・ビルのレジデンスへのコンバートが図られる一方で、 マンハッタン南端エリアを埋め立てて、アウトドア・スペースを盛り込んだ住宅群を建設するプランも浮上しているほど。 これが実現した場合、マンハッタンは洪水被害も防げるようになると言われるけれど、 いずれにしても「自宅勤務=家で過ごす生活」という方程式は既に成り立たない局面を迎えているのだった。



トランスジェンダー・アスリートの画策が成功?


今週木曜にNCAA(National Collegiate Athletic Association / 全米大学体育協会)が発表したのが、 トランスジェンダー・アスリートの大学選手権資格を定める新しい規定。 これがスポーツ界のみならず、メインストリート・メディアからも大きな注目を集める要因となったのが、 12月に行われた大学水泳選手権でペンシルヴァニア大学のトランスジェンダー、リア・トーマス(22歳)が、1500メートル、 500メートル、200メートルの自由形でいずれも2位を大きく引き離すアメリカ新記録更新で圧勝し、 トランスジェンダーの肉体的優位が大きな波紋を呼んでいたこと。
従来の規定ではトランスジェンダーが NCAA競技に参加するには 1年間のホルモン抑制トリートメントを受け、男性ホルモンを一定レベル以下に抑える必要があったけれど、 男性として生まれ育った骨格、身長、筋力、手足の長さは たとえホルモン・レベルを抑えてもスポーツでは大きなアドバンテージ。 スポーツ界のみならず世論が危惧していたのが「このままでは女子スポーツ界がトランスジェンダーに潰される」というシナリオ。 しかしトランスジェンダーの人権や平等な扱いという視点からは、そのスポーツ参加をブロックするのは不適切であることから、 NCAAの新しい基準に注目が集まっていたのだった。
ところがその直前の1月2週目週末の水泳選手権で起こったのが、無敵なはずのリア・トーマスがイエール大学のトランスジェンダー、それも女性から男性に性転換をしたアイザック・ヘニッグに2度も敗れるという事態。 へニッグは性転換はしたものの、女子選手としてトーナメントに参加するために男性ホルモン・トリートメントを受けておらず、性転換はしているものの女子アスリートという複雑なポジション。 このレース結果を受けて メディアは「女性になろうとする男性より、男性になろうとする女性の方が肉体的に長けている?」とジョークのように指摘したけれど、 同時に報じていたのがペンシルヴァニア大学の選手たちによる「トーマスが本気で泳いでいたとは思えない」というコメント。 すなわち「トーマスが自分の競技参加資格をキープするために わざとヘニッグに負けた」というのが同じ大学のチームメイトから浮上していた疑惑。 その疑惑を深めるかのように トーマスとヘニッグは親しい友人同士で、トーナメント前に2人が会話をする様子が目撃されているのだった。
要するに2人が画策したと思われるのは NCAAがトランスジェンダーの競技参加資格の規定を改める直前に、そのジャッジメントを極めて難しくすること。 その甲斐あってか 木曜にNCAAが下した決断は、「各スポーツが競技に応じてトランスジェンダー参加資格の規定ホルモン・レベルを定める」というもの。 これは一見理にかなった判断のように思えるものの、これまでカレッジ・スポーツ、及びカレッジ・アスリートの全ての管理牛耳ってきた団体が、 トランスジェンダーに関しては世論の批判を避けるためにレギュレーションを放棄して、傘下にある各スポーツ管理団体に判断を委ねるという逃げの姿勢。 この問題の扱いが如何に難しいかを実感させる判断でもあったけれど、これは同時に現在のノラクラした状態が継続することを意味しており、 多くのエリート女子選手達がこの判断に失望、怒り、反発を覚えたことが伝えられるのだった。

女子アスリートの中にはトランスジェンダー・アスリートをサポートする声も聞かれるものの、アメリカで大学選手権に出場するレベルというのは、 日本の大学の体育会でスポーツをするレベルとは全く別物。子供の頃からの英才教育を受け、多額のトレーニング費用を支払い、 そのスポーツで食べて行く人生設計で 厳しいトレーニングに打ち込んできたアスリートが極めて多いのが実情。 そんなアスリート達にとって 大学選手権での勝利が如何にそのキャリアに重要であるかは容易に想像がつくところで、 女子アスリートにしてみれば 男子部門では通用しないレベルだったトランスジェンダーに いとも簡単に自分達の勝利を横から奪われるのは納得できない屈辱。
しかも2021年に最高裁が下した判決によりカレッジ・スポーツに大金が絡むことになったのがこの事態をさらに複雑にしているポイント。 それが以下でご説明する”NIL”なのだった。



大学生アスリートをミリオネアにするNIL


アメリカではカレッジ・スポーツはドル箱ビジネス。名門大学のフットボール・チームは年間に軽く数十億ドルを稼ぎ出し、 学園都市になれば10万人収容のスタジアムがカレッジ・フットボールのために建設され、それが毎試合満員の観客で埋め尽くされ、TVの放映権料やチームグッズの売上も大きな収入源。 またフットボール、バスケットボール等、人気スポーツでは大学のコーチが億円単位の年俸を受け取るのは全く珍しくないこと。 ところがアスリート達はこれまでNCAAの規定によって一切の収益を上げることが許されず、早い話がタダ働き。ナイキやアンダー・アーマーといった大企業は 有能な選手の青田刈りの資金を大学やコーチに支払ってきており、大学側はスポーツ・プログラムの運営で巨額の利益を上げてきたのだった。
しかし学生にとっては毎週スタジアムを満員にしても プロになれるのはほんの一握り。在学中の試合で大怪我をすれば それまでの努力が全て水の泡となることから、 学生アスリートにも収益を得る権利を認める裁判が起こされ、それを遂に最高裁が認める判決を下したのが2021年のこと。 それを受けてNCAAが学生アスリート達に許可したのが 自分の名前(Name)、イメージ(Image)、キャラクター(Likeness)で収益をあげることで、 その頭文字を取った”NIL” という数億ドル規模の市場が誕生したのだった。

これによってアスリート達は、ソーシャル・メディアから収入が得られるのはもちろん、スポンサーをつけることが出来るようになり、スター・アスリートの中から既に生まれているのがミリオネア。 フットボールの名門、アラバマ大学のクォーターバック、ブライス・ヤングはオニックス・オーセンティケーテッド社とトレーディング・カード販売契約を結んで80万ドル、 そのほかにもキャッシュ・アプとのパートナーシップ契約で既にミリオネアになったことが伝えられ、 TikTokで430万人、インスタグラムで130万人のフォロワーを持つルイジアナ州立大学のジムナスト、ソーシャル・メディア上では”Livvy”のニックネームで知られる オリヴィア・ダン(写真上右)は プロアスリートのエージェンシー、WMEスポーツと契約を交わしたことから、最低1億円の広告契約が複数舞い込むことが確実視される存在。
フレスノ・ステート大学の双子バスケットボール・プレーヤー、ヘイリー&ハナ・キャヴィンダー(写真上左から2番目)もWWE(ワールド・レスリング・エンターテイメント)、 ブースト・モービル、SoFiを含む複数のスポンサー契約でそれぞれがミリオネアになっているけれど、 恐らくそれらを上回るマネーメーカーになると言われるのがバスケットボールの名門中の名門、UCon(コネチカット大学)でフレッシュマン時代からありとあらゆる賞を総ナメにしてきた ペイジ・バッカー(写真上左)。ルックスも良く、既にソーシャル・メディアで多数のフォロワーを持つ彼女は、女子バスケットボールの大旋風を巻き起こすと見込まれる存在。

さらにNILのユニークなところは、決してペイジ・バッカーのような逸材でなくても収益が得られる点。 例えばアーカンソー大学のフットボール・プレーヤー、トレイ・ノックス(写真上右から2番目)は、決して成績では特筆すべきプレーヤーではないものの、 その愛犬のシベリアン・ハスキーと頻繁にソーシャル・メディアに登場することがペット・スマートというビジネスの目に留まり、 同大学のスタープレーヤーを差し置いてチーム初のNIL契約を結んでいるのだった。 すなわちプレーヤーとしての力量よりも ルックスやソーシャル・メディアのアピールで収益度が上がると言われるのがNIL。
NILは大手企業でなくてもスポンサーになれるのも中小企業にとっては大きな魅力。 学園都市や地方都市ではカレッジ・アスリートは地元メディアのスポーツ欄を賑わせるちょっとしたセレブリティであるため、 そんな彼らが地元ピザ店で人気メニューを味わう姿をソーシャル・メディアにポストする代わりに数百ドルのフィーを受け取るといった契約を可能にするのもNIL。 要するにアスリートがようやくインフルエンサーとして収益が得られるようになっているのだった。

これによってカレッジ・スポーツのレベル低下を危惧する声と、卒業を待たずしてプロに転向するプレーヤーが減る分 レベルがアップするという声の双方が聞かれるけれど、 前述のトランスジェンダー・アスリートのリア・トーマス、アイザック・ヘニッグも名前さえ知られれば、LGBTQスポンサーがつく可能性は大いにある訳で、 競技にさえ参加できれば自分達を取り巻く物議が大きくなればなるほど、自叙伝出版から LGBTQメンターとしての仕事など、アスリート以外の収益手段がどんどん広がって行くのは紛れもない事実。 そのためNILが認められてから現れたリア・トーマスのようなトランスジェンダー・アスリートが、果たして何処まで純粋なスポーツへの意欲や性的平等意識で 肉体的なアドバンテージを知りながら競技スポーツに挑んでいるのかを疑う声があっても不思議ではないもの。
NILはこれまでカレッジ・スポーツというビリオン・ダラー・ビジネスに無料で奉仕してきたアスリート達に、 遂に収益チャンスをもたらしたけれど、お金が絡むところにはトラブルが付き物。そしてどんな問題も予期せぬ方向にエスカレートしていくのは様々な歴史が証明する通りなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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