Feb. 7 〜 Feb. 13, 2022

"Bad News Everywhere But Great Change for Women"
五輪 From Hell!?、コンヴォイ抗議、MeToo最大の収穫


今週木曜に発表された米国の消費者価格指数によれば、1月には更に0.6%インフレが加速。過去12ヵ月では7.5%のインフレが進んでおり。 平均的な世帯では1年前に比べて1ヵ月当たり276ドル余分に生活費が掛かる計算。その分、昨年からの労働者不足を受けて給与はアップしており、 2021年には4.7%の上昇が見られているけれど、インフレと相殺される結果、給与は上がっても消費者のバイイング・パワーが下がっているのが実情。 そして給与の上昇がインフレの大きな一因になっているのもまた事実なのだった。
その一方で今週にはNY州を始め、マサチューセッツ、ニュージャージー等、民主党が州知事の州で次々とマスク着用の義務付けが解除が発表されたけれど、 木曜からそれが実施されたNYでは、未だ半分以上の人々がマスクを自主的につけている状況。 NY市の公共交通機関では3月18日まで、ブロードウェイ・シアター内では4月30日までマスク着用の義務が続いており、 論争が続く学校でのマスク着用の決断は先送り。
これまで規制解除に慎重だった民主党政治家がここへきてマスク規制を解除したのはオミクロン感染者激減もさることながら、 今年11月に中間選挙を控えて、コロナ疲れしている有権者からの票を失わないため。 中間選挙の存在は2022年のアメリカの政治・経済の様々な側面に影響を与えると言われており、 連邦準備制度理事会が今年中に複数回予定していると言われる利上げについても、その経済へのインパクトが政局を左右することが目に見えているだけに、 「選挙結果に影響を及ぼすようなドラスティックな利上げは中間選挙前には行えないはず」との見方が強いのだった。



Olympic From Hell?


今週友人と食事に出掛けた際に話題になったのが「オリンピックを観ているか?」ではなく 「オリンピックに1度でもチャンネルを合わせたか?」。 すなわち真剣にオリンピックを観ている人がその場に居ないことを前提にした会話だったけれど、実際に私を含めた全員が 報道されるニュースは何となくフォローをして、話題になったメダル・パフォーマンスだけをYouTubeで観るという、かつて無いほどオリンピックに時間を割かない生活を送っていたのだった。 事実、北京オリンピックがスタートして1週間の時点で、アメリカの視聴率は4年前の平昌五輪の半分程度という史上最低記録。
既に政治まみれのオリンピックとあって、メディアの報道は 聖火最終ランナーを務めたウィグル族のクロスカントリー・スキーヤーが2月5日に43位でゴールして以来 姿を消したニュースや、 アメリカ国籍を捨てて中国選手としてオリンピックに参加し 金メダルを獲得したスキーヤー、アイリーン・グーが、中国人が使用すれば逮捕されて5年の禁固刑を受けるVPNサーバーを使用して 中国人にはアクセスできないインスタグラムのポストを毎日のように行っていること、それについてファンに尋ねられたグーが中国政府寄りの発言をしながらも、「中国に居る時は中国人だけれど、 アメリカに居る時はアメリカ人」と二重国籍が許されないのを承知で語ったこと、カナダ国籍を捨てた中国女子ホッケーチームのゴールキーパーが記者団に英語でのコメントを求められた際に、 「中国人選手は英語でインタビューに応えることが禁止されている」と通訳がそれを遮ったエピソードなど、競技に直接関係が無い報道が非常に多いのが実情。
現地の各国の選手が訴えているのは選手村の食事の酷さ、ヴァラエティの無さ、量の少なさで 「これでは一流のアスリートがスタミナ不足になる」と嘆く声が聞かれるけれど、 「中国政府が食事によって意図的に選手のパフォーマンスをコントロールしている」という見方も少なくないのだった。 加えて フィンランドのホッケー・チームは、出国直前のウィルス・テストで全員の陰性が確認されたにもかかわらず、中国に入国した途端に複数のプレーヤーの感染が確認されたことについて 「中国政府がプーチンのためにロシア・チームのライバル潰しを行っているに違いない」と疑うコメントをしていたけれど、ウィルス検査が第三者機関でなく中国政府によって行われていることは、 競技結果をコントロールする手段になりかねないと批判を浴びている問題。 特に陽性となった選手の隔離環境の酷さは複数の選手がソーシャル・メディアにポストをしては、 中国政府の圧力でそれを削除しているもので、その隔離期間の体力と精神力の著しい低下ぶりは推して知るべき状況。
それ以外にも女子スキージャンプのスーツ失格問題、日本の平野歩夢選手が逆転で金メダルを取ったとは言え、スノーボード採点の不明瞭さ、そして国家ぐるみでドーピングをしたロシアを名前だけ変えて出場させて 再び女子フィギュア・スケートのカミラ・ヴァリエヴァのドーピング問題をもたらしたIOCの対応など、オリンピックに不信感を持たざるを得ない報道に満ちているのが今大会。 さらにロシアの女子フィギュア・スケートに対して指摘されているのが、ドーピング以前の人道的問題。4回転ジャンプ等難度の高いジャンプが飛べるのは思春期前の小柄な少女と相場が決まっていることから、 成長期で身体が出来上がる前の少女達に厳しいトレーニングを科す結果、彼女らの骨、筋肉、関節が長期的なトレーニングやジャンプ着地のプレッシャーに耐えられず、 20歳を迎える前に引退せざるを得ないスケーターの様子が ”サーカス・アニマル”に例えられているのだった。
またアメリカ人としてチームUSAを応援したいと思っても、今週末には元スノーボードの女子選手が現在のチーム・コーチと選手を セクハラ、人種差別発言で告発。アメリカ社会では夏季オリンピックの女子体操チームで長きに渡って続いた性的虐待問題が大きく影を落としているだけに、 国を代表するチーム内でもパワハラ、セクハラ、人種差別が横行している様子を感じさせたばかり。
今大会のアメリカのように、競技に無関心な視点からオリンピックを眺めてしまうと、これはスポーツの大会というよりも 各国政府、オリンピック委員会、各スポーツの委員会やジャッジ、スポンサーがそれぞれのレベルで 政治的争いをしているイベント。参加しているアスリート達は実力よりも、その政治的な手かせ足かせを背負ったアンフェアな闘いを強いられているという印象が否めないのだった。



カナダ・コンヴォイ抗議でサプライチェーン問題が更に悪化


今週アメリカで最も報道時間が割かれていたニュースの1つが、今週で2週間目に突入していたカナダのトラック・ドライバーによる ワクチン接種義務への抗議活動。 何百台ものトラックがカナダの首都、オタワの政府ビルを取り囲み ホーンを鳴らし続けたせいで、台無しにされたのが近隣の住民生活、及び周辺のビジネス。 にもかかわらず同様にワクチン義務に反対する人々からクラウドファンディングで募られた多額の寄付を駆使して、燃料や食糧を手配し居座り続けるうちに この活動には ”フリーダム・コンヴォイ”という名前が付いたけれど、コンヴォイとは主に大型トラックのグループ輸送を指す言葉で、カナダからの輸入品をアメリカに運び込むメインの手段。
トルドー首相は当初クラウドファンディングに圧力をかけて支援金をストップさせようとしたけれど、これを阻んだのがフロリダ州知事で2024年にトランプ氏を破って共和党大統領候補になると見込まれる ロン・ディサンティス。程なく周辺市民団体が抗議活動に対して生活を台無しにされた損害賠償請求の訴訟を起こし、 カナダ政府が対応に手をこまねく間にどんどん大きくなって行ったのがこのムーブメント。 やがてトラックはカナダとアメリカの国境を塞ぎ始め、中でもデトロイトとカナダのウィンザーを結ぶアンバサダー・ブリッジが塞がれたことから 製造削減を発表したのがGM、トヨタ、ホンダ、フォードといった自動車会社。 自動車業界は半導体不足とサプライチェーン問題で2021年から苦戦を強いられているのは周知の事実。 新車台数、中古車台数が共に減っていることが中古車価格の高騰を招き、それが数字的なインフレの加速の大きな原因にもなっているのだった。
そもそもアメリカとカナダとの間では毎日1億4000ドル分の自動車及びそのパーツが行き来しているけれど、この抗議活動によって最も厳しい状況を強いられているのが トラック・ドライバーたちが毎日のように積み荷を届けている小規模な部品業者。アメリカの工場は基本的に 向こう2週間分の部品は常にストックしているものの、それより長くこの事態が継続して工場閉鎖に追い込まれた場合は、その他の業界にも問題が波及し、更なるインフレや サプライチェーンの問題悪化を招くのは必至。

先週末からは”フリーダム・コンヴォイ”のムーブメントを保守右派がソーシャル・メディアで煽った結果、今週には同じ活動がニュージーランドやフランス等にも広がっており、 アメリカ国内でもワシントンDC、カリフォルニアで計画されていたのが今週末。もちろんインフレが進み、政府のコロナ規制に反旗が翻されることは共和党にとって中間選挙を大いに有利にするとあって、 テキサス州のテッド・クルーズ、前述のフロリダ州のディサンティスといった共和党政治家達はこぞってその活動に支持を表明しているのだった。

ちなみにカナダのトラック・ドライバー人口は約3万人、そのうちワクチン未接種なのは10%、すなわち3000人。何故90%もワクチンを接種している団体の抗議がここまで大きくなったかと言えば、 多くの人々が2年以上続いたコロナ問題に疲れて、トルドー政権のコロナ規制に対するフラストレーションから この活動を支持したところに、右派勢力が政治活動として便乗したため。 ここで不思議なのは、カナダがワクチン義務を解除したところで、アメリカ政府も外国人の入国に際してワクチン接種を義務付けているので、カナダが規制を解除しても果たして入国できるのかということ。
この騒動は週末になって裁判所が同活動を違法と見なし、その罰金の高額ぶりと刑期の長さに怯んだ抗議者が徐々に立ち去り始めているけれど、もちろん居残り組も大勢居る状況。 ”フリーダム・コンヴォイ”の活動が始まった当初は、ドライバー達が「自分達は積み荷の際も、荷下ろしの際も車から降りたり、人とコンタクトすることはない」とその業務内容に ワクチン接種の必要性が無いことを主張していたけれど、今ではすっかり政治色が強くなった結果、政府が経済問題悪化の前に 事態を収束しようとすればするほど、「政府権力に屈しない自由」を振りかざすムーブメントが高まる悪循環を見せているのだった。



#MeTooから4年目にして勝ち取った真の勝利!


「労働法における過去数十年で最大の変更」として今週の米国上下議会で可決されたのが、性的不適切行為を含むセクシャル・ハラスメントを 雇用契約のArbitration/アービトレーション規定から外す法案。
これまでの米国の労働法に基づく雇用契約書には、社内で起こった性的不適切行為は その裁きや解決をアービトレーション、すなわち調停委員会に委ねることが明記されており、 これにサインをしない限りは雇用されることはないのは言うまでもないこと。 このことは企業側をスキャンダルや無利益な訴訟からプロテクトする反面、企業内でのセクハラが長年に渡って揉み消され、野放しにされてきた最大の要因。 この規定のせいで、社内の人間から性的暴行、不適切行為を含むセクハラを受けた場合、被害者は警察に通報したり、裁判で訴えることは出来ず、 代わりに強いられたのが調停委員会への被害申し出、 調停委員による複数回の事情聴取、被害を立証する動かぬ証拠の提示、委員会による調査と 判断を待つという恐ろしく長く、険しいプロセス。 その結果、加害者が社内の上層部であればあるほど無罪放免、被害者のみが守秘義務へのサインと引き換えに僅かな賠償手当を受け取って企業から追い出されてきたのがこれまでのシナリオ。 しかし今週の法案可決によりセクハラ問題がアービトレーションの対象から外れたことで、ようやく社内のセクハラが普通に犯罪として裁かれることになったのだった。

この法案は民主・共和の両党議員が可決に導いた近年では珍しいケースで、法案を作成したのは NY選出の女性議員、クリスティン・ジルブランドと 共和党の中でも超右派で知られるサウス・キャロライナ州選出のリンジー・グラハムの2人(写真上一番右)。 普通なら有り得ないこのコンビが実現した背景で尽力したのが、元FOXニュースの女性キャスターで 同局創設者兼 元会長の故ロジャー・エールから長年セクハラ被害を受け続けたグレッチェン・カールソン。 彼女がロジャー・エールを失脚に追い込んだ実話は、2019年に公開された映画「Bombshell (邦題:スキャンダル)」で描かれ、この中でニコール・キッドマンが演じていたのがカールソン。 彼女は共和党のマウスピースであるFOXニュースの元キャスターという立場上、共和党のベテラン議員、リンジー・グラハムとは個人的に親しく、 彼女の説得でグラハムが動き、その結果 共和党から複数の賛同者が出たというのがそのバック・ストーリー。

上下院で可決されたとしても、もし大統領がロジャー・エールと極めて親しく、セクハラ訴訟を起こしたカールソンを恩知らず呼ばわりしていたトランプ氏であったら、 拒否権が発動されていたと思われるこの法案は、バイデン政権になったタイミングで法案作成が進んできたもの。 先週のこのコーナーで、アクティビスト・インヴェスター達が、マイクロ・ソフト社をはじめとする大企業の過去のセクハラ問題処理の捜査とその公開を求めて 圧力をかけ始めたことに触れたけれど、これまで弁護士が企業内のセクハラ問題に真剣に取り合おうとしなかったのは、雇用契約書の アービトレーション合意が訴訟の妨げになってきたため。
この大きな障壁が取り除かれたことは アメリカのMeTooムーブメントにとって、 ハーヴィー・ワインスティンに代表される長年セクハラ行為を行ってきた男性陣を失脚や辞任に追い込んだ以上に 大きな勝利であり 収穫と言えるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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