Feb. 14 〜 Feb. 20, 2022

"Chef Brooklyn, Melania NFT, Victory of Mass Shooting Victim"
B.ベッカム親の七光りシェフ、メラニアNFT、銃乱射事件被害者の勝利


今週末で様々な物議をかもした北京五輪が閉幕したけれど、終わってみればフィギュア・スケートのドーピング問題が終始大きく影を落としたのが今大会。 アメリカのメインストリーム・メディアのニュースがフィギュア・スケートの結果を報じる際に ドーピング問題の渦中にあったカミラ・ヴァリエヴァの転倒シーンと 銀メダリスト、アレクサンドラ・トゥルソワが演技後「スケートなんて大嫌い、もう2度と滑らない」と怒りをぶちまけていた様子のみを放映し、ゴールドメダル・パフォーマンスを一切見せずに済ませたのは 私が知る限りこれが初めて。 問題のヴァエリヴァの競技参加にGOサインを出したCAS(Court of Arbitration for Sport)はスポーツ界の最高裁の役割を果たしてきた存在であるものの、 WADA(The World Anti-Doping Agency)は「CASがアンチ・ドーピング・コードを無視した判断をした」と痛烈に批判。今週にはCASの厳しい判断基準で東京五輪を含めた 過去のオリンピックの参加資格やメダルを剥奪されたアスリート達がソーシャル・メディアで抗議を始めていた一方で、 ヴァリエヴァが「15歳という年齢は自分が何を摂取させられているかが分からない」という理由でCASによって保護対象にされたことを受けて、 「子供をオリンピックに参加させること自体が間違い」として、五輪参加資格を18歳以上にするべきという意見も大きく浮上。 様々な問題の後味の悪さだけが強く印象付けられたのが今回のアメリカの五輪報道なのだった。
また中国国内では、男子フィギュア・スケートでゴールド・メダルを獲得した中国系アメリカ人 ネイサン・チェンが国賊扱いされていた一方で、 アメリカ国内では、オリンピック直前に生まれ育ったアメリカ国籍を捨てて中国人スキーヤーとして複数のゴールド・メダルを獲得したアイリーン・グーに対して 寄せられていたのが「自由の国を捨てて全体主義警察国家を選んだ」という批判。 さらに米国メディアは、フィギュア・スケートの朱易(Zhu Yi)や、カナダから引き抜いた女子ホッケーチームのゴールキーパー等、 西側諸国からアスリート達を好条件で帰化させたことにより、中国政府がオリンピックのメリットだけでなく、中国共産主義が民主主義に勝ることを国内外にアピールする手段として利用していたと批判。
それとは別に五輪参加選手を含む関係者全員にダウンロードが義務付けられたコロナウィルス対策アプリについては開催前から疑いの声が上がっていたようで、米国五輪関係者に事前に通達されていたのが 通常使用しているパソコンやスマートフォンを中国には持参せず、オリンピック用のスマホやガジェットを用意すること。そしてオリンピック後はアプリを消すのではなく、ガジェットごと処分するように呼び掛けられていたことも明らかになっているのだった。



親の七光りもここまで来ると…、”素人シェフ”、ブルックリン・ベッカムへのバックラッシュ


ブルックリン・ベッカムと言えばデヴィッド&ヴィクトリア・ベッカムの長男で現在22歳。最初はモデルを目指し、次に素人フォトグラファーながらも写真集を発売。 本格的にフォトグラファーを目指すためにNYのパーソンズ・スクール・オブ・デザインに入学したものの、程なく素人フォトグラファーにはあり得ないインターンシップのオファーを受けて中退。そのインターンも終えないうちに 母親のヴィクトリア・ベッカムのブランドのフォトグラファーを担当。しかし母親さえ継続して雇わなかったのが彼の写真の腕前。 やがて婚約者で女優のニコラ・ペレスの映画撮影現場のフォトグラファーとして雇われるうちに、昨年から自らのインスタグラムで発信し始めたのが ハンバーガーなどを至って普通に作る料理の腕前。
それがきっかけで突如 ”料理の達人”になった彼は、NBCのモーニング・ショーで プロのシェフがこの状況では決して使わない長いトングをぎこちなく使いながら、ソーシャル・メディアで ”カフェテリアの残飯”と叩かれたサンドウィッチの作り方を披露。 その後も”ヴォーグ・オンライン”やCBSの「レイト・レイト・ショー」等、ベッカム夫妻と深い関りがあるメディアが 次々と彼のクッキング・セグメントを放映し、ブルックリンは 修行やトレーニング無しに、一流シェフでも決して得られないパブリシティをどんどん獲得していったのだった。 しかし彼に料理の才能が無いのは誰の目にも一目瞭然で、彼が料理を披露する度にソーシャル・メディアで見られたのが デヴィッド&ヴィクトリア・ベッカムの親バカコメントと 「わざわざ人に見せるような料理じゃない」といったブルックリンへの批判に加えて、 「パンデミック中でレストラン業界が苦しんでいるのだから、もっと救済すべき実力のあるシェフにチャンスを与えるべき」というネポティズム(縁故主義)を嘆く声。

そんな親の七光りシェフ、ブルックリンが さらに痛烈に批判を浴びるきっかけになったのが インスタグラムで新たにスタートしたビデオ・シリーズ「Cookin' With Brooklyn」。 これは親会社のメタが TikTokから若いユーザーを取り戻そうと 力を入れているビデオ・プロジェクトの一環で、撮影は5台のカメラ、62人のクルー、9人のプロデューサー、レシピをチェックするキュリナリー・プロデューサーを 擁し、1エピソード当たりのバジェットが10万ドルという大プロダクション。 それだけの費用と人手を掛けて出来上がった料理が写真上、一番右の”ブルックリン・スペシャル”と名付けられた悲惨なベーグル・サンドウィッチ。
このサンドウィッチはベーグルに魚のフライとハッシュブラン、コールスローを挟んだ不健康レシピで、どう考えても具材とベーグルのテクスチャーがマッチしない代物。 番組内で魚の揚げ方を知らないことを披露したブルックリンがやっていたのは、 ベーグルに既に出来上がったコールスローやフライを乗せるだけの作業で、その合間に 「ブルックリンはベーグル発祥の地」と解説。しかしベーグルはポーランドからのユダヤ系移民と一緒にアメリカに渡ったもので、 ベーグルがユダヤのパンであることを知ってさえいれば、ブルックリンが発祥の地でないことくらいは誰にでも想像がつくところ。
彼のクッキング・セグメントが批判を浴びるのは、料理が下手でも愛嬌を振りまきながら学ぶ姿勢を見せるのならまだしも、才能と知識があるエキスパートのように登場して お粗末な結果に終わることで、そのレベルは笑えるユーモアでなく ビューワーから「見ていて恥ずかしい、痛々しい」と言われるもの。 それを繰り返しやってのける彼の姿が、如何に苦労知らずで、親の七光りだけで生きて来たかを感じさせることも批判を浴びる要因になっているのだった。
そもそもメタが「Cookin' With Brooklyn」に大金を注ぐのは、ブルックリンがどんな有名シェフよりも多い1320万人のインスタ・フォロワーを擁するのに加えて、父親のデヴィッドが7110万人、母親のヴィクトリア・ベッカムが2950万人、 弟のロミオが320万人、フィアンセの二コラ・ペルツが210万人のフォロワーを持つことから、彼の発信がファミリー・シェアによってユーザーに大きく広がることを計算したもの。 しかし幾らネポティズムが世の中で横行しているとは言え、ブルックリンがシェフではやっていけないことは誰の目にも明らかで、 ソーシャル・メディア上では既に「ブルックリンが次にどんな仕事をするか楽しみ!」と皮肉るコメントも見られているのだった。



NFTマニア、メラニア・トランプ!?


2021年の春から大ブレイクしたのがNFT (Non-Fungible Tokens)。一般に最も理解され易いNFTのカテゴリーと言えばアートやコレクティブル・アイテム。 それもあって数多くのセレブリティがNFTをコレクティブル・アイテムとして販売しては大きな利益を上げてきたけれど、 それに昨年末から便乗したのがメラニア・トランプ前大統領夫人。 彼女の初のNFTは昨年12月末にオークションに掛けられたフランス人水彩画家、マルク・アントアン・クロンが描いた彼女の眼差しで、タイトルは「Melania’s Vision (写真上左)」。 このデジタル・アートには、メラニアが “My vision is: look forward with inspiration, strength, and courage.” と、 語るオーディオ・コンポーネントがついていて売り出し価格185ドルであったけれど、実際の売却価格はそれを下回る150ドル。
メラニア側はこの段階で子供達を救うチャリティのために今後も彼女のNFTコレクションを販売する意向を発表。第二弾として 1月末にオークションに掛けられたのが ”ヘッド・オブ・ステート・コレクション”と名付けられた写真上右のNFT。 これは2018年にマクロン仏大統領夫妻をホワイトハウスに迎えた際に メラニアがマイケル・コースのスーツに合わせて被っていた帽子とその横顔を 前回と同じフランス人アーティストが描いたアートのオリジナルとその NFT版、そしてメラニアが被っていた帽子をセットにしたもので、落札最低価格としてかなり強気の25万ドルを提示。 しかし売却価格はそれに届かず、17万ドルに終わったのだった。

ブロックチェーンというのはオープン・ソースで 全ての取引の記録が残り、その改ざんは不可能。 そのため売却後に明らかになったのが、メラニアのNFTのバイヤーがメラニア自身であったという事実。 これを尋ねられたメラニア側は 取引が自分のウォレットを使って行われただけとして自らの購入を否定。 しかしバイヤーはNFTを受け取るためのウォレットを持っているはずなので、メラニアのウォレットが支払い代行するのは筋が通らない話。
NFTの世界では 自分のNFTを自ら買い取り、市場価格のスタンダードを確立するとするのは珍しくないこと。 しかしこれを行う場合、自分による購入がバレないように別のウォレットを設けて行うのが通常で、誰がメラニアのNFTチームであるかは不明であるものの、かなり手法が稚拙であると指摘されるのが現在。
そのメラニアの次なるNFTコレクションは、"POTUS TRUMP NFT Collection" というネーミングで2月21日、月曜のプレジデンシャル・デイに発売されることになっており、 これは1点当たり50ドルのNFT、1万点から成るコレクションで、もし”本当に” 完売すれば50万ドルが転がり込む企画。ちなみにPOTUSはPresident Of The United Statesの略で、 NFTの内容はトランプ政権下の1万のメモラブルなモーメントを捉えたもので、購入するまでその内容が分からないという ”お楽しみ”グッズ。コレクターには複数の購入が奨励されているのだった。

メラニアはNFT以外にも子供達のチャリティのファンドレイジングとして、”チューリップ&トピアリー・ハイティー”というアフタヌーン・ティー・イベントを4月に企画。 高額チケットの販売を始めたけれど、NYタイムズ紙が先週報じたのが メラニアが「収益を寄付をする」と謳っていた”Fostering the Future”が法律で定められたレジスタ―を行っていない ゴースト・チャリティである事実。 これに対してメラニア側は”Fostering the Future”は彼女のファーストレディ時代のキャンペーン”Be Best”の主軸であるとして反発しているけれど、 トランプ・オーガニゼーションと言えば 小児がんチャリティで集めた基金を流用した過去があるだけに、現時点ではメラニアのハイティーやNFTも チャリティ目的というより 富裕層が私腹を肥やす物乞いの大義名分という見方が圧倒的。
いずれにしてもメラニアの"POTUS TRUMP NFT Collection"は、かつて 真っ赤なMAGAハットに29ドルを支払ったトランプ支持者が 果たしてNFTに50ドルを支払うかが見守られる企画。 同時にブロックチェーン上の売却記録にも大きな関心が寄せられるのは必至なのだった。



銃乱射事件被害者の歴史的勝利


アメリカは2月17日の時点で2022年に入ってから既に25件の銃乱射事件が起こっているけれど、過去に起こった事件の中でもアメリカ国民にとって最もショッキングかつ 甚大な被害をもたらしたのが2012年にコネチカットのサンディ・フック小学校で起こった6人の大人と20人の子供達が殺害された事件。 同事件で遺族にとってさらに残酷だったのは、銃規制に反対する保守右派によって フェイスブック上で この事件が「リベラル派による偽装事件」というデマと陰謀説が流され、 遺族を”クライシス・アクター”と決めつけて 逆に批判を浴びせるという信じられない行為が行われたこと。
当時のフェイスブックは「ユーザー発信のコンテンツに責任を負う必要は無い」という法律に守られ、一切のセンサーを行わなかったことから、 陰謀説はどんどん広がり、この時期はサンディ・フックの事件をどう語るかでそのニュース・ソースや政治思想までが分かったような状況。 その中心人物が2020年まで何の証拠も無しに偽装説を唱え続けた陰謀論者、アレックス・ジョーンズで、 彼とその発信メディア、インフォワーは2021年1月6日の議会乱入事件の捜査対象にもなっている存在。 銃規制に反対する保守右派に守られたジョーンズにようやく名誉棄損の責任を問う判決が下されたのは 昨年2021年11月のこと。 遺族にとってはソーシャル・メディアとアレックス・ジョーンズを相手取って、銃乱射事件が真実であることを認めさせるところからのスタートを強いられたのが同事件の有責問題なのだった。

今週、そんな遺族にとって過去約9年間の辛く厳しい闘いが若干でも報われたと言えたのが、事件犯人であるアダム・ランザが使用したAR-15スタイルの自動小銃の製造元、レミントンが サンディ・フック犠牲者9人の遺族による訴えに対し、7300万ドルの賠償金の支払いに応じたニュース。 この賠償金額は銃メーカーが支払った最高額と言われるもので、歴史的と言える原告側の勝利。これまで銃メーカーはジョージ・W・ブッシュ政権下で制定された法律により、 銃乱射事件の一切の責任を負う必要が無いとされてきたアンタッチャブルな存在。 にもかかわらずレミントンが賠償金の支払いに応じざるを得なかったのは、サンディ・フック遺族と弁護士がコネチカット州の消費者保護法を盾にレミントン社のマーケティングの責任を突いたため。
実際にレミントンが行ってきたのは「Consider Your Man Card Reissued(自分の男としてのIDを改めて持ち直そう)」というフレーズで、 虐めや社会からの疎外などで 精神的なトラブルを抱える若い男性をターゲットに、銃を自衛や正当防衛の手段ではなく、男性としての力の象徴、暴力目的の武器としてプロモートする アグレッシブなマーケティング。若年層をターゲットにするのは、若くして一度銃を所有すれば 生涯に渡ってガンオーナーであり続けることもさることながら、 精神的にインセキュアな若者の方が 人々を怯ませる銃のパワーにあっさりと魅せられ、銃を人生の解決策と捉えるため。 ちなみにレミントン社は、現在アメリカ国内に国民の数を上回る銃が流通しているにもかかわらず二度目の倒産中で、賠償金額はその保険会社が支払いを許可した最高額。
これまで銃メーカーには保険会社だけでなく、大手金融機関もその後ろについて利益をむさぼってきたけれど、 コネチカットは富裕層が多い土地柄とあって サンディ・フック遺族が理解していたのがその資金流通構造。そのため遺族は多額の賠償責任によって 銃メーカーが後ろ盾のパワーを失うことも訴訟の目的の1つに掲げていたとのこと。 今回の訴訟結果を受けてNY州など、同様の消費者保護法がある州で見込まれるのが 他の銃乱射事件の遺族による損害賠償訴訟で、 この訴訟により判例が出来たことは極めて意義深いこと。
サンディ・フック遺族の法的アクションは、子供を失った親達の執念無くしては乗り切れない険しい闘いの連続であったけれど、 それらが銃乱射事件被害者、その遺族に対してあまりに冷たく、無神経であり続けたアメリカ社会を徐々に変えつつあるのは紛れもない事実なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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