Feb. 21 〜 Feb. 27, 2022

"Ukraine, Truth Social, Bitcoin & CBDC"
ウクライナ、トゥルース・ソーシャル、BTC & CBDC


今週は全世界のメディアがロシアによるウクライナ侵攻のニュースに最も時間を割いていたけれど、 アメリカのメディアでは2週間前のから ウクライナの首都をロシア語のキエフ(Kiev)から、ウクライナ語のキーヴ(Kyiv)で報道し始めており、 変更当初は視聴者の混乱を防ぐための説明が盛り込まれていたものの、今はすっかり国民の間でも”キーヴ”が定着。
ジオポリティカルとエネルギー資源の専門家によれは、プーチン大統領がウクライナ侵攻を開始したのは、世界第二位の石油輸出国であるロシアが 既に欧州全土で石油不足が始っていた昨年10月からオイル供給を絞り始め、それが市場に大きく影響を及ぼしてきたタイミングであると同時に、 2022年に原発ゼロを目指すドイツが 残された発電所のうちの2つを先月閉鎖し、ロシアからの天然ガスへの依存が高まったタイミング。 すなわちロシアのエネルギー輸出が経済制裁の対象となり得ないことを見越したもの。
その一方で過去数ヵ月、中国に対して「ロシアのウクライナ侵攻を止めさせるよう」に働きかけていたバイデン政権はその交渉に失敗。 中国はそれを受けてロシアに「西側諸国の足並みが乱れている」様子を通達していたとのことで、北京オリンピックの際に会談をしたプーチン大統領とシー・ジンピン国家主席の声明に 如実に現れていたのがロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾政策に対する双方のサポート。

そんなロシアに対する追い風の中で始まったウクライナ侵攻に際して、ウクライナのゼレンスキー大統領は西側諸国からの軍事サポートが得らず、 男性国民全員を民兵として駆り出さざる得ないフラストレーションを露わにしていたけれど、 その間 NATO加盟国のリーダーが批判をかわすために主張し続けていたのが 「One For All, All For One」というNATOポリシー。 「加盟国のうちの1国でも攻撃を受けたら、全加盟国が一丸となってそれに応戦する」のがNATOの軍事同盟で、それがプーチン大統領がウクライナのNATO入りを阻止する理由。 1990年代のボスニア・ヘルツェゴビナ内戦、コソボ紛争ではNATOが加盟国以外のための軍事介入をしたとは言え、 現在のNATO諸国はパンデミックの影響も手伝って ロシアへの経済制裁に際しても自国経済をまず優先せざるを得ない台所の苦しさ。 そのためロシアのウクライナ侵攻を 非難はしても、軍事的にサポートしないことはロシアにとっては織り込み済み。

プーチン大統領は ゼレンスキー政権を”ネオナチス”と呼び、首都キーヴを陥落させ、自分の言いなりになる新政権を樹立して 「ウクライナ国民を救うため」の侵攻を2〜3日で終わらせる計画であったと言われるけれど、現時点で予想外のしぶとさを見せているのがウクライナの民兵。 アメリカの政治評論家も「この状況で唯一希望が持てるとすれば民兵軍による粘り」と語るほど。 エストニアの元国防軍チーフの見積もりでは、ロシアが現在の1日200億ドルの戦費を使う攻撃を続けられるのはあと10日で、 その段階で武器も資金も底をつくとのこと。同様のことはウクライナの情報局も指摘しており、 もしウクライナがこのまま1日でも長く持ち堪えることが出来れば、「ロシアはやがて交渉の席に着かざるを得ない」と指摘されるのだった。



プレジデンツ・デイにデビューしたトゥルース・ソーシャル、So Far


今週月曜のプレジデンツ・デイにデビューしたのが、ツイッターから永久追放処分となったトランプ前大統領が自らスタートしたソーシャル・メディア・プラットフォーム、 ”Truth Social / トゥルース・ソーシャル”。 同アプリはアンドロイドには未だ対応しておらず、 初日にはアップルのアプリストアの人気第3位、翌日には1位になったものの、スタート早々レポートされていたのがエラーメッセージが出るテクニカル・プロブレム そのせいで週半ばには50万人がダウンロード待ちのウェイティング・リストに名を連ねており、好調なのか、そうでないのかが分からないスタートを切っているのだった。
トランプ氏は2021年5月にも自らの主張の発信メディアとして「From The Desk of Donald J. Trump」というブログをスタートしていたけれど、 こちらは支持者の食いつきが極めて悪く、やはりツイッターのようなショート・フォーマットでなければアピールしないことを察知したよう。 トゥルース・ソーシャルはツイッターそっくりの作りで、RealDonaldTrump というトランプ氏のアカウント名も同じ。
トゥルース・ソーシャルを経営するTMTG(トランプ・メディア&テクノロジー・グループ)のCEOは、 このポジションへの就任のために議員を辞職した超トランプ寄り政治家のデヴィン・ニューネス。 「2021年1月6日の議会乱入事件以来、フェイスブック、ツイッター、グーグル等の大手IT企業が 保守右派のソーシャル・メディア・コンテンツに不当に厳しいセンサーを行っている」としてスタートしたのが同プラットフォームで、 そのメッセージは「我々は全ての人々を歓迎するプラットフォーム。キャンセル・カルチャーの犠牲になった人々にも平等な発言の場を与えたい」 というもの。センサー・フリーで言論の自由が保証されたフェアなソーシャル・メディアがコンセプトに謳われていたのだった。

しかし未だアプリのダウンロードを待つ人々が多い時点で、既に出ているのがアカウントを永久閉鎖されたユーザー。 理由はそのユーザーが かつて乳業を営んでいたデヴィン・ニューネスと牛をひっかけたジョークをポストをしたためで、 これが「サービス・プロバイダー側のいずれのメンバーに対する一切のハラスメント、侮辱、脅しを禁止する」という利用規約第17条に違反すると見なされての措置。 この「サービス・プロバイダー側のいずれのメンバー」の中にはニューネスだけでなく、トランプ氏の家族等が含まれるとのことで、 ツイッターやフェイスブックの比ではない、ユーモアのセンスのかけらもないセンサーの厳しさが指摘されているのだった。 ウェイティング・リストでアプリのダウンロードを待つ人々の中には もちろんアンチトランプ派も含まれており、 そうした人々は ここでトランプ氏のバッシングを繰り広げて あえてアカウントを閉鎖されることにより「トゥルース・ソーシャルが 実はトランプ・ソーシャルでしかない」ことを立証することを目論んでいると言われる状況。
メディア評論家の多くは、「トゥルース・ソーシャルは今年の中間選挙までは注目を集めるかもしれないが、 センサーが厳しくオーガニックとは言えない環境なだけに、通常のソーシャル・メディアのようにユーザーの感情を煽ることは出来ないはず」という見解。 また年内にもスタートすると言われるWeb3上のディセンタライズSNSが普及した場合は、トランプ氏自身もそちらに移行することになるだろうとの声も聞かれるのだった。



Bitcoin for ロシア & ウクライナ


ロシアのウクライナ侵攻に対するNATO加盟国の経済制裁が手ぬるいと批判を浴びていた今週、 最も大きく取り沙汰されていたのが「何故ロシアをSwiftシステムから追放しないのか」という疑問。 Swiftは国際銀行ネットワークで、これまで国際間での送金に最も一般的に用いられてきた手段。 国際間の送金の殆どがドル建てで行われることから、事実上アメリカが主導権を握ってきたのがSwiftであるけれど、 ロシアの大手銀行や大富豪に対する制裁より有効と思われるこの制裁に踏み切れない理由として バイデン大統領が説明していたのが 欧州諸国から「ロシアよりも自国経済にダメージを与える」という反対があったこと。
そのロシアはウクライナ侵攻直前に、ビットコインを含むクリプトカレンシーの合法化に動いており、 当初はロシア国民が所有する世界のクリプトカレンシーの12%に当たる約2140億ドル相当のクリプトカレンシーに課税をする目的と見られていたけれど、 今となってはロシアがウクライナ侵攻後の経済制裁を逃れる手段としてクリプトカレンシーを利用していると見る声が圧倒的。 ロシアと言えば長きに渡ってクリプトカレンシー潰しを行ってきた存在。しかし2月初旬にはクリプトカレンシーに関する政府規定が ウェブサイトで公開されており、そのタイミングはロシアと共にクリプトカレンシーの取り締まりに厳しかったインドが30%の課税を掲げて クリプトカレンシー合法化に動いた直後のこと。ちなみにインドはロシアにとって貴重なトレード・パートナーであり、2021年には石油を中心に70億ドル相当をロシアから輸入。 今週金曜に国連で行われたロシアに対する安保理時決議に際しても中国、イスラエルと共に投票を棄権していたのだった。

一方、ロシアの侵攻が始まって以来、ウクライナに寄せられたのがビットコインによる寄付。 ブロックチェーン分析会社Ellipticによれば、侵攻開始から僅か数時間で ウクライナ軍支援財団”Come Back Alive”は約40万ドル分のビットコインの寄付を調達。 金曜日までには109BTC (約410万ドル) を集めており、クリプトカレンシーのYouTuberらもウクライナに対するビットコイン支援を呼び掛けている真っ最中。 さらにクリプトカレンシー取引所FTXもウクライナに住む同社のユーザー全員に25ドル分のビットコインをエアドロップしたことを発表。 それ以外にも複数のアンチ・ロシア勢力がウクライナの民間組織の資金調達を目的に分散型自律組織、ウクライナDAOを立ち上げているのだった。 Come Back Aliveはフィアット・カレンシー(通常の通貨)での寄付もソーシャル・メディア Patreon を通じて受け付けていたものの、 このページは木曜からアクセスが不能になり、Patreon側は「軍事目的の寄付集めは自社ポリシーに反するので、寄付を返金する」というセンサーシップを発動したばかり。
クリプトカレンシーは送金に手数料や時間が殆ど掛からないことから、2021年にはクリプトカレンシーによるチャリティへの寄付が1558%アップ。 ウクライナの場合、国民のクリプトカレンシー所有率は世界第5位と言われ、 過去数年に渡って政情が不安定で、トランク1つで国外に避難する可能性が続いてきた国民にとっては、クリプトカレンシーが自分の財産を守る手段であると同時に、 中間搾取を受けずにサポートを受ける手段にもなっているのだった。



コンヴォイ鎮圧のカナダに見るCBDCの脅威


2週間前までアメリカで大きく報じられていたのがカナダとアメリカの国境で繰り広げられたフリーダム・オブ・コンヴォイの抗議デモ。2週間前のこのコラムでもご説明した通り、 コンヴォイとはトラックによるグループ輸送で、そのドライバー達へのワクチン接種義務への抗議活動に保守右派が便乗して反政府活動に発展していたのがこのデモ。 その鎮圧のためにカナダのトルドー首相が発令した緊急法の一環がデモの活動資金源となったクラウドファンディングの銀行口座、 ビットコイン・ウォレット、及びそのドナーの銀行口座の凍結。クリプトカレンシー取引所に対してもブラックリストに載ったウォレットへの送金禁止が通達されたことから、 取引所側は「カナダ政府の支持に従わなければならない」ことを説明。「送金をしたい場合にはセルフカストディ・ウォレット(コールド・ウォレット/取引所ではなく個人で管理するウォレット)を使って ピア―・トゥ・ピア―、すなわち個人間で行うようにと呼び掛けていたけれど、当初カナダ政府は技術的に凍結が不可能なセルフカストディ・ウォレットをも凍結するとの意向を発表。 クリプト・ユーザーの失笑を買っており、まだまだ政府関係者がクリプト音痴である様子を露呈していたのだった。

今週明けにはフリーダム・オブ・コンヴォイに50ドルの寄付をした低所得者シングル・マザーが銀行口座凍結の処分対象になった様子が報じられ、 合法の寄付をしたけでテロリストのような扱いをしたトルドー政権に対する非難が集中。イーロン・マスクや金融系のインフルエンサーらが この時点でヒットラー呼ばわりをしていたのがカナダのトルドー首相。 その後ウクライナ侵攻を受けて、ヒットラー呼ばわりはすっかりプーチン大統領に移行したけれど、 カナダの状況を受けて指摘されていたのが 「もしCBDC(Central Bank Digital Currency)が導入されていたら、緊急法など発動することなく 抗議活動の寄付がスウィッチ1つで凍結されていたはず」ということ。
中国では既にデジタル人民元の実用化が目前と言われ、日本を含む 世界中の国々で導入が検討されて久しいのが CBDC、すなわち国の中央銀行が発行するデジタル通貨。 CBDCが導入されると、国民が中央銀行に直接口座を持つことになり、これまで間に入ってきた民間銀行の役割がローンを組むことくらいしかなくなる一方で、 個人の収入、投資、消費活動が全て政府によって監視、コントロールされるのはもちろんのこと、確定申告の必要が無くなり、脱税やマネーロンダリングが不可能になって お金の流れを把握する政府の権限がどんどん強くなるのは必至。
CBDCは単なるデジタル版通貨ではなく、多くのクリプトカレンシー同様にスマート・コントラクトなるものがプログラミングされた”機能を持つお金”。 パンデミック中に行われた 一定年収以下の人々への補助金支給も、プログラミングによって簡単に行える一方で、カナダのコンヴォイ首謀者やテロリストの口座に集まる資金をブロックしたり、 寄付を行った人々の口座から一律の罰金を差し引くことも簡単に可能。 養育費を踏み倒す父親の口座から毎月一定額を差し引いて母親に振り込むといったことも出来るけれど、 テロや犯罪の危険性等の大義名分さえあれば 政府が国民の財産を一方的に、いとも簡単に操作・没収できるのがCBDC。
多くのクリプトカレンシーがディセントラリゼーションを目的にクリエイトされているのに反して CBDCは発行側である政府の中央集権パワーを高める最強の武器。 CBDCとフェイス・レコグニション・システムがあれば、国民が何時何をして、何にお金を遣ったかを 政府が全て把握することが出来る訳で、クリプトカレンシーであればそのお金の動きの記録であるブロックチェーンはオープンソース。 すなわち誰にでも閲覧が可能で改ざんは不可能。 しかしCBDCではオープンソースのブロックチェーンが保証されていないので、権力を持つ一握りの上層部にとってはその揺るぎない富と地位を約束するものである反面、 一般国民にとっては抗議活動さえ行えなくなるのがCBDCが通貨となる世界。
クリプトカレンシーを理解しない人ほど、「ビットコインはテロリストや犯罪者の資金源」と語る反面、CBDC導入には全く反対しない傾向にあるけれど、 どんなにテクノロジーに興味が無い人でも自分の財産や人権に関わる今後の展望はしっかり見据える必要があると思うのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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