May 9 〜 May 15, 2022

"1M Death, Blue Marilyn & 3 Criminals"
米国不名誉な100万、メガリッチのインフレヘッジ、話題の3事件の結末


今週のアメリカでの最大の報道の1つが乳児用粉ミルクの危機的な不足状態。アメリカでは粉ミルク生産の90%以上を僅か4社が担っており、 そのうちの大手、ミシガン州のアボット・ニュートリシャンが2月に生産工程における製品汚染を理由に商品を大々的にリコールして工場を閉鎖。 それにパンデミック中から継続している物流チェーンの問題が重なって、現在アメリカで流通している粉ミルクは通常の43%程度の量。 各地のドラッグ・ストアやオンライン・ショップで完売が相次いだことから、1缶600ドルという信じられない高額で販売する悪質業者が出て来る始末。
これに対してようやく今週ディフェンス・プロダクション・アクトを発動したのがバイデン政権。これは通常 戦争時に発動される武器製造を最優先にする政府命令で、 昨年のパンデミック中にもワクチン生産のために発動されていたもの。それによって生産を急がせる傍ら、通常は控えている国外からの粉ミルク輸入で対応するとしているけれど、 年内は流通量が元に戻らないと言われるのが現状。 現在乳児の母親達は複数のドラッグ・ストアを回って粉ミルクを掻き集めている最中で、特に授乳率が低い黒人層、ヒスパニック層の母親達にとって この問題は極めて深刻と言われるのだった。



アメリカが不名誉な100万に到達した日


今週水曜にアメリカで記録されたのが100万人のCOVID-19の死者数。ホワイトハウスは半旗に死亡した人々への追悼の意を表したけれど、 現在のアメリカは中国とは異なり、COVID-19は消え去ることはなく 定期的にカムバックしてくるというスタンス。そのためワクチンの普及、テストが受け易い環境、陽性反応が出た場合の 服用薬支給を全て無料で行うというのがバイデン政権下での対応。
医療が発達した現在において、100年以上前の1918年に起こったスペイン風邪の死者67万5千人を上回るパンデミックが起こった要因として挙げられているのは、 政治の二極化が招いたメディアとソーシャル・メディアによるディスインフォメーション。 アメリカ国内では当初 政治思想や支持政党を問わず感染者と死者数が増えて行ったけれど、国民がただでさえ政治に熱くなる大統領選挙の年、2020年に民主・共和の支持政党で大きく分かれたのが マスク着用とワクチン接種に対する考え。 その理由は 共和党支持者の殆どが 情報ソースとしてFOXニュースしか信頼しておらず、それ以外の情報はもっぱら保守派のYouTuberのチャンネルによって得ていたことから、 大きく拡散されていたのがディスインフォメーション。英語では単なる間違いで誤情報を報じることは「ミスインフォメーション」、意図的な操作が目的で誤情報を流すことは 「ディスインフォメーション」と表現するけれど、共和党支持者や保守派にディスインフォメーションが広がった結果、 トランプ支持層がバイデン支持層よりも180%も多い死者数を記録する事態が起こっているのだった。

FOXニュースは、コロナ感染が始まった時点ではCOVID-19が大統領選挙でトランプ氏を蹴落とすための民主党とリベラル派の陰謀と報じ、ワクチン投与がスタートした2021年以降は 連日に渡って医療専門家とは言えないホリスティック・ヒーラー等がデータをでっち上げてワクチン攻撃をしていた様子は、メインストリーム・メディアや医療界で大きく問題視されていた事実。 共和党支持の保守層は その信仰心の強さから Qアノンに代表される陰謀説を信じ易い精神的地盤が整っており、 FOXニュースや極右YouTuberが報じ続けた「ビル・ゲイツがワクチンにマイクロチップを混入させている」、「ワクチンで生殖器官にダメージを与えることにより、政府が人種浄化を行おうとしている」という 陰謀説を今も信じる人々。そのためアメリカ国内のワクチン未接種者の60%以上が保守&共和党支持者となっているのだった。
その思い込みの激しさは 後にトランプ氏が講演会で自ら2回のワクチンとブースターを接種したことを語り、支持者にも接種を呼び掛けた際にブーイングを浴びたほどで、もはやワクチンに関しては 熱烈に支持するトランプ氏の言い分さえ信じなくなっているのが保守層。 ワクチンを散々攻撃してきたFOXニュースのアンカー達にしても 実際にはワクチンを接種しており、 ワクチン未接種者の死亡例が劇的に増えた2021年中には、FOXニュースも一時的にワクチン接種を呼び掛けた時期があったほど。
しかしそれが極めて不人気であったことから、今ではアンカー達が自らのワクチン・ステータスを隠したまま 「政府やリベラル派企業がマスク着用義務、ワクチン接種義務を押し付けて、国民の自由と権利を奪おうとしている」という問題に摩り替えて、保守派の反発を煽っているのが2021年後半以降。 特に功を奏したのは「子供達のマスク着用やワクチン接種の決定権は、学校や政府ではなく親の判断であるべき」という歪んだペアレンタル・ライトを白人層を中心に植え付けたことで、 これによって今では 学校における人種教育、ゲイ&トランスジェンダーの子供達の認識に至るまで、ペアレンタル・ライトをかざした保守主義の親達がヒステリックに口を出すようになって来たのだった。

アメリカでは新しいワクチンが開発される度に、国民がそれに拒絶反応を起こすことは決して珍しくはないこと。 特に1970年代まで医療実験に利用されてきた黒人層の間では、国が行うワクチン・プログラムを決して信じない人々は多く、 人種別に見ても最もワクチンの接種率が低いのも、COVID-19の死者が多かったのも黒人層、次いでヒスパニック層。ロックダウン中に働きに出ていたエッセンシャル・ワーカーが多いのもこれらの人種であるけれど、 同時にバイデン支持者が多いのも黒人&ヒスパニック種。
にも関わらずトランプ支持者の死者数がバイデン支持者に比べて2倍近いというデータは、保守・共和党支持者がいかにワクチン接種やマスク着用に拒絶反応を示していたかを如実に証明するもので、 特定メディアによる洗脳状態は COVID-19よりも遥かに深刻な社会の病と指摘されているのだった。



ハイエンド・アートは未だ有力な投資対象


今週月曜5月9日にクリスティーズのオークションで1億9500万ドルで落札されたのが、写真上左の「ショット・セージ・ブルー・マリリン」。 これはアメリカ人アーティストのオークション落札価格としては史上最高額で、それまで記録を保持していたのが2017年に落札されたジャン・ミシェル・バスキアの 「スカル(写真上、中央上)」。その価格は1億1050万ドル。
ウォーホールの「ブルー・マリリン」の落札価格は 今週から2週間に渡ってNYで行われる春のオークション・シーズンを占う数字として 大きな注目を集めており、深刻なインフレ、ウクライナ情勢を含めた政情不安の中、果たしてハイエンドのアートに引き続き投資価値、資産保有価値があるかが見守られていたのだった。 2億ドルでの落札が見込まれていたこの作品が ほぼ予測通りの価格を付けたことで、アート界はホッと一息という印象であったけれど、 「ブルー・マリリン」は一辺が100cmのシルク・スクリーンで 「ショット・マリリン4連作シリーズ」のうちの1枚。落札者は非公開であるけれど、残りの3枚を所有するのは NYメッツのオーナーでもある投資家 スティーブ・コーエン、 大手ヘッジファンド、シタデルのCEO ケン・グリフィン、そしてスーパーモデル、ステファニー・シーモアを妻に持つメディア発行人のピーターブラントで 全員がビリオネア。

何故「ショット・マリリン・シリーズ」と呼ばれるかと言えば、1964年にウォーホールのスタジオにピストルを持った女性が押し入り、積み重ねてあったこのシリーズに向かって 銃弾を放ったため。4枚の中にはその銃弾の痕跡を残した作品もあり、そんなエピソードもこのシリーズを益々アイコニックかつ高額にしている要因。
「ブルー・マリリン」以外に今シーズンのトロフィー・アイテムとして注目されるのは、1982年のバスキアの無題の作品(写真上、中央下)で、落札推定価格は7000万ドル。 これを売却する日本の起業家、前澤友作氏は6年前にクリスティーズのオークションで5730万ドルで購入しており、もし推定価格前後で落札された場合にはかなり割の良い投資。 加えてサザビーズでは1969年のサイトゥオンブリーの黒板画、フランシス・ベーコンの「Studyof Red Pope 1962、2nd Version 1971(写真上右)」が 共に4000万〜6000万ドルで落札が見込まれるけれど、この2作品は不動産デベロッパーのハリー・マックロウが 妻との離婚による財産分与争いのために売却を迫られたもの。
昨今の株もクリプトカレンシーも大暴落している状況は メガリッチがその資金をハイエンド・アートに注いで財産を守ろうとすることからアート界には朗報と受け取られるもの。 ウォーホールに続いてバスキア、フランシス・ベーコンが予想価格で落札された場合には、 ハイエンド・アートが混迷する時代の手堅い投資対象、財産保有手段としての地位を更に固めると見られるのだった。



話題の3つ事件の結末と裁判


今週月曜に遂に逮捕の運びとなったのが、アラバマ州の刑務所から女性看守 ヴィッキー・ホワイト(57歳)の手助けを得て 脱獄し、11日間に渡って逃走を続けた凶悪犯、ケーシー・ホワイト(38歳、2人に血縁関係は無し)。 ヴィッキーはケーシーを裁判所での精神鑑定に連れて行くと偽って2人で逃走。車を複数回乗り換え、滞在先のモーテルは ホームレスにキャッシュを渡して部屋を借りており、オーナーは2人が滞在していたことに気付いて居なかったとのこと。
しかし事件が大きく報じられたことから、身長2メートル5センチ、体重約150キロと大柄なケーシーの目撃情報が寄せられ、結局は警察とのカーチェイスの末、 2人が乗った車が事故を起こし、その直後にヴィッキーは自らが持っていた銃で頭を撃ち抜いて自殺。車から降りて 取り押されたケーシーは 「妻を救けてくれ、銃で自殺を図った。自分が撃ったんじゃない」と叫んだけれど、2人が逃走中に結婚した形跡は無いのだった。
ヴィッキーは脱獄の手助けをしなければ、今月には5度目となる「エンプロイ・オブ・ジ・イヤー」を受賞していたはずの模範看守。 しかしケーシーとは過去2年間に渡って極秘で交際を続けており、その間にヴィッキーは離婚。しかし今年1月に夫が死去するまで続けていたのが夫との同居。 夫の死後には 市価の半額である9万5000ドルで自宅を売却。それを逃走資金にしており、2人が滞在したモーテルからは何に使ったのか、 かなり減った金額のキャッシュが半自動小銃を含む武器と共に押収されているのだった。

その一方で、今週には今年3月にマンハッタン、ミッドタウンの歩道でタクシーに乗り込もうとしていた87歳のブロードウェイのヴォーカル・コーチを いきなり「Bitch!」と叫んで殴り倒して死亡させたローレン・パティエンザ(26歳)が逮捕後初めて罪状認否のために法廷に姿を見せているのだった。 ローレンはNY郊外、ロング・アイランドの比較的裕福な家庭に生まれ、職業はパーティー・プランナー、婚約者も居た身。事件当日、彼女はフィアンセと一緒にギャラリー・オープニングで無料でサーヴィングされる ワインを飲んで「今年6月の結婚式まであと100日」を祝っていたとのこと。その後2人はチェルシー・パークで ストリートの屋台で買ったフードを食べていたところ、 管理人に「パークを閉める時間だから出て行くように」と言われ、それに激怒したローレンの腹いせが たまたま目の前を横切った被害者への暴力。
遺族にとっては理解に苦しむほど馬鹿げた八つ当たりであるけれど、ローレンの友人によれば 彼女は日頃から聾唖(ろうあ)者を嘲笑うなどの モラルに乏しい振舞いをしており、気性も荒く、時に暴力的であったとのこと。 彼女には第一級過失致死罪が問われており、有罪になった場合には最高で25年の懲役刑が見込まれるのだった。

同じく今週の法廷で罪状認否を行ったのが、4月にNYのみならず、全米で大報道になったクイーンズのブロンド美人妻殺害事件の容疑者。 この事件は金融業を営む夫、ティーンエイジャーの2人の息子を持つオルソルヤ・ガール(51歳)が週末のナイトアウトから自宅に戻ったところを 何者かに殺害され、死体が翌朝ダッフルバッグに入った状態で近隣で発見された事件。遺体が58回もナイフで刺されており、 自宅に押し入った形跡がないことから、顔見知りの怨恨の犯罪として捜査が進み、程なく容疑者して浮上したのが ハンディマンとしてオルソルヤの家に出入りをしていた愛人のデビッド・ボノーラ(44歳)。事件当日、家に居たのは次男だけで、 夫と長男はオレゴンに出掛けており、2人は二階に居る次男に悟られないように地下室に行き、そこで 口論となったことから ボノーラが家にあったナイフで衝動的及んだのがこの殺人。その後 地下室にあった息子のホッケー用ダッフルバッグに入れて 遺体を運び出しており、現場の乱雑な状況からそれが計画殺人でないことは確実視されていたのだった。
オルソルヤとオン&オフで過去約2年交際していたボノーラは 「オルソルヤが愛していると言いながら、自分をHIVに感染させて あっさり捨てた」と殺害動機を説明しており、 彼女のコンピューターが自作ポルノビデオで溢れていることなど、浮気性を通り越したオルソルヤのセックス中毒ぶりを証言。 事実、犯人像を絞り込む前の段階で 警察は容疑者が「オルソルヤの複数の愛人の1人」と説明していたほどで、 この裁判は夫と2人の息子たちにとってかなり残酷なものになる様相を呈しているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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