July 11 〜 July 17, 2022

"Troubles, Drop Out & Risk of the Week"
世界各国トラブル・リスト、E.マスクがツイッター買収から降りた本当の理由!?、生理アプリのリスク、Etc.


今週アメリカで物議をかもしていたのが、妊娠中絶が違法になったオハイオ州で レイプによって妊娠した10歳の少女が中絶手術を受けるために 中絶が合法なインディアナ州の病院に出向かなければならなかったというニュース。 オハイオ州では母体に危険がある場合の中絶は認められており、常識的には10歳の身体では妊娠・出産には耐えられないと判断されるべきところ。 しかし「しかし母体に危険がある」という判断基準があまりにファジーであるために 州内では医師が訴追を恐れて手術が受けられなかったようで、 これについてはバイデン大統領もプレス・カンファレンスで声を荒げて批判。
ところが程なく共和党が多数を占めるオハイオ州で流れたのが、「少女は実在せず、このストーリーは中絶支持派によって流されたデマである」というデマ。 その途端に共和党保守派が嬉々としてバイデン氏や中絶支持派をバッシングしたのも束の間、木曜には少女をレイプした27歳の移民男性が逮捕され、 少女の実在、及びレイプ事件が実際に起こっていたことが立証されたことから、 州知事をはじめとする地元の共和党政治家達が見せていたのが 少女に同情し、警察の熱心な捜査を讃えながら、謝罪逃れをする様子。
こんな事件が起こっても、保守右派の間では受精卵が生まれた段階で命が誕生したと見なされることから、 共和党議員の中には 「産んでみれば、やがて子供を授かったことに感謝するはず」と10歳児がレイプ犯の子供を出産するべきであったと明言する声が殆ど。 現在オハイオ州政府は少女の中絶を行ったインディアナ州のドクターの身元を突き止めている真最中。 何等かの制裁を加える可能性が危惧されており、とても21世紀の先進国とは思えない事態が繰り広げられているのだった。



インフレだけじゃない!? 世界各国の昨今のトラブル・リスト


今週水曜に発表されたのがアメリカの6月のCPI(消費者物価指数)。それによればアメリカでは前年同月より9.1%インフレが進んでおり、過去40年で最大の物価上昇率になっていたけれど、 インフレが大問題になっているのは決してアメリカだけではなく、イギリスも同率の9.1%のインフレ。通貨が崩壊状態のアルゼンチンは60.7%、同様のヴェネズエラは167.2%、 ジンバブエは192%、レバノンは何と211%。
そんな中、過去数ヵ月に渡って腐敗政治への不満と サプライ・チェーン問題による食糧&燃料不足が重なり、民衆の怒りが爆発していた スリランカでは、今週遂に 抗議デモが大統領公邸になだれ込み、シンガポールに逃れたラジャパクサ大統領が Eメールで辞任を表明。 アメリカのお隣、カナダでは先週金曜にテレコミュニケーション大手、ロジャース・コミュニケーションの電話、インターネットのサービスが19時間に渡ってダウン。 その間 人々は救急車を呼ぶことさえ出来ず、クレジット・カードやデビッド・カードによる支払いもストップ。そのパニックの余波が続いていたのが今週。 しかも当初サイバー・アタックかと思われたこの事件は 週明けにロジャース・コミュニケーションによるメンテナンスが原因と説明されるお粗末ぶり。
ヨーロッパに目を移せば、ウクライナ戦争の影響でエネルギー危機が深刻なドイツでは、石油と天然ガスの消費量を減らすために 国民のお湯と電気の使用に厳しい制限が課せられ、それが生活に不便を来たすレベルに達しつつあるのが現在。 オランダでは、政府が温室効果ガス削減計画の 不当に厳しいガイドラインを農家に押し付けたことから、農民の抗議デモがスタート。 既に食糧事情が悪化している中、これが長引けば深刻な食糧危機に陥る可能性が指摘されるのだった。
イタリアでは北部の干ばつで緊急事態が宣言されており、食糧のプロダクションも3分の2に減る見込み。 政治面ではマリオ・ドラギ首相が、連立政権を組んでいた反体制勢力「五つ星運動(MSS)」からの支持を失い、辞任を表明したのが木曜のこと。 後任に有力視されるのはLGBTQと移民を敵視する極右ファシズム政党のジョルジア・メロー二で、イタリア初の女性首相が誕生すると見込まれるのだった。
ノルウェイでは、生活費の高騰に給与が追い付かない 石油&ガス会社の従業員が大規模なストライキを行い、それを政府が強制的に終了させたばかり。 同様のストライキはイギリスでも交通セクターで起こっていたけれど、そのイギリスは先週金曜にジョンソン首相が辞任を発表。後任人事を巡る政局のいざこざが見込まれるのが今後。
中国では4月から複数の地方銀行による預金凍結、すなわち”Bank Run/バンク・ラン”が起こっており、預金者がアクセス不能になった預金総額は約15億ドル。 先週末にはその抗議デモの規模が1000人に膨れ上がり、暴力沙汰に発展したのを受けて、ようやく5万元(約7430ドル)未満の預金者に対する払い戻しが約束されたものの、 これは問題解決には程遠い状況。その中国は2022年第2四半期のGDPが 前年比0.4%増と予測を下回り、 過去28年で初めて経済成長に陰りを見せたばかり。
そんな先が見えない世界情勢のニュースの中には、日本の安倍元首相の暗殺も含まれているけれど、原油価格はこのところ下降線を辿っており これからの数週間で株式、クリプトカレンシーの市場で見込まれるのがリリーフ相場。すなわちリセッションには向かっているものの、その中休みと言える上昇相場。 その間はドル高が一段落というのが大方の見解なのだった。



イーロン・マスク、ツイッター買収取り止めの本当の理由と言われるのは?


先週金曜にイーロン・マスクがツイートで明らかにしたのが、彼がツイッター買収から手を引く意向。 これを受けて週明けのツイッター株は大きく値を落としていたけれど、その理由として証券取引委員会に提出された書類で挙げられていたのが ツイッターがロボット&フェイク・アカウント数を実際より遥かに少なく通達していること。マスク側の調査によれば実際のフェイク・アカウントは ツイッター側が提示した5%を遥かに上回っていたとして、ツイッター経営陣とその企業ヴァリューに対する不信感が強調されていたのだった。
しかし440億ドルの企業買収に際して、そんな基本的な数字を事前に抑えていないのは 通常ならあり得ないこと。 事実、イーロン・マスクのツイッター・フォロワーの23%がフェイク・アカウントであることは あるリサーチ・グループが4月の段階で発表していたこと。 したがってマスクの買収取り止め宣言は 価格を値切ろうとしているか、それ以外の深刻な理由のどちらかと見られ、 後者として今週噂されたのが ツイッターに対する政府介入。 そもそもイーロン・マスクは センサーが存在しないフリー・スピーチのソーシャル・メディア・プラットフォームを実現することを謳ってツイッター買収に乗り出した訳であるけれど、 マスクがその実現が事実上不可能であることを痛感したと言われるのが先週なのだった。

では先週に何が起こったかと言えば、コロナウィルスに関する問題ツイートが原因で2021年8月にアカウントが永久閉鎖されていたジャーナリスト、アレックス・べレンソンが ツイッターを相手取った裁判で勝訴を勝ち取り、彼のアカウントが再びアクティブになったのが先週のこと。 ちなみにアカウント閉鎖でツイッターを訴えて勝利したのは彼が初めてのケース。 しかし彼には その勝訴までのプロセスを含む一切の情報公開が禁じられており、唯一明らかにしたのが、 「自分を含むツイッター・アカウントの閉鎖が政府圧力で行われたことを立証する調査はこれからも続ける」という強い意志。
この宣言に並々ならぬ関心を示したイーロン・マスクが、アレックス・ベンソンに「もっと詳細を知らせてほしい」というメッセージをツイートしたのが やはり先週のことで、 ここまで聞くと 政界や国防に通じた人であれば ツイッターがナショナル・セキュリティ・レターなるものを受け取る企業であることが分かるようなのだった。 ナショナル・セキュリティ・レターはその受領や内容に関する一切がトップシークレットで、これを受け取る企業に対しては FBI、CIA、NSAといった国家機関がそのデータやコンテンツにアクセスし、”国防”という名の下にコントロールする権限を持つということ。 これに関してはマスクが 買収前にツイッターのボード・メンバー全員の経済状態を調べるほどのリサーチをしていても 初耳であって不思議ではない事実。 要するに本当にフリー・スピーチを実現しようとした場合、ビットコインのように管理者、経営者が不在のまま機能し、政府の圧力が及ばない 完全なディセントラリゼーション・プラットフォームでなければ達成できないことをマスクが悟ったと言われるのが先週のこと。
ちなみに他国に比べてツイッター・ユーザーが多いと言われる日本も、 ID不明のツイートやメディアが伝えるその炎上ニュースは「右向け右」の国民性を利用した政治目的の世論誘導に大きな役割を果たしていると指摘されて久しい状況。
マスクは当初、ツイッターを中国のWeChatのようにソーシャル・メディア兼、クリプトカレンシーを使った支払いのプラットフォームにする野心を持っていたけれど、 彼が買収から手を引いたことで 今週はその支払いに用いられると見込まれたマスクのお気に入り、ドージ・コインの価格も一時12%下落。
今週ツイッター側はマスクに対して 買収完了を求める訴訟を起こしており、当初買収を拒んだツイッター経営陣が今や買収を望む立場になったのは、 ツイッターの企業価値が今回の買収プロセスで著しく低下したため。加えて過去数ヵ月でインフレが進み、金利が上昇した現在では、 取締役も株主も「ツイッター株をマスクに押し付けて キャッシュが欲しい」というのが本音と言われるのだった。



女性が中絶で逮捕される時代のスマホ・アプリ


アメリカで連邦最高裁が妊娠中絶を違憲と判断してからというもの、ホワイトハウスまでもが女性達に警告したのがピリオド(生理)トラッカーのアプリ使用のリスク。
何でもアプリに頼るジェネレーションZを中心に、今やピリオド・トラッカーを使う女性は多いけれど、そもそもアプリというものが何故無料であるかと言えば 企業がアプリを通じてアクセスしたユーザーのスマホ情報を第三者に売り渡しているため。 事実、ピリオド・トラッカーの ”Flo/フロー” はユーザーのID以外の情報を第三者のビジネスに提供していることを認めているけれど、 本当にIDがプロテクトされているという保証は何処にもないのだった。 それを立証するかのように、今週にはアマゾンが 同社のベストセラーであるドアベル・カメラ Ring/リング の映像を、プライバシー協約では「本人の許可なしには法執行機関に渡さない」と謳っておきながら、 2022年だけで11件の犯罪捜査のために ユーザーに無許可で提供していたことを認め、非難を浴びたばかり。

アメリカでは人工中絶が違憲になる以前の2006年から2021年までの間に、妊娠関連で逮捕、身柄拘束の対象となった女性の数は1300人。 中絶が合憲であった時代でも、保守右派が多いレッド・ステーツでは妊娠後一定期間を過ぎた中絶は法律で禁じられており、友人や家族、隣人等の通報や密告等で 中絶が違法な時期に行われた容疑が掛かった女性達に 有罪の証拠を提供してきたのが テキスト・メッセージの内容、 ウェブの検索履歴やGPSの位置情報といったスマートフォンに収められた情報。
妊娠中絶が違憲となった今では、ルイジアナ州が中絶を行った女性に殺人罪を問う法案が決議されようとしている状況で、 そんな中絶の動かぬ証拠を提供しかねないのがピリオド・トラッカー。 事前にプライバシー協約をチェックしてアプリを選んだとしても、アマゾンのRingのようにそれが単なる大義名分というケースは決して少なくないのだった。
そのため妊娠中絶違憲時代のピリオド・トラッカーとして奨励されるのが、Euki/ユキ(https://eukiapp.com/)。 これは妊娠中絶が犯罪と見なされるインドネシアの女性のために開発されており、ユーザーの個人情報、及び生理のスケジュールはローカル・メモリーでのみ管理され、インターネット上にアップロードされることは無いアプリ。
ピリオド・トラッカーに限らず、一度アプリを通じてインターネット上に保存されたデータは、何時どんな形で自分を追い詰めるか分からないだけに、 同様の理由で使用を控えるべきと言われるのが スケジュール管理や日記のアプリ。
妊娠中絶が違法の州の女性に対しては「生理用品をクレジット・カードではなくキャッシュで購入するべき」と、生理の時期が分かるありとあらゆる痕跡を残さないようにとアドバイスする専門家もいるほどで、 犯罪捜査や法律の前ではプライバシーの概念が簡単に踏みにじられ、インターネット上に残したありとあらゆる情報が自分に不利に働くリスクが警告されているのだった。

誠に勝手ながら、来週のこのコラムは執筆者の都合によりお休みをいただきます。 次回更新は7月31日となります。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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