Aug. 15 〜 Aug. 21 2022

"Drought, Meme Stock, WeWork Deja Vu, Etc.""
干ばつが東海岸にも、大学生がMeme株で1.1億ドルの利益、WeWorkがハウジングで再現!?、Etc.


8月も半ばを過ぎて、アメリカは一部の地域で既に新学年が始まるバック・トゥ・スクール・シーズン。 大学生もキャンパスに戻り始めているけれど、NBCニュースとジェネレーション・ラブの共同の調査によれば、大学生の46%が「2020年の大統領選挙で自分と異なる候補者に投票、もしくは支持していた学生とは ルームメイトにはなりたくない」と回答。更に多い53%が「自分と異なる候補者に投票、もしくは支持していた学生とはデートをしない」と答えており、 若いジェネレーションの間でも政治の二極化が進む一方であることを感じさせているのだった。
学生達にとっての不安は、学費ローンを支払うことよりも レント、食費、ガソリン代といった学生生活を営むための 生活費が賄えるかで、88%がインフレを危惧。 実際にこの夏休みには サマー・インターンがNY市内の企業で決まった大学生が、安価で滞在できるアパートが見つからないために インターンを断念したケースが少なくなかったようで、そのNY市は 家賃の平均が史上最高額である5,058ドルに達していることが伝えられるのだった。



歴史的干ばつが東海岸にも波及


過去何年にも渡って指摘されてきたものの、この夏いよいよ深刻さ極めたのが アメリカ国内4000万人の水源を担うコロラド川の干ばつ被害。コロラド川は コロラド、ユタ、ニュー・メキシコ、ワイオミング、アリゾナ、カリフォルニア、ネヴァダという7州の 飲料水はもちろん、農業や畜産業に必要な大量の水を供給してきた存在。 その干ばつの影響で全米最大の貯水湖であるレイク・ミドウは水面が従来の4分の1にまで干上がってしまったのだった。
テキサス州でも巨大な貯水池2つが完全に乾いて、水が一滴も無い陸の状態となってしまい、史上最悪の干ばつが宣言されたばかり。 それを受けて今週火曜日にホワイトハウスが通達したのが、2023年1月からのアリゾナ州で21%、ネヴァダ州で8%のウォーターカットの実施。 この夏の歴史的な干ばつは全米の1億7400万人に影響を与えており、その被害は 例年ならば 干ばつとはさほど縁が無い北東部にも急速に広がっている真最中。
特に深刻になりつつあるのがニュージャージー、コネチカット、マサチューセッツ、ニュー・ハンプシャー州で、 ニューヨーク州もアップステートの一部が芝生に水を撒く回数を週2回に制限するステージ2の干ばつが宣言されたばかり。 こうしたエリアでは既に来店客がオーダーしない限りはレストランで水が出されないポリシーになり、公園等の噴水もストップ。 このまま深刻な状況が続くと、やがて洗車を自主的に控えるなどの呼びかけが進むとも言われるけれど、気象関係者はこの状態がやがてニューノーマルになると語るのだった。

アメリカでは既に水質悪化のため水道水が飲めない人口が6,140万人に達しているけれど、干ばつの問題は飲料水や生活用水の不足に加えて、 農業、畜産業への打撃も懸念されており、「近い将来食糧危機に見舞われる最もリアリスティックなシナリオ」と言われるのが 干ばつ被害と水不足がもたらす農作物の激減。 今週にはこの夏、同様に歴史的な高温と干ばつに見舞われている中国で、気温が高過ぎることを理由に半導体工場が営業停止に追い込まれたニュースも伝えられ、 農作物だけでなく、現代社会のライフラインである半導体の生産までもが干ばつの影響を受ける様子を思い知らせていたのだった。
そんな中、今週にはウクライナの港から小麦を含む食糧の輸出が再開され、トルコ、韓国、イタリアといった国々がその恩恵を受けると伝えられたけれど、 輸出再開分が殆ど届くことがないのが 既に食糧危機が深刻なアフリカ諸国。 このことは「近い将来 世界的な食糧危機に見舞われた場合、経済力が劣る国々には殆ど食糧が行き渡らない様子をまざまざと垣間見せている」とも指摘されるのだった。



Meme株で1億1000万ドルの利益を上げた大学生(20歳)


2021年春にゲームストップ株が爆上げして以来、ミレニアルやジェネレーションZといった投資をシリアスに捉えない若い世代が 引き続き関心を払って来た投資対象がMemeストック。 その代表格としてはゲームストップ以外に、映画館チェーンのAMC、ノキア、ブラックベリー、アパレルのエクスプレス等があるけれど、 いずれも業績が悪く、本来ならヘッジファンドの空売りでカモにされてしまう 所謂”クズ株”。 しかしそれをソーシャル・メディア上でのバズを煽って モブ買いをさせることにより価格を急上昇させ、ヘッジファンドをショートスクイーズに追い込んで 売り逃げる手法は、短期間で大儲けが出来るとあって若い世代の一攫千金型投資になっているのだった。

中でも今週報道が集中していたMemeストックがBed Bath & Beyond / ベッド・バス&ビヨンド(以下BBB)。 BBBはその名の通りホームグッズの大型チェーンで、7月には4ドル台で取引されていたものの 8月に入ってからその価格が急上昇。 今週水曜には一時的に30ドルに迫る上昇を見せたのだった。
そして報じられたのが 名門USC(南カリフォルニア大学)で数学と経済学を先攻する20歳の学生、ジェイク・フリーマン(写真上右側)が このBBB株の爆上げによって莫大の利益を上げたニュース。 彼は裕福な投資家の叔父を含む、親類や友人から資金を募って自らのファンドを立ち上げており、7月末にBBB株の6%に当たる500万株を 1株当たり約5.5ドル、総額2500万ドルで購入。 その彼が全株を売却して1億1000万ドルの利益を上げたのが今週火曜日(8月16日)に27ドルの高値を付けた時点。
彼が潔く全株売却に踏み切った理由は、Memeストック・インフルエンサーとして知られ、BBBの第二位の株主でもあったライアン・コーヘン(写真上左、枠内)が 売却に踏み切る準備をしていることをメディアで知ったため。事実、ライアン・コーヘンの売却によって木曜のBBB株は35%値を下げているのだった。
元手が大きかったとは言え、僅か3週間ほどで1億ドル以上の利益を上げたジェイクは一躍時の人になってしまったけれど、 市場専門家は ゲームストップ株でMemeストック・ブームに火が付いた時期に比べると、株価が上昇してからのペースが早くなっているので、 素人にはどんどん難しい展開になってきていると指摘。「後からチャートを見て上手い儲け話を逃したと思って 次に乗ろうとすると痛い目に遭う」と警告しているのだった。
ちなみにライアン・コーヘンはアメリカ人なら誰もが知るペットフード、Chewy/チューイーの設立者であるビリオネアで、 現在はゲームストップ社の会長。BBB株は3月に9450万株を周囲に悟られずに購入しており、これだけ大量の株式を売却するにあたってSEC (証券取引委員会)に直前に 申請書を提出したことで明らかになったのが彼の売却。コーヘンは自分のインフルエンサーとしてのポジションを利用して一般投資家の間でバズを煽って 市場を操作したという批判が聞かれるものの、同様の事は大手金融機関がボラティリティやスペキュレーションを演出して長年行って来ただけに、誰も文句は言えないのだった。



あのWeWorkのアダム・ニューマンがビリオネアにカムバック


今週新しいビジネスを立ち上げて、再びビリオネアに返り咲いたことがメディアで報じられたのが 2019年にIPOに失敗したユニコーン企業(株式公開前の査定で10億ドル以上の価値が認められた企業)、WeWorkの元CEO、アダム・ニューマン(43歳、写真上左)。
WeWorkは、2019年には29ヵ国、111都市で 52万7000人のメンバーを抱えてオフィス・シェアリングを展開していた企業。 同年8月14日にナスダックにIPO申請をした時点で見込まれた企業価値は470億ドル。しかし 程なくオーバーヴァリューが指摘され、その価値が約200億ドルに激減。 同年9月末には更にその価値が半分の100億ドルになったけれど、理由は 毎年大赤字続きで黒字に転じる見込みのない業績に加えて、CEOアダム・ニューマンの公私混同が激しい経営姿勢。
2019年1月の時点でWeWorkが支払っていたオフィス・リースの総額は472億ドル。 それに対してメンバーから得られるレントの総額は僅か34億ドル。 WeWorkのオフィス・スペースは見た目にはスタイリッシュであったものの、グラス・ウォールのキュービクルやカスタム・ファニチャーに不必要な費用を掛けて 更に赤字を膨らませていたのだった。
加えてアダム・ニューマンは 当時最高額のガルフ・ストリームのプライベート・ジェットで移動し、その機内にはマリファナが大量に持ち込まれ、企業イベントと称してはパーティー三昧。 妻のレベッカや義弟をエグゼクティブに就任させただけでなく、合計20人の親族や友人を高額サラリーで雇い、自社のITスタッフを自宅に派遣してハイテク機器の問題を解決させるなど、完全に企業を私物化。 さらにはIPO資料では公表していない株式を売却して7億ドルを超える利益を得ていたことも明らかになり、 WeWork株式30%を所有する日本のソフトバンクを始めとするインヴェスターが 彼をノンエグゼクティブ・チェアマンに退かせたものの、IPOは見事に失敗。 当時はWeWorkの失態を受けて、他のユニコーン企業がIPOを見送らなければならないほど 大きな話題を提供したのだった。

その頃 アダム・ニューマンと共に批判を浴びていたのがJ.P.モーガン・チェイスのCEO ジェイミー・ダイモン。 J.P.モーガン・チェイスはクレディ・スイス、UBSと共にニューマンにローンを提供しており、 その資金はWeWorkで貸し出すビルの購入だけでなく、ニューマンのハンプトンの別荘、サンフランシスコの別宅、コネチカットの大邸宅、NYのタウンハウスといった 個人の不動産購入に使われていたのだった。 特に早くからWeWorkのIPO担当を狙っていたJ.P.モーガン・チェイスは、ジェイミー・ダイモンが直々にニューマンの対応に当たり、9,750万ドルの個人ローンを提供。 その甲斐あってJ.P.モーガン・チェイスは WeWorkのIPOのリード・アンダーライターになり、もし株式公開が実現していた場合は 1億ドルのフィーが転がり込むことになっていたのだった。
この件では、はったりで優良ユニコーン企業を装ったアダム・ニューマン、彼の妻兼エグゼクティブとしてニューエイジかぶれの経営方針を持ち込んだレベッカ、 ニューマンのご機嫌取りのために多額の個人融資をしたJ.P.モーガン・チェイス、 業績が伴わないWeWorkに多額の資金を投じてニューマン夫妻の金銭感覚を狂わせたソフトバンクのそれぞれに非があったと指摘されていたのは記憶に新しいところ。 結局ニューマンは2021年2月にソフトバンクからキャッシュ、株式、裁判費用を含む総額4億5000万ドルを受け取ってWeWorkから完全に手を引くことになったけれど、 誰がどう考えても最低の経営者と思われたアダム・ニューマンが、早くもビリオネアへのカムバックを果たし、新ヴェンチャーを立ち上げるニュースはかなりネガティブなリアクションを招いていたのだった。

彼の最新ヴェンチャーは”Flow/フロウ”というネーミングで、早い話がWeWorkで提供した賃貸オフィス・スペースの代わりに 賃貸住宅ネットワークを全米規模で展開するビジネス。その根底にあるのが WeWorkで彼が妻のレベッカと共に目指していた ミレニアル世代のユートピア・コミュニティ構築のコンセプト。
「賃貸住宅市場に革命を起こす」と謳うフロウのビジネスのために、ニューマンはパンデミック中に マイアミ、フォート・ローダーデール、アトランタ、ナッシュビルで 4,000戸以上のアパートを購入していたとのことで、 正式にビジネスがスタートするのは2023年。賃貸住宅という昔ながらのビジネス・カテゴリーにどんな革命的な要素が盛り込まれるのかなど、現時点では詳細は一切不明。
今回資金を提供するインヴェスターであり、早くも”未来の犠牲者”と言われるのは、 シリコンバレーのヴェンチャー・キャピタルの大手、アンドリーセン・ホロウィッツを 2009年にパートナーのベン・ホロウィッツと共に設立したマーク・アンドリーセン(51歳、写真上 中央下段)。 彼自身はWebブラウザ、ネットスケープをクリエイトしたエンジニアで、アンドリーセン・ホロウィッツは近年クリプトカレンシーに積極的に投資を行っていることで知られる存在。 そのアンドリーセンは自らのブログでニューマンを「先見の明のあるリーダー」と称賛。3億5000万ドルの投資を発表しているのだった。
でも傍からはアダム・ニューマンという公私混同経営のエキスパートが、WeWorkと同じビジネス・コンセプトを賃貸住宅で再現しながら 再び私腹を肥やそうとしているようにしか見えないのがこの新ヴェンチャー。 現時点ではニューマンのカムバックを嫌う声と同じくらいに、彼に多額の投資をしたマーク・アンドリーセンを批判する意見が多いのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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