Feb . 27〜 Mar. 5 2023

DINKWAD, Seat Swap, Centimillionaire, Etc. "
DINKWAD ライフ, 機上マナー, センティミリオネア, Etc.


今週のアメリカで報道時間が割かれていたのは、先週のこのコーナーでも触れた サウス・キャロライナ州の有力弁護士、アレックス・マードーグによる妻と息子殺害裁判で 陪審員が下したスピード有罪判決、2月上旬にオハイオ州で起こった列車脱線事故で積まれていた有毒化学物質の処理問題、 積雪2メートルを記録したカリフォルニア州のスノーストームに加えて、ウクライナ情勢。
スポーツで話題を提供していたのは 2023年からメジャーリーグに導入される新ルールが、早速オープン戦で混乱をもたらしていた様子。 平均3時間以上という長過ぎる試合時間の短縮を図るために、MLBが今シーズンから導入したのがピッチ・タイマー。 投球の間隔を 通常は15秒、ランナーがベース上に居る際には20秒以内という規定で、打者入れ替わりの際には30秒以内に投球モーションに入るというルール。 バッターも8秒以内に構えなければならず、ペナルティは ピッチャーの違反ではオートマティック・ボール、バッターの違反ではオートマティク・ストライク。
加えて守備のシフト制限も 新ルールとして加わっており、ピッチャー投球の際には セカンドとショートがセカンドベースの両側に居なければならず、内野手4人全員の両足が 内野エリアに入っていなければならないとのこと。 これに違反した場合のペナルティはオートマティック・ボール。 また2023年からはホームベースを除く 3つのベースのサイズがこれまでの15インチ四方から、18インチ四方にサイズアップ。 これはクロスプレイの安全性を高めるための措置となっているのだった。
先週末に行われたアトランタ・ブレーブスVS.ボストン・レッドソックスのオープン戦では、早速新ルール導入の混乱が起こっており、9回裏6対6の同点、2アウト、フルカウントの場面で、 ブレーブスの打者が8秒以内に構えに入らなかったとして オートマティック・ストライクとなり 同点で試合が終了。しかしブレーブスの打者はピッチャー側のタイマー違反によるフォアボールだと思い込んで ファースト・ベースに向かって 走り出す始末で、やっている本人達でさえ何が起こったかが分からない 不完全燃焼の試合の幕切れに当然のことながら観客席で起こったのがブーイング。 MLB関係者は 開幕後もプレーヤーと観客が慣れるまでは 同様の混乱が起こると見込んでいるのだった。



理想のライフスタイルはDINK(S)から "DINKWAD"へ


アメリカでは女性のキャリア進出が盛んになった1980年半ばから言われるようになったライフスタイルが ”DINK”、すなわち”Double Income No Kids”。
日本では ”DINKS” として知られる この言葉が生まれた当初は、共働きで経済的に余裕があっても子供を作らない夫婦、もしくは妻が暫しの間キャリアを優先して子供を作らない時期を意味していたけれど、 今では一緒に暮らしているだけで婚姻関係関係の無いカップルにも使われる言葉。
そして今、DINKよりも理想のライフスタイルとして TikTokを始めとするソーシャル・メディアでもてはやされているのが "DINKWAD"。 これは ”Double Income No Kids With A Dog” の略。 すなわち子供の居ない共働きカップルが犬と楽しく暮らす生活。これを New American Dream Life として もてはやしているのは、もっぱらジェネレーションZや ミレニアル世代でも ジェンZ に近い ”Zillrenials / ジレニアルズ”。 この世代が 近年のアメリカで殆ど使われていなかった ”DINK” という言葉自体を知ったのは パンデミック以降。
現在アメリカで犬を飼っているのは4800万世帯。そのうちの2300万世帯は パンデミック中に初めて犬を飼い始めたとのことで、これは近年のアメリカで下降線を辿る 新生児出生率を上回る数。 2020年〜2021年に掛けては、パンデミックの影響で自宅勤務になったことを受けて 郊外に移住し、家を購入したミレニアル&ジレニアル世代のカップルは多かったけれど、 アメリカでは通常、郊外に移住して家を買うのは 子供が生まれて数年が経過し、都市部のアパートでは手狭になってきた段階。 パンデミックの影響で その順番が狂ってしまったカップルが 「ローンもあるし、子供はどうしようか…」と考える中で、 犬を飼い始め、カップルが共通の愛情の対象を持ったことで 「子供がいなくても、このまま犬と楽しく暮らす方が幸せ」とすっかり満足しているライフスタイルが "DINKWAD"。

そうなってしまう最大の理由は、子育てにお金が掛かり過ぎること。アメリカでは子供を18歳まで育てる平均的なコストは31万ドル。もちろんこれには大学の学費やチャイルド・ケアの費用、 スポーツやサマー・キャンプといった成長期のレクリエーション費用は一切含まれていないので、ミドルクラス以上の子育てに掛かる資金は80〜100万ドル。 住宅ローンに加えて 育児費用を支払っていく重圧を考えると、犬を飼って家族愛が満たされる "DINKWAD"は、経済的、時間的、体力的なゆとりを約束するだけでなく、 育児に伴う責任やプレッシャーも無く、何の犠牲も払わずに生きられるライフスタイル。 長期旅行に出掛ける際にも 犬であれば 子供とは違って、家族、友人、ドッグホテルなど 預かってくれるところがいくらでもあるというのも DINKWADの魅力。
ストレートのカップルよりも 子供を持つか否かの選択が遥かにセンシティブなゲイ・カップルにとっても、 DINKWADは養子縁組の必要も無く、卵子、精子、サロゲート・マザーを探す必要も無い、シンプルかつ合理的、そしてストレス・フリーで、 理想のライフスタイルになっているのだった。
中には 「犬を子供の代わりに考えるなんて…」と、DINKWADに否定的な声もあるようだけれど、少なくともアメリカでは子供と犬の双方を持つ夫婦が離婚する際に、子供の親権よりも揉める傾向にあるのが犬の親権。 それほど別れる夫婦が共に譲らないのが犬の親権で、子供であれば ティーンエイジャーにもなれば ヴィジテーション・ライトで認められた頻度で会うだけで十分と考える親は多いもの。 しかし犬については、「毎日家に居て欲しい、居ないと寂しくて仕方がない」というのがその言い分で、大金を投じた親権争いが繰り広げられることは決して珍しくないのだった。 そうかと思えば 昨年夏に死去したイヴァナ・トランプ夫人のように、愛犬に多額の遺産を残すリッチ・ピープルも多いけれど、 犬であれば、学校での成績や虐めを心配したり、反抗期を迎えて親に酷い態度を取ったり、悪い友人に誘われてドラッグ中毒になることも無い訳で、 そう考える人々の頭の中では ”家族愛 ー 様々な犠牲やトラブル = DINKWAD” という計算式が成り立っているのだった。



TikTok上のヴァイラル・トピック、”機上マナー”


今週アメリカン航空が発表したのが、15歳以下の子供連れの乗客は 追加料金なしで隣に座れるように手配するという新たな座席ポリシー。 それまでのアメリカの航空会社は往復のフライトで家族と隣同士に座ろうとした場合、50ドルのシーティング・フィーが請求されるシステムで、 これについてはバイデン大統領が2月に行われた一般教書演説で、何かと理由を付けては 追加する料金を ”ジャンク・フィー”と呼んで、痛烈に批判をしていたのは記憶に新しいところ。
そんな政府の圧力もあり、今後は複数の航空会社がアメリカン航空を追随することが見込まれるけれど、 これまで 座席フィーを節約したい人々が機内で行っては物議を醸してきたのがシート・スワップ。 すなわち見ず知らずの乗客にいきなり座席を替わって欲しいと頼むこと。 その中には 単に頼む側の理不尽な我がままとしか思えないリクエストも多く、そんな苦情がポストされる度に300万、400万というビューワーを獲得するほどのヴァイラル・ビデオになっていたのがTikTok。
メインストリート・メディアでも取り沙汰された有名なエピソードには、 家族で纏まって座りたいという理由でファースト・クラスの座席を譲って ダウングレードの座席に移るように頼まれた女性がそれを断ったところ 罵声を浴びせられたというストーリー、 友人と隣同士で座りたいという理由で、やはりダウングレードの座席に動くように 2人の乗客からプレッシャーを掛けられた女性のストーリー、 エクストラフィーを支払って窓際の座席を確保した女性が 「息子と一緒に座りたいから席を替わって欲しい」と母親に言われたものの、その息子は幼い子供ではなく、 身長180cmの16歳以上と思しき青年。しかも移動先は数列後ろのミドル・シートだったので 断ったところ、母親がフライトの最中、顔を近づけて来ては嫌味を囁き続けたというストーリー等があり、 これらの例からも分かる通り シート・スワップを頼まれるのは、往々にして 簡単に折れてくれそうな女性客。 そして頼む側の都合で、相手に座席のダウングレードを強要するケースが非常に多いのだった。

TikTok上のビューワーのリアクションは殆どが、「座席を替わる必要はない」、「シーティング・フィーをケチる方が悪い」というものであるけれど、 一部には「旅行の際に家族が一緒に座れるように配慮するのは人間としての思いやり」といった家族連れに対する一方的な擁護もあり、 それに対して 更に反発のリアクションが起こることから、TikTok上では シート・スワップを含む ”機上でのエチケット” はヴァイラル・トピックになって久しい状況。
小さな子供が絡む場合は 座席を交換してもらえるケースは多いようだけれど、それに対しても「小さな子供が居れば、何でもまかり通ると思っている図々しい親が多過ぎる」という 意見が聞かれる一方で、「せっかくファースト・クラスに座ったのに、通路の向かい側の席で赤ん坊が泣き続けて最悪のフライトだった」という苦情が発端となって、 「幼い子供連れはファーストクラスに座るべきでない」、「子供は何歳以上からファースト・クラスに座らせて問題が無いか?」といった議論が展開されるなど、 どんどん広範囲に及んでいるのが ”機上でのエチケット” 論争。
他に機内エチケットで問題になっているのは、通路側の乗客の腕に荷物をぶつけながら通路を歩く行為、隣の乗客に寄りかかって寝込むこと、隣の乗客のスペースに荷物を広げたり、足や腕を張り出すこと、 エコノミー・クラスでシートを倒すこと(アメリカの国内線は機内が狭いので、例え断りを入れてもNG)、座席の上のコンパートメントを独占するほど手荷物を持ち込むこと等で、 シート・スワップに関しては、機内で乗客が勝手に座席を替わって貰おうとすること自体がマナー違反というのが大方の認識になっているのだった。



世界にたった2万5490人、センティミリオネア(億万ドル長者)のプロフィール


米国には現在 約2200万人のミリオネアが存在しており、これは成人11.4人に1人の割合。 ミリオネアのうち女性の割合は33%、人種別では白人が76%でダントツ。 白人は米国総人口の60%であることを考慮すると、いかに富が白人層に偏っているかが見て取れるのだった。
要するにアメリカ社会ではさほど珍しくないのがミリオネアであるけれど、それがセンティミリオネア(億万ドル長者)となると話は別。 センティミリオネアは、全世界にたった2万5490人で、そのうちの2668人が10億ドル長者であるビリオネア。
世界のセンティミリオネアの38%に当たる 9730人を生み出しているのがアメリカで、2位は中国 (2021人)、3位はインド(1132人)、4位はイギリス、僅少差の5位がドイツ というのが国別のトップ5。 今後センティミリオネアが増えると見込まれるのはインドを含むアジアで、 アジアのセンティミリオネアの増加率は現時点で約57%、今後 10年間で欧米の2倍になることが見込まれるのだった。 中でも向こう10年間で最もセンティミリオネアが増えると予測されるのはベトナム、次いでインド、3位はモーリシャス共和国。

とは言ってもセンティミリオネアは多国籍所有者が殆どで、その多国籍生活も資産管理戦略の一環。 彼らの資産、及び財務は 専属のスペシャリストによって管理されているケースが殆どで、 その有り余る資本を 個人の信念や世界観を実現するために インパクト投資をする傾向が顕著。それによって慈善活動と収益追求の双方を行う形になっているのだった。
センティミリオネアの趣味はと言えば、トップ10のうちの7つがアウトドア・アクティビティ。彼らの多くが 環境コンシャスで、サステイナビリティの追求をサポートするのは、恐らくそんなアウトドア愛好ぶりを反映したもの。
お金の使い道は もっぱら旅行、アートや高級品の購入で、100万ドルのパテック・フィリップの時計や、1000万ドルを超えるアート、ヴィンテージ・フェラーリなど、 投資を兼ねたコレクターズ・アイテムを購入する傾向にあり、やがてはそれらが更なる富を生み出す仕組み。

センティミリオネアが最も多いアメリカで、最も多くのセンティミリオネアを生み出している大学はハーバード大学、 2位はMITことマサチューセッツ工科大学、3位はスタンフォード大学、4位はペンシルヴァニア大学、5位はコロンビア大学。 それぞれに年間授業料は5万3000ドル〜5万8000ドルであるけれど、これらの大学に進学するには そもそも親の代が少なくとも中流以上。 一代でセルフメイドのセンティミリオネアになったマーク・ザッカーバーグを始めとするシリコンヴァレーのセンティミリオネアも ことごとく中流家庭の生まれ。 今週世界一の富豪に返り咲いたイーロン・マスクは、南アメリカのアパルトへイト・マネーで潤っていた家庭の出身であることを思うと、 センティミリオネア以上の資産家になるには、ある程度生まれた段階での地盤が必要のようなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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