Apr. 10 〜 Apr. 16 2023

Boom, Out of Business, Scam, Etc. "
合法マリファナとタッパーウェアの明暗、引っ越し詐欺, ETC.


今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、中絶ピルを巡る裁判のニュース。 現在アメリカでは人工中絶の50%以上が手術ではなく、薬で行われており、昨年最高裁が人工中絶の合憲を覆し、 中絶に関する取り決めが州政府に委ねられて以来、論議の対象になっていたのが郵送での取り寄せが可能な中絶ピルに対する規制。
そんな中、テキサス州で人工中絶反対派によって起こされたのが、2000年から人工中絶に用いられてきたミフェプリストンに対して 「FDA(食品医薬品局)が十分な安全調査をしないままに認可をした」として、その使用と流通の停止を求める訴訟。 しかしミフェプリストンは100万人の投与に対して死者数は僅か5人。死亡リスクはヴァイアグラやタイレノールよりも遥かに低い0.005%で、極めて安全な薬。 要するにこの訴訟は科学的根拠無しに、宗教的な理由で中絶に反対する勢力が起こしたものであるけれど、 その裁判の判事が トランプ前大統領が任命した 超右寄り保守派であったことから、正当な理論が入り込む余地も無しに先週末に言い渡されたのが 原告勝訴の判決。 しかしこれが判例として残れば、製薬会社の多額の資金を投じた研究や、多くの患者の命綱になっている薬品が 医療とは無縁どころか、その知識さえない宗教上の判断で取り締まりの対象になってしまうとあって、週明けには400の製薬会社がこの判決に対する抗議書を提出するという 異例事態が発生。
それとほぼ時を同じくしてワシントンで起こされた別の訴訟では、判事が中絶ピル禁止を覆す判断をしており、 全米の中絶クリニックがその判断に苦しむ中、 金曜には最高裁が一時的としながらも、全米で中絶ピルの流通と使用を認める判断を発表。 しかしこれは あくまで混乱を避けるための措置で、女性達が最も安全な中絶手段を失う可能性は否定できないのだった。



米国でチョコレートより遥かに売れている!? 合法マリファナ


2022年の時点で、全米50州のうちの37州で合法化されていたのが医療用のマリファナで、21州で合法化されていたのがレクリエーショナル・マリファナ。 その2022年の合法マリファナの売上は300億ドルで、これはアメリカのEシガレットを含むタバコ製品の年間総売上、527億ドルの 57%に当たる数字。 それと同時にアメリカの年間のチョコレート総売上 200億ドルと、クラフト・ビール総売上 79億ドル を足した金額を上回る額。 さらには 2022年のアメリカの痛み止め薬総売り上げ 228億ドル、痛み止め用塗り薬総売り上げ 28億ドルの合計額も上回る数字。 合法マリファナの売上には 医療用とレクリエーション双方のニーズが含まれているとは言え、確実かつ急速に市場を拡大する様子が窺えるのだった。
アメリカでマリファナが最初に合法になったのは 今から10年前の2013年。コロラド州、ワシントン州が全米に先駆けて医療用の合法化に踏み切り、 その後、レクリエーショナル・マリファナの合法化に一早く踏み切ったコロラド州では、当時マリファナが堂々と喫煙できるスポットを巡る マリファナ観光が人気を博していたのは記憶に新しいところ。
僅か10年で300億ドル市場になった合法マリファナは、2023年には330億ドル、2028年までには570億ドルに成長する見込みで、 そこまで確実に売り上げが伸びると見込まれる理由の1つは、未だマリファナが違法の州が今後どんどん合法化に動くため。
しかしアメリカではマリファナが違法だった時代でも 「大学生になれば誰もが一度は吸っている」と言われるほど 一般に普及していたとあって、 マリファナが合法の州でも、違法の州でも 引き続き売られているのが違法に流通するマリファナ。 2021年の段階では、違法・合法を含めたマリファナ市場全体の75%を占めていたのが違法マリファナ。 事実、2022年末から合法マリファナの店頭販売がスタートしたNYのマンハッタンでは、ライセンスを取得して合法販売ができるストアは僅か3店舗。 にも関わらず、マリファナ喫煙グッズを販売するショップで 合法を装って違法マリファナを販売するケースは多く、 それを全く疑うことなく購入する市民は非常に多いのが実情。
現時点で、レクリエーショナル、医療を問わず合法マリファナ市場で売り上げを伸ばしているのは、マリファナ飲料やオイル・タイプのティンクチャ―。 逆に喫煙プロダクトの売上は下降線を辿っているとのこと。 食べるマリファナの一番人気は グミで、その売り上げは毎月1億ドル以上。人気のフレーバーはベリー。
向かうところ敵無しに見えるマリファナ業界であるものの、インフレによるコスト高はやはり不安材料の1つ。 歴史的に不況時や自然災害からの復旧時など、人々が現実逃避を求める時には 食費を削ってまで購入に及ぶ傾向が強いのがマリファナを含むドラッグ全般。 そのため、気象変動による自然災害の規模が拡大し、リセッションが危惧される現在は、 マリファナ・ビジネスには有利と判断されがちであるけれど、 そのニーズが 税金が掛からず、安価な違法マリファナに奪われてしまうことが危惧されているのだった。



タッパーウェアの終焉


Tupperware/タッパーウェアと言えば、1946年にアメリカで誕生し、一時はフード・コンテナの代名詞になった企業。
そのCEO ミゲル・フェルナンデスが先週発表したのが、 「資金サポートを模索して各方面に働きかけを行っているものの、このままでは経営続行が極めて難しい」と倒産をほのめかす声明。 それを受けてタッパーウェア株は週明けに50%下落し、前年比で98%ダウン。ソーシャル・メディア上では、早くもタッパーウェアの倒産を惜しむコメントが 見られていたのだった。
タッパーウェアはホームパーティーを開く販売手法をスタートした先駆者的存在であり、1940〜1970年代に掛けて、社会進出が難しかった女性達が、 近隣や学校絡みの交友ネットワークを利用して商品を販売することにより 収入が得られることから、グラスルーツ的に販売ネットワークが急拡大。 当時の冷蔵庫が徐々に一家一台になり、やがて電子レンジが普及する時代背景を追い風に 大きく売り上げを伸ばし、 長きに渡って市場を独占することになるのだった。
しかしながら、つい最近発表された2022年の売上は前年比で18%下落。加えて株主が2020年度の財務報告に重大な虚偽が認められたとして、 集団訴訟を起こしており、会社の内情は火の車どころではない状況。
近年のビジネス不振の最大の要因と言われるのは、”タッパーウェア”と言われても それが何だか分からないジェネレーションZ世代が多いことが象徴する通り、 ブランドのモダニゼーションやマーケティング努力を怠り、ライバル企業にマーケット・シェアをどんどん奪われてしまったこと。 そのためタッパーウェアは2022年には大衆的量販店のターゲットとのコラボで、ヴィヴィッドなカラーの新ラインを手掛ける一方で、 アマゾンでも販売を開始。遅すぎた巻き返しを図っていた真最中なのだった。 しかし食べ物をタッパーウェアに入れてきちんと保存するような消費者層は、今ではもっと環境コンシャスで 人体にも無害な、よりサステイナブルなフード・コンテナを求める傾向が強く、 そんなターゲットを見極めない商品開発も業績を悪化させてきた要因。
低金利時代は 業績が悪くても 借金さえすれば回って行くビジネスは多かったけれど、「利益が上がらない企業は潰れるのを待つだけ」と言われるのが高金利の貸し渋り時代。 今後もタッパーウェア同様に、名前が知れた長寿ビジネスが業績不振で倒産、閉鎖に追い込まれるケースが増えていくと見込まれるのだった。



フロリダで横行する引っ越し詐欺の恐怖


今週サウス・フロリダを襲ったのが僅か数時間に60cm以上の雨量を記録するレイン・ストーム。 現地の空港では1日に1200便がキャンセルされ、大人の膝の高さまで水に埋まる洪水で、緊急事態が宣言されていたけれど、 フロリダは本来 ”サンシャイン・ステート”というニックネーム通り、温暖な気候がウリで、税制も緩いとあって 長年リタイア層のデスティネーションになってきた州。
パンデミック以降は、自宅勤務になった人々の移住が最も多かったのがフロリダ、テキサス、ノース・キャロライナの3州。 中でもフロリダは、マイアミを新たな拠点にするIT、金融企業が増えたこともあり、 パンデミックが一段落した2022年の1年間だけでも32万人が州外から移住したことがレポートされているのだった。
そしてそんな州外からの移住組をターゲットに横行したのが ”Moving Scam”、すなわち引っ越し詐欺。 これまでにも全米で年間に1300件を超えるペースで起こってきた引っ越し詐欺であるけれど、パンデミック以降は フロリダ州への移住者をターゲットにした犯罪が激増。 その手口は安い見積りを出して、荷物を運び出してから、次々と追加料金を加算し、全額を支払うまでは 荷物を”人質”代わりにして脅しをかけるもの。 引っ越し全てを請け負ったように見せかけて料金を請求しておきながら、後からその料金が荷物の運び出しの代金で、輸送や新居への運び込み、及び運び込む前のストアレージが別料金になっているのは常套手段の一つ。 中には荷物を積み込んだトラックごと消えて盗まれてしまうケースもあり、その後は電話も通じなければ、ウェブサイトもフェイクで被害者が途方に暮れるケースも珍しくないのだった。
フロリダで特に引っ越し詐欺が多い理由の1つは、僅か125ドルで会社登録が出来、運輸局からのライセンス取得にも600ドルしか掛からないため。 そのため新しい詐欺を行う度に、偽名を使った新たな会社登録をしても十分に元が取れる計算。 加えて被害者がどんなに抗議をしても なかなか行政が動かないのも大きな問題点で、昨年には 州警察が19の引っ越し業者を摘発し、2700万ドルの罰金と、盗品の回収を行ったとは言え、それはまだ氷山の一角。
その状況に業を煮やした連邦警察も徐々に動き始めているけれど、 現在進んでいるのがフロリダに限らず 引っ越し詐欺にあった被害者達が、纏まって集団訴訟や行政への働き掛けを行うムーブメント。
アメリカは合衆国という名前が意味する通り、50の独立した州政府が1つになった国。 それだけに一度州をまたぐと、警察から司法まで権限が及ばない状況になることから、 州をまたいだ引っ越しは どうしても格好の詐欺ターゲットになってしまうのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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