
Jan. Week 5, 2019
”Gold Bullion Jewelry"
”ゴールド・ブリオン・ジュエリー"

アメリカ社会は真二つに割れていると指摘されて久しいけれど、それは経済の先行きの見通しについても同様。
これから大きなリセッション、ディプレッションがやって来ると危惧する人々が居る一方で、それらと真っ向から対決しているのは
「政府や連銀がそれを回避するはずだから、そんなことは起こらない」という人々。
そうした人々にとっては2018年の10月以降のFANGストック(フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグルの株式)下落後の今が
これらの株式の買い時。
メインストリーム・メディアにしても政府のシャットダウンの直後から煽っていたのが、「これからまた株価が上がる」という説。
メディアだけでなく、ウォーレン・バフェットやJ.P.モーガンチェイスのCEO、ジェイミー・ダイモンも
「リセッションなど暫く起こらない」とコメントしていて、IMFが2018年末に行った景気予測の警告と対立しているのだった。
その割にはJ.P.モーガンチェイスが 経済危機を危惧する人々と同様に過去何年にも渡って買い漁って来たのがゴールドやシルバー。
同様のゴールド買いはこれまで中国、ロシア、インドが特に積極的に行っていることで知られていたけれど、
ここ2年程はそれまでゴールドをあまり買ってこなかった国の中央銀行までもが大量買いを始めている状況。
ではどうしてその割にゴールド価格が急騰しないかと言えば、中央銀行や大手銀行のような大口の取引は
市場価格に影響を与えないOTC(オーバー・ザ・カウンター)で行われていることが1つ。
もう1つはゴールドの価格が動くということは歴史的に経済危機が起こりつつあるシグナルであることから、
意図的に市場価格が低く抑えられているというのがゴールドに投資をする人々の説なのだった。

経済危機を懸念する人々がゴールドを購入する理由は、株式やボンド等のフィアット・カレンシー(ドル、円等の通貨)ベースの
財産価値が 激減する際に 歴史的に価格が跳ね上がってきたのがゴールドであるため。
更にヴェネズエラに代表されるような通貨破綻が世界中に広がって、IMFが世界共通通貨を打ち出す事態になれば
自分の財産を破綻した自国の通貨で持っているよりも、既に世界共通価格で取引されているゴールドで持ち続けた方が
遥かに財産価値が保てると考えるため。
もちろんこうした人々は経済危機に際して見込まれるハイパー・インフレよりもさらに先の事態を見越しているのだった。
とは言っても一般のアメリカ人は、恐らく世界の経済大国の中で最もゴールドに投資をしない国民。そうなってしまうのは
株式信仰が強いからだけでなく、アメリカでは大恐慌時代の1933年、ルーズヴェルト大統領政権下でゴールド没収が行われた歴史があるため。
これが行われたのは未だ金本位制度の時代、すなわちゴールドの後ろ盾がない限りは政府が通貨を発行できなかった時代で、
政府が安いレートで国民のゴールドを買い取り、国民に対してゴールドの所有を禁じたのが当時の法律。
以来、アメリカでは1975年まで国民がゴールド・コインや延べ棒などを所有することが法律で禁じられており、
アメリカ人が「自由の国、アメリカなんて嘘っぱちだ!」と自国を批判する際に頻繁に持ち出してくるのが
1975年までアメリカ人にはゴールドを所有する自由さえも無かったという事実。
その一足先の1971年に”ニクソンショック” という名目で終わりを告げたのがアメリカの金本位制度で、
以来、ドルは何の後ろ盾も無く世界の準備通貨と貿易通貨の役割を果たしてきたのは周知のとおり。
ゴールドの政府による没収・押収はアメリカに限ったことだけでなく1935年のムッソリーニ政権下のイタリア、1939年のナチス・ドイツに侵略されたチェコ、
1959年のオーストラリア、そして最も近年に行われたのは1966年のイギリス政府によるものがあるけれど、
アメリカ政府によるゴールド没収の際に対象外となったのがゴールド・ジュエリーと
コレクティブル・コイン。後者は1800年代に発行されたような古いコインで、自分がコインのコレクターであることを証明する必要があったと言われるけれど、
文句無しに没収の対象外となったのがゴールド・ジュエリー。そのため
当時を知る親に育てられたアメリカ人は
”ブリオン・ジュエリー” すなわち地金ジュエリーを重要な投資のカテゴリーと見なす傾向が強いのだった。
加えて同じ頃のアメリカには ヨーロッパから主にユダヤ人がナチスドイツによる迫害を避けるために体一つでアメリカに渡ってきた歴史があるけれど、
その世代が語るのが身に着けていたゴールド・ジュエリーで難を逃れたというストーリー。
さらにニューヨークのダイヤモンド・ディストリクトのユダヤ人の中には1983年にイスラエルで起こった400%のハイパー・インフレを
自ら、もしくは家族が体験した人が多いけれど、そうした状況でのゴールドの底力を実感すると、
ゴールドに投資するだけでなく、必ずゴールド・ジュエリーを身に着けたり、ゴールド・コインを持ち歩くようになるようなのだった、

さてゴールドを投資対象と考える、考えないは別として、ブリオン・ジュエリーを購入する場合に大切なことの1つは
それを何処から購入するか。ゴールドの取引業者が扱っているジュエリーの場合、
ゴールド没収の際に政府に提出を義務付けられる取引リストに記録が残ることから、
たとえジュエリーでも没収されるリスクが唯一あるのがこのケース。
また一般的にお金がある人ほどゴールド・ジュエリーを購入しようとするのが一流宝飾店。
その独特のデザインやファッション性をステータス・シンボルとして見せびらかしたいという心理も
人々をジュエリーの購入に走らせる重要な要因。
でも一流宝飾店のジュエリーほど 実際には値段と価値が見合わない買い物を強いられているのが実情。
例えば上はカルティエの代表的なパンテールとラヴのブレスレットであるけれど、ゴールドの重さで同等のブリオン・ジュエリーと比較すると
お値段は7倍近く。このパンテールのブレスレットにはガーネットとオニキスが用いられているけれど、
これらの財産価値は二束三文。売りに出した場合、たとえこれらが入っていなくても価格は同じになるのだった。
ブリオン・ジュエリーとほぼ同等の価格のラヴ・ブレスレットの場合、使用されているゴールドの量は3分の1。すなわち財産価値も3分の1。
もちろんブリオン・ジュエリーを生産する側も このお値段で利益を上げていることを考慮すると、
如何に一流宝飾店のマークアップ(利益率)が大きいかが窺えるのだった。
事実、一流宝飾店でジュエリーを購入しようとした場合、それが高額であればあるほど30%程度を値切るのはさほど難しくないこと。
店側は売上をが必要であるし、そんな高額品が頻繁に売れる訳ではないことを熟知しているので、
グラフでもカルティエでも、購買力を見せて 買い渋れば店の一存で30%を引いてくれるのはごくごく当たり前のこと。見方を変えればそれでも利益が上がるということ。
「貧乏人ほど律儀に払う」というのはどの世界でも共通で、ジュエリー業界においては ティファニーのシルバー・ジュエリー・セクションで買い物をする人々は
ラスヴェガスのカジノで200ドル摩ったら大人しく帰っていく一般大衆同様、最も売り上げに貢献しているのに
全く優遇されない存在として扱われているのだった。
とは言っても高級宝飾店よりもさらに損をさせられるのは、一流ファッション・ブランドのジュエリー。
例えば写真下のグッチの18Kゴールドのブレスレットは、課税前で1720ドル、税込みで約1800ドル。
重さにして8グラムと記載されていたので、今日現在の価格で18Kゴールドの1グラムが29.54ドルであることを考えると、
このブレスレットの価値は約236ドル。
もしこれがブランド物ではないブリオン・ジュエリーの場合、同じ分量のゴールドを使ったブレスレットの価格はデザインにもよるけれど
税込みで600ドル前後。
すなわちノンブランドのブリオン・ジュエリーの3倍を支払っている割には、売却しようとした際には一流宝飾ブランド品ほどのプレステージが
再販価格に反映されないので、余分に支払った分は虚栄心を満たす役割を果たしても財産にはならないのだった。


さて私が先日マンハッタンのダイヤモンド・ディストリクトの業者に作ってもらったのが、写真上中央のチェーン。
ふと気付くと以前持っていたグッチのバッグのチェーンと同じデザインで、実際にジュエリー業界では ”グッチ・チェーン” というのがその通称。
でもグッチのコピー・デザインではなく オリジナルはマリン・チェーンと呼ばれるもので、このデザインを頻繁に用いてきたのがグッチ。
友達にも「グッチのチェーンかと思った」と言われたので、グッチの価格を支払わずに グッチのデザインやファッション性が手に入った気分だったけれど、
その意味ではブランドというのは本当の価値から関心を逸らしたり、付加価値と称するプレステージを与えるためのパッケージ。
見栄を張ってエゴを満たす余裕があるビリオネアや、一般人でもそれが出来る明るい経済の見通しの時代には
それにお金を払っても構わないと思うけれど、私には今がそんな時代とはとても思えないのだった。
私の考えでは今の時代に 本当に必要な物以外にお金を払うのなら 健康状態や 自分の外観、気分を向上させるもの、もしくは払った価値を持続する、
または価値が更にアップするものに投資と思って支払うべきで、その意味で今週に入って1オンス1300ドル台まで価格が上昇してきた
ゴールドは、決して無駄にならない出費の1つ。不健康な食事や見栄を張るためのアクティビティ等、刹那的な快楽を追求する出費は後に後悔するだけ。
1912年に銀行家、J.P.モーガンが下院で証言した際の有名なフレーズに“Gold Is Money, Everything Else Is Credit /
ゴールドはお金、それ以外は全て債権” という言葉があるけれど、実際に現代人がお金だと信じているフィアット・カレンシーは債権。
なのでそれを実感する前に本当のお金を増やしておくことは、先が見えない時代の自衛策と言えるのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |



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