Oct. Week 2, 2015
” The Walk Imax 3D ”
ザ・ウォーク Imax 3D
昨今は、週末になるとDVD録画したTVドラマのキャッチアップに忙しくて、なかなか映画を観に行こうという気になれないけれど、
ニューヨーク・ポスト紙の記事を読んで私が興味を持ったのが「ザ・ウォーク Imax 3D」。
ニューヨーク・ポスト紙の記事は映画のレビューではなくて、「ザ・ウォーク Imax 3D」を観た人々が、
そのあまりにリアリスティックな映像に、軽い乗り物酔いの症状を覚えているという報道で、
その記事では、映画を観た後、気分が悪くなって吐いてしまった男性のエピソードなども紹介されていたのだった。
そんな記事を読むと、興味をそそられてしまうのが人間というものであるけれど、
私がこの作品に興味をそそられたもう1つの理由が、
実話に基づく同作品の、実際のエピソードを描いたドキュメンタリー映画、「Man on Wire / マン・オン・ワイヤー」を
以前 観ていたためなのだった。
「ザ・ウォーク」及び、「マン・オン・ワイヤー」が描いているのは、フランス人 ワイヤー・ウォーカー、
Philippe Petit / フィリップ・プティが 1974年に行ったスタントを描いたもので、
それは当時まだノース・タワーが工事中だったワールド・トレード・センターのツイン・タワーの間にワイヤーを張って、
セイフティ・ネットや、セイフティ・ワイヤー無しで その上を歩くというもの。
私は、高層ビルの外壁を登ったり、ナイアガラの滝の上に張ったワイヤーの上を歩いたりという、
昨今行われているデアデビル系のスタントにはまったく興味を示さないけれど、2008年に公開されたこのドキュメンタリーを見た時は、
ポスト9・11のニューヨークに住んでいるというエモーションも重なって、物凄く心に染み入るものを感じたのを覚えているのだった。
「マン・オン・ワイヤー」は公開翌年、2009年のオスカーで、長編ドキュメンタリー部門を受賞しており、
批評家の間では、「ザ・ウォーク」を超える最高得点のレビューを獲得しているドキュメンタリー作品なのだった。
フランス人ワイヤー・ウォーカーのフィリップ・プティは、歯医者の待合室で 「エッフェル塔よりも100メートル以上高い、
412メートルという高さのツインタワーがニューヨークで現在建設中」という雑誌の記事を見て、
その時からツインタワーの間に張ったワイヤーの上を歩くことを夢見てきた人物。
その彼の夢が 突飛なアイデアであるだけでなく、違法行為だと知りながら、彼に手助けしたガールフレンドや、
友人達のエピソード、彼の周到な準備と計画、そして様々な問題や不都合を乗り越えて、実際にそれを成し遂げた彼のパフォーマンスと
それを見届けた友人達のエモーションが リアルに描かれているのが「ザ・ウォーク」及び、「マン・オン・ワイヤー」なのだった。
私は、個人的にどちらの映画に軍配を上げたら良いか分からないけれど、ドキュメンタリーの「マン・オン・ワイヤー」は、
分割画面で 当時建設中だったワールド・トレード・センターの建設現場の映像と、
フィリップ・プティと彼のチームが準備に取り掛かる姿が 1画面で同時に描かれていて、
フィリップ・プティがワールド・トレード・センターに命を吹き込むパフォーマンスを行った運命を担っていたことを感じさせる演出になっていたけれど、
同映画では 実際のフィリップ・プティのパフォーマンスが 写真でしか捉えられていなかったのが残念な部分。
それに対して「ザ・ウォーク」は、フィリップ・プティがツインタワーの間に張ったワイヤーの上で
行ったパフォーマンスの全容を忠実に再現して、彼のパフォーマンスをその場で見守っているかのようなスリルに加えて、
風の強さや、体重が掛かって きしむワイヤーの揺れ具合に至るまでを、忠実に具現化しているという点で、非常に優れた仕上がりになっているのだった。
「ザ・ウォーク」の監督を務めたのは、ロバート・ゼメキスで、彼が製作段階で最も力を注いだのが、フィリップ・プティが
パフォーマンス中に観たこと、感じたこと を忠実に映像に表現すること。
それだけに、彼がツインタワーの屋上でバランスを取るシーンや、ワイヤーの上から412メートル下の地面に視線を向けたシーンは、
特に3Dで観ると 目がくらむような高さが伝わってきて、乗り物酔いまでは行かなくても、何となく身体の芯が むず痒くなるような 不思議な感触が走る臨場感。
それと同時に、ワイヤーの上からフィリップ・プティが観たニューヨークの街の美しさや、夢の達成を実感しながらパフォーマンスをする彼の爽快感も
非常にリアルに伝わって来るので、同作品の醍醐味は このパフォーマンス・シーンに集約されていると思うのだった。
「ザ・ウォーク」でフィリップ・プティを演じているのは、アメリカ人俳優のジョセフ・ゴードン=レヴィット。 彼のフランス語訛りのフェイク・アクセントの方が、
ドキュメンタリーで フィリップ・プティ本人が話す英語よりも 遥かに聞き易かったけれど、
顔や雰囲気はさほど似ていなくても、自分の夢の達成のために全てを捧げるフィリップ・プティを見事に演じていたのが彼。
なので ドキュメンタリーを先に見て、プティ本人のイメージを持っている人が観ても、
違和感なくストーリーに入っていけるのだった。
ところで、監督のロバート・ゼメキス(写真上左)の代表作であり、彼の名前を映画界に永遠に刻んだ作品と言えば、
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(写真上右)。
私にとって好きな映画のトップ10に入るのが同作品で、娯楽映画では右に出る作品がほぼ皆無とさえ考えているけれど、
それは多くのアメリカ人にとっても同様。
その「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は来週10月15日で 公開30周年を迎えるため、今週からアメリカ国内では、
一部の映画館が劇場放映を行っている他、10月15日、16日の2日間は、ラジオ・シティ・ミュージックホールで、
大スクリーンでの映画を映しながら、生のオーケストラ演奏をフィーチャーするコンサートが行われることになっているのだった。
それ以外にも、古くは「ロジャー・ラビット」、「フォレスト・ガンプ」、「キャスト・アウェイ」、比較的最近では「フライト」等、多くのヒット作品を手がけてきた
ロバート・ゼメキスであるけれど、「ザ・ウォーク」は私の意見では過去20年の彼の作品の中ではベスト。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は超えられないけれど、いろいろな意味で同作品を超えられる映画が 映画史上に如何に少ないかを考えたら、
それは仕方が無いと思うのだった。
執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。