June Week 1, 2020
”This Is What We Need Now"
抗議活動が全米で炸裂する今のアメリカに必要なもの


コロナウィルスのロックダウン解除のファースト・フェイズをようやく来週月曜に控えたニューヨーク市。 でも先週末のキャッチ・オブ・ザ・ウィークにも書いたように 今やコロナウィルスの問題よりも遥かに大きく、深刻になってきたのが警察によるアフリカ系アメリカ人に対する過剰暴力への抗議活動。
抗議活動は全米の140の街に広がり、日中は比較的平和なデモが行われているものの、 夜になると放火、略奪といった犯罪行為に発展する傾向にあることから、現在全米の40都市で発令されているのが夜間の外出禁止令。 ニューヨークでも今週月曜から 午後11時〜翌朝5時までが外出禁止になったけれど、 火曜日からはそれが午後8時からになっているのだった。
その一方でトランプ大統領は抗議活動への対応を各州に委ねながらもその対応が手ぬるいとして、 月曜には主要都市でアメリカ軍による抗議デモ抑圧に踏み切るとを発表。 武力による封じ込めを宣言しているのだった。




先週木曜から始まったニューヨーク市の抗議デモでの逮捕者は日曜までの4日間で786人。 その中にはデブラジオNY市長の娘も含まれていたけれど、 逮捕者の中に多かったのがアイオワ、メリーランド、マサチューセッツ、ミネソタ、ネヴァダ、テキサス、 ヴァージニア等、ニューヨーク以外の州からやって来た人々。 コロナウィルス問題で旅行者が激減する中、何故ネヴァダ州のような飛行機で5時間も掛かる州からの逮捕者が出るかと言えば、 彼らが何らかのオーガナイズ・グループに所属し、政治目的でデモに加っているため。 ニューヨークのテロ捜査部門ではこうした州外からの逮捕者達が抗議デモのヴァイオレンスを煽る役割を果たしていると指摘。 彼らが報酬を受け取っているかは不明としながらも、特定の無政府主義グループが NYでの抗議活動が始まる直前から インターネット上で逮捕された場合に支払う保釈金を集める活動をしていたと発表。
またオーガナイズ・グループの活動家達はパブリシティを得るためか、一流ブランド店や大手企業のストアを中心にダメージを与えるように指示されていたとのことで、 週明けのソーホーでは 写真上のようにシャネル、コーチ、バルマン、グッチ、ブルーミング・デールズといった有名店が被害を受けていた様子が伝えられるのだった。


それとは別にソーシャル・メディア上でデモ参加者が指摘していたのが、窓ガラス破壊や略奪が起こった複数のエリアに 何故かいつもレンガや石の積み上げが見られ、「それを使って攻撃しろ」と言わんばかりのセットアップがされている様子。 近くに建設現場がある訳でもないのに レンガや石が積み上げられている様子は複数の都市で目撃されており、 抗議活動に紛れたヴァイオレンスが何らかの組織によって計画的に仕組まれているという説が浮上しているのが現在。
一方、グラスルーツ・ムーブメントとして 警察や社会の改善を平和的に訴えようとする人々は、 それに便乗して略奪行為を目論む人々、フラストレーションのはけ口としてのヴァイオレンスを求める人々と一線を画すために、 破壊や略奪が呼び掛けられた施設やストアの前でバリケードをしたり、器物損壊行為をする参加者を取り押さえて警察に差し出すといった行動に出ているのだった。




抗議活動が拡大してからも、ルイジアナ州では警官が 身に着けたボディカメラをオフにしてデモに参加していた男性を射殺したり、 ソルトレイクシティでは狩猟用の弓矢をデモ参加者に放とうとした白人男性(写真上右)が周囲の人々に取り押さえられる事件が発生。 シアトルでは警官が幼い子供の目に向かって至近距離からペッパー・スプレーを吹きかけ、ケンタッキーのルイヴィルでは TVの取材クルーに向かって警察がペッパー・ボールを打ち込む有り様。 TVの取材クルーやレポーターの中にはゴム弾で撃たれて怪我を負ったケースもあり、 ジャーナリストの安全を無視した警察のアグレッシブさは各州の知事も問題視している状況。 中でも平和的なデモの様子をカメラに捉えていた高校生が、ゴム弾で顔を2発撃たれた様子(写真上右から2番目)は ソーシャル・メディアでヴィラルになり、キム・カダーシアンを含むセレブリティがその治療費の支払いを申し出ているのだった。
そうかと思えばハンプトンズとアッパー・イーストサイドでレストランを2軒経営するマルチミリオネアのソーシャライト(写真上左)が、 黒人女性に腹を立てて警察に「黒人女性に襲われた」と虚偽を通報する騒ぎも 起こっているけれど、ニューヨークでは同様の事件がセントラル・パークで起こったばかりなだけに、 人々の怒りが大炎上。 5月31日までレストラン・レビュー・サイト、Yelpに1件のレビューしか寄せられていなかった彼女のアッパー・イーストサイドのレストランには、 48時間も経たないうちに 「オーナーが人種差別主義者なので、このレストランに行くべきではない」といった内容の書き込みが 150件も寄せられる結果になっているのだった。




そんな中、ミシガン州フリントのジェネシー・カウンティで5月30日に起こったのが、シェリフのクリストファー・スワンソンが 数人の警官と共に ヘルメットを外し、武器を一切持たずに抗議デモ参加者に歩み寄った 上のビデオのシーン。 「We want to be with you all for real (我々は君らの活動に参加したい)」と切り出したシェリフは、27年間地元警察に勤務するヴェテランで現地ではちょっとしたセレブ。 「自分の後ろに控えている警官は皆フリント市民に愛情を持っている。これをデモでなくパレードにしよう!」 と呼び掛けて歓声を浴び、その後シェリフ・スワンソンを含む警官たちは参加者と 握手やハイファイブ(日本で言うハイタッチ)、ハグをしながら パレード。
これがその場限りの双方のジェスチャーで終わることは無く、以降、ジェネシー・カウンティでは抗議活動は引き続き起こっているのものの、 極めて平和的なもので、放火もなければ略奪も無し。逮捕者ゼロを続けているという。
この様子を収めたビデオはあっという間にヴァイラルになり、ソーシャル・メディア上に溢れたのが 「この美しい光景こそが今のアメリカに必要なもの」という声。 以来、徐々に他州でも警察が抗議活動者と一緒に 市民と警察の協調を呼びかけるプラカードをかざしたり、 今回の抗議活動のきっかけとなった被害者ジョージ・フロイドに対する黙祷に警官が加わるなど、 徐々に Solidarity ( ソリダリティ / 協調)が見られるようになってきたのは現時点の唯一の希望。
ニューヨークでも月曜にワシントン・スクエア・パークで行われた抗議デモで、NYPDのチーフ、テランス・モナハンが 集まった人々に「ミネソタで起こったことが正しいと思っている警官はここには1人も居ない」と呼びかけて、 抗議活動のオーガナイザーと共に跪いて 協調をアピールしていたのだった。
トランプ政権内でも、大統領が訴える武力による封じ込めよりも 「国を一つにする協調路線を打ち出すべき」という声が 高まり、大統領アドバイザーの意見が真二つに割れていることが伝えられるけれど、 抗議活動のスローガンで人々が求めるJustice (ジャスティス / 正当な裁き)だけでなく、 Unity (ユニティ / 団結)をもたらさなければ この国民感情に深く根差した問題は決して解決しないと思うのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。


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