買い手市場のNY高額不動産事情、億単位のディスカウントで
売れたセレブリティの物件と、売れ残るセレブリティの物件
Published on 9/14/2018
再開発に次ぐ再開発で 高額コンドミニアムの建設ラッシュが起こっていることから、高額不動産が買い手市場になって久しいニューヨーク。
それだけに、昨今では新築のコンドミニアムのアメニティが驚くほど充実していますが、
そのせいで苦戦を強いられているのが、数年前のピーク時に10億円以上の物件を投資目的で購入し、
それに利益を乗せて売却しようと試みるオーナーたち。
その状況はセレブリティとて同様で、ジャスティン・ティンバーレイク&ジェシカ・ビールのソーホーのペントハウスは
今年に入って2回値段を下げてようやく売却されたような有り様。
かつてならば、ソーホーのような一等地のペントハウスの価格を億円単位でディスカウントするなどあり得なかったことですが、
そうしなければ売れない、もしくは早く売れないのが現在の高額不動産市場。
高額不動産は維持費や税金が高いとあって、ディスカウントの見切りをつけるのが早ければ早いほど
ダメージが少ないとさえ言われています。
以下にご紹介するのは、そんな億単位のディスカウントで売れたセレブリティの物件と、売れ残るセレブリティの物件の例。
高額不動産を抱えるのも楽ではないという実情を垣間見せるものです。
17年の月日、改装、約2億円ディスカウントでも売れない
ラッセル・シモンズのファイナンシャル・ディストリクトのペントハウス
17年が経過しても売れないヒップホップ・モグル、ラッセル・シモンズのファイナンシャル・ディストリクト(以下FiDi)のペントハウスは、
不動産業界では、鬼門のように扱われている 何をやっても売れない物件。
インドアのスペースが667平方メートル、アウトドア・スペースが325平方メートルの
ペントハウスは2001年に ショーン・Pディディ・コーンが買い取る寸前まで行きましたが、
契約が成立する直前に起こったのが9.11のテロ。
当時のFiDiは、ワールドトレードセンターの復旧作業とそのアスベストが混ざった空気でとても住める状態ではなかったことから、
Pディディが手を引き、ラッセルも売却を2005年まで見送ることになり、その段階で市場に出した価格は約12億1000万円。
しかし、何年経っても全く買い手がつかないことから、一度売却を諦めて取り組んだのが
それまでのエスニック的なインテリアをもっと洗練されたシンプルな デコレーションにするためのリモデル。
そして、再び2012年に約12億1000万円で売りに出したものの やはり買い手がつかず、
不動産市場で言われる 「長く売りに出しておくと、買い手がつかない」というセオリーを実践してか、2013年にはまたしても売却を取り止め。
その後価格を10億円に下げて売りに出したものの、それもダメ。
遂には2016年に1カ月約320万円の家賃でレントを試みましたが、やはり誰も食いつかず、
未だに売れ残っているのがこの物件。
FiDiは 過去数年の間でマンハッタンで最も不動産価格がアップしたエリアで、それというのは通り1本を隔ててすぐ隣に隣接する
トライベッカの物件価格がソーホーと並んでマンハッタンで最も高額になってしまったたので、そのすぐ傍ということで上がってきたのがFiDiの不動産価格。
ですが、その中にあってもまだまだ高いのがこの高額物件です。
以下では、そんな売れ残るコンドミニアムのディテールと、その改装前をご紹介しています。
写真上は広々としたリヴィング&ダイニング、セカンド・リヴィングのセクション。螺旋階段の上がマスター・ベッドルームとテラスで、ペントハウス内には
ベッドルームが4つ、フルバスルームが4つ、ハーフ・バスルームが1つ。メイドが常駐できるスタッフルームも設けられています。
写真上は4つのベッドルームのうちの2つで、下がバルコニーに出られるマスター・ベッドルーム。もちろんマスター・バスルームと隣接していて、
この階上のフロアにも小さめのキッチンがあります。
写真上、上段は325平方メートルの広々としたテラス、その下がペントハウスから望めるビュー。
ファイナンシャル・ディストリクト側のビューは無機質ですが、ダウンタウンとリバーを臨むビューは素晴らしく、
これだけ広々としたアウトドア・スペースは近隣では珍しいといわれます。
写真上はリノベーション前のインテリアで、このままのインテリアでは 2000年以降のニューヨークで10億円以上の物件を売るのは不可能と言えるほど、
エスニック色が強いと同時に、インテリアの好き嫌いのせいでバイヤーを減らしかねないスタイル。
不動産業者が奨励する 「バイヤーにウケが良いインテリア」は、ホワイト、グレー、ベージュなどニュートラルで薄いカラーを基調にしたもので、
まさにその通りにリノベーションされたのがラッセル・シモンズのペントハウス。
では何が悪いのかと言えば、多くの人々が指摘するのが以下のキッチンです。
写真上は、何故かリノベーションされなかった キッチン。ペントハウス全体が ホワイト&グレーを基調にした洗練されたインテリアに生まれ変わっているだけに、
更に目立つのがこのキッチンの垢抜けない雰囲気。
キッチンがリノベートされなかったのは、おそらくキッチンはその使い勝手の好みや収納スペースのデザイン、アプライアンスのハイテク度など、
個人好みがはっきり分かれ、それが購入に至るか至らないかを決めるポイント。
したがって、購入者が自分でリノベートするべきと判断し、その分価格を下げる方が買う側に歓迎されると判断してのもの。
しかしながら、キッチン&バスルームは 購入者がこだわるだけに、他の新築のコンドミニアムが最も力を入れて 最新のアプライアンスで洗練されたデザインをするエリア。
それだけに、10億円を支払ってキッチンを 改装するのであれば、
最初から自分の好みのキッチンがインストールされた、最新の物件を買う方を選ぶのは当然のこと。
また近年では、同エリアの新築のコンドミニアム・ビルディングのアメニティがどんどん向上しているので、
それと張り合うのも極めて難しいのが実情です。
ジゼル・ブンチェン & トム・ブレイディ の フラットアイアンのコンドミニアム
ジゼル・ブンチェン & トム・ブレイディ夫妻が投資目的で、2013年に購入したのが マンハッタンの
マディソン・スクエア・パークを見下ろすマディソン・アベニューの最南端のハイライズ・ビルディング、”ワン・マディソン” 。
このビルの48階、307平方メートルの物件を当時 約15億5000万円で購入したのが2人ですが、
この時の2人はLAにも約11億円で購入した土地に、22億円を投じた豪邸(写真下)を建築し終えたばかり。
ところが、この豪邸は直ぐに約55億円で売りに出され、3年間買い手が付かないまま 2017年になって
ドクター・ドレが当初の価格より10億円以上安い44億円で購入したニュースが聞かれていました。
程なくこのLAの豪邸は、2人がろくに生活をしないままドクター・ドレに売却され、
表向きには約10億円の利益を得た計算ですが、ブローカーの手数料や税金に加えて、これだけの豪邸の3年間の維持費は、敷地内の草木の手入れや清掃作業、
プールのメンテナンスだけでも大変な金額。したがって人々がイメージするほど利益を得ていないと言われたのがこの物件の投資。
それに引き換え、このワン・マディソンのコンドミニアムは維持費が殆ど掛からないだけでなく、デンマークのインテリア・デザイナー、トーマス・ジュール・ハンセンによって
既にデコレートされた状態で売りに出されたもので、家具から照明器具など、
全て同物件のために調達されたもの。
インテリア・デコレーターを雇ったり、引っ越しの必要がないと言われるビルディングで、世界中に複数の物件を所有するメガ・リッチにとっては、
ホテルのような感覚で直ぐに住み始めることが出来る物件。
しかも2人が購入した当時は、ニューヨークで屈指のハイテク・ビルディングだったこともあり、
投資利益が上がる物件と見込まれていました。
やがて2人が、ロバート A. M. スターンがデザインしたハドソン・リバーのウォーター・フロントのラグジュリアスなコンドミニアム、70 ヴァーシティ
内のコンドミニアムを、未だ建築に取り掛かったばかりの段階で23億円で購入を決めて、
同物件を売りに出したのは2016年のこと。当時の価格は18億7000万円でしたが、
既にこの時には高額不動産市場の需要が供給を上回っており、
数回値段を下げ、購入価格を下回る約14億9000万円の価格までディスカウントをした2018年初夏に買い手がついたと言われたのがこの物件
しかしながら、実際は14億9000万円を下回る売却価格で妥協したことが伝えられています。
本人たちでさえ、別の新築ビルディングに僅か3年で目移りしたほどなので、
利益を度外視してディスカウントしたのが売却に繋がったと言われています。
以下はそのワン・マディソンの物件です。
写真上は
エンパイアを北側にアップタウンをバックグラウンドに眺める絶好のビューユニークな照明器具がアクセントになったダイニング・エリアは、オープン・キッチンと
リヴィングに直結していて、フォーマル・ダイニングもカジュアル・ダイニングもこなせる作りになっています。
写真上は、
ゆったりした寝室からもマンハッタンの美しいビューが望めるようになっていますが、
マスター・ベッドルームのウリは カップルそれぞれのために大きなウォーク・イン・クローゼットが別々に用意されていること。
バス・ルームはウィンドウ・ウォールですが、スイッチ1つでプライバシーが守られるようになっています。
写真上はワン・マディソンのアメニティ。
一番上はビルディングに設置されたダイニング・ルームとカクテル・レセプションが出来るラウンジで、
住人なら誰もが有料でレンタル出来るスペース。
ケータリング・サービスやシェフのアレンジがしてもらえて、準備も後片付けも必要も無し。
このスペースもトーマス・ジュール・ハンセンによってデザインされているのでインテリアも自宅と同じ雰囲気。
したがって、公共スペースながらも自宅でもてなしている雰囲気が味わえるというもの。
写真上2段目の自然光が降り注ぐジムは、ハイテク・マシーンを揃えた一流の施設。
大理石で壁一面が覆われた スイミング・プールは窓からエンパイア・ステート・ビルディングが眺められる設定。
写真上3段目のゲーム観戦とエンターテイメントのシアターは ビッグ・スクリーンTVの他に、サブ・スクリーンが2面フィーチャーされ、
全米で放映されている全てのスポーツ試合が観戦可能。
ロビーも落ち着いたラグジュアリーな雰囲気になっています。
番外編!約33億円で売り出されたブルックリンの御殿の売値は!?
番外編としてご紹介するのは、2013年にブルックリンの不動産史上、最高価格の約33億円で売り出された豪邸。
この邸宅はロシアのパリス・ヒルトンと言われる ガリーナ・アニシモーヴァが1996年に 約3億3000万円で買い取った物件を、
マイアミのウォーターフロントでビリオネアが暮らすような モダンでラグジュアリーな豪邸を目指して改築されたもの。
敷地面積が約2140平方メートル、家屋の面積が1300平方メートル。
プールの面積が92平方メートル、10ベッドルーム、15バスルーム、地上4階の邸宅には、
スパ施設、3台のボートが停泊できるマリーナ、車7台が駐車できるインドア・パーキング、
一流グラス・ブランド、2787平方メートルの庭園は
遊歩道付きで、キッチンは大小含めて4つ。インテリアにはラリックのファイヤー・プレース(暖炉)、
地上2階の高さのウィンドウ・ウォール等、個人の1軒家としては極めて贅沢なディテールやアメニティが随所に盛り込まれたのがこの邸宅となっています。
過去数年に渡って 数回のディスカウントが行われたにも関わらず、全く買い手がつかなかったのがこの物件。
その理由の1つは インテリアや部屋のレイアウトが垢ぬけないこと。
さらにモダンな印象とは言え、2013年から売れ残っているいる間に マンハッタンにどんどんハイテク・インテリジェント機能を持つコンドミニアムが登場し、
モダンを売りにするには テクノロジー面で劣る物件になってしまったこと。
マンハッタンで30億円で買える物件に比べると遥かに見劣りするのは紛れもない事実で、
2013年から6年間の間に、どんどんその売値が下がり続けたのがこの物件でした。
ようやくこの物件に買い手がついたのは2018年の初夏で、そのお値段は何と22億円のディスカウントで
11億円。とは言っても不動産関係者に言わせれば、最初の値段が高過ぎただけで、
ようやくマーケット・プライスまで価格が下がったから売れたといわれるのがこの物件。
ウォーター・フロントとは言っても、マイアミや ジゼル&トム・ブレイディが暮らすローワー・ハドソン・リバーとは異なるので、
夜のビューは真っ暗。昼間は遠くにクレーン車が何台も見えるような ラグジュアリーとは言えないもの。
ブルックリンとは言っても、ヒップなイメージのDUMBOやウィリアムスバーグのようなエリアではないので、
住人のタイプも異なり、マンハッタンへのアクセスもかなり不便。
ニューヨークの不動産投資にはロケーションがとても大切な要素と言われますが、
これはまさにその例と言えるでしょう。