May 22 〜 May 28 2023

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デフォルト、出馬宣言失敗、ディープ・フェイクで株価急落、Etc.


今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのが、英語で「debt ceiling/デット・シーリング」と呼ばれる米国債務の上限引き上げを巡る攻防のニュース。
ジャネット・イエレン財務長官が、米国の残高が5月12日時点の1400億ドルから、今週水曜 5月24日の段階で500億ドルを切ったとして、6月1日には確実にデフォルト、すなわち債務不履行になることを警告。 金曜にはそのタイム・リミットが6月5日まで延長されたものの、債務上限引き上げの条件として 政府支出の大幅カットを求める共和党と、デフォルト逃れが最優先とは言え、共和党の思惑通りに政府予算を削れないバイデン政権、及び民主党が 真っ向から対立。一向にデフォルト回避の兆しが見えないまま時間だけが過ぎていたのが今週。
結局、向こう2年間債務上限を引き上げることで両者が合意したのは土曜日夜のこと。 もしデフォルトになっていた場合には、株価は40%前後の下落が見込まれ、そうなれば国民の401Kに大きな影響が出るのは言うまでもないこと。加えてレーティングが下がった米国債の価値を高めるために金利上昇は避けられず、 そうなれば住宅ローンから、クレジット・カード・ローンまで、ありとあらゆるローンの支払いが増えて、米国経済はリセッションに陥り、企業による人員削減が更に増えるという ドミノ倒しのような エコノミック・メルトダウンの図式が見込まれていたのだった。 それに伴って老齢年金、貧困世帯への住宅補助、退役軍人への恩給等も全てストップすることから、 今回の合意によって 政府補助を受けている人々は、少なくとも向こう2年はその危機感を回避できることになるのだった。



DeSantisのDeSaster出馬宣言のインパクト



今週水曜、5月24日午後6時からツイッター上で イーロン・マスクとの対話形式で2024年大統領選挙出馬表明を行うとしていたのがフロリダ州知事で、 現在トランプ前大統領に次いで、共和党候補者で第2位の支持率を獲得しているロン・ディサンティス。
蓋を開けてみれば、テクニカル・プロブレムで惨憺たる結果になってしまったけれど、そうなる以前からツイッターにとってもロン・ディサンティスにとっても どれだけのメリットがあるのかという疑心暗鬼の声が多かったのがこの出馬表明。
というのも、ツイッターと言えばイーロン・マスクが買収する前はリベラル派のユーザーの割合が最も多かったソーシャル・メディア。 ところがマスクの買収以降、ツイッターから追放されていた極右派のアカウントを復活させ、過激な差別ツイートが急増したことから、企業広告が激減したのは周知の事実。 それと同時にリベラル派のツイッター離れが顕著になり、多くのソーシャル・メディアが政治的に中立の立場を強調する中、 「右に向かってまっしぐら」であったのがツイッター。その企業ポリシーを完全に明確にしたのが、今回のディサンティス出馬表明のホスト。
ロン・ディサンティス側については、FOXニュース等のトラディショナルな右寄りメディアではなく、あえてツイッター上でエクスクルーシブに出馬表明をしたことから 右寄りメディアの心象を悪くしたことが指摘されており、それらのメディアを視聴し、本来なら彼を最も支持するはずの人々に向けて出馬を発信しなかったことを疑問視する声が聞かれていたのだった。 特にFOXニュースは、2020年の大統領選挙結果を受けて、投票機メーカー、ドミニオン社による不正選挙陰謀説をトランプ陣営に埋め込まれたとして トランプ氏と距離を置いているだけに、 多くの人々が指摘していたのが「ディサンティスは、ここでイーロン・マスクよりも FOXニュースをガッチリ味方に付けるべきだった」ということ。 サンティス側は イーロン・マスクが持つ1億4000万人のツイッター・フォロワーからの支持を狙ったと言われるけれど、この中にはアメリカの有権者以外もかなり含まれているので、 たとえ出馬表明が上手く行った場合でも、どの程度のインパクトがあったかは微妙なところ。
失敗に終わった出馬表明の直後に、ロン・ディサンティスはFOXニュースとの独占インタビューに応じる意向を示しており、 これからFOXニュースとのダメージ・コントロールに入ると見られるけれど、 ツイッターが受けたダメージはコントロール不可能と言われるもの。 今回のテクニカル・プロブレムでツイッターが露呈したのが、ソーシャル・メディアとしてまともに機能するにはスタッフを減らし過ぎてしまったということ。 出馬表明の翌日にはツイッターのヘッド・エンジニアが辞任しているけれど、そのリアクションは彼を責めるというよりも同情する声が圧倒的。
これによって企業も、政治家も、重大なアナウンスメントにツイッターをエクスクルーシブに使うことはあり得ない状況を招いており、 メディアとしての格を大きく下げたと同時に、イーロン・マスクの経営手腕に対する批判や疑問の声も益々高まっているのだった。



株式市場を動かした初のディープ・フェイク


AIが生成したディープ・フェイク画像やクローン音声システムが、新種の詐欺に利用されるリスクが警告されてきた中、 5月22日月曜に起こったのが AIによってクリエイトされた 国防総省近くの建物から黒煙が立ち上るフェイク映像がソーシャル・メディア上で拡散され、株価が急落する事態。
ブルームバーグ・ニュースは これを「AIによるディープ・フェイクが株式市場を初めて動かしたケース」と報じたけれど、問題の映像が最初にアップされたのはフェイスブック上。 その後、金融サイト ZeroHedge / ゼロヘッジ、ロシア政府が管理するRT等、多くのフォロワーを持つツイッター・アカウントによって この映像が急速に拡散されたことから、市場はパニック売りのリアクション。 しかし画像に稚拙な粗が多かったこともあり、程無くフェイクであることが指摘されてからは、ゼロヘッジもRTも画像を削除。フェイスブックもオリジナル投稿へのアクセスをブロックし、 それに伴って株価も急速に回復したのだった。
とは言っても、この誤情報が株価を大きく動かすまでのスピードは、ソーシャル・メディア時代のリスクを改めて実感させるもの。 今後AIのディープ・フェイクがクォリティをアップさせた場合、事実確認まで時間を要するのはもちろん、 ディープ・フェイクを計画的に拡散すれば、株価の乱高下を利用して多額の利益が得られることを立証したのが今回の事態。
それと同時に、フェイク画像を真っ先に拡散した ゼロヘッジのツイッター・アカウントに 月額8ドルを支払ってオーセンティシティを証明するブルーのチェック・マークがついていたことが取り沙汰され、 こうした緊急性のある情報に関しては ブルーのチェック・マークのせいで 人々がその情報の信ぴょう性を疑わず、盲目的に信じてしまうリスクが指摘されていたのだった。
今週には、史上最速で広まるAIアプリ、チャットGPTに多額の投資をするマイクロソフト社が、政府がAI開発を取り締まる新たな規制を迅速に示す必要性を訴えていたけれど、 同様の意見はチャットGPTを開発したOpenAIのCEO サム・アルトマンや、グーグルの親会社、アルファベットのCEO サンダー・ピチャイらも既に訴えてきたこと。 しかしながら、問題はその規制を設ける側にAIに関する正しく、詳細な知識が無いことで、イタリアはチャットGPTを国レベルで禁止。 他の欧州各国でもAIを活用するよりも、禁止や制限に動く様子を見せていることから、サム・アルトマンは「チャットGPTのヨーロッパ市場からの撤退もあり得る」とまでコメントしている状況。 規制を定める側がテクノロジーを理解していないのは、ソーシャル・メディアやクリプトカレンシーについても同様であるけれど、 政府が手をこまねいている間に、J.P.モルガン・チェースは顧客の投資をサポートするチャットボットを開発中。 金融から医療まで、ありとあらゆる分野にどんどんAIが介入しているのだった。
その一方で、イーロン・マスクが経営するブレイン・チップのスタートアップ企業、ニューラリンクが初の人間に対するトライアルの認可をFDA(連邦食品医薬品局)から取り付けたのが今週木曜のこと。 成功すれば、半身不随の人でも歩けるようになるとも言われるものの、専門家の間では「自己意識の分裂を含む悪影響を脳に与える」と警告する意見が多いのがこのブレイン・チップ。
既にテクノロジーの規制は、政治家ではなく 専門の有識者によって行われるべき時代になっているのだった。



ネットフリックス、ディズニー・プラスによる赤字を旅行産業で盛り返す日本!


英国の金融機関、バークレイズによる最新の調査報告書によれば、日本人の ビデオ、音楽、その他のストリーミング・プラットフォームの利用が増え、海外IT企業への支払いが増加した結果、 日本が2022年に過去20年間で最大のサービス収支赤字を記録したとのこと。
日本が2022年に計上したサービス収支赤字は5兆4000億円で、その89%に当たる4兆8000億円を占めているのが ”Digital Deficit / デジタル赤字”、 すなわち海外からのデジタル・コンテンツやサービスの輸入赤字。
バークレイズのレポートによれば、ストリーミング需要がパンデミック中に加速したのは 日本、米国を含む世界中の国々で見られた傾向。 しかしアメリカを含む先進諸国が 2022年には、インフレの影響でストリーミング・サービス利用者が減少したのに対して、2022年も成長を続けたのが日本。 加えて日本の消費者がアルバムや書籍を物理的な購入からダウンロードに切り換える傾向が更に顕著になったことも、日本のデジタル赤字の増加に拍車をかけているとのこと。
サブスクリプション型のストリーミング・サービスはネットフリックス、ディズニー・プラス、Amazonのプライム・ビデオなど、アメリカのサービスが日本市場シェアの約62%を占めており、 日本企業のシェア38%を大きく上回っているのだった。
昨年アメリカが金利を急ピッチで上げたことで 急速に円安に動いたのは周知の事実であるけれど、ストリーミング需要の拡大も 「海外企業への支払い増加=円売り圧力拡大」となって 円安を助長する要因。 日本の”デジタル赤字”は一時的なものではなく、消費の構造的な変化を反映した この先も継続する傾向であることから、 円安に拍車は掛からなくても、現在のレベルが継続する見通しになっているのだった。
とは言っても、日本への海外からの旅行者数が現行ペースで増え続けた場合、日本の2023年のサービス収支赤字は、前年の3分の1に当たる1兆8000億円にまで縮小する見込み。 事実、2023年夏の海外旅行先として アメリカでは パリ、ロンドンに次いで第3位の人気になっているのが東京。
かく言う私も 日本への一時帰国から戻ったばかりであるけれど、食事が美味しくて安価、サービスが良くてチップが不要、何処へ行ってもトイレがきれいで、治安が良く、見所が多い東京は 交通機関の乗り換えの複雑さをクリアして、長いフライト時間さえ我慢すれば、特に現在の円安レベルでは旅行者にとってのパラダイス。 私の周囲のアメリカ人の間でも 昨今の円安を利用して日本、特に東京に行きたがる人々は非常に多いけれど、 もし日銀が2024年にマイナス金利を解除した場合、1ドル=123円まで持ち直すと言われるのが為替レート。 そのため日銀の今後の動きを理解している人ほど、今年中に日本に行きたいと考える傾向にあるようなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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